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原発と空き家、または終りの思考

もうすぐ東日本大震災から2年が経つ。ということは、福島第一原発事故から2年ということでもある。事故はまだ事後処理中で、放射能汚染は続いている。とくに溜まり続ける汚染水の行き場がないのが心配だ。貯水タンクはもうすぐ満杯で、もはや新設する場所もない状況である。

しかし、行き場がないのは、事故を起こした原発の汚染水だけではない。「健全に」稼働している原発から出る放射性廃棄物もそうだ。福島の事故をきっかけに、国民がはっきりと意識するようになったのは、そもそも原子力発電所というものが、「トイレのないマンション」と揶揄されるように、終りの姿をきちんと想定しないまま建てられてしまったということだ。 確かに廃炉という工程はある。だが、廃炉が、原発があった場所が更地になるまで、という意味だとすると、商業用原子炉の廃炉が完了したケースは、じつは全世界でまだ一件もない。ドイツは原発を新設する際に廃炉の計画表も提出しなければならないそうだが、実際の廃炉作業は始まったばかりだ。

先日、ドイツの廃炉工場を取材したドキュメンタリー映像を見た。建屋の建材から始めて、原発を構成するあらゆる配管や機材をひたすら細かく裁断し、除染する。それだけでも気の遠くなるような時間と費用と人員が必要だ。しかし、除染というのは、よく言われるように「汚染を移動する」ことにすぎない。最終的には、どうしても長期保管の核のゴミは出てしまう。それに汚染がひどすぎるもの、たとえば圧力容器については、ドイツの場合でも、50年待ってから解体する、としている。廃炉工場は、事実上の中間貯蔵施設なのである。

同じような、終りのない姿というのを、僕は最近とみに増えてきた空き家に見てしまう。アメリカにおける住宅ローンの発明は、本来家など建てる資金のないはずの中間層が、数十年にわたって金を払い続けるという悪魔的な契約で、家を保有できるようにした。親が金を払い続けた家に、では子供たちが住み続けるかというと、子供は子供でまた新たに家を建てる(そもそも同じ土地に住み続けるとは限らない)。そうすると、親の家は、親が死亡や養護施設への入居で住まなくなったときに、誰も住まない空き家になる。 カンバセイション・ピースもともと家というのは、壊れるまで、何世代にもわたって住むものだった(吉田健一は、震災で壊れた東京と違って、金沢には数世代住んでようやく出てくる家の表情があるのがいい、と『金沢』で書いていた)。

また、空き家に別の家族が住んでも一向に構わないものだった(そうした住み継ぎの気配というものを保坂和志の『カンバセイション・ピース』はうまく表現している)。しかし、新築住宅が増え続けるなか、家はそう簡単には壊れなくなっている。むしろ、これからは積極的に空き家を取り壊す施策が必要となってくるだろう。とはいえ、行政が個人の不動産の処分をするためには、さまざまな権利上の問題があり、単純にはいかない。それに、行政サービスというのは、生活している(つまり生きている)市民に対するものであり、誰も住んでいない家は、どうしても後回しにしがちである。

だが、人が作り出したモノには、使い続けられるモノとそうでないモノとがある。たとえば自動車。トンネルに連なる車列を眺めながら、そして自分自身もそのうちの一台を運転しながら、これだけの鉄屑が、最後は結局どこに積み上げられるだけなのか、そしてこのトンネルも、いつかは崩落して土に埋もれるのか、などと近未来SF的な光景を夢想すると、背筋が冷たくなってくる。 どんな商品も、使われることを目的としているからか、使われた後のことにはまったく無頓着である。最後はどうなるのかという想定を放棄し、目の前の現実のだらしない延長としてのみ未来を構想している限り、世界はどんどんゴミに埋もれていくしかない。

原発と空き家を同時に考えることは、衣服や食品包装からパソコンや家電まで、生活の裏側に吐き出されるゴミの行方を考えることにほかならない。問題は大きすぎて解決は難しいが、しかし、これでいいわけがない。震災2周年を間近に、僕はそんなことを考えている。



posted date: 2013/Mar/09 / category: ライフスタイル政治・経済

1975 年大阪生まれ。トゥールーズとパリへの留学を経て、現在は金沢在住。 ライター名が示すように、エヴァリー・ブラザーズをはじめとする60年代アメリカンポップスが、音楽体験の原点となっています。そして、やはりライター名が示すように、スヌーピーとウッドストックが好きで、現在刊行中の『ピーナッツ全集』を読み進めるのを楽しみにしています。文学・映画・美術・音楽全般に興味あり。左投げ左打ち。ポジションはレフト。

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