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パリで見たもの感じたこと(1) 着道楽が前向きに暮らし育つ場所

海を越えて旅に出ると限りなく透明な存在になる。 所属していた日本の社会からぽんと切り離され、しっかりあったはずの私が在るという手応えは消える。ふわふわと頼りなく、最低限のことしか口にしないその一方で、アラートモードに切り替わった五感はいつも以上にぴりぴりと反応し、あらゆるものを捉えようとする。

限られた地区をうろついただけ、もちろんおしゃれ要素ゼローそんな数日間のパリ滞在中に「透明人間」の 目で耳で拾い全身で感じたものを、忘備録を兼ねて記してみたい。

地下鉄に乗ることなく歩き回った街路で目についたのは、メンズウェアが元気であるということだった。路面店も女性向けのものより、洗練された男性専科的なものが思いのほかある。日本でよく見かけるスーツ屋ではない。仕事も遊びもとライフスタイルを網羅した、ラルフ・ローレンの店構えをぐっとフランス的にしたような、ショーウィンドウもそれなりに楽しめるショップなのである。また商売としてちゃんとやっていっている、長年のお客さんがちゃんとついている、という雰囲気があった。

オスマン通りに並んだパリの老舗百貨店、プランタンとギャラリー・ラファイエットには共にメンズ館がある。日本の百貨店のメンズ館との違いを実感したのはアクセサリー売り場だった。 ハイエンドなものもあるが数千円程度のお手頃な価格帯の品があきれるほど多彩に取り揃えている。 デザインも、地味派手トラッドジオメトリックにフォークロア、きれいめから渋いものまで何でもあり。似た色味だがテクスチャーが微妙にちがうストールが数種類並べてディスプレイされていたりもする。冬のパリはそのあまりの寒さゆえに巻物かぶり物が必須アイテムだ。コートやダウンでしっかり覆ってしまいがちな冬の装いでは、遊べる部分はアクセサリー類しかないという現実も立派な品揃えの理由になっているとは思う。 しかしこれだけの選択肢を必要とする、やる気のある男達がいるということでもあるのだ。

ドルチェ&ガッバーナで、全面刺繍で覆われたデコラティブなゴールドのタキシードがお飾りでなく商品として普通にディスプレイされていたのも強烈だった。この過剰でアンチ日常な一着に太刀打ちできるスタイルとお顔の男達がいる国なのだとあらためて実感したとともに、それを着ようという気持ち、心意気がある男達がいるのだなと思うとうれしくなった。着るということは仕方なくするというものではなく私を作る要素の一つ、そんな気概がデフォルトとしてある男達を相手にしているのだから、メンズウェアのフロアが元気なのもわかる。

こうした男達が育つのもさもありなん、と思ったのは子供服のフロアを見たときだ。広い売り場にチープな通販ブランドからデザイナーズものまで分け隔てなく配置され、圧倒されるほど豊富なアイテムが並んでいる。チュールのスカートから、スパンコールを全面にあしらったポシェット、大人も欲しくなる凝ったつくりのキルティングジャケットと、おしゃれ心を刺激する品がお手頃なお値段で手に入る。最近のフランス発の映画やドキュメンタリーに登場する子供の普段のお洋服のセンスの良さはその子のとびきりの個性の表れかとばかり思っていたけれど、子供の自己表現を下支えするこんな売り場がちゃんとあったのだ。

また、感心したのはデザインのレベルの高さだ。 大人の服のミニサイズモデルでもなく、大人が望む子供らしさの反映でもなく、個人としての子供に向けて対等な視点でクリエイトされたデザインがそこにはあった。キュートなもの、エッジのきいたものと志向傾向こそ違えど、共通したある種の風通しのよさも感じた。赤ん坊のころからこういうものをふつうに着て、多彩な選択肢から自分で好きなものを選びコーディネートしながら大人になってゆけば、着るものに対する意識が変わるわなー、と、つい真剣にアイテムをチェックしながらしみじみ思った。

ウィメンズウェアのフロアは、憧れのハイエンド・ブランドからトップショップといったファーストファッションまでなんでもござれ、懐が深い。 冬の寒さに対抗するアイテムとして、老舗ファーブランドがカジュアルラインを展開しているのもパリらしい。フロアを一回りして感じたのが、柄の存在感だ。どのショップにも必ず、デザイナーの個性が現れた色とりどりの柄物ーアブストラクトパターンに小花模様、イラストがあしらわれたものーが並んでいる。素材感や色のニュアンスで勝負する傾向にある日本のウィメンズウェアのフロアにはない光景だ。そういうものをさらりと着こなせるパリジェンヌ達のスタイル、顔立ちがあるからこそとも言えるだろう。しかし柄を楽しむ「強さ」も感じた。柄物は着まわしには向かないし、inでなくなるリスクも高い。そんなゴマカシのきかないアイテムを好んで買い求めることの裏には、服を着こなしてみせるという積極的な姿勢、私の感性と美意識への無意識な信頼があるのかもしれない。

年齢、キャラクターにとらわれず、一回り若い世代に向けたデザインのショップも気軽に覗きアクセサリーなど試してみる、そんなミドルエイジの姿をたくさん見かけた。わかりやすいマダム向けフロア、セクションがないわけである。アライアで、ステファニー・シーモアとは何の共通点もない地味なショートカットのアラフィフとおぼしき女性が、ショップスタッフとごく普通に話をしていたのが、とても印象に残っている。あなたのくる場所じゃないでしょ!というサインが何気に点滅している日本のハイエンド・ブランドのフロアとは大違いだ。気負うことなく、構えることなく、素敵ですよねと言葉を交わし、着ること買うことを楽しめる場所。なんとなく元気のない日本のファッションの現場には、そんな空間こそ必要なのかもしれない。

気がつけばストールの大人買いをしてしまっていた。そんなつもりはさらさらなかったのに、パリにしてやられました。



posted date: 2019/Feb/23 / category: ファッション・モードバカンス・旅行

GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。
門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。

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