フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

浅野素女著 『同性婚、あなたは賛成?反対?-フランスのメディアから考える』

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 『フランス家族事情―男と女と子どもの風景』など、浅野素女氏は フランスの家族の変容をテーマにした著書で知られるが、本書では「すべての人に開かれた結婚 mariage pour tous」をめぐる議論がフランスを分断するまでに至った背景を、保守・革新・中道を問わないフランスのジャーナリズムを丹念に追うことで、解明しようとしている。

そもそも、結婚の枠を同性同士のふたりに広げることは、オランド大統領の公約のひとつだった。2012年の秋に、この法案が形になって以来、フランスはまっぷたつに割れ、賛成派と反対派が交互に数十万人規模のデモを繰り広げ、フランス議会は議員たちが乱闘寸前に なるまで過熱した。忘れていけないのは、まさに国を二分する騒動が、政教分離の原則を推進し、私生活に関する問題に寛容な態度を示すフランスで起こったこ とだ。

同性婚、あなたは賛成?反対? フランスのメディアから考えるフランス父親事情

両者の主張を単純化して言えば、反対派は、家族が父、母、子供という生物学的に自然なモデルになるべく近い形であっ て欲しいと願う人たち。一方、賛成派は、たとえ生物学的なつながりから切断されようとも、自らの欲望に準じた新しい家族形態を生み出すためには、人工生殖 技術の活用も容認されると考える人たちであった。

フランスでは事実婚・パクスなどの選択肢が用意されているのに、ゲイ・レ ズビアンたちがあえて制度としての結婚にこだわるのは、彼らの社会的な権利を認めて欲しいと願うからだ。賛成派は「家族願望」を持つ人たちが、彼らの切実 な望みを実現し、国家から法的保護と権利を与えられるべきと考える。社会全体の意志の問題として考えるなら、社会の構成員である国民の意思は最大限に社会 の制度に反映されなければならないのだ。私たちはそこに民主主義を徹底的に機能させることの執念を垣間見ずにはいられない。

フランスで同性親家庭の権利を主張する土壌を準備したのは、離婚や再婚が珍しいものでなくなり、血縁を超えたさまざまな家族形態(複合家族と呼ばれる)が出現し、血縁が家族の必要条件でなくなったことだ。またフランス人たちは「標準的な家族」という外見的な形式よりも、どんな形であれ、本人たちが幸せになれ る関係を築こうと内実を重視する人々である。また「男と女」を生物的性差ではなく、文化的、社会的につくられたものと考えるジェンダー教育が浸透したこと も大きい。

結婚するということは、何よりも子供の誕生を視野に入れ、親子関係を確立することだ。それゆえ同性婚は、子供を 持つ権利はどこまで拡大できるのか、という問いを投げかけた。とはいえ、人工生殖技術の発達なくしては、同性婚によって子供をもうけるという選択肢は切り開かれなかった。本来、医学的な理由で子供を持てない男女のカップルのための技術が、単独で子供を作るために利用されるようになり、さらに新たな欲望を喚 起している。フランスでは不妊治療のために限定されているが、ベルギーやデンマークに行けば、無名提供の精子を使って人工的に子供を作ることが可能なのだ。

事実、年齢的に妊娠の限界を感じたフランスの女性が近隣国に渡って精子提供を受け、とりあえず適齢期中に子供を作って おく「妊娠ツアー」も増えている。子供は今しか産めないが、パートナー探しは後からでもできるというわけだ。また以前読んだ、精子提供によって子供をもうける「選択的シングルマザー」の記事も衝撃的だった。この場合、父親の存在が問題にすらなっていない。男は要らない。まさに種に過ぎないのだ。

「受胎行為は、濃密な身体性と関係性を伴う行為であったが、いまや身体の外で知覚され、思考され得るものとなった。そのため、男女のカップルと同性のカップルは同じ地平で捉えられるようになった」(p.151)

一 方で、元首相で社会党第一書記でもあったリオネル・ジョスパン氏の妻である、哲学者のシルヴィアンヌ・アガサンスキーは、左派でありながら「子どもを持つ 権利」は時に「子どもの権利」と矛盾することを指摘した。同性婚の問題は、権利云々ではなく、共同体が共同体として生命を継承する人間社会の規範に関わることであり、彼女は「少数派の権利要求に反対したというよりも、この社会規範が覆されることに抵抗」したのだった。

当時の 世論調査では、フランス人の過半数が同性婚を支持しているが、同性愛者カップルによる養子縁組の権利については、反対派がわずかながら半数を上回っていた ことが繰り返し示されていた。ここに問題の核心があるのだろう。つまり同性婚は認めるが、養子縁組はやりすぎというわけだ。養子をとって育てたい、家族を 作りたいという同性カップルの願いの果てには、人工生殖と代理母の合法化がある。しかし政府は同性婚の先にある人工生殖の議論では右往左往し、国民の合意が醸成されていないとして、結局法案には盛り込まなかった。

しかし、そういう先走った議論に全くリアリティを持てない「普通の」人々もいる。私たち日本人にしても大半は同性婚に関しては想像も及ばないというのが本音だろう。本書で引用されていた社会学者の発言が印象深かった。彼によれば、同性婚の議論において、一部のフランス人たちは、自分たちが全く無視されていると感じ、そのうんざりした気持ちの表明として反対のデモに加わったのだという。

その多くは地方の中流階級の人たちだ。自分たちの価値観こそがフランスの中心的な価値観だと思い込んでいる、社会党の市長をトップに持つパリの「進歩的な」人々に対して違和感と反発を感じたのだ。もちろん民主主義を徹底することは立派なことだが、オランド政権が全く切り込めていない、もっと切羽詰まった問題(経済とか雇用とか)があるだろう、と言いたいのだ。近年の極右政党、国民戦線の躍進ぶりを見ても、フランスにおいてこの分断が意外に根が深いのかもしれない。

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