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FRENCH BLOOM NET 年末企画(1) 2023年のベスト音楽

text by / category : 音楽

恒例の年末企画です。第1弾は2023 年のベスト音楽です。フランスの音楽を中心に、2023年の音楽を幅広く選んでいただきました。FBNのライター陣の他に、今年も、マニアックなフランス音楽のツィートでおなじみの福井寧(@futsugopon)さん、POISON GIRL FRIEND の nOririn さん、世界音楽研究家の粕谷祐己さん、Small Circle of Friends の武藤サツキさんにも参加していただきました。リンク先に飛んで音楽をお楽しみください。

福井寧(@futsugopon)

Zaho de Sagazan – La Symphonie des éclairs
https://music.apple.com/jp/album/la-symphonie-des-%C3%A9clairs/1708455052
ザオ・ド・サガザンは1999年に大西洋岸の造船で有名な町サン=ナゼールに生まれた歌手で、今はナントを拠点に活動している。今年の3月に出たこの『稲妻交響楽』という題名のデビューアルバムが話題になった期待の新人である。本人はクラウトロックやニューウェイブが好きだそうで、音楽的にはシンセポップと言えるのだろうが、あまりニューウェイブ臭は感じない。何よりも特徴的なのはその声で、デビュー曲 Les dormantes は、一音一音噛みしめるような明瞭な発音ながら、低血圧な魔女が呪文をつぶやくようなボーカルが衝撃的だった。アルバムにはタイトル曲のような明るい歌も含まれているが、基本的に音数が少なく、じっくり歌を聴かせる内容になっている。
動画 https://youtu.be/xyS12RYoLYI

Clara Ysé – Oceano Nox
https://music.apple.com/jp/album/oceano-nox/1690396992
クララ・イゼは1992年パリ生まれの歌手で、小説も出している。4年前に Le monde s’est dédoublé というEPを出して一部で注目され、以後歌手としては目立った活動がなかったが、ようやく今年の9月にこのデビューアルバムを出した。ラテン語の題名は荒れ狂う海の恐ろしさをうたったユゴーの有名な詩からとったもの。クララ・イゼの母親の精神分析医、アンヌ・デュフールマンテルは海で溺れている子供を助けようとして自らが亡くなっている。Le monde s’est dédoublé はこの母親に捧げた歌だが、4年前の激しさと比べ、アルバム版はずっと穏やかである。節回しがときとしてオリエンタルだが、意外とバルバラを思い出す人がいるかもしれない。
動画 https://youtu.be/atBYPluuSoQ

ExpéKa – ExpéKa
https://music.apple.com/jp/album/exp%C3%A9ka/1716032605
12月に出たばかりのアルバムだけれども、よい内容なので紹介したい。エクスペカは1975年ルーアン生まれのベテラン女性ラッパー、キャゼーの新しいプロジェクトで、これが最初のアルバム。キャゼーは商業的成功を収めていないとはいえリスペクトされる存在で、ヘビーロックのゾーヌ・リーブルやアウスガングなど、「他流試合」の活動が多い。今回はマルチニークとグアドループのミュージシャンをバックにしているが、その中心は「カ」と呼ばれる太鼓で、この太鼓を使ったグウォカという音楽がベースになっている。キャゼーは戦闘的なラッパーだが、今回は風通しがよいサウンドでいつもよりも聴きやすいので、広くお薦めしたい。
動画 https://youtu.be/VWYkhTieoYA

他の歌ものでは、安定した実力のアルバン・ド・ラ・シモーヌの Les Cent Prochaines Années、ブラジル録音でラテン風味ソフトロックに挑戦したヴォワイユーの Les Royaumes minuscules、本格派エレクトロポップのフラヴィアン・ベルジェの Dans Cent Ans、映画音楽風サイケポップのフォーレヴァー・パヴォの L’Idiophone などがよかったが、インストものではエレクトロサウンドとジャズを組み合わせたシルヴァン・リフレ&フィリップ・ゴルディアーニのDooble、自動ピアノと手動ピアノ二台による「ジャズピアノソロ」のエドゥアール・フェルレの Pianoïd 2、テクニカルなところがないが歌心がある簡素なピアノソロのバビクスの Une Maison avec un piano dedans、などが面白かった。

