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What you wear tells about you ープロジェクト”Des Sneakers Comme Jay-Z”の試みー

2017年の冬、パリ郊外18区、ポルト・ドゥ・ラ・シャペルの近くにある移民受け入れセンターに、ザマンという名前のアフガニスタンの青年が現れた。この寒空にバミューダパンツとビーチサンダルという格好で。4000マイル以上離れたカブールから、徒歩とバスでパリにやってきたのだー16ヶ月もかかって。所持品のほとんどは道中でなくした。

とにかく靴が必要だった。センターの中には「ショップ」と呼ばれるスペースがある。棚や籠に積み上げられた大量の寄付された古着の中から、入所者はパンツやセーター、冬物のアウターを自分で選ぶことができる。プラスチックのクリアケース一杯に雑然と詰め込まれたスニーカーを目にして、ザマンはセンターのボランティアスタッフにフランス語で話しかけた。本当に言いたかったのはこうだーもうちょっときれいな、見た目がそんなに悪くないスニーカーはない? 出てきた言葉はこうだった。「Jay-Zみたいなスニーカーはある?」

ザマンとのこのやり取りをきっかけに当のボランティアスタッフ、Valerie Larrondoが立ち上げたプロジェクトが”Des Sneakers Comme Jay-Z”だ。着の身着のままの状態で受け入れセンターにやってきた若者たちに「ショップ」で選んだ服をその場で着てもらい、プロの写真家にモード誌風のポートレートを撮ってもらう。フォトシューティングとセットで行われるのがインタビューだ。選んだ服について語ってもらう。

さまざまな国からやってきた若者のポートレートと、ごくパーソナルなおしゃべりのコンビネーションは、移民というレッテルを貼られ顔のない集団の一部として扱われがちな「彼達」が、色の好みもデザインへの感覚もそれぞれに違う「彼」であることをあらためて教えてくれる。

自分のアイデンティティを確かめるかのように服を選ぶ人もいる。遠く離れた異国で服をチョイスする時に生まれ育った国の服飾文化や伝統に対する思いが立ち現れるとは、本人もびっくりしているかもしれない。また、新しい場所でゼロから生活を立ち上げる自分を励ますように服を選ぶ人もいる。大げさに聞こえるかもしれないが、服はフランスでのNew Lifeを切り開くためのツールなのだ。

選んだ服そのものから、それを選んだ理由から、覚悟してきたとはいえ故国とは全く違う世界に足を踏み入れたひとり一人の抱える不安や希望、揺れる心も見えてくる。

プロジェクトに参加した人々の言葉をいくつか拾ってみた。対になる写真はウェブサイトで見ることができる。あなた自身の目を通して、「彼」に会ってみてほしい。

「このTシャツを選んだのはとてもいい感じだしサイズも合っているから。前から持ってた服みたいにぴったりだったんだ。ターバンにもしっくりくるしね。スーダンでも僕の住んでいた地域では、男はみんなターバンを巻く。他の地域ではそうでないみたいだけれど。いま巻いているターバンはイスタンブールで手に入れたんだ。黒と青のターバンはいいけれど、赤いのはイヤだな。きれいじゃないもの。」
Ahmad 19歳

「選んだ服はどれも気に入っています。フランス風ですね。こうした服を頂けてとてもうれしいです。ちゃんとして見える、きちんとしている、そして何より清潔感があるようにしたいんです、アフガニスタンにいた頃のように。私は農業をしていました。米を作ってました。田んぼにいるときも、伝統的なアフガニスタンの服をきちんと着て身ぎれいでいるよう心がけていました。あなた方のようなフランス流のカジュアルな服装をしたがるのは若い人達ですね。私はやはりアフガニスタン流の服がいい。故郷を出るとき伝統的な服を持ってきたのですが、今手元には一枚もありません。パリに着いたときには、本当に何も持っていなかったんです。」
Said 37歳

「パリのことはずっと好きで、このエッフェル塔のTシャツもずっと前にイエメンで買った。パリで自分が運試しをする日がくることになるなんて思いもよらなかった頃にね…。友達が僕を見たら言うだろうね、楽しそうじゃないかって。楽しくもあり、その反対の気持ちでもあったりするのだけれど。」
Abdullah 30歳

「このポケットがいっぱいついたジャケットが気に入っている。スーダンで着ていたのとは違うタイプの服だ。こんな格好を自分がしているなんて変な感じ。この服を着てるとぐっとフランスっぽく見えるかな?」
Abdullah 24歳

「黒い服を選んだのは黒、青、赤系のダークカラーが好きだから。この服だとそれほど汚れて見えないし、着るとしゃんとした気分になる。好きなブランドはナイキ、誰もが好きなブランドだね。」
Idriss 20歳

「ソマリアでは、こんなタイトな服は着ない。家族は僕がこんな格好をするのを嫌がるだろうね。服が身体にまとわりつきすぎてるって。フランスでは、着たいものを好きなように着ることができる。」
Bashir 20歳

「このジャンパーを選んだのは外が寒いから。フードがあるから頭も保護されるし。それにカッコいい。僕の手持ちの服にもしっくりあう。この服は国を出るときに着てきたんだ。今持っているのは2着だけ。この服とヨーロッパのジーンズだ。」
Mohammed 18歳

「ギニアの伝統的な装いはとてもカラフル。蛍光色の柄物の生地で作るんだ。シャツは僕の国の文化にはないものだ。みんなチュニックとサルエルパンツを着る。年配の人ほどこのスタイルかな。正直言って、伝統的な服を着たいとは思わなかった。お祝い事とかそうした装いをしなきゃいけないときはそうしたけどね。こんな服を自由に着ることができるのはうれしいことだね。でもここではほかのみんなと同じように暮らして行きたい。人の気分を害さないようにするのが大事だ。ここまで来たのだから一生懸命努力して馴染みたい。厄介ごとはもうたくさんだ。」
Aboubacar 20歳

「黒いジャンパーを選んだのは、大変だった自分の旅を忘れないようするためだ。真っ暗な空間に閉じ込められた時はとてもショックだった。黒を着ると、自分はやり遂げたという気持ちになる。勝利のシンボルなんだ。暗闇、それはマリで灼熱の中コンテナに隠れて移動した時のことを思い出させる。砂漠をトラックで横断した。武装した連中に怯えながらね。このダークカラーのジャンパーには、ポジティブな意味があるんだ。」
Ibrahim 26歳

「黒は何にでも合わせられる。それに僕の出自を象徴してもいる。僕はアフリカ人なんだ。僕の肌は黒い。黒い色のものはなんでも好きだ…。難民であっても、きちんとした服装をすることは大事だ。古いことわざにもあるでしょう、「人に憐れまれるより好まれよ」って。」
Ibrahim 23歳

「これが僕の好きなスタイル。僕らしいと思う。5000フランもらったとしても、こんな感じの服を買っただろうね…。このコート(※ダッフルコート)を着れば、自分もみんなと同じ立ち位置にいると感じる。それに仕事を見つけるか勉強するにしてもきちんとした格好をしたいんだ。他人の土地に行ったのなら、郷に入れば郷に従うのは当然だと思うよ。」
Haroun 24歳

プロジェクトのウェブサイトはこちらで。
https://www.ambroisetezenas.com/serie/des-sneakers-comme-jay-z






posted date: 2019/Jun/12 / category: ライフスタイル政治・経済

GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。
門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。

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