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FRENCH BLOOM NET 年末企画(1) 2020年のベスト音楽

text by / category : 音楽

恒例の年末企画です。第1弾は2020年のベスト音楽です。今回はFBNのライター陣の他に、マニアックなフランス音楽のツィートでおなじみの福井寧(@futsugopon)さん、POISON GIRL FRIEND の nOrikO さん、翻訳者・ライターの丸山有美さん、DJの irrrrriさん、に参加していただきました。フランスの音楽を中心に2020年の音楽を幅広く選んでいただきました。

福井寧(@futsugopon)

Clou – Orages
https://music.apple.com/jp/album/orages/1525524677
■もしかしたらこの人はアルバムを出さないうちに消えてしまうのではないかと心配していたけれど、ようやく待望のデビューアルバムが出た。クルーことアンヌクレール・デュクードレーは2014年にフランス国営ラジオ、フランスアンテールのオーディション番組で2位になったパリ出身の女性フォーク歌手。ポムやアルマ・フォレールと同じ傾向の音楽だが、澄んだ硬質の声が美しい。一聴したところでは行儀がいいフォークに聞こえるかもしれないけれども、甘さに流れることがない芯の強さがある。時代と関わりがない地味な音楽だが、広く聴かれてほしい。ザ・ドーのダン・レヴィのプロデュース。
動画 https://youtu.be/mlbIj2zYLqo
La Pietà – La Moyenne
https://music.apple.com/jp/album/la-moyenne/1490286605
■「嘆きの聖母像」を名乗るラ・ピエタことヴィルジニー・ヌーリーは、品がよい楚々としたクルーとは正反対の、裏街道を行くすれっからしの雰囲気が魅力のスラマー(詩を朗読するアーティスト)。モンプリエの出身。「喜ばせるのではなくて居心地の悪い思いをさせる」のをこととするアーティストで、パンクっぽい攻撃性があるが、どことなく社会派シャンソンの系譜も感じさせる。さながらマイクをもったヴィルジニー・デパント(挑発的な女性作家)といった感じだ。挑発的でわざとらしいものが嫌いな人は避けて通った方がいいが、好きな人にはたまらないでしょう。これがフルアルバムとしてはデビュー作だが、La Moyenne, à peine(「ぎりぎり平均レベルの女」)という小説も同時に発表している。
動画 https://youtu.be/T4xmUUtBkRk
Bonnie Banane – Sexy Planet
https://music.apple.com/jp/album/sexy-planet/1536581973
■フランス産 R&B は長い間「趣味がいい人」には相手にされないジャンルだったが、このボニー・バナーヌのデビューアルバムは、フランス人の趣味の良し悪しを決めるテレラマ誌でffffの最高点を獲得した。仏R&B史上初めてかどうかは知らないが快挙だろう。シャソール、フラヴィアン・ベルジェ、ミス・サイザーなどにフィーチュアされてきたヴォーカリストだが、この初ソロ作はこれまでのフランスになかった知的なR&Bで、ユーモアも忘れていない。テールノワール、ルース&ザ・ヤクザ、テッサ・Bなどと並んで、ようやく米国のスタイルをなぞることをやめて独自のスタイルを生み出したフランス産R&Bを象徴する存在だ。
動画 https://youtu.be/f-vllVoZnJ4
■次点は南仏ロデーズのラッパー、ロンブルのEP、La lumière du noir。「黒色の光」という題名だが、同郷の「黒の画家」ピエール・スラージュの声をフィーチュアしている。傑作だが EP なので次点。近年好調なバンジャマン・ビオレが F1 をテーマにした新作 Grand Prix もとてもよかった。コロナ禍でいろいろ大変でしたが、フランスの音楽はなかなか楽しい一年でした。今年発表されたフランス語の歌を25曲集めたプレイリストをつくったので、興味がある方は下のリンクからどうぞ。
https://youtube.com/playlist?list=PLaICJoTGUCPn-Dz6FfGJObQps4cTHkdOZ

福井寧(@futsugopon)
1967年生まれの日仏通訳・翻訳業。青森市在住。全国通訳案内士(フランス語・英語)。油川フランス語・英語教室主宰。訳書ネルシア『フェリシア、私の愚行録』(幻戯書房)。来年は新しい訳書が出るかも?
http://aomori-france.com

nOririn(Poison Girl Friend)

