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FRENCH BLOOM NET 年末企画(1) 2025年のベスト音楽

text by / category : 音楽

去年はお休みしてしまいましたが、今年は年末企画が復活しました。第1弾は2025年のベスト音楽です。フランスの音楽を中心に、2025年の音楽を幅広く選んでいただきました。リンク先に飛んで音楽をお楽しみください。

nOrikO aka POiSON GiRL FRiEND

毎年お誘いいただいていたFRENCHBLOOM.NET年末企画のベスト音楽セレクション、

去年はお休みされたとのことで、今年も油断しており出遅れましたが、お誘いいただいてありがとうございます。

今年は私自身の海外ツアーが多く、家でゆっくりと愛猫と一緒にバンジャマン・ビオレを永遠リピートする暇もなく過ぎていき、春から楽しみにしていたバンジャマンと、そしてケレン・アンの新譜も気がついたら発売していて、発売日に楽しみに聴くということができませんでした。

年を取ると、どうしても若い頃に触れた音楽を追い求めてしまうという傾向がありますが、

ご多分に漏れず私もそのひとりになりつつ、反省もしております。

配信で曲単位で優れたフランスの音楽をたくさん耳にしておりますが、年末企画というとやはりアルバムですね。

特筆すると、サウンドトラックも多く手がけているLéonie Pernetの『Poème Pulvérisés』がツボでしたが、既にcyberboomさんが選出されていて嬉しく思いました。

ほんの少し満足度が少なかった9月発売のKeren Ann『Paris Amour』は記録として。

ミーハー枠の私としては今回、2000年代デビュー組のアラフィフ男の新譜を推していきます。

Bertrand Belin 『Watt』
1970年生まれ。薄いエレクトロニカ・サウンドに生のストリングスやピアノのシンプルなアレンジが絡み、彼の癖のあるヴォーカルとが奇跡的に心地よく融合されています。アンサンブル的にはとても旬な音で、勉強になります。彼の声さえ好きになれば一気にいけちゃいますね。

ケレン・アン&バンジャマンの旧友、一時期日本で歌手デビューもしていたKaren Brunonもヴァイオリンで参加しています。
https://www.youtube.com/watch?v=rOY83bO4m88

Vincent Delerm 『La Fresque』
1976年生まれ。相変わらず甘くて甘くて、日本人なら誰でも思い描く正統派フレンチ・ポップスの世界がここにはあります。フランシス・レイ好きならハマりそう。しかしここまでナヨ系のヴォーカルスタイルは、アングロサクソン系にはなかなかいませんね。そしてここにもKaren Brunonがヴァイオリン&コーラスで参加。
https://www.youtube.com/watch?v=iBdKvhj24zc

Benjamin Biolay 『Le disque bleu』
1973年生まれ。アルバム発売は10月ですが、5月からシングルを5曲も配信しており、アルバムが出る頃には少し古くも感じてしまったりもしたのですが、配信されていなかった裏の曲の数々が面白く、彼はことあるごとにUKロック好きをアピールしているのですが(インスタでスミスの曲を使ったり、ブラーのTシャツを着たりと)、その当たりの断片が聴こえてくると微笑んでしまいます。ギターの弾き語りを中心に構成されており、彼の今までのアルバムに比べると、かなりラフで、肩の力が取れた作品になっています。そしてフランス好きにはジョルジュ・ブラッサンスの “Les Passantes”のカヴァーあり。もちろん(笑)Karen Brunonもヴァイオリン参加。
https://www.youtube.com/watch?v=iBzTmlP1LtE

2026年も皆様にとって、幸せな一年になりますように。

Bonne année et bonne santé!

nOrikO aka POiSON GiRL FRiEND

わたなべまさのり

Natalie Dessay, Philippe Cassard / Oiseaux de Passage
私はクラシカルな歌唱法よりも豊かな表現の歌い方が有ると実感しているせいか、お気に入りのクラシカル・シンガーは少ないのですが、その少ない中の一人がNatalie Dessayさん。11月の来日公演(本アルバム収録曲も沢山演奏)も観に行きましたが、特に、あの微かな声で歌っている時の彼女の歌の音楽的な強さは、本当にシビれました。PA無しなので、空気だけを介してあの表現が聞けて、最高に幸せに感じました。

