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グローバル展開する MUJI とユニクロ

1990年代後半のある日、サンシュルピス教会の裏通りを歩いていた時に開店したばかりの MUJI (無印良品)の店に出くわしたことがある。ちょっと興奮してお店に入り、無意味に買い物をしてしまった。無印良品は70年代後半の大量消費社会の真っただ中で、実用本位の商品をよりやすく、過剰消費を促す既存ブランドのアンチテーゼをコンセプトに80年に生まれた。

カーサブルータス特別編集 MUJI  いちばん新しい無印良品のこと。 (マガジンハウスムック CASA BRUTUS)MUJI に抱くイメージを訊かれると、ロンドンやパリの人々は「クラシック」と答えるようだ 。「定番だが、良いもの」である。昔はどこでも見つけることができたオーソドックスなモノが、ヨーロッパでも消費の波によって忘れ去られてしまった感があるが 2008年のリーマンショック以降、そのコンセプトが改めて評価されるようになった。 日本のバブル崩壊を予測するようにストイックなスタイルを貫いた MUJI は、21世紀の恒常的な経済危機と低成長の時代を先取りすることになった。例えば、MUJI のパリでのヒット商品ナンバーワンが「タッチパネル手袋」。真冬になるとパリは0度を近くになり、手袋は欠かせないのと同時に、スマホの普及率が4割に達している。かじかむ手でスマホを操作しなければならない国の必需品なのだ。

そして今年の9月、レ・アールに1000平方メートルの前代未聞の広さのMUJIの旗艦店がパリにオープンするようだ。ヨーロッパ最大の規模である。 MUJI の欧州展開は順風満帆だったわけではない。一時の不調の反省として、物流をロンドンに一極集中し、在庫の無駄を省く改革を遂行した。これまで日本の商品とは別に、欧州向けの商品を開発していたが、既存の日本の商品の割合を増やしてコストを抑えることにした。欧州向けの商品を別に作ることよりも、欧州の消費者のライフスタイルの欲求を研究し、くみ取ることが重要だと気が付いた。

つまりはローカライゼーションだ。そうすれば日本の商品でも売れる。顧客に対して商品の丁寧な説明を心掛け、じっくり商品を見てもらえるような店作りも心がける。実際MUJIの客は店内の滞在時間が長いことが特徴だ。 無印良品 世界戦略と経営改革何かと現代の象徴的な企業であるアップルと比較されることが多いが、MUJI はアップルの対極にあるという。MUJI の方針は「製品が生活の主たる存在になるのではなく、常に生活者が主役になりうるようにお手伝いする」ことだ。

一方ユニクロはアップルと同じ方向性を持つ。iPhone は特定の顧客のためにあるのではなく、あらゆる人のためにある。それでいてデザインが強力なブランドを築いている。あえて顧客を設定しない、’Made For All’ な製品だ。通常デザインは具体的な顧客像を設定する。人種、年齢、教育レベル、職業、居住地区、ライフスタイルなどだ。そうやって差異化を図るのだ。

ZARA のようなブランドは流行を追い、シーズンごとに機敏に反応する。ある商品が予想外に売れれば、急いでそれに対応し、2週間で新しい商品を出荷する。しかしユニクロは正反対のサプライチェインを用いる。1年前に膨大な量を発注することで最低のコストで質の高い作業を確保する。そうやってコストを削減して安い商品を提供する。流行を追わず、基本を追求する、それは不景気な時期にも適している。

ところで、最近、ユニクロを傘下に持つファーストリテイリングの社長、柳井氏の発言が注目を浴びた。「将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」 という発言だ。柳井氏は以前から「世界同一賃金」の主張をしてきたが、社会保障の貧弱な日本で年収100万円で生活していけるのだろうか。夫婦になり、共働きをしたとしても年収200万円で子供を育てられるのだろうか。そもそも、大半の人々の年収が100万円になり、中間層がそぎ落とされた社会ではユニクロのような商売が成り立つのだろうか。

