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パリの日本食ブームの今を探る【2026年春】:激増する個人店舗に対し、目立たない企業出店?

パリの日本食ブームについて以前書いたことがあるのですが、この2つの記事は当サイト内でもかなり長い間よくアクセスされていて、フランスでの和食への関心の高さがうかがえて、筆者としても大変楽しかったものです。

最初の記事が2017年なのであれから9年(!)、おにぎりはパリをはじめヨーロッパ中にすっかり定着しています。では、パリの和食人気は今どうなっているのか・・・。ふとそんな疑問が浮かんだこの頃、以前に取材させていただいた欧州飲食コンサルタントの佐藤さんにお話をうかがうことができたので、レポートしたいと思います。

日本食のブーム到来からの淘汰、より広がるバラエティーと質重視の時代へ・・・?

2024年の調査によるとフランスにある日本食レストラン数はおよそ4700件、とのこと。街を歩いていても和食のお店を見ることは珍しくありません。フランスの日本食情報&マップサイトPARIPARIを覗いてみると、地図上にびっしりとピンが立っているのに驚かされます。

パリの日本食情報サイト PARIPARI
フランスの日本食情報サイトPARIPARI。日本食への情熱&情報量ったら

「でもね、最近は減ってきてるんですよ。沢山あった”なんちゃって寿司店”がどんどん潰れてるので。」

確かに、最新2025年度の調査結果はおよそ3400店舗、かなり減っています。とはいえブームが去ったというわけではなく、良質の様々な日本食店が増え、SUSHIという名前だけで集客できていた「大雑把だけれど高価なスシレストラン」が消えつつある、というのが実際のようです。

昨年より減っているとはいえ、これだけ日本食店が増えると競争が激化して大変じゃないですか?との問いには

「お店が多いのは確かですが、質や違いがわかるお客さんが増えてきていますし、日本食はバラエティーが本当に豊かなので…種類自体も多いけれど、高級なものから庶民的なものまで需要も幅広いんですよ。伸び代はまだまだありますね」

とのこと。そんな佐藤さんはおにぎりブームを大きく牽引した人として知る人ぞ知る存在なのですが、今年はお弁当屋さんをプロデュースしているとのことなので、新店舗を見せていただきました。

ファーストフード激戦区、パリの中心レ・アールにお弁当屋さん?

2026年、1月にオープンしたのは兵庫県姫路のまねき食品さんのパリ1号店。
明治21年創業、幕ノ内駅弁を最初に発売した歴史あるお弁当屋さんです。
驚くのはその立地。ポンピドゥーセンターとレ・アールの間、パリの中心の中心と言える繁華街です。スターバックスやフライングタイガーなどのグローバル企業と、ケバブやクレープなどの軽食店、カジュアルな服飾、お土産店などが軒を連ねる「パリで最も人通りの多い通り」だそうです。
そして日本人の経営する和食店は皆無で”日本食店不毛の地”と言われているエリアとのこと。

まねき食品パリ店
パリ1区、Rue Rambuteau。パリの中心の中心、観光客や若い人で賑わう。
お弁当見本 まねき食品パリ店
軒先に並ぶ見本。やはりお弁当箱は紙製。

テイクアウトをメインとしたお店では、和牛のすき焼きや唐揚げのほか、フランスでは珍しいカキフライを含むミックスフライ、ビーガンでも楽しめる揚げ出し豆腐などのお弁当を揃えています。

「買ってすぐに食べるとは限らないのがお弁当なので・・・メニューそのものもそうですが、お出しする温度など、工夫や調整できるところが多くあって難しいですけれど面白いですね。」

鮭の西京焼のお弁当
こだわりの日本米+ヨーロッパ産の最高品質の鮭との組み合わせ。やはり米は日本産にはかなわない・・・
けれど安定した十分な供給がずっと見込めるかという懸念もあり、試行錯誤しているとのこと

立地代も恐ろしく高そうで、カジュアル志向の旅行者が多い場所で、おにぎりよりも単価が高く、手軽さという点でハードルが上がるお弁当・・・大きなチャレンジに見えますが・・・(と余計なことを言う筆者)

「確かに緊張はするんですけど・・・売れるかどうかの心配はしていません。心配しないといけないのは混んでいる時のオペレーションや材料確保のほうなんです。」

ほぼ毎日のようにお店の様子を見にきておられる佐藤さん。オープンしてからもより地元の人、多くの人に楽しんでもらうための調整をしつづけています。

入念な準備があってこその自信なのだろうなと感心しながらも、前回の取材時と同じ感想が頭をめぐります。
・・・食の都での飲食業、日本食ブームという追い風があるとはいえ、やっぱりめちゃくちゃ大変そうです。
そしてふと不思議に思ったのは「これだけ日本食のお店が増えているのに、企業さんの新しい出店の話をほとんど聞かない」ことです。難易度が高いのは個人店も同じはずなのですが・・・。

