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映画『ローラ殺人事件』よりテーマ 

text by / category : 映画 / 音楽

フランスには必ずしも関係しないけれども、今この時、ほんのひとときお耳を拝借したい。そんな気まぐれめいた理由でお届けする一曲。「箸休め」的にお楽しみいただければと思う。

映画音楽について真正面からきちんと語られることが多くなった。例えば、昨年DVDも発売されたドキュメンタリー映画『すばらしき映画音楽たち』。

ジョン・ウィリアムズやハンス・ジマーといった有名どころをはじめとする現役の映画音楽の担い手がたくさん登場、強い個性とこだわりを披露するだけでなく商売上の秘訣ともいえる具体的な手法までていねいに説明してくれている(いかにたやすく観客は音楽にのせられていることか!)。映画音楽とはフィルムに付随するものというより、映画の命を左右しかねない大事な「臓器」なのだ。見映えよくわかりやすいイメージの「音楽」の姿からは離れ、基本的に単体として楽しむタイプのものではないものに進化を遂げたものの、その働きたるや実にエクセレント。映画を堪能したという満足感の何割かは音楽のおかげであることがよくわかった。作家主義の好事家の愛でるサントラ盤や、ロビーやスーパーで今も垂れ流されるスクリーンミュージックは、映画音楽という豊かな世界のほんの一部にすぎないのだとあらためて思う。

が、映画の中でのその効果はさておき、印象的なメロディは映画館を出てからも聞きたくなるもの。ヒットチャートに顔を出し、スピンオフ的に歌に仕立て直され、それをテーマにジャズやらラテンやらに転生し…と多くの生を生きることになった映画音楽も数多い。今回取り上げるのも、そういった類の映画音楽だ。

1944年に公開されたハリウッド製ノアール『ローラ殺人事件』は映画そのものに比肩するぐらい音楽が評判となり、人々の熱望により名作詞家ジョニー・マーサーの手で立派な歌詞がつけられ、多くの歌手に取り上げられた。ジャズのスタンダードナンバーとしてもよく知られている。ここではフルオーケストラによるオリジナル(正確に言えば作曲家が自らコンサート・ピースに編みなおしたもの)をお聞かせしたい。一度聞いたら忘れられない、蠱惑的な旋律もさることながら(作曲したデビッド・ラクシンは別居中の妻からの別れの手紙を読み終えた後にこの旋律が聞こえてきたと後年語っている)、顔を撃たれて死んだ女性を巡る映画のためにつくられた音楽ならではの、多面的な響きもまた魅力的だ。映画の半ばを過ぎるまで「肖像画の美女」としてだけ存在する、キラキラ輝くジーン・ティアニー演じるローラを象徴する旋律と、繰り返される旋律の背後に狭間に織り込まれた緊張感溢れる響き—美女につきまとう影とトラブルの象徴を一曲の中で堪能することができる。表現のお手本となっているクラシック音楽と比べ、所詮この程度と切って捨てる人もいるかもしれない(ラクシンの師匠はシェーンベルクだ)。シングル盤にするには盛り込み過ぎな内容だろう。がこのジャンルだからこそ可能となった、ユニークな音楽の魅力を堪能したい。

スタジオミュージシャンではなく、普通はクラシックのみを演奏するオーケストラが取り組んだからだろうか、銀幕がなくとも音として説得力がある。

https://www.youtube.com/watch?v=LmRwt9AE9AA

歌になるとこうなる。ジュリー・ロンドンでどうぞ。

https://www.youtube.com/watch?v=Rot7DtZ2xrI



posted date: 2018/Jan/29 / category: 映画音楽

GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。
門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。

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