パリ同時多発テロの後、アメリカ、フランスの雑誌から、印象に残ったパリの人々の声を集めてみました。
■初めて怖いと感じたのは、危機を脱した今の自分には2つの選択肢があるとわかったときだった―逃げることもできる、そして、再び撃たれる危険を覚悟の上で友人たちの様子を確かめに戻ることもできる。
■銃声が止んだので、レストランへ戻った。たくさんの女性が倒れているのを見た。人々はパニックになって通り中を走り回り、叫んでいた。警察が到着し、秩序を回復しようとやっきになっていた。現場はまだ安全な状態とはいえず、また襲撃犯がまたやってくるのではないかと恐ろしくなった。
■傍らにいた無傷の男性は、両腕にガールフレンドの亡骸を抱えていた。突然、何の前触れもなく、彼は立ち去った。残された女性は25才ぐらいのとても美しい人で、何とも言いようのない完璧な静けさに包まれていた。
(マチュー、33才、レストラン「ル・プティー・カンボージュ」で被弾)
■戦争状態にある国には慣れているから、銃声がしたときカラシニコフ銃の音だとすぐわかった。襲撃されたカフェの前の歩道では若い女性が太腿を撃たれ、一緒にいた男性も肩を撃たれた。彼らを助けようと家を出てカフェの中をのぞくと、床に倒れている人に誰かが心臓マッサージをしていた。近くに倒れている4人はあきらかに亡くなっていた。最初の救急車の一団が到着し、店内に急ごしらえの病院を作った。あの時の光景はベイルートで目撃した事を思い出させた。いたるところどこもかも血まみれで、まさに戦場だった。
■サン・ドニで、半年前まで心臓病専門の開業医として働いていた。クリニックがあったのは、襲撃犯が発見された家から通りを一つ隔てたところだ。80年代、90年代に古くからのフランス人の労働者階級と入れ替わる形で、イタリア・ポルトガル・ポーランドといった豊かとはいえないヨーロッパの国からの移民が住みつき、それからマグレブ人―北アフリカの旧フランス領だった国からやってきた人たち―が住むようになった。
■今サン・ドニには、80にものぼる多様な国籍の人々が住んでいる。もはやフランスの一都市じゃない、世界都市なんだ。世界都市というものは基本良いものであるはずで、サン・ドニがそんなところであることに何の異論もない。しかし、街は一触即発の状態にある。街の人口の三割には職がない。選挙権をもつのは街の人口の3割だけだ。これは深刻な問題だ。どうすればマグレブ人と一緒にやってゆけるか私たちにはわからなかった。多くが北アフリカ出身だけれど、フランス人でもある。仲間として溶け込んでいるべきであったのに。
(パトリック・エーバハート 心臓医、国境なき医師団創設メンバー)
■私のスタジオはヴォルテール通りにあり、ちょくちょくカフェへ出かけてはテラス席でお茶をします。目にするのはごちゃまぜの人々。若者、お年寄り、ホームレスのひと、ありとあらゆるバックグラウンドのフランス人が、ちゃんと一緒に生きている。共生は困難だという人がいれば、「できる」といってやりたい。だって、私の目の前で立派に起きているのだから。見ているとうれしくなります。襲撃の対象となったのは、ともに生きたいと願う心でした。こうした気持ちで結ばれている大多数のフランス人は反発し、一団となって立ち上がりました。テロ事件以降、これまで以上に強く私はフランス人だ、パリの人間なのだと感じています。
(マルジャン・サトラピ マンガ家、映画監督。イラン出身。)
■テロリストはレストランを襲った。フランス精神を見事に体現している生活の場を。外出し、一杯やり、食事をすることを続けつつ、我々は大声で叫ばなければならない。野蛮人からの指図など受けないと。我々が大事にしているのは喜び、陽気に騒ぎ、わかちあうことだと連中に言ってやろう。フランス的であることとは、自由であり、みんなで集まって楽しみ、良きものを愛することだ。食卓はいつも人々の集いの場であったし、これまで以上にそうあるべきだ。誰かが亡くなると、我々は集い、食事をし、亡き人を思って杯を重ねる。あの恐ろしい襲撃の犠牲者を追悼するために、我々はよく生きなければならない。
(エリック・フレション 三ツ星シェフ)
■金曜の夜は、戦争で引き裂かれた国に住んでいるみたいに感じた。今のセキュリティ体制はみんなの自由を奪っているんじゃないかな。今日は誰かにほほえみかけたいと思う。だって僕らの生活が変わってしまったわけじゃないんだから。他の人に対してオープンでありたい。出かけていって、一杯やって、それが人生だし、それでいいじゃないか。
(アレクサンドル 23才、ギルダ 25才、ジュリー 28才 カフェのテラス席にて “ELLE”誌の取材に応えて)
■日曜の夜は、サン・ポール近くのバーにいた。そしたら間違った警報が流れたの。突然音楽が止んで、テレビのスクリーンには犯人の手配写真が映し出されて、誰もが床に伏せたわ。私はすっかり動転してしまった。今晩は、ルイが「もっと落ち着いたこの近所で一杯どう?」って誘ってくれたの。こんな風に飲みにでかけるのが、私たちの習慣になりそう。
(カーロッタ 18才、ルイ 21才 カフェのテラス席にて “ELLE”誌の取材に応えて)
■楽しむ事と自由が損なわれた。それこそが私たちの生そのものだっていうのに。世の中は決して楽な場所じゃない。だからこそ、楽しむ必要があるのに。今は身動きが取れないみたいに感じる。でも、もっと人生をエンジョイしようときめたの。テラス席でお酒をいただく。どんなことがあってもね。
(アンジェル 21才、アルカ 31才 カフェのテラス席にて “ELLE”誌の取材に応えて)
(The New Yorker 2015年11月30日号、 フランス版ELLE 特別号 2015年11月20日号より)
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大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。
門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。