福井寧(@futsugopon)
1967年生まれの日仏通訳・翻訳業。青森市在住。全国通訳案内士(フランス語・英語)。油川フランス語・英語教室主宰。オンラインフランス語講座もやっています。訳書ネルシア『フェリシア、私の愚行録』、フジュレ・ド・モンブロン『修繕屋マルゴ 他二篇』(いずれも幻戯書房)。
https://aomori-france.org

nOririn(Poison Girl Friend)

Étienne Daho – « Tirer La Nuit sue Les Étoiles »
ヴァネッサ・パラディとのデュエット曲が話題になったエティエンヌ・ダオの約6年ぶり、12枚目のアルバムは、期待を裏切らないポップ感と変わらない万年青年な歌唱にほっこり致しました。年末にリリースされた2枚組のデラックス盤では、元 Unloved の歌姫 Jade Vincent とのコラボ曲がフィーチャーされており、ダークサイドに挑戦してる感も楽しめます。

Benjamin Biolay – « À L’Auditorium »
毎年この年末企画をお読みくださっている皆さまには、「またか!」と思われるかもしれませんが、バンジャマン・ビオレ待望のオーケストラアレンジのライヴ盤が登場。リヨンのコンセルヴァトワール出身のバンジャマンが地元リヨンの国立管弦楽団、L’Orchestre national de Lyon と満を侍しての共演。最近のロック寄りの作品よりも、クラシカルアレンジが好きな私にとっては、目から鱗でした。マジで泣きました。本当に美しい曲とアレンジ、ぜひ一度お聴きになってください。

Clio – « carambolages »
今年は若手女性シンガーソングライターの新作アルバムもたくさんリリースされ、2000年初頭のアイドル系全盛期から、ヌーヴェル・ヌーヴェル・シャンソン時代に突入かという気がしています。2017年に発表したEP、« Filme moi »が、印象的だった Alice et Moi の « Photographie » 、Coline Rio の « Ce qu’il restera de nous » などなど。その中では前作でイギー・ポップとデュエットしていた Clio のクールな歌詞と声質に一票を投じます。

POiSON GiRL FRiEND
→1992年、ビクターよりCDデビュー。2000年から2004年まで、フランスのストラスブールへ渡り、フランスを学ぶ。帰国後の2006年からライヴやDJ活動を再開。そのテクノとフレンチ・ポップスとの融合ともいわれている音世界は30年経っても不変である。現在英国の NTS Radio のレジデンスDJとしての選曲他、上海やフランスのラジオでもゲストDJ中。

粕谷祐己(世界音楽研究家)

Titi Bakorta, Molende
このアルバムはアナログ盤しか出てなくて、『ミュージック・マガジン』のベスト・アルバム2023、ワールドミュージック部門1位になるまで気がつかなかったものですが、聞いてみるとこれはたしかに2023年のベストと言うにふさわしい傑作、というかこれを聞き逃しては音楽の歴史の一コマを見逃してしまうことになりそうな必聴盤です。ひとことで言って「ルンバ・コンゴレーズもここまで来たか!」という感慨を覚える、現代音楽みたいな音楽です。コンゴ民主共和国キンシャサ出身、ティティ・バコルタのデビューアルバムですが、録音設備が充実しているとして今評判のウガンダ・カンパラで製作されています。

Donné Roberts, Oya !
ちょっと古いのですがカナダ・トロントを拠点に活動するマダガスカルのアーチスト、ドネ・ロバーツことデュードネ・ロベールDieudonné Robertのアルバムをご推薦したいです。個人的回想になりますが、昔「東京の夏」フェスティバルでデガリD’Garyさんの摩訶不思議なギターを聞いたときのことは忘れることができません。あの特異なマダガスカル・ギターにアフリカ音楽、北米のポップ――このアルバムにはボブ・ディランの『風に吹かれて』も入っています――の諸要素をふんだんにのせてアフリカ諸語、 英語、フランス語で歌うドネさん、来日したときに好きなギタリストをきいてみたら真っ先に「サンタナ」と答えてくれました。たしかにアフリカを志向しながらマルチな活動になっているところは似てますね。

