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ハロウィンと万聖節

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先日、近くのスーパーに行くと、レジ打ちの女性店員がみんな魔女風の帽子を被っていた。もちろん、ハロウィンの仮装である。売り場のお菓子も、例のかぼちゃのお化け仕様になっていた。しかし、なぜハロウィンになると魔女とかぼちゃなのか。そもそも、ハロウィンとは何なのか。

Halloween の語源は、Allhallows Eve、つまり万聖節(古い英語で Allhallowmas )の前夜祭である。
11月1日にすべての聖人に対してまとめて祈りを捧げる万聖節(または「諸聖人の日」)は、カトリックの伝統だ。万聖節の翌日の11月2日は、「万霊節」(または「死者の日」)とされ、煉獄にいる死者が早く昇天できるように祈りを捧げる。 ハロウィンも同じく、死者の祭りである。その起源には諸説あるが、アイルランドのケルト系の風俗が関わっているようだ。そのため、アイルランド系移民の多いアメリカ合衆国やカナダで、盛大に祝われるようになった。

Waiting for the Great Pumpkin僕の好きな漫画 Peanuts では、ライナスが Great Pumpkin なる精霊を信じていて、みんなにからかわれる。だが、サンタクロースが信じられるなら、ハロウィンの夜にかぼちゃ畑におもちゃを持った「大王」が舞い降りたとしても、別に構わないではないか。 ハロウィンに仮装するのは、死者の精霊に扮するためである。魔女は生死を超えた存在として、畏怖の対象であり、仮装行列が夜間に行われるのも、この世とあの世の境界が曖昧になる時間だからである。かぼちゃをくり抜いて中に火を灯すのは、煉獄をさまよう死者が持つ提灯を模したものだと言われている。それがかぼちゃであるのは、この時期に収穫が盛んで、かつ大きくて彫りやすいからだ(かつては蕪を使っていたらしい)。

このように、本来、ハロウィンとは、この世ならぬ不気味なもの、フラジャイルな存在と戯れる行事なのである。それがいつしか、子供たちが精霊代わりになり、祈りと施しの代わりに菓子をねだり歩く、無害なお祭りになっていった。しかし、今でもハロウィンの魅力は、まさに仮装を通じて漂ってくる、この死の匂いにあるのではないだろうか。

フランスでは、ハロウィンを祝わない。かろうじて、ロレーヌ地方など一部で jack-o-lantern らしきものを作る風習がある。代わりに、万聖節( la Toussaint )の翌日の「死者の日」に、こぞって先祖の墓参りに出かける。ただし、この日は休日ではないため、休日指定されている11月1日が、実際にはお盆代わりになっている。

以前僕が住んでいたトゥールーズでは、すぐ近くの通りが町外れの墓地への参道だったため、11月になった途端に、突如として露店が立ち並び、お供え用の花や菓子を売り出していた。フランスにもお盆のようなものがあるのだ、と知って、びっくりしたものだ。

さて、スーパーの店員が魔女に変身する日本のハロウィンとは何だろうか。クリスマス以上に商業主義の匂いしかしない、と批判するのは野暮というもの。だが、アメリカやヨーロッパでは、そこに死者の影が漂っていることを、少しは想像してみてもいいかもしれない。

Joyeux Halloween !



posted date: 2013/Oct/29 / category: ライフスタイル

1975 年大阪生まれ。トゥールーズとパリへの留学を経て、現在は金沢在住。 ライター名が示すように、エヴァリー・ブラザーズをはじめとする60年代アメリカンポップスが、音楽体験の原点となっています。そして、やはりライター名が示すように、スヌーピーとウッドストックが好きで、現在刊行中の『ピーナッツ全集』を読み進めるのを楽しみにしています。文学・映画・美術・音楽全般に興味あり。左投げ左打ち。ポジションはレフト。

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