Benjamin Biolay  “Grand Prix”
■2020年、confinement(ロックダウン)の年にいちばん聴いたのがバンジャマン・ビオレの最新作である本作と、2018年リリースのカヴァー集である”Songbook” でした。女優の Nadia Tereszkiewicz が出演している MV が話題だった先行シングルの “Comment est ta peine?”は、全世界で2000万を超えるストリーミングされているのも驚きです。アルバムのコンセプトは自動車(サーキット)レース。『レース、旅、道筋、人生、勝利、敗北…音楽家もツアーでいつも移動して、長い旅をしていて、結局同じところに戻る。レーサーに似ている…』 音楽的にはとてもバラエティにとんでいます。彼のお得意のクラシカルなアレンジは少し影をひそめ、ロック、ラテン、歌謡曲調、そして7曲目の “Papillon Noir” は、おもわず New Order ですかぁ?と。しかし個人的には、47歳にして、声のオヤジぶりが進化しているのが気になります(汗。
‘Comment est ta peine?’  https://youtu.be/Ba7TB4QXzmU
Carla Bruni  “Carla Bruni”
■前作が2017年、こちらのコラムでも紹介した英語のカヴァーアルバムでしたので、待望のフランス語でのオリジナルアルバムです。今更、元トップモデルという触れこみは必要ない位、彼女の魅力はヴィジュアルだけではなく、そのハスキーな声、声、声、、、につきます。今回の作品の目玉はなんといっても、彼女の詩に Julien Clerc が曲をつけ、Isabelle Boulay に提供した “Le garçon triste” を、彼女自身が録音しているところですね。ライヴでは披露していたこの曲、元フランス大統領であった夫のサルコジ氏に捧げた詩です。大統領まで昇り詰めた男を『私は悲しい少年のことを歌う。溺れてしまわないために偉ぶってしまう彼のことを…』と詩うカーラは昔の恋人を詩にして別れるという過去がありますが、今回は、、、ウ〜ム(涙。 il est ma seule terndesse, mon amour, mon alame, mon prince et mon péché …
‘Le garçon triste’  https://youtu.be/ljwfndfVpg8
Vencent Delerm  “Panorama”
■3枚目に何を選ぶかというのは、1週間近く悩みました。Paul Weller の新譜もかなりオススメで、特にフランス語が入る “More”という acid jazz 系な楽曲は DJ として使いたい曲 no.1 ですが、ここはひとつフランスもので。リリースしたばかりの Jane Birkin は被りそうだし、Bertand Belin や Barbara Carlotti の新譜も視野に入れました。が、前年どなたも紹介していなかったヴァンサン・ドレルムに決定致します。2019年10月リリースですが、とても美しいアルバムなのでご紹介したいのです。作家フィリップ・ドレルムの息子であり、2003年にデビューアルバムがフランスの Victoires de la musique の最優秀アルバムに選ばれ、幸運なデビューを飾ったヴァンサン。実は私、初期のぬめ〜とした重めの歌が苦手でしたが、年を重ねるごとに(バンジャマンとは逆に)声がソフトになっているので、聴き心地よき〜(嬉。
‘Panorama’  https://youtu.be/NAX9hP15GCU

POiSON GiRL FRiEND
→1992年、ビクターよりCDデビュー。2000年から2004年まで、フランスのストラスブールへ渡り、フランスを学ぶ。帰国後の2006年からライヴやDJ活動を再開。そのテクノとフレンチ・ポップスとの融合ともいわれている音世界は20年経っても不変である。2018年5月、テクノミュージシャンとのコラボアルバム « das Gift »をリリース。

粕谷祐己(世界音楽研究家)