Mohamed Lamouri, Méhari
人呼んでCheb du Métro、モハメド・ラムリ。パリのメトロで歌っていたハンディキャップのある歌手の作品ということで――そういう話題でもないと今時「ライのCD」なんかリリースされないのでは?――ライやシャアビの懐かしい曲が聴けたりするのですが、肝心のアルジェリア人がこういうのは絶対評価しないということは念頭において聞いて下さい。浪曲師みたいなだみ声のひとで、「歌手とは美しい声の人がなるものだ」という、実に健全な音楽観のもちぬしである大多数のアルジェリア人からすると耐え難い存在です。「この声でハスニの曲を歌うなど言語道断、冒涜である」と怒っている人もいます。まあでも『ヤーライヤー』のダフマン・エル・ハラシもだみ声だったわけで、目くじらたてずに我慢?して聞いていれば、未来のライへの突破口が見える感じもするのが不思議。

粕谷祐己(または雄一。かすや・ゆういち)
フランスの作家スタンダールの研究から始めて世界文学をかいま見、アルジェリア・ポップ「ライ」から始めて世界音楽を渉猟する自由人です。金沢大学国際学類を辞しまして、複言語文化協会たちあげを企画中です。

blog.goo.ne.jp/raidaisuki

タチバナ

1位 MUNYA 『Jardin』(アルバム)
もはや私なんぞが紹介するまでもないくらい日本で認知されていると思う。MUNYA は、フランス語と英語で歌うモンレアルのシンガーソングライター Josie Boivin のソロプロジェクト。2021年のファーストアルバムに次いで、本アルバムは2作目となる。前作『Voyage to Mars』が、The Smashing Pumpkins の「Tonight, Tonight」のカバーで話題を呼び、英語圏でもファンが多い。そんな彼女が、今度は、日系ハワイアンをルーツに持つ注目度の高いシンガーソングライター Trent Prall のソロプロジェクト Kainalu も巻き込んでリリースしたのが本作なので、面白くないはずがない。Daft Punk や Giorgio Moroder を思わせるディスコ曲「Un Deux Trois」、New Order のカバー「Bizarre Love Triangle」、ドリームポップ色の強いボサノヴァ「Caramel」、そしてKainalu本人をフィーチャリングした「Once Again」(これもYouTubeにMVあり)など、英語圏やK-POPのトレンドと、フレンチの味わいの両方をおいしいとこ取りした一作。
Un Deux Trois(MV):https://www.youtube.com/watch?v=UxN_H7ewYTs
アマゾンリンク:https://www.amazon.co.jp/dp/B0C64NGQQK

2位 GiedRé 『Les Chansons de la Radio』(EP)
ガーリーな装いが日本のソロアイドルやキュートなSSWを思わせながら、それでいて、どぎつい社会風刺をギターで弾き語るGiedRéを、私が知ったのは今から10年以上前のことで、女はつらいよ、とばかりに「Pisser debout」をTV番組で熱唱し、スタジオをどよめかせる姿だった。あれからずいぶん経った今でも、彼女の素朴な表現スタイルは健在で、今年リリースされたEPでは、インフルエンサーを皮肉ったり、肉食について歌ったりと、相変わらず全方位に喧嘩を売っている。だが、やはり感慨深いのは2曲目の「Violer OKLM」(OKLM=au calme)。自分のステータスを笠に着て女性や子供に性加害をおこなう者たちと、そういう芸術家や政治家に対して、人と作品は別、人と業績は別と言って煮え切らない態度を取る世間を風刺しているのだが、この手の性加害者たちから切除した睾丸の愉快な活用法を歌うのを聴いて、不覚にも「GiedRé最高!」と思ってしまった。そのあと冷静さを取り戻した結果がこの順位。
Violer OKLM:https://www.youtube.com/watch?v=uNee7FiFCaQ
アマゾンリンク:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHYPL31P

