街角で見かけるフランス語、第2弾は省略形 abréviation です。綴りの長い単語が省略されるのは、日本語と同じ現象です。代表的なものとしては、
manifestation → manif(デモ)
information → info(ニュース、情報)
promotion → promo(特売)
などがあります。-tion で終わるタイプの単語は、よく省略されるようです。スマホのアプリで ma conso(consommation:消費量)というのも見かけました。
Publicité → pub(広告)
restaurant → resto(レストラン)
もよく使われます。とくに郵便受けに大量に投函される広告に嫌気がさしている人は多く、Pas de pub !というのは一種の標語のように使われています。英語のパブとは関係ないのでお気をつけください。
ちょっと珍しいものでは、gaspi, dispo, perso という表現を見かけました。
gaspillage → gaspi(浪費)
disponible → dispo(入手可能)
mes infos perso → mes informations personnelles(個人情報)
zéro gaspi は「無駄をゼロに」という意味で、ここは賞味期限間近の商品を値下げして販売する棚です。FNAC はフランス大手の家電量販店。「何でも手に入る」と謳っています。どうやら、こういう略し方が今のフランスでは「かっこいい」のでしょう。とはいえ、何でもかんでも略してしまっていいのでしょうか。スマホの料金プランでよく見かける exclu client という表現なんて、すでに登録している顧客のみの限定サービス(exclusivité)なのか、それともそうしたお客は範囲外(exclusion)なのか、どっちなんだろうと思ってしまいます。
また、省略形とは別に、頭文字をつないだ sigle も大流行中です。もちろん、これも
Société Nationale des Chemins de fer Français → SNCF(フランス国有鉄道)
Électricité de France → EDF(フランス電力)
というように、以前から使われてはいましたが、最近は LCL(Le Crédit Lyonnais)とか ADP(Aéroports de Paris)のように、省略形を正式な商標名にするところが増えています。
ちなみに私がお世話になっている Université Toulouse-Jean Jaurès の公式略号は「UT2J」です。平和の闘士として知られる Jean Jaurès も「2J」なんて呼ばれると、なんかラッパーみたいですね。
省略形が流行するのは、それだけ社会のコミュニケーションの速度が上がっているからでしょう。1音節でも得をしたい、早く話を進めたい、という気持ちが、個人の意識というよりは集団的な意識としてあるのではないでしょうか。逆に、その社会のスピード感についていけない人にとっては、省略形は暗号のようで、社会が不透明になってしまったような不安を与えかねません。
また、省略形の濫用はフランス語の響きも消してしまいます。事実、zéro gaspi や exclu client に見られるように、英語風の語順が目立ちます。まさに、それが「かっこいい」ところなのかもしれませんが、フランス語がどんどん英語化されていくのは、勝手な外国人の呟きながら、なんとなく寂しいものです。
1975 年大阪生まれ。トゥールーズとパリへの留学を経て、現在は金沢在住。 ライター名が示すように、エヴァリー・ブラザーズをはじめとする60年代アメリカンポップスが、音楽体験の原点となっています。そして、やはりライター名が示すように、スヌーピーとウッドストックが好きで、現在刊行中の『ピーナッツ全集』を読み進めるのを楽しみにしています。文学・映画・美術・音楽全般に興味あり。左投げ左打ち。ポジションはレフト。