Ange / Cunégonde
私はバンドと30年近く付き合いが有るためか、昨年2月にステージから引退した唯一の結成メンバーでリーダー格のChristian Décampsさんから「Cunégonde聞いたら感想聞かせて」と言われていました(光栄過ぎる(笑))。以下が、私がChristianさんに送った感想の要約です。 私はフランス語の理解が追いつかないので音楽面の感想になります。Cunégondeはここ長い間で音楽的に最もフレッシュなAngeのアルバムですね。典型的なAngeではない瞬間が沢山あります。数曲で聞かれるシンフォニックなアレンジも、所謂典型的なシンフォニック・ロック的ではない新鮮さがあります。「Fruits & Légumes」の最後のインスト・パートはアルバム最大のハイライトの一つですね。音楽的に典型的なAngeではない上に、ドラムとギターが同時進行で即興的なダブル・ソロを展開。こんなAnge、想像した事も有りませんが、とてもいいです。Tristan (Christianさんの息子でもある) のリードボーカルが増えていますが、年齢を重ねた現在の彼のボーカルは味わいが増して、私は大好きです。

Marina Moore / Baroque Era
2023年のPeter Gabrielのツアーでバイオリン類を弾いていたのがMarina Mooreさん。演奏に好印象を持ったのですが、如何せんPeterの音楽ではクラシックのバックグラウンドを持つ彼女の力量が存分に聞けているとは思えず。ある日、Marinaさん個人名義のアルバムの知らせ。「彼女のバイオリン類の演奏が存分に聞けるにちがいない!」と飛びつきました。ところが!! 聞こえてきた音楽は、想像とは全くちがっていました(笑)。各種楽器やエレクトロニクスを用いて自身の音世界をつくり上げています。彼女のボーカル(数曲で聞ける)も音楽に調和しているし、印象深いメロディも沢山。そして曲間の静寂が短く、個別の曲を集めたコレクションというよりは、アルバム全体が一つの音絵巻のように聞こえる。これは驚きました(笑)。すっかり愛聴盤です。笑

irrrrri(いりー)

Stella & The Longos – Amour Propre
1980年代のズーク、ブギー的サウンドを鳴らすベルリンの多国籍バンドによるデビュー作。ハスキーなフランス語ヴォーカルがめっちゃ色っぽいStella Zekriはパリ出身で(ハウス寄りのDJ活動もしている)、2022年に発表したソロEP『Détends-Toi』も素敵だった。スイス-イタリアンのプロデューサーEd Longoが操るヴィンテージ・シンセにもうっとりさせられる。こんなレコードがバーでかかったら、もう1杯頼みたくなってしまう。
Bandcamp
https://stellathelongos.bandcamp.com/album/amour-propre

Various – Nouvelle Ambiance
2018年のリリース以来ずっと気になっていたこのコンピは、大阪のレコード店rare grooveを覗いたときに偶然見つけた。ブラザヴィル、キンシャサ、ドゥアラ、アビジャンなどアフリカのフランス語圏都市から、パリにたくさんの人が移動するなかで育まれたアンダーグラウンド・シーンにおいて、特にスタジオ・ワークが洗練されていった1980年代に焦点が当てられている。スタジオにはアフリカのみならずカリブ、ヨーロッパからのミュージシャンも集まり、スークース、ズーク、マコッサとビクツィ、ンバラ、サルサ、レゲエ、ディスコが混ざって新しい都市音楽が生まれ、ラジオやクラブでプレイされていたそうだ。挿入ブックレットに写っているパリピが気絶するほどおしゃれ。
YouTube
https://youtu.be/3ZRQmW9-V0Q?si=NNtLmWFiC3mSp0hQ