3位 RAY 「津軽よされ節」(シングル)
RAYは、日本のインディーズシーンで、オルタナティブロックをもっとも体現したアイドルグループと言ってよいだろう。普段はどちらかというと、湿り気のあるシューゲイザー・サウンドを持ち味にして来た。しかし今年リリースされたアルバム『Camellia』は、メンバーのアイドルたちが歌っているものの、青木ロビンが制作し、中尾憲太郎、BOBO、ケンゴマツモトが演奏しているという最強の布陣だ。その成果の一端は、恐ろしくソリッドな代表曲「火曜日の雨」(MVあり)を聴けば、十分に伝わるのではないだろうか。にもかかわらず、今回、私が紹介したいのは、この名盤『Camellia』ではなく、そのあとにCD-Rでリリースされた「津軽よされ節」の方だったりする。津軽三味線の曲の中でも屈指の難物とされているようで、それをバンドアレンジにしてアイドルたちが歌っているのが、本シングルなのだ。実際に聴いてみると、なるほど独特のイレギュラーな打音が連なる辺りは、King Crimsonの「21th century schizoid man」などを彷彿させ、和プログレにしか聴こえない。面白い作品なので、ぜひ配信で、と言いたいところだが配信されておらず、フィジカルで通販されているがそれも今のところ、CD-R限定のリリースである。かろうじて、グループの公式アカウントがライブ動画と音源を公開しているので
「津軽よされ節」(ライブ映像):https://twitter.com/_RAY_world/status/1727298625058042033
「津軽よされ節」(フル音源):https://twitter.com/_RAY_world/status/1723705532790481229
通販サイト(品切れ中):https://ray-world.booth.pm/items/5285779
「火曜日の雨」(MV):https://www.youtube.com/watch?v=JvWmlunwXn8
アマゾンリンク:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CH1NKZWS

irrrrri(いりー)

Oracle Sisters – Hydranism
新たな私の定番となった、ベルギーの男性ふたり+フィンランドの女性がパリで結成したスリーピース・バンドによるデビュー・アルバム。古着の着こなしが抜群に洒落ている3人が出会ったのは、ホドロフスキーのサイン会だという。ギリシャのイドラ島にある古いカーペット工場を改装したスタジオにて録音されたそのサウンドは、フォーキーでノスタルジックな輝きを放ち、パウダリーで甘い香水を浴びたときのようにふわふわと夢見心地にさせてくれる。
Oracle Sisters – Tramp Like You (Official Video)
https://youtu.be/3EGNGZFoG5A?si=-btiwvRNGhnVaS6q

V.A. – Jacques Tati Swing!
春に富山でピエール・エテックスの映画が特集上映された。エテックスはジャック・タチ『ぼくの伯父さん』のポスターやノベライズ版の挿絵を描いた人で、映画監督、俳優でもあった。上映に際して小さなイベント「Cinéma CIBO」が開かれ、映画館のロビーでいろんなフレンチなレコードをかける係をした。……それから1ヶ月ほど経ってから、タチ作品の楽曲を集めたこのアルバムの発売情報が流れ、もっと早く欲しかった〜!!! と思った。これまでの関連作のなかではいちばん収録曲が多い決定盤的内容だし、ジャケが超かわいい。聴くと脳裏に浮かぶユロ伯父さんが(あの驚異的な身体能力で)躍動する。私はタチだと『ぼくの伯父さんの休暇』がいちばん好きです、あなたは?
Alain Romans – Quel temps fait-il à Paris ? (de “Les vacances de Monsieur Hulot”, 1953)
https://youtu.be/imN8BWN7FzM?si=RZuBpu8JrGVjeSdV

Tour-Maubourg – Floating On Silence EP
2022年にデジタルで発表されたのが、今年になって最高の12インチレコードになって届いた。発売元のレーベルNoire & Blancheは2018年にコンピEPを買ったことがあり、Folamour、Too Smooth Christ、Leon Revol などフランスの新進プロデューサーによる魅力的なディープ〜ディスコ〜バレアリックなハウスが並んでいて、以来注目している。Tour-Maubourg は在パリのベルギー人で、Instagram を覗くとさまざまな機材を器用に操る動画が見られる。ジャズとハウスの繊細な折衷は St Germain あたりもほうふつとさせつつ、どの曲もしっかりとモダンかつどこかセンシュアル、深夜に聴きたくなる1枚だ。
Tour Maubourg – Floating On Silence [Full EP]
https://youtu.be/56jQaa9-IuI?si=u2uVFFEo3kBhgU9m

irrrrri(いりー)
富山県在住のローカルDJ、ときどきライター。2016年からクラブ、バー、カフェ、フェスなどでハウスと古今のポップソングを楽しくプレイ。コロナ禍のお休みを経て、少しずつ活動を再開している。「Cinéma CIBO」の仲間と作った、フレンチ気分にひたれるプレイリスト(Spotify / Apple Music) もぜひお聴きください。
https://lit.link/cinemacibovol3

