FrenchBloom.Net フランスをキーにグローバリゼーションとオルタナティブを考える

追悼企画:ベルトルッチ映画は何を見るべきか②

text by / category : 映画

2018年に公開された映画『グッバイ・ゴダール!』の中で、久々に「ベルトルッチ」という名前を聞いた人も多いのではないか。映画のなかでは、ゴダールとベルトルッチの若き日の連帯と決別が描かれていた。

いま思い返してみれば、ベルトルッチはまさにゴダールと決別することによって、初めて自分の世界を切り開くことが出来たような気がする。さて、それではまたしても独断的に「見るべきベルトルッチ映画」の5位から1位を発表してみよう。

第5位 『殺し』(1962)
ベルトルッチのデビュー作。パゾリーニの原案を彼の助手を務めていたベルトルッチが映画化したもの。娼婦殺しという卑近なテーマに繊細なバロック音楽が重なり合うという巧みな構成。時間の流れの多層化、作り変えられた記憶など、後年のベルトルッチ映画のテーマがすでにすべて現れており、まさにこの映画作家の「原点」と言える作品。パゾリーニの庇護の元を離れ、21歳の若い映画監督が第一歩を踏み出すことになった記念碑的なフィルムである。

第4位 『革命前夜』(1964)
スタンダールの『パルムの僧院』の自由な翻案と言われ、主人公の名前は小説通り、ファブリッツィオ(仏語ではもちろんファブリス)とジーナである。だが、ベルトルッチによればそれを「受け」を狙ったものであり、そこまでスタンダールを意識したものではなかったらしい。「直接行動に思い悩む共産主義者と、彼が恋い慕う若い叔母との関係」という物語を凌駕するのは、撮影監督アルド・スカダルヴァによる華麗な映像だ。そして、叙情性を極めたモリコーネの音楽。加えて、ジーナを演じるアドリアーナ・アスティの信じがたいまでの美しさ。必見の一本であろう。

第3位 『シェルタリング・スカイ』(1990)
ポール・ボウルズの小説『極地の空』(1949)を映画化した作品。大作『ラストエンペラー』の後に果たしてベルトルッチは映画を撮れるのかと誰もが危惧したが、全く趣向の異なる、しかし、本質としては同じ作品をこの映画作家は送り届けて来た。二人でいながら互いに孤独に過ごすことしか出来ない夫婦。この夫婦を演じるデボラ・ウィンガーとジョン・マルコビッチが広大な砂漠の中で抱き合う姿はあまりにも切なすぎた…。坂本龍一の音楽は完全にこの映画の世界観と同化し、映画を一つの方向へと向かわせている。ベルトルッチが放った渾身の一作と言って良いだろう。

第2位 『暗殺の森』(1970)
この映画がベルトルッチの最高傑作であることを否定する者はいないであろう。映像、音響、物語、あらゆる点で同時代の作品を凌駕しており、今日でも新鮮味を全く失っていない。まさにベルトルッチが生んだ「永遠の一本」である。反ファシストからファシストの工作員に転じた男がパリで繰り広げる暗殺劇。しかし、ここでも主人公は何もすることが出来ず、事態をただ眺めるだけで終わる。この何とも情けないベルトルッチ的人物を演じるジャン=ルイ・トランティニャンの演技は秀逸この上ない。ヴィットリオ・ストラ―ロのカメラもここでは最高峰の域に達している。繰り返し見直したくなる作品である。

第1位 『1900年』(1976)
本来なら『暗殺の森』が1位のところをこの作品を上位に挙げたのは、この作品がベルトルッチのみならず、イタリア映画、あるいは映画そのものの「奇蹟」を実現したかのような存在だからだ。30歳代半ばのイタリアの中堅監督が、米仏の期待を担う新人俳優(ロバート・デ・ニーロ、ジェラール・ドパルデュー)を主演に据え、50年代アメリカを代表する名優スターリング・ヘイドンとバート・ランカスターを招聘し、『暗殺の森』からは二人の美女(ドミニク・サンダ、ステファニア・サンドレッリ)をスライドさせ、怪優ドナルド・サザーランドにはフェリーニの『カサノバ』(1976)と掛け持ちで出てもらうという豪華なキャスティング。これだけでも並ではない。さらに、物語は1900年から60年代半ばまでの長大な時期に亙り、地主と小作農の対立、ファシストの勃興と没落、そしてコミュニスムの昇華を描く壮大な歴史絵巻。上映時間は5時間以上。普通なら崩壊してもおかしくない話を重厚な作品として完成させたのは、まさにベルトルッチが「天才」だったからとしか言いようがない。淀川長治は「この映画を観ることはドストエフスキーの大長編小説を読むことに等しい」と述べたが、まさに映画が文学を超えるかもしれない稀有な時間を体験させてくれる作品であろう。

番外 『ドリーマーズ』(2003)
古い作品ばかり褒めるのも気が咎めるので、2000年代の作品も一本。『ドリーマーズ』はパリ五月革命を描いた貴重な映画。『グッバイ・ゴダール!』とは対照的に、それと距離を置く若者たちを主人公として描くあたりが実にベルトルッチらしい(その意味でも、ゴダールとベルトルッチの対比的な関係が感じられる)。エヴァ・グリーンはここではかなり濃厚な演技を見せている。また、ジャン=ピエール・レオーが本人役で出演し、街頭でアジ演説をやっているのもファンには堪らなく嬉しい。

さて、どの作品から再見しようか?






posted date: 2018/Dec/02 / category: 映画

普段はフランス詩と演劇を研究しているが、実は日本映画とアメリカ映画をこよなく愛する関東生まれの神戸人。
現在、みちのくで修行の旅を続行中

back to pagetop