「日本式が通用しないことが多いんですよ。こだわりすぎると回らなくなる。あと・・・一番難しいのはスタッフ確保ですかね。」

珍しくない規約変更、予定は遅れて当たり前・・・柔軟にならざるをえない運営側

色々お話をお聞きしているうちに、企業の出店が大変な理由が見えてきたような気がしました。

「基本うちはテイクアウトなのですが、少しだけイートインの席も設けてます。でも冬場の準備をどうしようかまだ未定で・・・ テラス用の暖房が2022年に廃止になったんですよ。環境に悪いので。暖房をつけるなら何かで囲わないといけなくて。」

そういえば、昔はカフェのテラスなどでも煙突のついた暖炉のような暖房がおいてあり、冬場の屋外での飲食を楽しむ人を見かけました。最近はガラスに囲われたテラス席、半屋内ばかりになっているのはその規制の影響だったのかと納得しつつ。

「輸入規定のために入手しずらい食材もあるのですが・・・フランスは特に厳しかったりします。自力で輸入できるように認証をとろうとしているものもあります。でもドイツやオランダなど他のヨーロッパの国だと輸入ができるものもあったり。でも一旦ヨーロッパに入ってしまうと流通可能とかちょっと意味がわからないですよね(笑)」

ヨーロッパ内で足並みが揃っているのか・・・?はさておき、飲食業界におけるレギュレーションが環境問題や自国の産業保護、安全の観点など、社会情勢を受けて変化しやすい、のは確かなようで。施工関連も納期が守られることはまずない・・・というお話を前回お聞きしたのですが、やはり何事も、予定どおりに進むはずがないというくらいの柔軟さと、なんとかする逞しさが必要といえそうです。

パートでも有給取得は当たり前。自由の国の働き手と協働するには

飲食業界のスタッフ確保が難しい、のはどこもそうなのかな?と想像するのですが、ヨーロッパにおけるスタッフを探す難しさ、は日本とは少し異なるようです。

まず労働者の権利がしっかり規定されています。パートタイムとフルタイムでの待遇差はなく、就業時間に応じて有給休暇があり、雇用側はいかなる理由でも労働者の休暇申請を取り下げることはできません。疾病によって休む場合は社会保障により50%の給料が補償され、疾病休業期間も有給取得を算出する労働時間としてカウントされます。フランスの年間で義務付けられている有給休暇は祝日と日曜日を除いて最低30日です。

「ファーストフードのパートタイムはめちゃくちゃホワイトですよ」

そう言われるのにの納得です。それにしても、労働側の権利がしっかり保障されているのは働き手にとってはありがたいのですが、働き手のモラルによって甚大な差が出そうです。

「やっぱり試用期間は大事ですね。インターンという手もあります。完璧である必要は全然なくて・・・というかパートさんにオールラウンダーを求めるのもナンセンスですし。うちのスタッフさんの構成は多国籍を意識しているんですけど、個性といいますか、手先が器用で真面目とか、接客が上手いとか、あんまりマメではないけど営業が上手でお客さんをやたらと連れてきてくれるとか・・・強みの分野が違う、それを全体でうまくバランスがとれるのが一番良いと考えてます。」

「日本の感覚だとこっちの人は本当に働かないなという感じなのですが(笑)、自分の自由な時間のために働く、のが当たり前なので。人の力は大事なんですけど、人に依存しない、誰かが休んでも回るシステムづくりは大事ですね」

ヨーロッパの労働規定については大変興味深いので、オランダの事例もふまえていずれ改めてまとめたいとは思うのですが・・・とにかくは、規模も人の数も大きくなる企業出店、資本があってもハードルが高いのかもしれない、と思ったのでありました。

それにしても。そんなただでさえ難しい企業出店、なぜこんなパリの中心の中心、ファーストフードの激戦区を選んだのかという理由には、そこで発信することの影響力の大きさ、もあると佐藤さんは言います。

「パリには公園が沢山あって、気候がよくなればピクニックを楽しむ人が大勢いるんですけど。日本のお弁当を楽しむ人が当たり前に見られるようになったら、それはすごいことだと思うんですよ。」

企業ならではの事業展開、でフランスの食文化にさらなるムーブメントを起こせるか。
そう思うと緊張しつつもワクワクします。続報を楽しみにしたいと思います。

【Maneki Paris】
74 Rue Rambuteau,
75001 Paris, France



posted date: 2026/Apr/05 / category: 食・レシピ

インターネットの恩恵にあずかりつつも、情報と技術の膨大な流れの渦にぐるぐる流されて右往左往している。お酒、音楽、フランス、古民家と町家が好き。どういうわけかオランダ在住。Web屋→オランダで42卒業→晴れて開発者として勤務しつつも、AIによるソフトウェア開発職大暴落にビクビクする日々。
とりあげるテーマは「IT」「音楽」「映画」「デザイン」関連なんかをまとまりなく。 オランダ移住後のあれこれ、のブログ 「チャリときどき鴨」 更新が止まっているけどまたそのうちに・・・こちらもよかったらご一読ください!

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