Mami Sakai (@Mami_SoulUnion)

①MÅNESKIN『Rush』
ここ数年は、毎年彼らについて書いています。ということは、毎年順調にアルバムやシングルをリリースしている、働き者のZ世代ロックバンド、モネスキン。2023年1月にリリースされたアルバム『Rush』のワールドツアーも大成功。実はちょうど日本に一時帰国中で、神戸でのコンサートに参加し、アリーナの20列目でロック・カリスマたちを拝んできました。ポップやロックの煌々しいオーラなんて、アドルノが聞いたらブチ切れそうですが、勢いのある人は誰でもそうであるように、メンバー全員が光り輝いていて全方向にオーラを放射しているようでした!ツアーの終盤ということもあり、ヴォーカルのダミアノは喉を痛めていたようですが、客席近くに降りてきたり、ステージから遠い客席付近でアコースティックで歌ったりと、ファンサービスも欠かさずの sympa(サンパ)ぶりです。
世界的なヒットメーカーのマックス・マーティンのプロデュースのもと、ロサンゼルスで収録された『Rush』は、“音の情報量“が増え、よりポップに、メジャーになり、個人的には以前のアルバムのスカスカした感じが懐かしい。
アメリカでの成功、トニー・モレノなどビッグネームとのコラボレーションにもかかわらず、しれっとアメリカのショウビジネスを揶揄した「Supermodel(スーパーモデル)」や「Gossip(ゴシップ)」は、相変わらずのヨーロピアンぶり健在といったところ。
「Timezone(タイムゾーン)」は、ユーロビジョン後、彼らを取り巻く状況が一変。それ以降ほぼ休みのない彼らの切実なシャウト、「おうち(イタリア)に帰りたい!」が溢れています。
まさに一夜でスターダムに駆け上がったモネスキン、それでもあまりハラハラせずに観ていられるのは、バカンスや家族を大事にする“大陸ヨーロピアンネス“ゆえなのか、フェイムと QOL(クオリティ・オブ・ライフ)のバランスを冷静に見極めることができるZ世代ゆえなのか、と考えているところです。

②MEZERG 『Extended Play』
ボルドーのコンセルバトワールで学んだキーボーディストのMezergと聞いて、はて?と思った方、プールサイドでスイカとキウイを演奏しているミュージシャン、といえば思い当たるのでは?スイカの他にも、不機嫌そうな顔でテルミンを演奏する長髪のYouTuberとして、たまにプチ・バズりしてフィードに上がってきます。映像の作り方がとてもクリエイティブなので、ソーシャルメディアの人かと思ってしまって聞かないのは勿体無い!2023年9月にリリースされたEP『Extended Play』は、かなりの頻度で聞いていました。キーボード、シンセサイザー、ピアノでメロディーを、足のドラムでリズムを作り、エレクトロ&テクノを融合させた独自の芸達者スタイル。この独特なコンセプトを彼自身「Piano Boom Boom(ピアノ・ブーム・ブーム)」と呼んでおり、ソーシャルメディアへの影響力と、このオリジナリティが評価され、2022年のMusic Moves Europe Awardsを受賞しています。
映像だと、どうしても彼のロックスタイルのテルミン演奏に気を取られてしまいますが、アルバムを通して聞くと、気持ちの良いリズムに結構正統派のメロディ、こんなのが聴きたかったんだよ!という感じでハマります。Macadam Crocodile(これもめちゃくちゃいい!)とのジャム「Jam With Brülin」も心地いい。彼の気難しさのようなものが反映されていて、ただ気持ちよく揺蕩わせてくれない不穏さがまたとても良いです。
スイカ・キーボード  https://youtu.be/RPf28jaiU90?si=X63N409h39AnVBSG

