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フレンチ・パラドックスの終焉!?

少量摂取であれば健康に良いとされてきたアルコールが、実は少量でも健康に悪いとする、アメリカの医学雑誌『ランセット』誌の掲載論文は、世界に衝撃を与えた。この「アルコールが少量摂取であれば健康に良い」という説が、フランス人のワイン文化に依拠していただけに、フランスにおける衝撃はさらに大きいものであった。

脂肪の摂取や喫煙は、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞等を起こすことが知られている。ところがフランス人が脂肪を多く摂取し、喫煙率も高いにもかかわらず、近隣諸国よりも心筋梗塞の死亡者が少ない。この逆説的な疫学的に観察される現象を「フレンチ・パラドックス(フランスの逆説)」と呼ぶが、フランス人はワインを多く摂取しているから、こうした現象が起きると考えられていた。

フランスのニュース(France2、8月24日(金))における報道から、この論文に対するフランス人の反応を見てみよう。世界的に権威のある医学雑誌『ランセット』誌は、20年以上にわたり195カ国において行われた研究の結果、アルコール摂取において無害とされる量はなく、1日1杯ワインを一年間飲み続けることで、様々な病気のリスクが0.5%高くなる、と報告。これに対し、フランス人たちは、自分たちのsavoir-vivre(人生を楽しむための術)や伝統文化が攻撃されていると感じているようだ。

そもそもフランス人は、ほんの少し前までビストロで引っ掛ける1杯のワインやカルヴァドスが健康に悪いなどと考えていなかった。例えば1984年、飲み過ぎ予防キャンペーンにおいて、保健省が2杯以下の摂取なら健康に害がないと明言していたのだから。それなのに、1日1杯のアルコールの日常的な摂取が、ガン、心臓血管や脳血管系統の病気、肝硬変のリスクを高めるのに十分であり、さらにそれによって世界中で毎年10万人が亡くなっていることが研究によって明らかになった。

一方フランスでは、男性が1日平均4.9杯、女性が1日平均2.9杯のアルコールを嗜んでおり、研究によって推奨されるアルコール・ゼロには程遠い。よって断酒がフランス人たちにとって極端なものと感じられると同時に、フランス人の生活に根付いたこの伝統文化に反する断酒の推奨に納得いかないフランス人が多いのは致し方ないのかもしれない。友人や家族との楽しい語らいに欠かせない、美味しいお料理やチーズとともにいただくワインを食卓から一掃するなんて、フランス式の生きる歓びが台無し、というわけだ。

世界のワイン生産量の2割を占めるフランスの経済へのインパクトも考慮せねばならないだろう。例えばローヌ県のフルリは、ボージョレワイン用のブドウ栽培の中心地であるが、住民1,300人に対し、80人がブドウ栽培に携わっている。「ブドウ畑はこの村の生命線なんだよ、みんながブドウ畑と結びつきがあるんだ」と、ある栽培者は言う。彼の農地からは、毎年6万本のワインを出荷している。また村のレストランには、ブドウ畑に囲まれた風景と、その素晴らしいワインリストのおかげで、近隣住民や旅行者たちが押し寄せる。

実際アルコール関連産業は儲かっている。2017年には、およそ1億9900万箱のワインやアルコール度数の高いお酒を世界に送り出しており、129億ユーロの売り上げを誇る。これは前年比8.5%の上昇率で、航空産業に次ぐ輸出額である。

マクロン大統領も、ワインを昼も夜も嗜むと公言しているが、フランスの下院でも、ワイン製造に特化した委員会が2つもあり、それぞれ110人と107人の議員が関わっている。つまりワインは国家のトップも関わる花形産業なのだ。こうしたロビー団体は、健康リスクの予防団体に「国家は国民の健康に気を配るべき」と非難されているが、何しろフランスでは、直接的にしろ間接的にしろ、アルコール関連産業は80万もの雇用を生み出しているのだから。

■次の記事を参照した:Alcool : un verre, c’est déjà trop(24 aout 2018, France2)






posted date: 2018/Sep/04 / category: ライフスタイル食・レシピ
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