今年はコロナに明け暮れた一年。音楽もやっぱり低調だったかな。でもあらゆる意味で将来への布石となった年だった、ということになってほしいもんです。
1. Aya Nakamura, Aya.
もはや日本とのハーフ?とかボケをかましている場合ではありません。グリオの家系にバマコで生まれパリ郊外で育った Aya Danioko は25歳にして一児の母、いまやフランスのチャートを席巻する大スターです。この11月に出たばかりの彼女のサードアルバム、音自体は別にアフリカとか移民系とかいうのではなく「ふつうのポップ」として立派な音。それで十分と思ってます。さてわたくしの2021年の野望は彼女を日本で売ることです。売れるはずです。歌もフィジカル面も抜群で、学生さんたちに見せたらびんびんに反応してきますもん。彼女に日本向けオンライン・コンサートとかやってもらえれば・・・昔わたしが「ライ」の日本向け売り込みに奔走していたころ、フランス文化省関係者には日本のリスナーが白人の女性歌手しか受けないと思われているのがわかって愕然とした覚えがありますがそういう状況は、たとえかつてあったとしても、今では全然変わっていると思いますよ。
2. Klô Pelgag, Notre-Dame-des-Sept-Douleurs.
ケベックの不思議ちゃん、クロ・ぺルガグ。彼女も一児の母となって幸せのただ中か、と思いきやお父さんの死による喪失感、売れてしまったおかげで経験した色々な嫌なこと、Rémora「こばんざめ」の曲やクリップが物語る不快感にとっぷり浸かっていたようです。でも、標識はいつも見ていながら行ったことのなかった土地、行ってみれば意外にも島であった Notre-Dame-des-Sept-Douleurs(七つの悲しみの聖母)を訪れて得た至福の気持ち(現地で食べた魚の umami =旨味が効いたかな?)をアルバムに仕立てた彼女は、やっぱり詩人としか言いようがないです。オーケストラ系の分厚い音のアレンジ、La Maison Jaune の『もののけ姫』を思わせるCG入りクリップ(クロちゃんはセミをやってます)など、相変わらずアーチスト・サポートが手厚いケベック・アーチストは、世界で存在感出すようになりました。
3. Vagabon, Vagabon
USAで出てるしフランス語曲もありませんが、カメルーン・ヤウンデ生まれで去年の Blick Bassy と同じ仏語圏出身ですから選んでもいいことにしてください。でも彼女はUSAの学校では優等生をやっていたと思います。Laetitia Tamko、またの名を「天才」バガボン Vagabon のセカンドアルバム、éponyme の Vagabon は、彼女の素人っぽい歌が分厚くふんわりしたふとんの上に心地よく浮かんでいるような音作り。プロデュースから楽器から全部やるマルチ系アーチストの彼女は本作が頂点ということには絶対ならないと思います。まだまだこれから。Water me down のクリップをご覧になってください。白人系二人を従えて踊る彼女の貫禄は、なんだかジミヘンみたい。

粕谷祐己(または雄一。かすや・ゆういち)
フランスの作家スタンダールの研究から始めて世界文学をかいま見、アルジェリア・ポップ「ライ」から始めて世界音楽を渉猟する金沢大学国際学類教員。大学院でご一緒に「ワールドミュージック」研究しませんか? 
blog.goo.ne.jp/raidaisuki

丸山有美(まるやま・あみ)- 翻訳者・ライター

Dua Lipa & Angèle – Fever
イギリスのデュア・リパとベルギーのアンジェルがタッグを組んだダンサブルな1曲。デュア・リパの情熱的なパワフルボイスとアンジェルの甘く切れの良い歌声の応酬が心地よい。同年代のふたりがロンドンの夜の街でキャッキャウフフ(死語?)するMVは微笑ましく、コロナのご時世、一抹のノスタルジーも覚えて眩しいばかり(音楽も2000年代風だしね)。
https://youtu.be/vs61OHs2g-w
Tim Dup – Je te laisse
ティム・ドゥップってフランス風ではないお名前ね、と思いきや本名はTimothée Duperrayティモテ・デュぺレだそうな。オーガニックなサウンドにふわりと憂いと光を漂わせやさしく降り注ぐティムくんの歌は、譬えるならポップ・フランセーズの薬用ビューネくん(メナード)…いや、わたしビューネ使ったことないんだけど。歌詞も美しいんですのよ。
https://youtu.be/kLRYQrnRcsg
Arvo Pärt – Spiegel im Spiegel
今秋はエストニア生まれの大御所アルヴォ・ペルト(御年85歳)の最新アルバム(Spotifyのみ?)『Pärt Top 10』ばかり聴いた。2020年は私的事情による環境の著しい変化に(見かけによらず)脆弱な体と心が耐え切れずとても音楽など聴けない時期があったのだが、そこれを超えたある日、すぅっと胸の奥に染みてきたのがペルトの代名詞的なこの一曲。
https://youtu.be/TJ6Mzvh3XCc

