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“Tender Love” Meshell Ndegeocello ~チョコレートにかえて

text by / category : 音楽

またもアメリカの音楽、「反則」だがフランスの Naïve Records の所属アーティストでバンジャマン・ビオレとレーベルメイトでもあることだし、お許しいただきたい。この3月にリリースされるミシェル・ンデゲオチェロのカバーアルバムの選曲が、ちょっとおもしろい。 80年代、90年代に世界的にヒットしたわかりやすいブラック・コンテンポラリーが大半を占めている。リサ・リサ&ザ・カルト・ジャムにアル・B・シュア、ラルフ・トレヴァントにジャネット・ジャクソンとバブル華やかなりしころが青春だった方はきっとどこかで耳にしている、そんな類のナンバーだ。

デビューの頃からから一貫して音楽的な高みを目指し、独自のグルーヴのベースプレイとジャンルに捕われないクールな作品群で知られる人がこんなチョイスをするとは!。が、1968年生まれの彼女が若いころのパーソナルな思い出につながる曲をひとつひとつ拾ってみたら、自然とこんなリストになってしまったのかもしれない。

あの時代の音を懐かしんでちょっと再現、的なカバーにならないのがミシェル・ンデゲオチェロらしいところ。例えば今回選んだ ”Tender Love”。若手コーラス・グループ、Force MDs 最大のヒット曲である、いかにも80’sなセツナ系バラードなのだが、なぜかハーモニカが聞こえてくるフォーキーな曲に転生している。が、ここには「こうすればもっとおもしろくなる」というアーティスティックな強い野心の気配は感じられない。こうしてやろう、というよりこうなってしまった、というのに近い仕上がりだ。

かつてカーステレオからショッピングモールでさんざん流されていて、無意識のうちに自分の中に取り込まれていた歌と30年もの時を経て再び巡りあったときに彼女の中に湧き出たものが、たまたまフォーク的なものだった。それだけなのではないのだろうか(レコーディング前に、昔のニール・ヤングの曲を車の中でかけたりもしていたらしい)。どうやってもオリジナルと結びつきそうにない音がでてくるところがいかにもミシェル・ンデゲオチェロな懐の深さなのだけれど、そういうリアクションが自然と導き出されたことにアーティストとして、一個人として彼女が歩んできた歳月を感じる。Mature という言葉はこういうことを表現するものではないだろうか。

そもそもがストレートな物言いのバラード。君のやさしい愛につつまれて、身も心もとてもしあわせ。恋しくてたまらない―と、ちょっと気恥ずかしいほどだ。が、そんな歌詞を受け止め、そこから感じ取った彼女自身のパーソナルな感興も添えて、たっぷりした声でミシェルは歌う。“Tender Love” というフレーズひとつにも、さまざまなものが聞こえてくる。ピュアでキラキラしたオリジナルとはまた違う、喜怒哀楽をひととおりくぐってきた世代だからこそ可能な、違う意味でストレートなラブ・ソングを堪能して頂きたい。あなたの大事な人に聞かせてあげるのもいいかもしれない。チョコレートにかえて。

聞いてみたい方はこちらでどうぞ。
https://youtu.be/LpKLCnoFppQ

Top Photo By Tore Sætre – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0,



posted date: 2018/Feb/12 / category: 音楽

GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。
門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。

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