Aiko Takahashi – The Glass Harp
ブルターニュのレーベルlaapsから夏に届いた、スロベニアのノヴァ・ゴリツィア(イタリアとの国境の町)にて活動する邦人Aiko Takahashiのアルバム。ピアノとテープ・ループとドローンで作られた、かなり静かなアンビエントだ。落ち着いた時間を過ごしたいとき、でも無音じゃさみしいし、歌は必要ないかな、なんてときにふさわしい。あえて音量を上げて音に包まれるのもよい。聴き終わってから、あの音は何だったのだろう? と確認したくて何度も再生していた。
https://laaps-records.com/album/the-grass-harp

irrrrri(いりー)
富山県在住のDJ。ハウス、ディスコ、ポップソングを軸に、最近はアンビエントの感覚も取り入れつつレコードに針を落とす。月イチくらいで高岡駅前のリスニングバーmonosに登場している。
https://www.instagram.com/irrrrri

タチバナ

Théodora -『MEGA BBL』(アルバム)
テオドラことBoss Ladyは、コンゴ系移民の子としてスイスで生まれ、その後ギリシア、コンゴ、レユニオン島そしてフランス本土など、転々としたこともあって、彼女の音楽には、多様なルーツが混じり合っている。とりわけ、エレクトロな「ブヨン」(ドミニカの音楽ジャンル)と中毒性のあるリリックを武器に、この1年で一躍スターダムにのし上がった感がある(レユニオン島でもブヨンは聴かれていた模様)。表題曲の「BAD BOY LOVESTORY」を収めたアルバムは、収録曲の「Kongolese sous BBL」とともに昨年のリリースだが、今年、多くの有名アーティストが加わったアルバム『MEGA BBL』にも当然、収録されている。ちなみにTVでジュリエット・アルマネといっしょに歌った「Les oiseaux rares」もなかなか良いのでリンクを紹介しておく。略号のBBLは、「BAD BOY LOVESTORY」のイニシャルであると同時に、ブラジリアンバットリフトという美容整形手術のことで、テオドラは、ポディポジティヴからフェミニズムまで、政治的なコミットメントでも知られている。
「BAD BOY LOVESTORY」
https://www.youtube.com/watch?v=60kx774JRgg
「Les oiseaux rares」
https://www.youtube.com/watch?v=yV8Z4rn3444

ANGE -『Cunégonde』(アルバム)
そう、あのアンジュの新譜、かつてアンジェという誤表記とともにプログレッシヴロック界隈で知られてきたフランスのバンドが数年ぶりにリリース。プログレ要素はだいぶ薄まった気がしないでもないが、クリスチャン・デカンのシアトリカルな音楽性は健在だ。アルバム名のキュネゴンドは、ヴォルテールの風刺小説『カンディード』のヒロインの名前に由来すると思われる。表題曲の歌詞には、ボヴァリー夫人の名前も登場し、フランス文学のイマジネーションが散見される。そういえば、「ma Cunégonde(我がキュネゴンド)」と所有形容詞を付すと、愛する女性への呼びかけでもあって、従来、歌曲などで用いられて来たことも思い出される。かといって、アンジュの本作がそうした優雅なサロン音楽に寄せたものかと言えば、そうでもなく、『カンディード』のCunégondeが、フランス語のculやラテン語のcunnusをもじった言葉遊びとされることがあって、本作は、どうやらこちらに連なる性的な想像力が楽曲の終盤にあらわになっている。その気持ち悪さも含めて味わいどころではないだろうか。『カンディード』と言えば、晶文社から邦訳を出している堀茂樹氏がすっかり参政党のサポーターになっておられることを思い出した(氏は『知の欺瞞』の共訳者でもあるが…)。
「Cunégonde」
https://www.youtube.com/watch?v=1Ci_XtRvNBw