noisette こと武内英公子

Julien Doré – Aimée
イケメン、ジュリアン・ドレの新作アルバム。2016年の前アルバム«&»(esperluetteと発音、邦題「〜愛の絆〜」)に続く本アルバムは、これまでの彼の持ち味であったラブ・ソングから一転して、エコロジストっぽい歌詞。今までと同様ポップな音でありながら、環境汚染、地球温暖化、野生動物の絶滅への危機感が滲む。このアルバムを出す前に、ドレはパリを去って生まれ故郷の南仏の移住したそうで、彼自身のプライベートでの変化も関係ありそう。PVでのドレは相変わらずコミカルなテイストなのだが、11曲中5曲目の Nous で Nous on s’en fou de vous / Vous pouvez prendre tout / Tant qu’on est tendre nous「僕たちは君たちのことなんてどうでも良いのに。君たちはすべてを奪うことができる。僕たちは愛情深いのに。」と恐竜たちと踊りながら歌うドレの眼差しにはドキッとさせられる。1曲目のLa fièvreでは、コロナ禍前に制作されていたにも関わらず、Le monde a changé「世界は変わってしまった」とアフター・コロナを予言していたかのよう。ちなみにエコロジストのカラーは緑 vert だが、“vert” de rage 「怒りで真緑になる」という表現に引っ掛けて(日本語だと「真っ青になる」ところだが)、地球の緑を消費し消滅させる人間たちへの怒りがこのアルバムでは表現されている。フランス本国では、シルヴィ・ヴァルタンやフランソワーズ・アルディといった大物に楽曲を提供したり、2007年には『ELLE』で「今年最もセクシーな男」に選出されたり、記憶に新しいところでは2017年の夏 Coco câline(ジュリアン・ドレがパンダの着ぐるみを着て踊るPVが可愛い!!フランスの老若男女が皆この曲を聞いて楽しく踊りまくった)が大ヒットしたので超有名なのに、日本では知名度がイマイチなジュリアン・ドレ。日本でも再び彼のいたずらっぽい笑顔が見たい。
‘La fièvre’ https://youtu.be/FQ0zh3Dw8o4
‘Nous’ https://youtu.be/PpRgiaONETI
‘Nous(Version Noël)’ https://youtu.be/Bk_mTgZF40s