一方で、グローバリゼーションが国境を越えて富の再分配を行う、つまり柳井社長の言うように先進国と新興国の収入が「世界同一賃金」に向けて平準化するよりも、多国籍企業が搾取をグローバルに行っていることを、ある事故がが明るみに出した。バングラデシュで起こった縫製工場崩落である。首都ダッカ近郊のビルに欧州ブランド衣料の縫製工場が入居し、約3000人が働いていたが、崩落事故で死亡者が1000人に達した。

この工場に1ポンド(150円)の激安Tシャツなどを発注していたイギリスの激安ブランド「プライマーク Primark 」に批判が集まり、途上国の労働者から搾取するような低価格ブランドを買わないようにしようという不買運動も起こった。 プライマークの最低賃金は月13.97ポンド(約2100円)で、時給換算で約10円だったという。日本人の年収は100万円に向かって下がっているのかもしれないが、バングラデシュの縫製工場で働く女性たちの年収は100万円に向かっているどころではない。ユニクロは今回の崩落事故とは関係ないが、バングラデシュに進出していることには変わりはない。もちろん柳井氏がノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏が創業したバングラデシュのグラミン銀行と協力し、貧困や衛生、教育などの社会的課題の解決を目指すソーシャルビジネスを立ち上げていることは指摘しておく必要はあるが。 COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2013年 03月号 [雑誌]

ところで MUJI は現在、動物愛護の観点から批判を浴びている。槍玉に上がっているのは、準絶滅危惧種のヨシキリザメのフカヒレを使用した「ごはんにかける ふかひれスープ」だ。現在、世界的に乱獲されているサメの保護が叫ばれており、とりわけ finning=ヒレだけを取るためにサメを殺し、その他の部分は海上で投棄することに対する厳しい批判がある。「ふかひれスープ」に疑問を抱いた人たちが、動物保護団体などのサポートを受けながら、商品の販売中止を求めて活動を始めた。署名サイトで賛同を呼びかけ、店舗前でも抗議活動も行われたようだ。

それに対して無印良品を展開する良品計画が反論。同社が使用しているフカヒレは「約70%以上の量が宮城県気仙沼港の他、日本国内にて水揚げされたサメからのものであり、残り30%弱がスペイン産」と産地の内訳を明かし、「気仙沼港で水揚げされるヨシキリザメは、主にマグロ延縄漁の混獲魚として水揚げされたものであり、その混獲されたサメは水揚げされたのち、さまざまなものへ利用されています」と、フカヒレ目的で獲ったサメを使用しているわけではないと主張した。

無印が“販売中止運動”に反論、フカヒレ商品巡り署名活動起きる。(ナリナリ・ドットコム)

日本の企業がグローバルに展開する場合、当然、グローバルな企業ウォッチにさらされる。MUJI の主張は国内向けには説得力があるかもしれないが、同じ主張を欧州の人々に対してできるだろうか。「ふかひれスープ」が欧州で販売されているかはわからないが、フカヒレを扱っている企業とみなされるはずである。ドメスティックな論理をひきずったまま欧米に進出すると、訴訟や不買運動などに直面することがある。いくら国内的には妥当性があると思われても、グローバルなコードを考慮せざるをえないのだ。 企業が動物愛護やエコロジーに関するイメージアップに積極的になるのは、消費者が企業に対してそういうものを求めていることを実感するからだ。

少し前まで多くの企業は一部の過激な活動家が騒いでいるだけとたかをくくっていたが、それが利益にもつながり、業績や株価にも影響すると認識し始めた。資金を調達する株式市場や金融機関が国際化している状況では、国内向けの企業であってもコンプライアンスを無視していいということにはならない。長い伝統を持つスペインの闘牛が動物愛護の視点から厳しく批判され、禁止に追い込まれているのを見ると、それがグローバルに共有される価値観に加えられつつあることがわかる。

■無印良品 なぜ「世界のMUJI」になれたのか(COURRiER Japon クーリエ ジャポン 2013年 03月号 収載)参照



posted date: 2013/Jun/15 / category: ファッション・モード政治・経済
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