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ベルギーからフランス語改革の狼煙~槍玉に挙がったのは「助動詞 avoir と過去分詞の一致」

text by / category : フランス語学習 / 教育

2016年にフランス語の綴りが変わることが話題になっていたが、今度はフランス語圏の国のひとつ、ベルギーから改革ののろしがあがった。

2018年9月3日のリベラシオン紙の Les Belges sont décidés à simplifier l’orthographe du français(ベルギー人たちはフランス語の綴りをシンプルにすることにした)と題された記事を見てみよう。まず俎上に挙がっているのは、フランス語を学ぶときに最も面倒くさいと感じる、「助動詞 avoir と過去分詞の一致」の規則である。

「この記事を読んで、ショックのあまり朝食が喉に詰まった人もいるかもしれない。アカデミー・フランセーズのメンバーは、警戒を強めることだろう」。この表現に多少の誇張があるとはいえ、学校の新学期が始まった日にベルギー人たちが、助動詞 avoir の後ろに置かれる過去分詞は、どんな場合においても不変にする、と決めたことは、フランス人にとって大きな衝撃を与えることは想像に難くない。

そもそも「助動詞 avoir と過去分詞の一致」の規則とは、直接目的補語が助動詞 avoir の前に位置したら、過去分詞はこの直接目的補語に性数一致させる、というもの。例えば「私が昨日の夜ガツガツ食べた貝の形のマカロニ」 «Les coquillettes que j’ai englouties hier soir» の coquillettes が女性形複数だから、過去分詞 englouti に女性形複数語尾の -es をつける(他には補語人称代名詞のケース:Vous les avez vu(e)s? )。しかし、これがもし中性代名詞 en が関わると、«Des coquillettes, j’en ai mangé.» と不変に戻るというなんとも面倒な規則なのだ。

古臭く、論理性に欠けた文法的綴りについての規則。こうした<不条理>に対し、ワロン地域の二人のベルギー人のフランス語教師アルノー・フートとジェローム・ピロンは、以下のように訴える。

「現在の規則の習得に割かれる平均時間は80時間で、みんながなげくようなレベルに達するのがやっと。その時間を、語彙を増やしたり、文構成法を学んだり、文学を味わったり、語形論を理解したり、語源を細かく調べたりするのに費やした方がずっと有意義ではないか。つまり子供達に、書記法的コードの最も恣意的な部分を覚えさせるより、フランス語を習得できるような全てのことを学ぶことに費やした方が」

彼らは、ワロン・ブリュッセル連合(ベルギーのフランス語圏)の支援を得て、このタブーに切り込んだのだが、連合自身も「ワロン・ブリュッセル連合のフランス語及び言語政策評議会(CLFPL)とフランス語国際評議会(Cilf)の見解」に依拠している。これはフランスにおける、文化大臣監督下のフランス語全体委員会に相当するものである。

この二人の教師は以前から、綴りは刷新され、神聖視することをやめる必要があると確信しており、綴りをもっと楽しく学びやすくするため、4年前にはベルギーの劇場で、さらにはアヴィニョン演劇祭で、La convivialité というドキュメンタリー風演劇作品を上演している。これが好評を博し、彼らはずっと巡業を続けているが、来月はパリ15区で上演するそうだ。観客たちは腹を抱えて笑いながら観ているが、上演の最後には皆「綴りが変わるにはどうしたらいいのだろう」と問いかけることになるような内容である。

例えば、これ。https://vimeo.com/272920164 (彼らのインタビュー L’orthographe est-elle respectable ?も興味深い)

ここでは、bruit, édit, crédit は t で終わっているので、動詞になったとき bruiter, éditer, créditer になるが、abri は t で終わってないのに、abriter になるのは納得できないとして、果たしてこれらの綴りが尊重される理由があるのかを問うている。

「ベルギーのフランス語評議会メンバーたちは助動詞 avoir を攻撃することに決めていましたが、それを推進するために、私たちの演劇作品の反響の大きさを使うことを共に決めたのです。実際どのような決定機関も、ある綴りの規則を強いる権力はなく、慣用が規則を決定する。だから慣例を変えるだけで十分なのです」と彼らは言う。

9月2日(日)、リベラシオン紙のこの記事とベルギーの公共放送局での告知の前日であるが、教師のひとり、アルノーは、ライオンの穴に身投げすることを自覚して、興奮していたそうだ。と言うのも、歴史上フランス語の綴りを少しばかりいじくろうとした言語学者たちは、アカデミー・フランセーズにこっぴどく怒られたのを知っているから。1990年に採用され、当時新聞で信じられないほど激しく抗議された、例の訂正された綴り(oignon 玉ねぎから i が消去され、nénuphar 睡蓮の ph が f に)・・・その後2016年に教科書の出版業者たちが新しい教科書にこの綴りを組み込もうと決めていた際に、再び炎上したことは記憶に新しい。

レンヌ第2大学の言語学者フィリップ・ブランシェは、べルギー人たちがフランス語の綴りを攻撃するのをフランス側から支援しているが、「彼らの演劇作品で、彼らは、我々言語学者が理解させることができなかったことを、一般大衆に理解させることに成功した!」とエールを送っている。

さてベルギー人たちの企ては、果たしてフランスでどのような結果を生むのだろう。

Top photo by Dr. Marcus Gossler — Travail personnel, CC BY-SA 3.0,






posted date: 2018/Sep/20 / category: フランス語学習教育
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