AQ -『S. E. A.』
京都の古都レコードがプロデュースするご当地アイドルグループと言えば、まず、漫画家のうすだ京介が関わって2021年に始動した「きのホ。」(キノポと読む)だろう。彼女たちは京都の一軒家住まいというコンセプトにくわえ、ヨーロッパ企画と提携して演劇公演ツアーをするなどして、メンバーたちが舞台度胸をつけてみるみる大きくなった一方で、楽曲面では、ハンサムケンヤというクリエイターが一手に引き受けていて、その癖のある音楽はかならずしも音楽好きに受けたわけではなかったと思う。さて、AQは、同じ古都レコード所属の妹グループで、24年に始動。EP音源は早い段階でリリースされたものの、姉グループと違い、ライブパフォーマンスも衣装姿も、ほとんど情報発信されていなかった。ところが、6月にアルバム『S.E.A.』がリリースされると、音楽サイトOTOTOYで大々的な特集が組まれ、MVではないが、Dance Videoもいくつか上がるようになって、生のドラム音で収録された楽曲とダンスパフォーマンスで、音楽ファンの支持を勝ち得てきたと感じる。注目すべきは、二人組の音楽ユニット「印象派」が楽曲提供していることにくわえ、古都レコードのプロデューサー新井ポテトの美意識が大きく反映しているように見える点である。例えば、新井氏はこう述べている。

「“ナハトムジーク”は、キース・リチャーズのバンド、X Pensive Winosのグルーヴを再現しようとしていますね。“夢見るサイキック”はケニー・ロギンスの“Footloose”のドラムサウンドを参考にしていますし、“KARUKUMAU”はNewJeansの“Right Now”のエッセンスが入っています。他にも“可愛げのない私”には、レッド・ツェッペリンの“Rock and Roll”の特徴的なドラムフィルが入ってますし、”SKUMSCAMSCUM”のラストもボンゾオマージュ。ツェッペリンでいうと、“水のないプール”のリフもそうですね。」
https://ototoy.jp/feature/2025061102/3

新井氏の挙げるリファレンスとともに、リリースされた音源や映像を見ると、音楽好きのプロデューサーが運営するインディーズのアイドルグループの楽曲がどのように作られているのか、その工程がいくらか浮かび上がって興味深い。ライブでもっとも盛り上がるのは、「SKUMSCAMSCUM」(スカムスカムスカム)だと思われるが、リファレンスとの関係では、「夢見るサイキック」や(ステッキを使って踊る)「KARUKUMAU」が味わい深いかと思われる。
「夢見るサイキック」
https://www.youtube.com/watch?v=VJodZVL-UW0
「Footloose」(Kenny Loggins)
https://www.youtube.com/watch?v=ltrMfT4Qz5Y
「SKUMSCAMSCUM」
https://www.youtube.com/watch?v=NuMMy0YCJlE

Mami Sakai (@Mami_SoulUnion)

①Damiano David 『FUNNY little FEARS』
イタリア・ロックのスーパーノバ Måneskin のヴォーカリスト、ダミアノ・デヴィッドによる初のソロアルバム。バンドとしてのワールドツアーを成功させた直後にリリースされた本作は、ロックというよりも、徹頭徹尾“どポップ”に振り切った一枚。
先行シングル「Born With A Broken Heart」は、ラ・ラ・ランドを思わせるロマンティックな映像美のMV、ハリー・スタイルズ的なアレンジと、計算され尽くしたメインストリーム・ポップの要素大盛り。
そして、歌詞では(あなたが言うように)完璧でありたいと願いながらも、どうしてもそうなれない自分が描かれる。ここで印象的なのは、Radio HeadのCreepの系譜でありながら、自己否定し、居場所のなさに沈むweirdoではない点。ダミアノは世界に合わせられないalienであることを名乗り、引き受け、時に誇る、そんな自己認識と開き直りが、この曲の中核にある。
かつてMåneskinメンバーに「歌い方がポップすぎてうちのバンドには向かない」と実は一旦振られていたという逸話さえ、伏線を回収した感がある。改めて、ダミアノは“最初からポップをやりたかった”のかもしれない。そして当然、ファンの間では賛否両論。「ロックを裏切った」という声も上がったが、本人はしれっと24歳で表現が変わるのは自然でしょ?と言い切っている。
本作を語る上で完全に切り離せないのが、ゴシップ的コンテクスト。10代から6年間交際していたイタリア人モデル、子宮内膜症などの女性疾患のアドボケイト、インフルエンサーの Giorgia Soleri と別れ、現在はアメリカのポップ・アイコン Dove Cameron と交際中。彼自身がインタビューで語ってきた恋愛の終わりと“個人的な再生の物語”。長く続いた過去の関係で精神的に暗闇にいたこと、新しい出会いによって「もう誰とも深く関われないのでは」という恐れから抜け出せたこと、それらの経験がこの曲の核になっている。これを受けてGiorgiaも、同曲のリリース直後、自身のInstagramに、過去の関係を一方的に定義され、彼の創作の中で巧妙に「悪役」に置かれたことへの深い傷を、暗喩的な表現で投稿している。
Måneskinはもう活動しないのか?という疑問を残したまま…
それでもこれは、2025年のヨーロッパ発ポップ・アルバムのひとつとして、素直に楽しめる1枚。
Damiano David – Born With a Broken Heart
https://www.youtube.com/watch?v=Z4-g8UXa944

