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日本のおむすび専門店、パリへ。日本食ブーム冷めやらぬフランスで奮闘する日本企業【2018年秋:和食レポ2】

2017年11月、日本のおにぎり専門店がパリにオープンしました。
お店を展開しているのは首都圏に43店舗、アメリカに2店舗を構える(2018年11月現在)「おむすび権米衛」。ヨーロッパでは初の出店です。
出店場所はオペラ座界隈の東端、人気ラーメン店などが点在する日本食の激戦区ですが「おにぎり専門店」は2017年当時まだ珍しいものでした。

出店のきっかけは?ヨーロッパ初の出店にあたってのアプローチは?
オープンからおよそ1年が経ち、状況の変化は?
お店の方にお話をお聞きすることができたのでレポートしたいと思います。

ジャパンエキスポでのおにぎりフィーバーを経て、本格的にパリ出店へ。

なぜパリへ?
きっかけは2016年7月のジャパンエキスポへの出店。
30平米ほどのブースで4日間、おむすびを販売していたのですがスタッフも全く予測できなかったほどの大盛況。
出店料や日本からの出店にあたる諸々の経費などを考えて価格は1個3.5ユーロ、と高く設定せざるを得なかったにもかかわらず、飛ぶように売れたそうです。
アメリカには既に2店舗を展開していて、以前からヨーロッパでの展開も検討していた中で、これを機に本格的に出店を検討することになったとのことです。

寿司屋が山ほど存在するパリで「おむすび(おにぎり)」は認知度があるのかどうか気になるところなのですが、おにぎりを扱うバーやレストラン、おにぎりとお惣菜のお店などがパリには既にあったそうです。でもおにぎり専門店というのは2017年の開店当初、そして2018年11月現在でもまだ少数、とのことです。

ヨーロッパへの出店となると色々障壁も多かったはずですが・・・という問いには
それはもうとても大変でした。との談。

店舗づくり、材料の流通整備、チーム作り、ローカライズ・・・。
常識、当たり前が日本とフランスでは全く異なる中で進めなければなりません。
何度かオープンも延期、オープンしておよそ1年がたった今でも毎日試行錯誤しながら販売しているとのこと。

やはり一筋縄ではいかない店舗探し、店舗づくり

おむすび権米衛の出店場所は日本食ファンが多く訪れるオペラ座界隈の東端。
高級ブティックが立ち並ぶパレ・ロワイヤル付近のエリアに隣接する角地でもあります。
日本食目当ての人も、そうでない人も、人通りが絶えない通りの角ということで、まさに絶好の立地。
パリでの店舗用物件探しは見るからに難しそうな感じがしますがやはりここまで一筋縄ではいかなかったようです。

表に出ている不動産情報だけでは不十分なので店舗に適した場所と物件を歩いて探す。
ここはという場所に直接アプローチ。
地元の情報力、というのがやはりキーになるようです。

幸運にも絶好の場所が見つかったものの、相手は簡単には譲り渡してくれない超大手・・・
物件の契約までかなりの時間と労力を費やしたとの話です。

そしてもっと大変だったのがその後。
もともと排気設備のついていなかった物件に設備を追加する必要があったのですが、建物全体のオーナー組合を説き伏せるのが大変だったそうです。
そして実際の排気設備の工事や内装など諸々にほぼ一年・・・
フランスでは工事が遅れるのは普通なのでそれでもまだ早いほう、とのことでした。

美味しい「日本のお米」を味わってもらいたい・・・シンプルなこだわりの実現の難しさ

おにぎりにとって重要なのはやはり「お米」。
とはいえ日本米はもともとが高価な上にヨーロッパで買うと日本の2倍以上の値段がするのは当たり前。
業務用とはいえコストがかかるはずなのですがいったいどうやって手配しているのか・・・お聞きしてみました。

出店にあたっては「日本の美味しいお米の味」を伝えたいという思いが当初からあり、米は日本から持ってきているとのことでした。
色々と検証したものの、日本産のお米の美味しさは時間が経つとより顕著で明らかに違う、とのこと。どうしても譲れないポイントだったそうです。

 日本から輸入となると簡単ではなさそうなのですが、実際ものすごく大変とのことでした。
日本のお米はデリケートで温度変化に弱いため玄米のまま真空パックしたものを冷蔵コンテナで運ぶというワイン並みの扱いで輸入しているそうです。

 また、精米をしなければならないのですが日本の業務用小型精米機はCEマークがないため基本的にはこちらにそのまま持ってくることができないそうです(※CEマーク: EU (欧州連合) 加盟国の基準を満たすものに付けられる基準適合マーク。)

そのために補助金を申請してCEマーク付きの小型精米機を自社で開発したとのこと。
審査が厳しくなかなか通らず・・・やっとのことで完成、今のところCEマーク付きの日本製小型精米機はヨーロッパにはほとんどないとのことでした。

