FrenchBloom.Net フランスをキーにグローバリゼーションとオルタナティブを考える

FRENCH BLOOM NET 年末企画(1) 2019年のベスト音楽

text by / category : 音楽

恒例の年末企画です。第1弾は2019年のベスト音楽です。今回はFBNのライター陣の他に、マニアックなフランス音楽とフランス語のツィートでおなじみの福井寧(@futsugopon)さん、『私はカレン、日本に恋したフランス人』で注目を浴びるジャーナリストの西村・プぺ・カリンさん、POISON GIRL FRIEND の nOrikO さん、仏系音楽ライターの丸山有美さん、DJの irrrrriさん、世界音楽研究家の粕谷祐己さん、Small Circle of Friends のサツキさん、音楽プロモーターのわたなべさんに参加していただきました。

福井寧(@futsugopon)

Frédéric Lo – Hallelujah !
■1964年生まれのフレデリック・ローは、2013年に亡くなった元タクシー・ガールのダニエル・ダルクの復活劇の立役者で、2004年の名作アルバムCrèvecœurの作曲とプロデュースを担当して名を上げました。このアルバムの成功のおかげで人気プロデューサーになりましたが、本人もアーティストであり、今年約20年ぶりの新作を出しました。「なるほどダニエル・ダルクのソロの音楽の本体はこの人だったんだな」と腑に落ちる作品ですが、聞き手の心を遠慮なく暗くするダニエル・ダルクのヴォーカルとは違い、朴訥とした歌声のちょっと疲れたクルーナーという趣。アレックス・ボーパン、ステファン・エシェール、ロバート・ワイアット(!)などのゲストも豪華ですが、そのような話題性はディテールでしかなく、機微豊かで深みのある堂々たるソロ作品に仕上がっています。まさに「ハレルヤ!」といったところでしょう。
動画 La clairière youtu.be/eE6GhUzvNAg
Pomme – Les Failles
■1996年リヨン生まれの女性フォークシンガーソングライター、ポムことクレール・ポメは2017年にデビュー作をベスト・アルバムに選んでいましたが、今年のセカンドアルバムはファーストを遥かに上回る傑作なので選ばないわけにいきません。ファーストには周囲のアドバイスによってシングル向きのポップな曲も入れたけれど、後になってそれが自分らしくなかったと気づいたとのこと。今回作はアルバン・ド・ラシモーヌを共同プロデューサーに迎え、地味ながら誠実さを感じさせる作品になりました。音数が少ない落ち着いた繊細なフォークポップです。ポムの友人であるアルマ・フォレールのデビューアルバムも悪くありませんでしたが、ポムのファーストと同様にポップな曲がちょっと不似合いな感じなので次作に期待します。
動画 Anxiété youtu.be/WphQffikt-Q
Requin chagrin – Sémaphore
■ルカン・シャグラン(ウロコアイザメの意)は南仏ヴァール県ラマチュエル出身の女性ミュージシャン、マリオン・ブリュネトを中心としたロックグループでしたが、このセカンドアルバムではソロプロジェクトになりました。アンドシーヌのニコラ・シルキスに気に入られ、彼が設立したレーベルKMSディスクの第一弾アーティストとしてアルバムを発表しました。サーフ風のギターサウンドが特徴的なニューウェイヴリヴァイヴァルで、ぶっきらぼうでクールなヴォーカルが魅力的です。フランスのグループでは他にテラピー・タクシーの会心の新作アルバムやバガールの7曲入りEPもよかったです。
動画 Rivières youtu.be/6AvQBvERbK4
■次点はアルバン・ド・ラシモーヌと同様に自己韜晦の悪癖を脱したジェラルド・ジャンティのLà-haut。ベストソングはクララ・イゼのLe monde s’est dédoublé。今年の秋はラ・グランド・ソフィー、アレックス・ボーパン、ヴァンサン・ドレルム、ジャンヌ・シェラールという贔屓の実力派シンガーソングライターが新作を出してくれて大変な豊作でした。ケレンアンの久しぶりのフランス語作は今ひとつ食い足りない。意外によかったのがオーケストラをバックにしたエレガントなポップスのアルバムを出したルナン・リュスだが、ヴォーカルの弱さが難点。ラップではほとんど歌ものながらヤサントがよかった。来年はティム・ダップの新作とアロイーズ・ソヴァージュのフルアルバムに期待。
■今年発表されたフランス語の歌を25曲選んだプレイリストを作成したので、興味がある方はこのリンクからどうぞ。http://bit.ly/34I9KEp
@futsugopon
1967年生まれの日仏通訳・翻訳業。青森市在住。全国通訳案内士(フランス語・英語)。油川フランス語・英語教室主宰。訳書ネルシア『フェリシア、私の愚行録』(幻戯書房)。『ふらんす』(白水社)に連載中。http://aomori-france.com

nOririn(Poison Girl Friend)