タチバナ

P.R2B / Des rêves  (EP)
■今年になって立て続けにシングルと EP をリリースした P.R2B。26才の女性シンガーによる表題曲「Des rêves」は、2018年にインディーズミュージシャンの集まるレーベル La Souterraine のコンピ『Générale de chauffe』に収録されていたが、今年めでたくシングルリリースされた。今回の方がミックスも良い。「シャンソンとヒップホップの融合」として評価されているとおり、シンプルなトラックの上で、ラップのようなメロディと朗々とした美しいサビ。Je t’aime(ジュテーム)と BPM(ベーペーエム)がライミングするような言葉遊びもいたるところに配置されて楽しいが、語られる内容は陰鬱で、理不尽に憤り、不屈を誓っている。P.R2B というこの覚えづらい名前は、実は女性映画監督 Pauline Rambeau de Baralon のイニシャルでもあって、みずから手がけた PV は、歌詞の展開やジャケットワークとシンクロして不思議な妙味をかもしているのでこちらも必見。ただしこの曲以外は EP のなかにラップがほとんど入っておらず、むしろ優美な歌物が多いかも。
https://youtu.be/norMgcLGWQo
Lorrenzo Senni  / Scacco Matto  (album)
■本作は、イタリアの電子音楽家ロレンツォ・センニが、Warp からリリースした初のフルアルバム。「チェックメイト」を意味するアルバム名が示すように、間口の広い音となっている。ネオ・トランスで名を馳せた頃の彼の音楽は、先鋭的でありながらも、どこか抽象的かつ取っつきにくい印象もあったが、『Persona』(2016)辺りから現在に近い作風にシフトして行ったようだ。不規則なビートと叙情的な旋律が絡み合い、曲中での展開も豊かで、退屈させない名曲ぞろい。個人的に YouTube に上げてほしかったのは、レゲエ風味の入った一押しの XbreakingEdgeX だったけど。
https://youtu.be/qNlbN_YZHFY
Sally / Toute roule  (single)
■Sallyは、ジブチ生まれの21歳。この声と活舌はひときわ個性的ではないか。フランス語の歌詞には、生みの親なのか育ての親なのかは定かでない毒親が出て来るのだが、それに抗うように力強く歌われる自己肯定は、「family name」で ZOC が叫ぶ「クッソ生きてやる!」のマインドを彷彿させる。とはいえ、同じく今年に出た EP『PYAAR』の方は、相変わらずリリックが痛々しいながら、もっと穏やかな調子で、のびやかな歌声と鋭敏なラップを披露しており、その実力は昨年の A Color Show で実証済み。今後も楽しみなアーティストだ。
https://youtu.be/WmBq1BLxhko
【付記】
■選外となったが、今年のフランスの音楽業界もバラエティに富んでいた。すでに来日を果たしているロックバンドLa Femmeはサイケでまがまがしい楽曲を連発し、ミシェル・フーコーを思わせる哲学者に扮した「Disconnextion」のPVをリリースしている(しゃべり方はフーコーにちっとも似ていないんだが)。いやそれより、新鮮なアラビックなポップスをリリースし続ける若手のデュオ Mauvais Œil がジュリー・ピエトリのカバーを収めたEP『Mektoub』を評すべきだったか、あるいは今年に日本語版をリリースしたセバスチャン・テリエの『Domesticated』を取り上げるべきだったか。L’Impératrice による軽やかなファンク曲「FOU」の PV の異様な世界は、知人に見せまくりたい。Bonnie Banane のアルバム『Sexy Planet』も見事だったし、親日家でもあるベルギーの Lous and The Yakuza は A Color Show で歌った Bon acteur を含め、数曲をリリースして順調のようだ。
‘Disconnextion’  https://youtu.be/JR2mZChrO2c
‘Fou’   https://youtu.be/wmYPpnjthkU

irrrrri(DJ)

MAÂT 「Solar Mantra」
■Spotify と Bandcamp を使うようになってから、フランス語圏の新しい音楽の情報がどんどん入ってくるようになったし、フィジカルも手に入れやすくなったように思える。パリの3人組 MAÂT もたしか Bandcamp で見つけた。バレアリックなラインナップで(たぶん)愛好者には知られている、ドイツはハンブルクの Growing Bin Records からリリースされたデビュー作。アフロやエクスペリメンタルなダンスミュージックの感覚を取り入れながら、一貫してオーガニックでゆったりした普段着のジャズを奏でていて、とても現代的だ。スッとなじむポップな心地良さもあって、ずっとそばに置いておきたい1枚に仲間入り。
MAÂT「Solar Mantra」 https://maatlegroupe.bandcamp.com/album/solar-mantra
D.K. 「The Ancient Kingdom」
■パリを拠点に活動するD.K.(本名:Dang Khoa Chau。ベトナム系?)は、2010年代に個性派レーベル Antinote からのリリースを重ね、神秘的な音像からハウス〜バレアリック〜アンビエント〜ニューエイジ好きの間でじわじわと名が知られるようになった。昨年、仏南西部セノッスのカセットレーベル GOOD MORNING TAPES から発表した「The Goddess Is Dancing」で、ユネスコ無形文化遺産に登録されているベトナム伝統民間信仰「マウタムフー」の儀式「ハウドン」の踊りと音楽を再解釈。その続編といえる本作では、ポーナガール遺跡、ジャワ、チベットとリスナーを荘厳な旅へといざなう。
D.K.「The Ancient Kingdom」 https://d-k-music.bandcamp.com/album/the-ancient-kingdom
Dua Lipa 「Future Nostalgia」
■ステイホームでアンビエントのような音楽ばかり聴いていたような気がする。 しかし、この作品は例外で、メインストリームのポップスらしい無条件に踊り出したくなるパワーを持っている。Mr. Fingers、Moodymann、BLACKPINK、星野源など参加のリミックス群を、The Blessed Madonna が DJ MIX した「Club Future Nostalgia」も楽しい。Madonna と Missy Elliott が乱入してくる“Levitating”(The Blessed Madonna Remix)は瀧見憲司さんが DOMMUNE でさらっとかけていた。Angèle のフランス語が絡んだ“Fever”はフランス盤に収録。
Dua Lipa – Break My Heart https://youtu.be/Yrx8BdfqmxA
Dua Lipa & The Blessed Madonna – Club Future Nostalgia https://youtu.be/m5lp8S-YgrQ?t=1348
Dua Lipa, Angèle – Fever https://youtu.be/vs61OHs2g-w