②Videoclub シングル:「VHS」
恋は終わり、記憶だけが再生される。
2025年にリリースされた「VHS」は、非常に残念ながらフランスのシンセポップ・デュオVideoclubの“再結成”を意味する楽曲ではない。むしろこれは、Videoclubという短くも鮮烈だった物語に添えられた、静かなエピローグのように響く。
Videoclubは、俳優・シンガーの Adèle Castillon(2001年生まれ)と、プロデューサーの Matthieu Reynaud(1999年生まれ)によって結成されたデュオ。2018年に活動を開始し、「Amour Plastique」のヒットによって一気に注目を集めたが、彼らのプライベートの関係の終わりとともに、2021年に解散している。
彼らの音楽は当初から、恋愛関係そのものをクリエーションの中心に据えていた。
未熟で、甘く、壊れやすい感情が“現在進行形”で鳴っていたのが、Videoclubの最大の魅力だった。
しかし「VHS」で描かれるのは、その後の時間のようなもの。
タイトルが示すように、ここにあるのは生身の恋ではなく、VHSテープのように劣化し、ノイズを帯び、何度も巻き戻される記憶。
愛は確かに存在したが、もう触れることも更新することもできない。
この曲に、怒りや後悔はほとんどなく、あるのは、距離を取った視線と、静かな受容。
「忘れたい」のではなく、「過去として棚に置く」ための音楽という感じ。
だから「VHS」は、私を含めVideoclubの復活を期待するリスナーにとってはがっかりではある。さぞかし周囲からは“もったいない“と言われただろうな、と推測。恋愛や関係性がどうであれ、売れてるんだから商業的に続けろというプレッシャーがあったのでは?
けれど彼らは極めて誠実な選択をしたことになる。
関係が終わった以上、同じ物語を再生し続けることはできない。
その事実を、音楽の構造そのものが語っている。
まあ、終わったからこその美しさってあるよね!
「VHS」は、その美しさが記憶へと変わる瞬間を、淡く記録した一曲だと言える。
VHS – Mattyeux
https://www.youtube.com/watch?v=0hDgtcmDRdY

③Gros Cœur 『Vague Scélérate』
今年は個人的に、フレンチ(およびその周辺)ポップの当たり年だった。
このコラムを寄稿するにあたって、正直かなり迷った!
長年コンスタントに作品を出し続けている Kyo の、王道フレンチ・ポップ/ロックの「相変わらず感」は、もはや安心材料だし(もちろん褒めている)、なぜか深い意味はないけれど、墜落事故を起こした機体名を冠したという Vendredi sur Mer の『Malabar Princess』も、気づけばよく聴いていた。
みんな大好き Angèle も、英語詞の可愛らしいシングルを出しているし、候補はいくらでもあった。
そんな中で最終的に選んだのが、ベルギーの Liège とブリュッセルを拠点とする Gros Cœur 。
リエージュには、かつて一年半ほど住んでいたことがある。
人生で初めて鬱を経験した街でもあり、正直に言えば、遊ぶ場所も多くなく、不貞腐れて過ごしていた。
そんなある日、カフェで『Maggot Brain』 が流れていたのをきっかけに店員さんと話が弾み、インターネット前夜でほとんど告知されない、知っている人しか辿り着けないようなアンダーグラウンドのイベントやパーティに、少しずつアクセスできるようになった。
そうして初めて、リエージュには意外なほどインディーなアーティストを育む土壌があることに気づいた。表に出てこない、けれど確かに存在しているし、派手さはないが、芯の強さがある、かなりやばい(褒めてます)音楽やアートが生まれる街。
だから、Gros Cœur がリエージュ/ブリュッセル出身だと知ったとき、妙に腑に落ちた。情報がまだあまり出回っていない(おそらく意図的に)ところも含めて、どこかリエージュ的なインディーの気配を思い出させる。
ジャンルとしては、ローファイでミニマルな、ポストパンク的サイケデリック・ロック、と言えばいいだろうか。音楽的にも歌詞も、決して難解ではない。けれど、どこか一直線ではなく、少しだけズレている。その感じが、妙にクセになる。
他にも紹介したいアーティストは山ほどいた。
ただ、シングルカットもされている「Montréal」があまりに良かったこと、そしてリエージュ出身のインディー・バンドの多くが英語詞である中(たとえば Cocaine Piss は最高)、フランス語でこの空気感を鳴らしている Gros Cœur をリスペクトと共に選びたかった。そして、明け方まで遊んでいた私も今やウェルビーイング野郎なので(夜はなるべく早く寝たい)11月にはせっかくロンドンに来ていたのに行かず。
そんなこんなで、これは半分ノスタルジーでもある。
でも同時に、今のベルギー・インディーのリアルな手触りを感じさせてくれる一枚として、『Vague Scélérate』は、今年を象徴するアルバムのひとつだと思っている。
Gros Cœur – Montréal
https://www.youtube.com/watch?v=-uBfjBMtIlA

Mami Sakai (@Mami_SoulUnion)
ロンドン在住。パリ第7大学で記号学的フレンチ・ラップを研究。その後ドーバー海峡を渡り、心理学&機能性栄養学のセラピストに。ナチュロパシー・ジャパン・ファウンダー。

exquise

引越しして通勤距離が長くなり、移動中に音楽を楽しむ時間が増えました。

『PAPOTA』(CA7RIEL & Paco Amoroso)
昨年アメリカの音楽コンテンツTiny Desk Concerts に登場するや否や世界的に注目され、フジロックにも出演、ついには今年のラテン・グラミー賞5部門を受賞し、一気にスターダムを駆け上がったアルゼンチンの2人組、カトリエル&パコ・アモロソ(通称「カトパコ」)。チャラい見た目とは裏腹に、ヒップホップ、R&B、ジャズ、ファンクなどさまざまなジャンルを融合したハイクオリティのポップ・ミュージックをこれでもかと聴かせてくれて、わが家では一年中ヘビロテでした。日本だけでなく各国のフェスに参加してサービス満点のステージを見せてくれたうえ、今年末には新アルバム発表!というニュースまで飛び込んできていつ作ってたのよとびっくりしたのだが、リリーズ当日になってキャンセルと休養宣言が発表されて、逆に安堵した。ゆっくり休んでまた楽しいアルバムを作ってね。
“EL DÍA DEL AMIGO”
https://www.youtube.com/watch?v=Cq0jaj-eocI

『Lotus』(Little Simz)
カトパコも出演したフジロックに同じく登場したリトル・シムズのステージは力強くアグレッシヴで圧巻だった。サッカー日本代表のユニフォーム姿でクールなバンドメンバーを従えて観客を煽動しつつグルーