デビッド・ボウイの訃報を聞く日が来るとは思わなかった、と言ったら大袈裟に聞こえるかもしれません。しかし、それが正直な気持ちです。立ちどまることがあるなんて微塵も感じさせない存在だったからでしょうか。
その死からひと月になりますが、世界中のあちこちで多くの人が私のボウイについて話しています。これからもまた様々な人がそれぞれのボウイ像を真摯に語ってゆくことでしょう。傍観者が何か言うのもどうかと思うのですが、あえて一言。
まず、「異質」であることを恐れなかったしなやかな強さと勇気に心よりの敬意を表したいと思います。世の中に左右される事なく、そうありたいと思うアイデンティティを自ら選び、好きな格好をして心のままに人を愛する。カッコいいロック・スターという特別な立場であったとはいえ、ためらうことなく望む自分であり続けたその姿はポップ・アイコンを超えた大きな影響を与えているのではないでしょうか。とりわけ、「私」のあり方について悩んだり、問い続けている若者にとっては。70年代初頭のボウイは、本人の意図した以上にひときわ輝きを放つ存在であったと思います。より偏狭であった時代の空気を思えばなおさら。
彼の残した最良の曲達には、聴くと顔を上げて前を向きたくなる何かがあります。やさしくつつみこんでくれたり、肩を叩いてくれたり、気持ちよくさせてくれたり、高揚させてくれたり、様々なかたちでそばにいてくれるのがポップ・ミュージックだと思うのですが、彼の音楽は、こちらに向かってすっと手を差し出してくれるようなところがありました。今あなたがいるその場所だけが世界の全てではないんだよとでもいうかのように。
ボウイの音楽は、彼が心血を注いだもう一つのクリエイションであるヴィジュアルやイメージから切り離されていても、スピーカーの向こう側にいる人々に手を差し出し続けると思います。これからも、ずっと。
よりどりみどりの作品群から、とりわけにぎやかな一曲を選んでみました。聴いてみたい方はこちらから。
https://www.youtube.com/watch?v=zLnPd7lzT4g
「イラストでたどるボウイの変容」がここで見れます。
http://helengreenillustration.com/Time-May-Change-Me
GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.
大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。
門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。