irrrrri(いりー)
DJ、たまにライター。富山県在住。クラブ、カフェ、バー、フェス「SUKIYAKI MEETS THE WORLD」などでハウスと古今のポップソングを楽しくプレイ……していたが、コロナの影響で2020年はほとんど出番なし。2020年の曲で Spotify プレイリストを作ったので聴いてみてください。 https://open.spotify.com/playlist/7ADrNUGrTEkWuAv3wbL4Ub

Mami Sakai @Mami_SoulUnion

1. Bachar Mar-Khalifé 『On/Off』
待ってましたのBachar Mar-Khaliféの最新作『On/Off』は、前作に比べフランス語の曲が増え、最後は「Oh love of Beirut」のカバーで締めくくられる。売り上げの一部は、ベイルート港爆発による被害者を支援するNGOに寄付されるとのこと。シングル・カットの「Insomnia」では、ピアノの高速アルペジオに粒々のシンセ音とドラムを合わせてくる。PVでは、そりゃあ不眠にもなるわ、というぐらいライトをチカチカさせながら、自宅スタジオにて収録。 相変わらずピアノのキレイな音を主軸に、不安を掻き立てるような、重層・奇妙・かつ美しい立体的な作曲が際立っている。 6歳の時に、レバノンから家族とともにフランスに移住以降、兄と共に学んでいたコンセルバトワールのピアノ・コンクールで受賞する。兄はミュージシャンのRami Khalifé、父親は、レバノンで高名なウード奏者のMarcel Khaliféの。全員の音楽が破綻なくかっこいい稀有な音楽一家。
Insomnia  https://youtu.be/BZdIiCSwjrk…
2. Mansfield. TYA 「Auf Wiedersehen」
EP Carla PalloneとSexy Sushi(しかしながらこのネーミング!)のJulia Lanoëによる女性デュオ。メランコリーでミニマルなニュー・ウェーブ抒情詩と評される音楽は、確かに歌詞を噛みしめるように聴きたい感じ。2015年リリースの前作、『Corpo Inferno』がめちゃくちゃ良かったので、年明け2月に発表される5枚目のアルバム『Monument Ordinaire』に期待が高まる、が…ちょっと微妙なこの先行シングル。フレンチ・エレクトロに微量でもジャーマン要素が入ってくると90年代にタイム・スリップ感じがするのは気のせい?PVも7分強でノリノリ。期待値の高さにより今回リスト・アップ。そういえばSexy Sushiもそろそろ新しいの出して欲しいところ。
Auf Wiedersehen  https://youtu.be/-GZ8jX0gfxM
3. Tigran Hamasyan 『The Call Within』
日本にも熱狂的ファンが多いアルメニア人ピアニストTigran Hamasyanに、ロックダウン中どれだけ救われたことか。一曲目、「Levitation 21」では、のっけからハイスピードのピアノでギリギリまで緊張させておいて、しかしちゃんとコントロールされている心地よさ。ステイ・ホームで、自分でも気付いていなかった身体の緊張が、張り詰めた後にふっと抜けるような、そんな感覚を得ることができたアルバム。今までリリースされたもの全て素晴らしいけれども、アルメニアの伝統音楽にさらに寄せたというこのアルバムは間違いなく最高峰。しかし今後も、過去の自分を全て咀嚼、吸収しながら新しいものを生み出していくのだろう。 神秘思想家GI Gurdjieffと同じギュムリ出身。Keith Jarrettが演奏するSacred Hymnsを通してグルジェフと出遭ったらしい。その点でも今後が楽しみ。グルジェフの思想は、タイム・リリースのように、年齢を経るごとにじわじわ効いてくるはず。
Levitation 21  https://youtu.be/Db3dHajCRRY…

Mami Sakai (@Mami_SoulUnion)
ロンドン在住。パリ第7大学で記号学的フレンチ・ラップを研究。その後ドーバー海峡を渡り、心理学&機能性栄養学のセラピストに。ナチュロパシー・ジャパン・ファウンダー。
https://naturopathy-japan.com

cyberbloom

Aksak Maboul – Figures
Klô Pelgag – Notre-Dame-des-Sept-Douleurs
Aya Nakamura – Aya
今年最大の音楽的な発見は、ベルギーのレーベル、クラムド・ディスクの設立者、マルク・オランデル率いるアクサク・マブールが40年ぶりの新アルバム『Figures』を出したこと。大好きだったハネムーン・キラーズのヴェロニク・ヴァンサンがボーカルをとり、フレッド・フリス(元ヘンリー・カウ、アート・ベアーズ)も参加。あとカナダ・ケベックのクロ・ペルガグの新しいアルバムもよく聴いた。彼女の紡ぎ出す独特のメロディーは健在で、彼女はメロディでひっぱるアーティストだと思う。アコースティックな音が後退して、全体的にエレクトロな印象。Umami という曲があるのだが「旨味」のこと?それと、タイムラインにフォローしている音楽ライターさんのツィートが流れてきて、Aya Nakamura が新しいアルバムを出し、シングルチャートのトップ10に6曲がインしていると知り、驚愕。SNSなどを通してコロナ禍のフランスに彼女の音楽が着実に浸透していたのは感慨深い。

Tout a une fin https://youtu.be/rVenChAPVSw
Umami https://youtu.be/cfMfslWeqHc
Plus Jamais feat. Stormzy https://youtu.be/cIQMdSu-xTc

不知火検校

ピアニスト小山実稚恵のリサイタル「ベートーヴェン、そして…」
■ベートーヴェン生誕250年の2020年。本当ならば世界中でベートーヴェンのコンサートが開催されるはずだったのですが、ご存知のコロナ禍のために大方のコンサートがキャンセルとなり、海外オーケストラの来日公演も当然ながらほとんどなくなりました。全く寂しいクラシック音楽業界の一年となりましたが、その中で見事な演奏会を開催してくれたのがいまや大御所と呼んでも良いピアニスト、小山実稚恵です。その全六回シリーズ「ベートーヴェン、そして…」の第三回「知情意の奇跡」が半年の順延を経て、冬の始まりと共に無事に開催されました。曲はベートーヴェンの「ピアノソナタ第30番ホ長調(Op.109)」とバッハの「ゴルトベルク変奏曲(BWV988)」という組み合わせ。「変奏曲」という観点からベートーヴェンとバッハが見事に呼応する、実に素晴らしいリサイタルとなりました。ふと考えてみれば、バッハが亡くなったのは1750年、ベートーヴェンが誕生したのは1770年で、わずか20年のすれ違いで二人は出会わなかっただけ。彼らは全く異次元の世界にいた訳ではなく、極めて相似た世界を周遊していたということを強く印象付ける、興味深いコンサートとなりました。