③WAAGAL 「Sapiens」
ハンドパンとディジリドゥ、たまにすごく聴きたくなりません?なあなたはパーティの民かヒッピーですね。そんなあなたにきっと刺さるWaagalのシングル。抒情的に歌い上げていて(インストゥルメンタルですが)相変わらず気持ちよくアクティブなダンス&音楽瞑想に入っていける感じです。前アルバムの『Monad』に比べて、リズムも含め、シンプルに回帰しチル感多め。この楽器の構成で、泥臭くならず洗練されているのはさすが。フランスのワールド・ミュージックの豊かな土壌が貢献しているのでしょうか。
ギターやカリンバも同時に1人で器用に演奏するワン・マン・バンドスタイル。この芸達者ぶりは上記の Mezerg と近いものがあり、実際両者はコラボレーションもしています。
ヨーロッパツアーやインドのフェスで演奏していますが、これからもっと注目されていくんじゃないかと予感させるアーティストです。

Mami Sakai (@Mami_SoulUnion)
ロンドン在住。パリ第7大学で記号学的フレンチ・ラップを研究。その後ドーバー海峡を渡り、心理学&機能性栄養学のセラピストに。ナチュロパシー・ジャパン・ファウンダー。

Small Circle of Friends
武藤サツキ

Plastic Bamboo – Asynchrone
2023.9.29 release
昨年、10月のCINRA、青野賢一さんの記事で知った「Asynchrone」。簡単だけれど「清々しい」という言葉が始まってから終わるまでグラデーションのように流れる。そもそも、カバーという手法はイメージともに難しい方法だと思っていて懐疑的なんだけれど、そういう勝手な個人の主観を一蹴するサウンド。
私自身、坂本龍一さん、YMOの大fanですが「オリジナルと比べどうこう」というのでなく流れる思いのままなサウンドに『パリを拠点に活動する現代音楽、エレクトロニックミュージック、フリージャズ、コンテンポラリー、ワールドミュージックといったフィールドで活躍するアーティスト』な背景に納得。チェロ、シンセサイザー、サックスとバスクラリネット、フルート、ピアノ、ドラムスの6名からなるフランスのグループ。これがデビュー作らしく、次回作オリジナルなのか?カバーなのか?今から楽しみです。
https://asynchrone.bandcamp.com/album/plastic-bamboo

Sundial – noname
2023.8.11 release
彼女のデビュー以来、その音楽家としても一個人としても人間性すべて、一挙手一投足が興味あるアーティストでした。ALBUM2枚を出したのちアクティビストとして活動。ずっと動向も追い尊敬していた彼女は自身の活動「ノーネーム・ブック・クラブ」がはじまるとともにつれ、その後全てのSNSを削除。削除前に「音楽家をやめるかも?」とも呟いていたから心から残念に思っていました。
彼女のその空白の時間は(ライター塚田さんの記事で読めます。http://turntokyo.com/features/noname-sundial/)想像以上に揺らぎのないアクティビズムの結集だったということ、そしてそれが新作で表現できた証だったのだなと想い巡ります。
今起きるクライシスを自身の言葉にも変え発信続ける彼女をこれからも音楽家として、アクティビストとして同じ時代に生きていることを心からうれしく思っています。

young hearts – benny sings
2023.3.24 release
stones throw移籍後「City Pop」をリリース(私サツキも歌詞とセリフで参加)その後驚くようなリリースラッシュ。主観だけれど移籍後2019年からの4年間をBennyは様々なアーティストとコラボ作品も生み出し自身のpopマエストロとも呼ばれる(これって日本だけか)メロディメーカーとしての自由なマインドを磨き続けていたんじゃないのか。
その証が本作、Kenny Beatsとの作品でより初期のRednose Distriktとの作品やDox records時代を彷彿とするサウンドに戻り、且つマジックではない彼の今の音が鮮烈に表されていました。
その勢いは、今年20周年記念となる1st ALBUM“Champagne People”のリイシュー発売、そしてアムステルダムにある素晴らしいシアター「Koninklijk Theater Carre」でのツアーメンバーにストリングスをフィーチャーしたライブは即完し圧巻のパフォーマンス。オランダ語のMCがわからなかったけれど彼の高揚した姿がアルバム「young hearts」の有り様を言葉がわからずとも語っていました。

Small Circle of Friends & STUDIO75.
サツキ(佐賀出身)とアズマリキ(福岡出身)の2人。東京拠点に広く活動している。1993年ジャイルス・ピーターソン主宰、United future organizationのレーベル”Brownswood”よりデビュー。以来17枚のフル・アルバムをリリース。2005年にはサイド・プロジェクト「STUDIO75」をスタート。トータルプロデュースからbeat製作、BASI、maco marets、kojikojiなど。最新は12th AL『cell 』。サツキはリユーステーラー「75Clothes」展開。2024年13thALリリース予定です。音楽と服で毎日を暮らしています。