Keren Ann “Bleue”
■ケレン・アンのフランス語の歌が好きでした。バンジャマン・ビオレとの別離後、NYに渡り英語で歌うようになってからもずっと追ってはいたのですが、十数年ぶりの待望のフランス詩アルバムに歓喜。春に発売されたにもかかわらず、ひたすら重く静かな音世界の中に、デヴィッド・バーンがフランス語でデュエット参加してるのも興味深い。デラックス版にはエティエンヌ・ダオとのコラボ曲も収録されてますが、おそらくオリジナル版ではボツになったのでは(笑)。オリジナル版のラストを飾る “Le goût était acid”、こちらはバンジャマンへの究極のラヴソングではないかとの分析もちらほらと。
Tu était mon amour, BB…
Moi, j’attends ton retour, BB…
Le goût était acid https://youtu.be/VNOb0FtPqE8
Vendredi sur Mer “Premiers émois”
■今年24歳というと、フランスの音楽業界では若手感のする、スイス生まれの Charile Mignot のプロジェクトがこの Vendredi sur Mer。元々彼女は写真を学ぶためにリヨンのアートスクールに通い始めるのですが、そこで同世代のフレンチ・ラップシーンやエレポップのユニット、les pirouettes 等に出会い音楽に目覚める。ファッションアイコンとしては60’s、70’sの、バーキン&ゲンズブールに影響を受けたと語る彼女ですが、出てきてる音は80’sのニュー・ウェーヴっぽいエレクトロ・ポップに詩がコラージュする。最近の若い世代のミュージシャンの音を聴くと、どこか80’sを感じるのは世界的傾向なのでしょうか。今後が期待できるアーティストです。
Chewing-Gum https://youtu.be/shkKjZ-B4YM
Helena Noguerra “Nue”
■80年代フレンチ・ポップスの女王、リオの妹でもある、女優のエレーナ・ノゲラの6年ぶりのアルバム。今までの彼女の作品の集大成になっており、アコースティックなバックトラックスに溶け込んだエレーナのキュートでコケティッシュな歌が際立っています。90年代にリリースされていたら、J-Wave とかでオンエアされまくって、オサレ系まっしぐらな音として一家に一枚ならず、カフェの定番 BGM になっていそうです。俳優の Vincent Dedienne とのデュエット曲 ”Je mens”、フランス語ならではの軽やかでステキな世界です。ええ、おフレンチな空気を愛する全ての世代のみなさまにオススメします。
Je Mens feat. Vincent Dedienne https://youtu.be/caT7xI6APVs
POiSON GiRL FRiEND
→1992年、ビクターよりCDデビュー。2000年から2004年まで、フランスのストラスブールへ渡り、フランスを学ぶ。帰国後の2006年からライヴやDJ活動を再開。そのテクノとフレンチ・ポップスとの融合ともいわれている音世界は20年経っても不変である。2018年5月、テクノミュージシャンとのコラボアルバム « das Gift »をリリース。

丸山有美(ライター、翻訳者)

Jeanne Added
Radiate (Alternative Takes) – EP
■英語で歌うフランスの歌手、Jeanne Added(ジャンヌ・アデッド)。シンプルで温かみのあるエレクトロサウンドに、やや抑制をきかせたた伸びやかな歌声の一抹の哀愁がたまらない。ジャズからキャリアをスタートさせた彼女だが、さまざまなアーティストとの出会いを通してロックでも才能を開花。2019年のフランス版グラミー賞ことVictoire de la musique では、女性アーティスト賞とロックアルバム賞をダブル受賞。この12月には初来日も果たす(”FRENCH MIRACLE”-代官山ODD)。アルバム Radiate から彼女の一番のお気に入りの一曲 Mutate をどうぞ。
https://youtu.be/pg_YV40UI3E
Yseult
Corps, Rien à prouver他
■勝ち抜きオーディション番組 Nouvelle Star で注目を集め、2014年に大手レコード会社から鳴り物入りでデビューを果たすも鳴かず飛ばず……。単なる「歌の上手い子」で消えていくのかと思いきや、あれから5年、自分のスタイルを見つけ出し次々とシングルを発表しいまや別人の輝きを放っている Yseult(イズー)。スローテンポの曲が引き立たせる唯一無二の声の個性、フランス語ならではのウェット感とヒリヒリするようなドライな歌詞の対比がかっこいい。近頃はシンガーソングライターとしてだけではなく、ASOS が展開する自社ブランドのモデルとしても活躍中。
https://youtu.be/Qz8b8t-eW9o
Giolì & Assia
Inside Your Head, Borderline他
■「気分を盛り上げてくれつつ、集中を邪魔しないテクノ系の作業 BGM はないものか……」と探していて出会ったのがこちら。Assia というと、フレンチポップ好きは Elle est à toi をヒットさせたフランスの歌手を想像してしまうところだがまったくの別人。共にイタリア人の Assia(アシア)と Giolì(ジオリ)はFacebookでの交流をきっかけに2017年から活動を開始。電子音楽にハンドパンと歌声を組み合わせたスタイリッシュなメロディックテクノはどこか大自然を彷彿させて心地よい。シングル単体で聴くのもいいのだが、ここはぜひ彼女たちの魅力が光るDJパフォーマンスをノンストップで堪能してほしい。
 https://youtu.be/m4U232MuTG4 
丸山有美(まるやま・あみ)
さすらいの編集者、フランス語翻訳者、ライター、イラストレーター。雑誌『ふらんす』前編集長。フランス関連イベントの司会や企画のお手伝いなども。第2・第4金曜「あみみんのゼッタイForeign Love!」20:00〜放送中、Tokyo Star Radio(77.5MHz、リスラジで全国聴取可能).

西村・プぺ・カリン(ジャーナリスト)

Alain SOUCHON, Ames fifties
■La sortie d’un nouvel album de Souchon est toujours un événement musical. Ce chanteur a un talent incroyable pour brosser le portrait d’une époque en une chanson, avec des références musicales, cinématographiques, littéraires. Il sait générer des images dans la tête de ceux qui l’écoutent. Sa façon si singulière de chanter en parlant, avec une nonchalance travaillée, est très émouvante, d’autant que les textes le sont aussi. De superbes morceaux.
ソションが新しいアルバムを発表するといつも音楽的事件になります。この歌手は音楽や映画や文学を引き合いに出しながら、ひとつの曲の中でひとつの時代を描き出す信じがたい才能を持っています。彼は聴く者の頭の中でイメージを喚起することができます。練り上げられた無頓着さで、話すように歌う彼の独特なやり方はとても感動的です。歌詞もまた感動的だから。素晴らしい曲の数々。
Presque https://youtu.be/dA8AwP0vN8g
THE NATIONAL I am easy to find
■Il suffit d’un mot pour reconnaître la voix du chanteur, Matt Berninger, une voix au timbre naturellement mélancolique. J’ai sans doute tort, mais quand j’écoute des chansons en anglais, je ne cherche pas à comprendre le sens des textes, je me laisse entraîner par l’ambiance. Je me souviens de la première fois où j’ai entendu The National, sans doute l’un des meilleurs groupes des dernières décennies. Je travaillais en écoutant la radio, et le morceau Start a war, d’un précédent album (Boxer, 2007), m’a tellement touchée, que j’en suis restée immobile à l’écouter jusqu’à la fin avant de vite chercher les autres titres du groupe. Il y a des tonalités nouvelles dans ce dernier CD, avec des duos très très beaux.
ちょっと聞けばマット・バーニンガーの声だとわかります。生まれつきのメランコリックな声色。間違っているかもしれませんが、英語で歌われる歌を聞くと、私は歌詞の意味を理解しようとせずに、その雰囲気の中に身をまかせます。ここ数十年で最も優れたグループのひとつ、The Nationalを初めて聞いたときのことを私は覚えています。私はラジオを聴きながら仕事をしていました。前のアルバム(Boxer, 2007)の曲、Start a war に私は身動きできないほど感動して、曲が終わるとすぐに他の作品を探しました。とっても美しいデュエットが聴けるこの最新のCDにも新しい音色があります。
Light years https://youtu.be/5FQtSn_vak0
MILES DAVIS Rubberland
■Incontournable album, cet inédit de Miles Davis qui sonne tellement neuf. Tout ou presque sur cet album est inattendu. On a un peu l’impression de voyager dans divers pays. On se demande qui joue avec Miles, quelles sont ces voix, ces percussions. On se dit que telle musique serait idéale pour tel film, qu’une autre ferait un beau générique d’émission de radio. Parfois on songe à Herbie Hancock, d’autres fois à Earth Wind and Fire. La pureté des voix présentes sur certains morceaux est sublime. C’est dansant, réjouissant.
とても新鮮に響くマイルス・デイヴィスのこの未発表作品は、ハズせないアルバムです。このアルバムについての全てが、あるいはほとんどが予期しないものでした。少しいろんな国を旅する印象を受けます。誰がマイルスと演奏しているのだろう、これらの声、これらのパーカッションは何だろうと思います。こんな音楽はこんな映画にぴったりだと、別の音楽はラジオ番組の美しいエンディングになるだろうとか。あるときはハービー・ハンコックを、あるときはアース、ウィンド&ファイアを思わせます。いくつかの曲に存在するボーカルの純粋さは素晴らしい。これは踊れるし、楽しめます。
Rubberband of life https://youtu.be/mFgW1dzzH9U
Karyn Nishimura-Poupeé
AFP特派員。著書に『不便でも気にしないフランス人、便利でも不安な日本人』(大和書房、2017年)

irrrrri(DJ)

Angèle 「Brol La Suite」
■昨年発表のファースト・アルバム「Brol」に、未発表7曲が追加されたデラックス盤。Angèle が生み出す音楽は、現代的で雑食ながら洗練されたサウンドに、キャッチーなフレンチ・ポップらしいメロディがたまらない。特にお気に入りの曲は “Balance ton qui” と “Oui ou Non”。日常から生まれる違和感、苛立ち、不安、怒りを表現しながら軽快に吹っ飛ばしてくれて、おもしろかわいいMVも最高。今年のカンヌでは、CHANEL のドレスを着てヴァルダ『5時から7時までのクレオ』からルグランの “Sans Toi” を歌っていたのも印象深い。毎日インスタ見てます、来日してほしい!
Angèle – Balance Ton Quoi https://youtu.be/Hi7Rx3En7-k
Angèle – Oui ou Non https://youtu.be/XqAiGeEzctQ
Angèle reprend “Sans Toi” en hommage à M.Legrand et A.Varda – Cérémonie d’ouverture Cannes 2019 https://youtu.be/drPnfrm9MgM
Kit Sebastian 「Mantra Moderne」
■良質な再発盤リリースで知られる UK の Mr Bongo からのデビュー作。フランスとロンドンを拠点に活動する男性 Kit Martin がすべての楽器を演奏、イスタンブール出身でロンドン在住の女性 Merve Erdem がボーカル、作詞、映像を担当している。英語、フランス語、トルコ語の歌詞が混在し、ゲンズブールを想起させる男女のミステリアスな絡み、サイケデリックかつトロピカルでエキゾチックなところが中毒性あり。自分たちの音楽を言葉で表すなら「Nouvelle Vague Anatolia」といい、映画音楽からの影響も大きい。DJで今年いちばんよくかけたレコードで、“男と女のサンバ”や“危険な関係のサンバ”のような超クラシックと並べてもハマる。
Kit Sebastian – Mantra Moderne https://youtu.be/LS4s3KeV9Y4
Kit Sebastian – Kuytu https://youtu.be/IJPKFvfpVd8
Kit Sebastian – Durma https://youtu.be/Ac2GCdQIl-I
Folamour 「Ordinary Drugs」
■フレンチ・ハウスの新たなスター、リヨン出身の Folamour こと Bruno Boumendil によるサード・アルバム。ハウス、ジャズ、ソウル、アンビエントを咀嚼して作られたビートは、ダンスフロアのみならずベッドルームにもぴったり。Soundcloud でフランス・ギャル “Ella, elle l’a”のエディットを公開、100万回以上再生された Boiler Room のセットでは ABBA “ギミー!ギミー!ギミー!”をプレイするといった優れたポップ感覚も持ち合わせている。フランス発の注目アーティストは Folamour と同郷でレーベルメイトの Saint Paul と Ethyène、ニースのSweely、パリの D.K. など枚挙に暇がない。
France Gall – Ella Elle L’a (Folamour Edit) 
Folamour | Boiler Room x FLY Open Air 2019 https://youtu.be/wL-VMOGAhzE
irrrrri(いりー)
DJ、富山県在住。クラブ、カフェ、バー、音楽フェス「SUKIYAKI MEETS THE WORLD」などでハウスと古今のポップソングを楽しくプレイ。2018年、特集上映『ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語』の前夜祭イベント「CAFÉ CINÉMA ENCHANTÉ」にて小西康陽と共演。2019年、『アンナ デジタルリマスター版』公開記念イベント「VIVRE SA VIE 赤と青」では野宮真貴、カジヒデキと共演。

粕谷祐己(世界音楽研究家)

Rachid Taha, Je suis africain, Naïve.
■2018年にラシード・タハの訃報に接したとき、アルジェリアでいちばん死んでほしくない人に死なれてしまった、という思ってしまいました。59歳没はなんとも惜しい。作る曲のひとつひとつが意義をもつ、そういう仕事をする人であり、筋の通ったことが発言できる、アルジェリアのミュージシャンでは得難い存在でした。それだけに、時には無理していろいろ歌っていました。Francis BebeyはまだしもOum Khalthoumまで歌うことはなかろうに。晩年は不治の病の苦しみをお酒で紛らすという生活で、彼の家の近くに住んでいたEric Arianaが酔っ払った彼を抱えて連れ帰ることもよくあったとか。「あれではこうなっても仕方ない」Ça ne m’étonne pas とエリックが慨嘆していました。そんなラシードの最後の日々につきあったToma Fetermanがプロデュース、彼の死から一年かけ、彼の意図をよく汲んで、実に丁寧に仕上げて発表したラシード・タハの遺作がこのJe suis africainです。Steve Hillageと別れたあとの諸作の中でもこれがベストと断言できます。タイトルナンバーのJe suis africainではパン=アフリカンのアイデンティティを前面に出し、Jimi HendrixやJacques Derridaまで含んだアフリカの偉人の最後に自分の名を付け加えたラシード・タハは、たしかに歴史の中に入ってしまいましたね。
Bombino, Deran, Partisan Records.
■これは2018年のリリースなのですがうっかり聞き逃していて初めて聞いたのは今年です。ですから、すでに乱立気味のトゥアレグのアーチストの中ではボンビーノこそ聞くべきという主張を込めて本作を推します。2019年にもまたTinariwenが新作を出していますが、そろそろ彼らの活動方針はどうなのかと言いたくなってきています。寡黙なボンビーノが過激な政治性を控えてニジェールのギター大好き少年の心をもって音楽を続けていることは、Guitars from Agadez vol.2 (Vol.1っていうのは見たことないんですが、本当にあるんでしょうか?)で聞くことのできる若き日のプライベート録音から本作までの連続性が感じられることからもよく分かります。アリ・ファルカ・トゥーレを踏まえながら、彼はニジェール人として、楽しくロックをやっているのです。
Blick Bassy, 1958, No Format.
■1958年というのは反仏闘争の闘士Ruben Um Nyobèがフランス軍によって殺された年です。良心的なワールド・ミュージック創造を目指すNo Formatが送り出した今年のベスト1958は怒りと破壊をはなれた、平和で建設的なアフリカ音楽を予感させるものです。ちょっとMilton Nascimentoを思わせるBlick Bassyの高音の声は、従来の枠を超えた新しいアフリカ音楽の方向性を示して力量十分です。アルバム冒頭の曲Ngwaのオフィシャル・クリップは、象徴的にもブリックが機関銃を土に埋めるところから始まりますが、彼はそのあと中世ヨーロッパの騎士みたいな奇妙なアフリカ戦士たちに追われることになります。これはまさにひとつの神話創造です。Andy MorganによるBlick Bassy 1958というエッセー――小説?――もNo Formatから出版されています。ウム・ニョベの物語にブリックの物語も交錯する本作は英仏両語版です。ブリックの国カメルーンがいま、フランス語圏と英語圏に引き裂かれている最中であることを思うと、このアルバムはフランス語系人から英語系人に差し伸べられた手のようにも見えます。
粕谷祐己(または雄一。かすや・ゆういち)
フランスの作家スタンダールの研究から始めて世界文学をかいま見、アルジェリア・ポップ「ライ」から始めて世界音楽を渉猟する金沢大学国際学類教員。大学院でご一緒に「ワールドミュージック」研究しませんか? blog.goo.ne.jp/raidaisuki

タチバナ

マグマ – ゼス (全宇宙を統べる者) -その日、万物は無へと還る-
フランスの老舗ロックバンドの結成50周年という節目に、満を持してリリースされたスタジオ版の『Zess』です。これまでライブ盤で垣間見えた圧倒的なヴォーカルパフォーマンスは後退しましたが、新たに導入されたオーケストラと優美な歌声は、そのままクリスチャン・ヴァンデールがたどり着いた老境さながらです。長年のリスナーにとって涙なしに聴くことはできません。
Fire Toolz – Field Whispers (Into The Crystal Palace)
遅ればせにVaporwaveをいろいろ漁ったなかで見つけた掘り出し物です。シンフォニックロックのアルバムを思わせる美しいジャケにふさわしく、流麗でどこか懐かしい音のなかに、メタルギターやデス声など過激なものも織り込まれていて、しかもそれほど違和感がありません。絶妙のバランス感覚に脱帽です。バンドキャンプにはアルバム全曲の音源が上がっているのでそちらの方がよく聴かれているのかもしれません。
https://youtu.be/R-DG4_dXmpc
ジュウ&ジー・ジェー – ニュー・ルークトゥン
現在タイでもヒップホップは大人気のようですが、あちらで唯一無二の存在であるジュウとその弟子ジー・ジェーの音源が日本でリリースされました。キャプテン・ビーフハートを思わせる声色のジュウが、ルークトゥンというタイ歌謡をベースにした歌やラップを奏でるその様子には、アップデートされたポンチャックのような味わいがあります。日本の stillichimiya や鎮座 DOPENESS とのコラボ曲では、日本語まじりのタイ語とタイ語まじりの日本語が絶妙に交錯します。またCD版では30ページ以上に及ぶ歌詞の日本語と英語の対訳とタイ語についての多くの訳注がついていて非常に助かります。作品のクオリティに加えて、作り手の強い熱意に感心しました。https://youtu.be/dKcAn279w64

exquise(FBNライター)

1. THE SPECIALS – ENCORE
■結成40周年目にして、オリジナルメンバーであるテリー・ホールが参加したザ・スペシャルズの実に37年ぶりのアルバム。彼らのスカやレゲエのスタイルやキャッチーなメロディ、そして社会派な歌詞はそのままに、懐かしさを感じさせる一方で現代にもフィットした音となっている。6-70年代の楽曲やファン・ボーイ・スリーの “The Lunatics”の力強いカヴァーも含めて全10曲捨て曲なし
Vote for me https://youtu.be/B_Y4VwDs_KE
2. Michael Kiwanuka – KIWANUKA
■70年代のソウルやフォークミュージックを彷彿とさせる音でデビュー当時から注目してきたマイケル・キワヌカ(キワヌーカ)。これまでは堅実だが地味な印象があったのだが、新作では彼の才能がパワフルに開花したようで、最初の曲からグイグイ引き込まれる。それも彼のすばらしい作曲の力と声の魅力によるところ大である。まだ32歳で、今後の活躍がますます楽しみ。
You ain’t the problem https://youtu.be/ivvs_qL6t_c
3. Tyler, the Creator – IGOR
■最近はもっぱら、ソウル〜ヒップ・ホップ系を中心に聴いているのだけれど、そのなかでもいちばん面白いなあと思うのはタイラー、ザ・クリエイターの作品で、1曲のなかにふんだんに盛り込まれたアイデアにいつも楽しませてもらっている。今作は、もともと彼がファンだったという山下達郎の曲がサンプリングされていることでも話題になりました。
Earfquake https://youtu.be/HmAsUQEFYGI

不知火検校(FBNライター)

指揮者マリス・ヤンソンス(1943-2019)の全業績
■年も押し迫った11月30日、世界を股にかけて活躍を続けて来た指揮者マリス・ヤンソンスが亡くなったという衝撃的なニュースが飛び込んできました。2003年からはバイエルン放送交響楽団の首席指揮者、2004年からロイヤル・コンセルトヘボウの常任指揮者を務めるという形で、世界最高峰のオーケストラを2つ同時に操るという離れ業を成し遂げたヤンソンスの活動の凄まじさは、全盛期のカラヤン、バーンスタイン、カルロス・クライバーを彷彿とされるほどのものでした。クラシック音楽の世界において、これは巨大なる損失であることは言うまでもありません。ヤンソンスはこの二つのオーケストラを率いて何度も日本を訪れましたが、とりわけ、2007年11月22日、大阪フェスティバルホールでバイエルン放送響を振ったコンサートは歴史に残る名演だったと思われます。聴衆全体を忘我の境地にまで導くかのようなブラームスの交響曲第1番のあの日の演奏は、まさに奇蹟的なものでした。今後、これほどの指揮者が果たして現れるかどうか…。
(付記:2020年1月には追悼盤が何種類か発売されるようです。とりわけ、バイエルン放送響のライブ録音を集めた『グレイト・レコーディングス』は注目に値します)

GOYAAKOD(FBNライター)

アンリ・バルダ  ピアノ・リサイタル アンコールの2曲 2019年12月3日
東京文化会館大ホールを埋めた観客から降り注ぐ拍手、拍手に「まあまあ」と照れながらピアノの前に戻りおもむろに弾き始めたのが、ショパンのワルツ第5番と第8番。バルダ にとって、どちらも嫌になる程弾いてきた2曲だージェローム・ロビンスのバレエ “Dances at the Gathering” と ”Other Dances” に使われた伴奏音楽として。ロビンスに彼の作品専属の伴奏ピアニストとして雇われたバルダ は、オペラ座の舞台や練習スタジオでダンサーが踊るのを目にしながらこの2曲を演奏してきた。時に電気じかけのプレーヤーのように、指導者の指示に従って、ダンサーが動きをマスターするまで同じフレーズを何度も何度も繰り返し弾いたりして。
オペラ座黄金時代のエトワール達、ルグリやルディエール、ゲランから最高のパフォーマンスを引き出した、「ダンサー達を踊らせる音楽」がそこにあった。天衣無縫としかいいようのない軽やかさ(タッチが軽いというのではなく、心浮き立たせるような音が精巧に組み上げられて成立する類のもの)、音が重なりぶつかり響きあうことで生まれるコクのあるタメ。「動き」のある音作りがバルダ のピアノの特徴だが、舞台上には存在しないダンサー達の動く姿ー精妙なステップや跳躍、寄り添い絡み合う身体ーがぱあっと目に浮かぶようであった。ワルツという舞踊音楽というより、ピアノが、音楽そのものがワルツを踊っている! 
この音楽からロビンスがインスピレーションを受けコリオグラフィに反映させた、どこまでもひろがる青空のような明るさ、上機嫌の高揚感が横溢していた。第8番の終盤、ロビンスの舞台では女性ダンサーがソロを終え宙を舞うように舞台袖へ飛び込んでゆくのだが、まるでその様を音で表現するかのように、バルダ はきらきらとした高速のフレーズを勢いにのったまま思い切りよく弾き切り、リサイタルは幕となった。
楽譜と顔突き合わせての研究の成果でも、私流解釈の披露の場とも違う、躍動する身体を感じるショパン。1-2-3の単純なリズムの繰り返しから万華鏡のようにひろがる、何ともいえない幸せな数分間。バレエの裏方を務めるという異色の経験で得たことが音楽的に昇華された、バルダ にしか弾けない音楽だった。日常のお楽しみとして人々がワルツを踊っていた時代を生きたショパンがこれを聞いていたら、どう思っただろうか。そうでなくちゃ、とご機嫌になったのではないか、などと考えながら帰途についた。

わたなべまさのり(ビー・アンクール・ドットコム株式会社)

Hot Chip / A Bathfull Of Ecstasy
Esperanza Spalding / 12 Little Spells
John Williams / Vivaldi Etc!
Bon Iver/i,i
Daniel Pioro / J S Bach Partita No.2 In D Minor
■今年最も強烈な音楽体験は Julia Holter のツアーを観た事でした。6人編成中5人が彼女の最新アルバム Aviary でのメインの演奏者であり、このメンバーで90分超の Aviary の全15曲中13曲(確か)プラスその他4曲(確か)という内容。演奏者の技量&アルバムをミキシングしたエンジニアをミキシングデスクに帯同させることによる(と思われる)音のディテールへのこだわり、そしてプレイバック一切なし。
https://youtu.be/cy6KJr-49ZY
(↑自分が観た時と同時期の演奏。勿論本物はもっと音がダイナミック。)
いやスゴイな、何故こんな事が可能なのか、と思ったのですが、Aviary 後にリリースされた共演者5人中3人のリーダーアルバム(下記)を聴いて、ちょっと納得。
Tashi Wada / Nue
Dina 
Maccabee / The Sharpening Machine
Sarah Belle Reid / Underneath and Sonder
■成る程こういう音楽的に多彩&多才なものが集まれば、こういう事も起きるのか、と。いや凄いコミュニティだなミュージシャンの、と(笑)。加えて、こういう音楽が数週間規模のツアーをヨーロッパで2回、北米で2回、プラス短期間のオセアニア・ツアーをできたことを音楽ファンとして歓びたい。 このツアーを観てとても嬉しい変化があった。Aviaryを聴く時、(鳴ってはいるけど)以前は気にとめていなかったor気がつかなかった細かな音がいろいろ聞こえてきた。聴けば聴くほど好アルバムだなと。

サツキ(Small Circle of Friends)

Benny Sings – City Pop
■2017年に7インチレコードで限定発売した『MUSICAANOSSA: Summer Song EP』で私たちの作った「サマーソング」を、何のてらいものなく歌ったBennyの柔らかな音楽性の高さは、今まで彼のデビュー以来聞いてきた彼への理解が正しかったことと、彼のことをなぜ好きでここまで聴いて来たかを私自身がすんなりと腑に落ちる出来事でした。
なぜならそれは私たちが作ったまぎれもない音がBennyの脳を通りあたかもBennyが作ったかの様に変わる魔法を体験したからに他ならないからです。
録音を日本とオランダで文通の様にした製作は、彼の今の音に向き合うムードをダイレクトに味わう音の交換作業でした。実際、前作「studio」が2015年。2018に「City Melody」。その間3年の間、Bandcampに「Beat Tape」を発表し、Mndsgnのremix「The Beach House」と続く。(「City Pop」に収録、「nakameguro」は「Beat Tape」に入っていたものです)
実際送られて来た彼からの歌データは、映像でも見たことのあるきっとデスクにマイクを仕込み、PC前にしごくフランクに歌ったんじゃないかと思うほどの、さっくりとしたデータ。その時の頭に浮かぶフレーズとともに、私たちが作ったフレーズを追う様に歌うBenny。そのデータ聞いた瞬間、実は心にBennyの次回作きっといや必ず興味深いアルバムになるんじゃないか?と(後出しジャンケンじゃないよー)思ったんだよね。
今回来日した時、ライブに行けず再会の約束を果たせず、聴きたかったそんな話や新作の話。想像でしかないけど「studio」を発売後、ちょうど「City Pop」へ向かう頃を彼のインタビューでも語っていたけれど「前作『Studio』の時は新しいサウンドを探していて、プロダクションも新しい手法やテクニックを用いたんだ。」と。だけどそれとは違う、本来彼の持つメロディセンスが美しく描かれ、しかも「City Melody」から「City Pop」の流れは、「このアルバムでは自分が得意とするスタイルを貫き、好きなやり方で制作するべきと感じた」って言葉でよくよくわかる。
さて前置きが長くなりました。待ちに待ったBennyの新しい音、2018年に発売された「City Melody」を否定するものでも、ましてや再構築されたと言っているわけでもないけれど、2019年にstones throwから言うならば「リコンストラクション」し、名を変え再度リリースされた「City Pop」は、一度発売した作品の知恵の輪が「すっと」外れる音がするほど爽快でした。
最後に、日本版「City Melody」ではおまけボーナストラックだった私サツキの参加曲「Softly (Tokyo) 」は「City Pop」では本編として登場し、最後を飾った幸せは最高の2019でした。これからもずっと聴き続けるミュージシャンです。オランダに逢いに行こう!
Shafiq Husayn – The Loop
■「Sa-Ra Creative Partnersの 3人のうちの1人」という説明ももはや要らないくらいに、ソロプロジェクトを充実させているシャフィーク・フセイン。
前作のアルバム『Shafiq En’ A-Free-Ka』が2009年。その直後から、この『The Loop』の制作アナウンスが行われ、レコーディングの様子の映像(ドラムを叩くアンダーソン・パークも映っている)もアップされていたのに「さて?これはいつリリースにされるのだろう?」と思っていたところで『The Loop Series Demo』(正式名称:Beatstrumentals And Dialog “A Prelude To The L∞P”)がネット上にアップ。それが2012年。その時は「なんだか中途半端なリリースだなぁ・・。」という印象でしかなく(その出来映えも含め)何がどうしたんだろうと思っていたら…。
本作『The Loop』のリリースを知った時にはビックリ。「ちゃんと作ってたんだ!!」と。
そして、聴き応えある重厚なソングリストに参加ミュージシャン「Thundercat、Erykah Badu、Flying Lotus、Bilal、Anderson Paak、Hiatus Kaiotye、Robert Glasper..」には蒸せ返るようです。さながら、指揮者のように、またマエストロのように自在にアーティストをShafiq Husayn流に奏でる、自分の体の一部になったかの様に。
特にBilalをフィーチュアリングした『Between Us 2』の始まるビートから美しいフレーズに打たれ、Bilalの歌う声に痺れ、今年一番の私たち的ビッグヒットとなりました。
ライブで聴いたら倒れるかもしれないな….。
素晴らしいフレーズや音は、其処此処にあふれていて隠れているけれど探し出し、作品として聞かれることの醍醐味を嫌という程知らされた作品でした。
新しいことしよう、新しい音つくろう!(私自身に向けた言葉です。)https://www.naturesoundsmusic.com/shop/theloopvinyl/
https://twitter.com/ShafiqHusayn
Teebs – Anicca
■いつだってその新作を待ちわびている音楽家。ティーブス。画家としての顔も持つその作風は「音」と「絵」が密にリンクしてるように感じられます。特に初期の作品では、スリフトショップの格安コーナー(もしくは「ご自由に持って行ってください」コーナー)から集めたLPジャケットをキャンバスに使い、その上からペイントする作風はそのまま「音」にも現れ、『サンプリングの重厚なレイヤー』『過剰なまでのレコードノイズの層にリヴァーブの嵐』完全に天空人の音楽です。
アルバムとして、4作目となる最新作『Anicca』では、そのトレードマークでもあるサンプリング・レイヤーの要素が減り、様々なミュージシャン、ヴォーカリスト、そして自身のメロトロン演奏が強く表に現れ、それでも私たちが知っているティーブス節に落とし込んでいる様には畏敬の念を抱きます。
インタビューでも語っていたけれど、自身の前作から今作までの「家族」との愛溢れる日々が隅々まで優しく美しく満たしていました。聴いている私さえも幸せや喜びに包まれます。
そして今回のジャケットは彼の最近のステンドグラス作品。冷んやりとした感触に色が入っていく様を思い浮かべればその「リンク具合」に納得のアルバムです。
彼は確実に、ステップの歩を前に進めて行く。リリースしたばかりなのにもう次回作が楽しみなミュージシャンなんて、ファン冥利に尽きます。
https://teebs.lnk.to/aniccaAT
https://twitter.com/teebsio
Small Circle of Friends サツキ
@SCOF75 @scof75satsuki
ムトウサツキとアズマリキの二人組。
1993年、United future organizationのレーベル”Brownswood”よりデビュー。今年25th迎える。17枚のフル・アルバムをリリース。最新作は「detective TAKEI FUMIRA / Five 5」。サツキはファッションブランド75Clothesも展開。音と服で毎日を暮らしています。(もちろんフランス音楽も大好き。だけど今回は、どうにもこの三枚です!)
Small Circle of Friends/75clothes サツキ http://www.scof75.com/

cyberbloom(FBN管理人)

Léonore Boulanger / Ptactice Chanter
■今年の5月、ワールドミュージック系音楽雑誌「LATINA」に、フランスの女性アーティスト、レオノール・ブーランジェのインタビュー記事を寄稿しました(そのうちコンプリート版をFBNにアップします)。「声」を前面に出した実験的な音楽なのですが、メレディス・モンクなどを想起させます。特筆すべきはレオノールさんの日本への並々ならぬ関心。映画では小津、大林宣彦、園子温、音楽では ASA-CHANG &巡礼への言及も(彼女に教えてもらうまで、この凄い日本のバンドの存在を全く知らなかった!実存と言語の基盤を揺るがすほど気味の悪い「影のないヒト」は2019年の私のヘビロテ1位!)レオノールさん、日本にめちゃ来たいとおっしゃっているので、ぜひ呼びたいなあ。
BRUYANT QU’BRILLANT – Léonore Boulanger https://youtu.be/uV21db08Etc
Ghosteen / Nick Cave & The Bad Seeds
■ニック・ケイヴはこれまでいちばんライブに行ったアーティストかもしれない。バースデイ・パーティの時代から聞いていて、『ベルリン天使の詩』の時期に見た、あの映画のラストシーンを彷彿させるライブは忘れられない。その後、ミック・ハーヴェイもノイバウテンのブリクサもいなくなって、しばらく疎遠になっていた。そして再会したのがひとり息子を失ったニック・ケイヴだった。2016年のアルバムは息子の追悼アルバムと言われたが、曲のほとんどは息子の死以前に書かれたもののようで、このアルバムがその現実と正面から向き合った作品となった。人の声はこれほどの悲しみを帯びるものなのか。痛々しくて聴いていられない。
Ghosteen / Nick Cave & The Bad Seeds https://youtu.be/GwlU_wsT20Q
Yuve Yuve Yu / The Hu
音楽とは計り知れないものだ。音楽は今やグローバルな旅となり、共時的なものだけでなく歴史の深部とも交錯する。このバンドは The Who ではなく、The Hu ! であり、Hunnu Rock Band(匈奴ロックバンド)というジャンルなのだそうだ。匈奴ってモンゴル系だっけ?という問題はさておき、メタリックな響きを持つホーミーがヘビーメタルと共鳴し(メタルのギターというよりは民族楽器がメインだが)、大地を震わせるような強迫的かつ重層的な響きを発するとは、メタルとアイドルが結合した BabyMetal 以来の衝撃である。メンバーはちゃんとした音楽教育を受けているそうだが、みんなモンゴル相撲をやっているかのようにイカツイ。スマホ化されたモンゴルと誇り高い遊牧民のあいだのアイデンティティの葛藤もテーマになっているようだ。ロックのイメージをここまでくつがえしたグループは他にはないだろう。つーか、全く言葉がわからない(笑)。
Yuvu Yuve Yu https://youtu.be/v4xZUr0BEfE

 



posted date: 2019/Dec/22 / category: 音楽
cyberbloom

当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
FRENCH BLOOM NET を始めたのは2004年。映画、音楽、教育、生活、etc・・・ 様々なジャンルでフランス情報を発信しています。

Twitter → https://twitter.com/cyberbloom

back to pagetop