ローカライズとチーム育成、商品構成・・・フランスに根付くお店を目指すには

「和的」な雰囲気がやはり求められる中での内装の塩梅や、
外国人スタッフを交えてのおむすびのプロフェッショナルの育成・・・
パリに根付く、地元の人に愛される日本のお店作りは常に試行錯誤の連続です。

現地流にアレンジされた日本食ではない「日本の普通の和食のスタイル」が果たして海外で通用するのか・・・?
これも気になるところなのですが、出店を決定するにあたっては事前にパリでテストマーケティング(ポップアップショップでの期間限定販売)を行ったそうです。

1番人気のおむすびは「鮭」、2番目人気は「タコ結び」。
ヨーロッパの人にも馴染み深く、手に取りやすい「鮭」が人気なのはうなずけるとしても、フランス人は基本的にタコを食べないと言われている中でタコが人気だったのは予想外だったようです。お好み焼きに続いてたこ焼きも認知度が上がってきている中、抵抗がなくなってきているのかもしれません。

また、予想以上だったのは「グルテンフリー」「ビーガン」の需要の高さ。
通常ベジタリアン・ビーガンの食べ物は値段設定が高い中で、おにぎりは具材にもよるけれど元々グルテンフリー、ベジな種類も変わらない値段で販売されている、それが嬉しいとの反応だったそうです。
海外で人気がないと言われている「梅干し」ですがビーガン愛好者に「美味しい」と喜ばれたり。
情報の伝達スピード、手法、そして人々の生活が変わってきている中で「思っていたのと違った」ということは往々にあるようです。

おむすびの販売価格についてですが平均で1個2.5ユーロ。
ヨーロッパの外食費が相当高いことを考えると、ボリュームのあるサイズのおむすびが1個 2.5ユーロというのはかなりリーズナブルな価格設定に思えます。
「美味しいお米」「美味しいおむすび」を広く知ってもらうためには「試してみたいと思える」「リピートしてもらえる」価格は大事です。
フランスの人件費、食材の調達にかかる費用などを考えるとかなり厳しそうにも見えますがそこは企業努力、ITを活用してとにかく効率化を図ることでカバーしているとのことでした。

オープンから1年。「日常の和食」の認知度は?

オープンからおよそ1年が過ぎ・・・現在の客層は半分がフランス人、40%が英語を話すアジア系旅行者、日本人のお客さんは10%以下くらい、とのこと。

証券取引所や高級ブティックが立ち並ぶ界隈付近という場所柄もあるのかもしれませんが、IT系企業、CHANELやDior、Margiela といったモード系のグランメゾンの社員が頻繁に訪れるそうです。

(ちなみに少し話は外れるのですが・・・フランスには社員食堂の代わりに企業が社員向けに外食費用を半分負担する「レストランチケット」ならやる制度があるらしく。
会社員にとっては様々なレストランで気軽にランチを試すことができるシステムです。
そのレストランチケットに社名が掲載されているためわかるそうです。)

 おにぎりに醤油がほしい、というフランス人のお客さんにそのフランス人の友人が「それはそういうものじゃないんだ」と説明するようなシーンが見られたり。
「米の味の違い」をわかるフランス人が増えてきたり。

 お店でのエピソードをお聞きしていると、おにぎり、そして「普通の和食」「日本の日常食」はパリの人々に着実に広まってきている印象を受けました。

現在自分はオランダにいるのですが、どの街でも少し歩けばでくわすほどお寿司屋さんはとても多く、スーパーにも出来合いの寿司パックが積んであります。ラーメンのお店も増えてきました。
日本食人気が根強く本物なのを実感しているのですが、日本人の経営する和食屋さんはまだ少なく、美味しいお店に出会うことは非常に希だったりします。

「お米本来の味」「素朴な具材」で勝負するおむすび。
その美味しさがフランスから伝わっていくのであれば、ヨーロッパで「美味しい和食」に頻繁に出会える日も遠くないかもしれません。

OMUSUBI GONBEI EUROPE
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【余談】
オランダ移住後のあれこれブログ「チャリときどき鴨」、はじめました。
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posted date: 2018/Nov/26 / category: 食・レシピ

インターネットの恩恵にあずかりつつも、情報と技術の膨大な流れの渦にぐるぐる流されて右往左往しているお酒、音楽、フランス、古民家と町家が好きなWeb屋。現在オランダ在住。フランスとベルギーを放浪しているうちに日本と日本人が大好きになりました。自らをタタミゼ(日本文化、日本を好むフランス人を指す。正確にはTatamiserが正しい?)と名乗る屈折した純日本人。妄想と勘と面白人脈を駆使して生活に役立てているような、いないような・・・
とりあげるテーマは「インターネット」「音楽」「映画」「デザイン」関連なんかをまとまりなく。 一児の母となったので、子育て、教育関係も気になるところ。
オランダ移住後のあれこれ、のブログ 「チャリときどき鴨」 はじめました。こちらもよかったらご一読ください!

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