exquise

■今年ついに配信サービスに手を出し、ついでに再生アプリも新しいものに変えて一気に音楽の世界が広がった。新しいアーティストはもちろんのこと、かつてよく聴いていた人たちの動向もわかり、あれこれ聴いて音楽的には楽しい一年を過ごしました。好きな作品を挙げたら軽く20は出てきたので、今年発表された3作に絞ると:
Mac Miller – Circles
■新しい音楽生活の始まりは、このラッパーの発見からだった。アリアナ・グランデの元カレということで有名だったらしいが、そういった華々しいイメージとは異なり、このアルバムは静かで内省的な作品である。ぼそぼそとしたラップとエレクトロニカの組み合わせがなんとも言えず心地よい。ところが彼は昨年急逝しており、このアルバムは遺作。残念・・
“Hands” https://www.youtube.com/watch?v=IHJWYamH5SA
Billie Eilish – my future
■ビリー・アイリッシュも今年ようやく聴きました。ずっとディーバ系だと勘違いしていた(すいません)のだが、すごく親近感のわく音作りと彼女の浮遊するような幻想的なヴォーカルに魅了されました。トム・ヨークが彼女のファンというの、よくわかる。八代亜紀*じゃないけど、”Bad Guy” カラオケで歌ってみたい笑。
“my future” https://www.youtube.com/watch?v=1FvEDuWeB4A
* https://www.youtube.com/watch?v=Fg8iasl_4vg
Dirty Projectors – Windows Open
■今年はほぼ R&B 〜ソウル系ばっかり聴いていたのだけど、こういうアコースティックの美しい曲を見つけるのも嬉しい。透明感とあたたかみのある音とヴォーカルが身に沁みる。
“Overlord” https://www.youtube.com/watch?v=LzHGYtIqLig
と挙げてはみたものの、今年最もよく聴いた3作品(アーティスト)は以前の年のもので:
The Internet – Ego Death (2015)
■マック・ミラーの周辺を探るうちに好きなアーティストをたくさん見つけたのだが、なかでもこのバンドはどのアルバムもどの曲もカッコよくて一年中ずっと聴いていた。楽曲のセンスはもとより、甘くてどこか脆さや切なさが感じられる Syd tha Kid のヴォーカルがたまらなく好きだ。
“Go with it” https://www.youtube.com/watch?v=xw2d9mo7jYE
Blood Orange – Negro Swan (2018)
■2013年に出したアルバムでその名は知っていたのだが、その5年後にこんな傑作を出していたとは。自分のセクシャリティにまつわるつらい思い出をスウィートで切ないメロディーにのせて美しい作品へと昇華させている。
“Hope” (feat. Puff Daddy & Tei Shi) https://www.youtube.com/watch?v=5XV1LqpZRag
The Procussions – Pro-Exclusive (2014)
■解散したと思っていたグループが新しい、それもすばらしいアルバムを2枚も出していたことも嬉しい驚きだった。アイデアの豊富さはそのままに、以前よりもぐっとシブい曲を次々と展開し、新しい魅力を見せてくれた。
“Virginia Wolf” https://www.youtube.com/watch?v=B3R3hxXH4rY

 

 

わたなべまさのり(ビー・アンクール・ドットコム株式会社)

That Joe Payne / By Name. By Nature.
ソロになった事で、以前在籍していたバンドの音楽的クセ(??笑)等から自由になり、多様性が出て面白くなっています。ヴォーカルについては改めて言うまでもないのですが、スタジオ録音(盤)だと充分に伝わりにくいかも。
https://thatjoepayne.bandcamp.com/album/by-name-by-nature
Andrea Bocelli / Music For Hope – Live From Duomo di Milano
彼のライブ映像モノは、度々つくり込まれ過ぎている感があり(例えば、その場で演奏されていない様に見える演奏が聞こえたり、録音後の過度の修正など)、ライブ感に欠けてガッカリする事が時々あります。そんな事しなくても、彼はライブでも充分に最高なのに。で、この映像。建物の中でオルガンの伴奏だけで歌っている部分には「やっぱりBocelli!」と幸せな気分になりました。最後の Amazing Grace。これがその悪い例です。(笑)
https://youtu.be/huTUOek4LgU
Anoushka Shankar / Love Letters
もしかして Ibeyi が目をひくかもしれませんが、私はB面にシビレました(笑)。音楽的に好き、でもありますが、音楽的な冒険を全然怖がっていないかの様な Anoushka のミュージシャンシップが私は大好きです。その姿勢がよく出ているのは、このB面。またライブ観たい。
以上が今年私が最もワクワクした音楽です。今ライブ業界の方々は大変な状況かと思いますが、冷めた見方をさせていただくと、日本で音楽がどれくらい大事にされているか、が表われた結果がこれではないだろうか、という感じが私はします。国からの支援の薄さの事です。(音楽以外への支援も薄い事は承知しています。) もっと支援を、という声は聞こえていますが、その声をあげている方々が、充分な支援を得たとして、その支援で以前と同じ事を続けるのであれば、根本は何も変わらないのではないでしょうか。そう私は感じます。
https://www.anoushkashankar.com/music/singles-eps/love-letters-ep

TOP Photo by Simon Noh on Unsplash



posted date: 2020/Dec/24 / category: 音楽
cyberbloom

当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
FRENCH BLOOM NET を始めたのは2004年。映画、音楽、教育、生活、etc・・・ 様々なジャンルでフランス情報を発信しています。

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