不知火検校

今年の「BEST音楽」は追悼の意味を込めて「坂本龍一全作品」と言いたいところだが、その膨大な作品群から敢えて3作品だけを選んだ。『ラスト・エンペラー』(1987年)のような映画音楽や、『音楽図鑑』(1984年)、『ネオ・ジオ』(1987年)といった初期の重要な作品群を選ぶことももちろん可能だろうが、あえてそれ以降の作品に焦点を絞る。

1. BTTB(坂本龍一、1998年)
坂本龍一がこれまでの作風を捨て去り、彼自身の原点に帰る(Back To The Basic)という意味で制作した作品であり、文字通り坂本の代表作と言って間違いない。ここには確かに、坂本が好んだドビュッシー、プーランク、サティといったフランス19世紀末から20世紀初頭の音楽の雰囲気が漂っている。しかし、やはりこの乾いた抒情性は坂本ならではのものであり、他者が真似をするのは難しい。「坂本龍一を知りたい者はこの一枚を手にすればおおよそは理解できる」と言っても良いほど、本作は完成された作品である。

2. async(坂本龍一、2017年)
当初は、「架空のタルコフスキー映画のサントラ」という設定であったが、病気を経て、全て初めから作り直された作品。実際、サントラなどという次元を遥かに超えて、バロック音楽からガムラン音楽まで、坂本がこれまで挑んできた数々の音楽実験の集大成的な趣がここにはある。ポール・ボウルズ自身の声による『シェリタリング・スカイ』の朗読や、アレクセイ・タルコフスキーの詩の一節などをサンプリングとして取り込んだ、さながらインスタレーション的作品も圧巻の出来映えである。

3. 12(坂本龍一、2023年)
文字通り坂本龍一が生前に発表した最後のアルバムである。しかし、この稀代の作曲家の最後の境地を窺い知るというより、彼の到達した音楽世界がどれほど計り知れぬ拡がりをもったものであったのかを改めて体験する作品となった。ミニマルミュージック的なものもあれば、まさに坂本ならではの叙情性を湛えた作品もあり、多様な作風が次々に繰り出される。紛れもなく彼自身が捉えた《変容するこの世界の姿》が、アレンジを施すことなくそのままの形で録音されている。傑作である。

わたなべまさのり(ビー・アンクール・ドットコム株式会社)

Peter Gabriel i/o The Tour at TAURON Arena Kraków 18th May 2023
自作の新曲満載のニューアルバムを間もなくリリースというタイミングで行われた新曲をプレゼンするツアー。Gabrielは特別(笑)なので現地へ。しかもワールドプレミアを観たかったのでツアー初日のKraków公演を含む4公演を観てきました。 もしもショボい演奏だと翌日には動画で世界中に広まっている2023年に対応した、よく準備された好演奏(笑)。結局ニューアルバムに収録されなくなる新曲も含めて、セットリストの半分が新曲。新曲各曲には特定のアート作品が付けられていて、それが巨大スクリーン群に映し出されて、(あるレビューの言葉を借りると)見方によってはアートギャラリーで作品の前で9人のミュージシャンがその作品に付随した曲を生演奏している、とも見ることができて。 でもこのオープニングナイトでの私が選ぶMVPはKrakówの聴衆。既に数曲の新曲はデジタルリリースされていたとはいえ、多分聴衆の99%はこの時初めて全ての新曲を耳にした筈。この状況でのKrakówの聴衆の新曲への反応。とても素直で、好演奏と曲自体の善し悪しに対する反応を一曲毎に明確に表現していた感じで。素晴らしい応援作法。バンドは好反応をハッキリ感じられて、自信を持ったでしょう。

