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『ハッピー・バースデイ』Fête de famille カトリーヌ・ドヌーヴ主演、1月8日公開

text by / category : 映画

この映画を観たあと「きっと家族に会いたくなる」なんて素直に言えるはずがない。むしろ、格差が家族間にも分断をもたらし、かつて包摂的だった家族はフランスでもすでに機能していないことが、相変わらず美しく牧歌的な自然に囲まれた夏の田舎の瀟洒な邸宅の光景と対照的に描かれている。 確かに家族を描いた映画を見るときは、多少はいざこざがあっても最後は和解するのだろうと期待したくなる。もちろん和解の兆しが現れ、ほころびは繕われるように見えるのだが、それは形をとどめずに次々と崩れていく。(以下ネタバレ注意!)

家族が一堂に会する場は愛と憎しみが入り混じる。普段は会わずにいて忘れていた過去の感情が目覚める場でもある。ましてや家族のメンバーの誰かが経済的に成功していたり、社会的な地位を獲得していたり、あるいは逆に自分が最悪の状態にあったりすると、それはいっそう激しさを増し、取り繕えないものになる。さらには未だに親の愛情を奪い合う場にもなるのだから始末が悪い。

カトリーヌ・ドヌーブが演じるアンドレアは、大家族の中心的存在で、この映画は彼女の70歳の誕生パーティに家族のメンバーが終結する1日を追う。長兄は実業家でその妻は医者、いわゆる勝ち組だ。映画監督気取りの売れない&食えない次兄ロマン(ヴァンサン・マケーニュ)は、母の誕生パーティの様子を映画に撮って一発当てようと目論んでいるが、どうも才能はなさそうで、長兄に対する劣等感も垣間見られる。そこに、自分の娘を母に押し付けて3年も消息不明だった長女クレールが転がり込んでくる。『モン・ロワ』でもキレまくっていたエマニュエル・ベルコが演じるクレールは、精神を病んでいるようで、家族との久しぶりの再会を涙ながらに喜んだかと思うと、みんなで食卓を囲んでいる真っ最中に突然自分がいかに金に困っているか、それなのに誰も助けてくれないと叫び出す。

実は家族が集結したこの邸宅はアンドレアのものではなく、クレールが、アンドレアの前の夫(クレールの実父)から相続したものでもあることが明かされる。クレールは、この邸宅を売って自分に取り分をよこせと喚き散らすが、アンドレアにはそれを長女から買い戻す金はない。この邸宅、この誕生パーティを支えるものは限りなく危うく、この家はもはや家族がいつでも帰って来れる場所ではなくなっている。アンドレアは娘を愛しているのだろうが、クレールが精神的に不安定なことを理由に、邸宅の売却問題を宙に浮いたままの状態にしておくのがいいと思っているようにも見える。そのせいかアンドレアは寛容さを見せても何の決定もできない。ジャンはアンドレアのパートナーだが子どもたちの父ではなく、肩身の狭そうな印象だ。長兄夫婦がいかにも良識的にふるまいながら、クレールに対する最終的な決定へと促す。

何よりもクレールと彼女の娘エマとの関係は修復不可能で、娘は自分を残して家を出て行った母親を頑なに許そうとしない。クレールは挙げ句の果てに、アメリカの彼氏の家から勝手に持ってきた宝石類がなくなったと大騒ぎして、あろうことかエマが連れてきた黒人の彼氏ジュリアンに「黒人のお前が盗んだんだろう」と差別意識丸出しで怒鳴り散らす。この発言もふたりの断絶を致命的なものにする。フランス人の家族のパーティに外国人が招き入れられるのは珍しいことではないが、アウトサイダーであるロマンのアルゼンチン人の彼女ロジータからは家族の欺瞞が良く見えている。フランス社会が家族を維持できないだけでなく、もはや異質なものを包摂する力もないのだということが示唆されているようだ。

最後に付けくわえると、映画の中では、家族をパラフレーズする2つの演出が効果的に組み込まれている。それは先にも述べたように次兄のロマンが家族の誕生パーティの映画を撮ろうとし(小津への言及もある)、さらにエマがいとこたちと映画の中で劇を演じる。それは家族のメンバーが自分の立ち位置を客観的に自覚させるものなのだろうか。しかし、ロマンの撮った家族の風景はどんな作品なのかはわからず、観客が目にするのは、ロマンがパリで撮ったクレールの戯れの映像だけである。

■タイトル: ハッピー・バースデー 家族のいる時間
■コピーライト表記: ©Les Films du Worso
■配給:彩プロ/東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES
■公開表記:1月8日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

どんな家族でも、やっぱり恋しい。個性豊かな家族が繰り広げる、愛おしくもほろ苦い人間ドラマ。
大女優カトリーヌ・ドヌーヴ×俳優&監督セドリック・カーン。フランスを代表する豪華キャストが勢ぞろい

STORY
70歳になったアンドレアは、夫のジャン、孫のエマとフランス南西部の邸宅で優雅に暮らしている。そこへ、母の誕生日を祝うため、しっかり者の長男ヴァンサンと妻マリー、二人の息子、そして映画監督志望の次男ロマンが恋人ロジータを連れてやってくる。家族が揃い、楽しい宴が始まったそのとき、3年前に姿を消した長女クレールが帰ってくる。アンドレアは娘をあたたかく迎え入れるが、他の家族は突然のことに戸惑いを隠せない。案の定、情緒不安定なクレールは家族が抱える秘密や問題をさらけ出し、大きな火種をつくりだす。やがてそれぞれの思いがすれ違い、混乱の一夜が幕を開ける――。

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監督:セドリック・カーン 
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベルコ、ヴァンサン・マケーニュ、セドリック・カーン
2019年|フランス|101分|5.1ch|シネマスコープ|カラー 原題:Fête de famille 英題:HAPPY BIRTHDAY
提供:東京テアトル/東北新社 配給:彩プロ/東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES
©Les Films du Worso 公式サイト:happy-birthday-movie.com



posted date: 2021/Jan/10 / category: 映画
cyberbloom

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