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秋の音をひとつ Septembre (Quel Joli Temps) Barbara(1964)

text by / category : 音楽

その季節になると聞きたくなる音がある。秋といえば、アコーディオンだ。冷房のきいた部屋でわざわざ聞きたいとは思わない。この季節の昼下がり、気持のいい外の空気を感じながら聞きたい音だ。

アコーディオンの音を楽しむ一曲として、バルバラの曲を選んでみた。愛らしいメロディのワルツ。そして極めて簡素な造りの音楽だ。バルバラの声とピアノ。ウッドベース。そしてアコーディオン。一発録りかなと思わせる、息づかいを感じる3分少々。

客の方に顔を向けず譜面立ての方を向くかのように、バルバラは押さえた感じで歌う。音数は少ないけれど、歌のバッキングにしてはずいぶんとニュアンスに富んだ音色のピアノを弾きながら。季節は変わり、気持のいい秋になった。二人がお別れするときがきたわ。春にはまた会える。さよなら、あなた。アデュー・ソングなのだけれど何だか秋の空のように透明で、明るい。

歌の途中からアコーディオンがすっと斬り込んでくる。ぱっと耳を引っ張られるふくよかないい音で、バルバラが歌う主旋律にひけを取らないきれいなメロディを奏でる。が、あくまで背景に留まっている。歌の世界の空気感を作ることに専念しているかのようだ。

2度目のサビのメロディに入ると、アコーディオンが前に出てきて、よりくっきりと歌いはじめる。空気が芳醇な音色でさあっと充たされ、なんとも気持いい。しかし、でしゃばることはない。吐息を思わせる、微妙に揺れるバルバラの歌に寄り添い、時に絡みつくように奏でられるアコーディオンは、バルバラの声と対話しているかのようだ。

歌が終わり、バルバラのピアノがシンプルなリフレインを叩いて音楽がいよいよ終わりに近づく時、アコーディオンも余韻を残しながらすーっと消えてゆく。歌詞に出てくる、空に消えてゆくタバコの煙のように。

このレコーディングに参加したのはベテラン・アコーディオン奏者のジョス・バセリ。海外でも人気を集めたシャンソン歌手パタシューの伴奏者/バンドリーダーを長く務め世界ツアーに付き合ったり、作曲・編曲も手がけて自身のリーダーアルバムを何枚も出している。バリバリ弾こうと思えばどこまでもできる人なのだけれど、そうしなかった。

バルバラの声、ピアノの一音一音、息づかいにまで耳をそばだて、絶妙なタイミングで蛇腹に空気を送り込もうと待ち構える、バルバラに向けられた Accordionist の眼差しがこの曲には感じられる。静かな緊張感とともにバルバラという若い才能に対する敬意のようなものもあって、この曲をより爽やかなものにしている。

聞いてみたい方はこちらでどうぞ。もう10月も終わろうとしているのに9月の歌ですかという声も聞こえてきそうですが。

Top Photo Par Bert Verhoeff (ANEFO) — GaHetNa (Nationaal Archief NL), CC BY-SA 3.0,



posted date: 2018/Oct/29 / category: 音楽

GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。
門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。

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