Mabe Fratti Live on KEXP at El Desierto Casa Estudio 15th March 2023
https://youtube.com/watch?v=QTskdzJ1VCE…
kexp.org/podcasts/live-
オンライン鑑賞。彼女は私の最も最近の発見の一人ですが、この映像で初めて、彼女のライブがどんな感じかを感じる事が出来ました。アルバムで聴ける演奏よりもavant-gardeですね(笑)。とても良い(笑)。バンドのメンバーが良いのと、Mabeのボーカルもシッカリしています。 彼女は今年10~11月に、コラボアルバム2枚: 「A time to love, a time to die」 by Amor Muere 「Vidrio」 by Titanic をリリースして、更に次のアルバムの録音へ、と、ちょっとノッている感じ(笑)。まだまだ注目し続けます。笑

Jean-Michel Jarre Mixed Reality Concert (Versailles 400) at Galerie des Glaces in Château de Versailles 25th December 2023
https://youtube.com/watch?v=SaLHTsAH9Dc…
オンライン鑑賞。「鏡の間」でライブなんてズルい。(笑) ネタバレになっても面白くないので(笑)、興味があるかたは、動画を最後まで見てご確認ください(笑)。「鏡の間」の中で見れた聴衆の皆さんにも「ちょ….ズルい!!(笑)」って言いたくなります。笑 相変らず新し目の曲が多いです。あと、コロナ時期に行ったVRライブでは各曲をショートバージョンにして曲数を多く、みたいな傾向がありましたが、ここでは各曲をフルで演奏する方向性が明らかに有って、私はこっちが好きですね。笑

exquise

今年も新しいアーティストを知ったり、古参アーティストの健在ぶりを確認できたり充実した音楽生活を送ることができました。
一方で高橋幸宏さんと坂本龍一さんの相次ぐ訃報はYMO世代だった自分にとってはかなりのショックでした‥

『Quality Over Opinion』(Louis Cole)(昨年のアルバムですが)
今年のフジロックのダイジェスト番組でとても楽しそうなステージが印象に残っていたルイス・コール。大物アーティストからも引っ張りだこの、すでに世界的有名なアーティストだと知りました。作曲・全ての楽器の演奏・ミックスを一人で手がけたというこのアルバムは、多彩なメロディが耳に楽しい聴いていると幸福感を味わえる作品です。
“Dead Inside Shuffle”  https://www.youtube.com/watch?v=mhRj1b8hVMc

『1982』(A Certain Ratio)
1977年から活動しているア・サートゥン・レイシオは、当初からファンクやジャズの要素を取り入れたカッコいい音が特徴でしたが、今年出た新作もそのカッコよさは相変わらずで、かつまったく古びていない新鮮な音を聴かせてくれました。ライブが見たい!と思わせるアルバムです。
“Tombo in M3”  https://www.youtube.com/watch?v=O6iJfje6FYQ

『Playing Robots into Heaven』(James Blake)
大好きなジェイムズ・ブレイクの新作は、彼自身の原点に戻ったエレクトロニック・ミュージック。中毒性のあるダンサブルなリズムと、実験的な音作り、そしていつもながらの美しい旋律が見事に調和し、くりかえし聴いていたくなるアルバムでした。
“Big Hammer”  https://www.youtube.com/watch?v=g_qWhdxiR7k

そしてもう1アーティスト付け加えさせてください。
『卵』『馬』(betcover!!)
今年はめずらしくライブにも数回足を運びましたが、そのなかでbetcover!!の音のカオスは衝撃的でした。彼らは全国でライブをしながら、昨年末に『卵』、そしてこの10月に『馬』をリリースする、というものすごい活動量の一年で、しかもどんどん進化しているのが頼もしい。柳瀬二郎君の色気のあるヴォーカルとどこか懐かしさを感じる旋律、そして思いもよらない言葉と言葉が結びつき新鮮なイメージに満ち溢れた現代詩のような歌詞がとても魅力的です。海外でも注目を集めていて、日本を紹介するフランスのサイトやアニエス・ベーのサイトでもインタビューを受けています。
“超人”   https://www.youtube.com/watch?v=39xoFcWXdns
インタビュー記事:
https://www.journaldujapon.com/2023/03/12/betcover-poesie-et-folie-en-musique/
https://www.agnesb.co.jp/campaign/40th/articles/25/



posted date: 2023/Dec/30 / category: 音楽
cyberbloom

当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
FRENCH BLOOM NET を始めたのは2004年。映画、音楽、教育、生活、etc・・・ 様々なジャンルでフランス情報を発信しています。

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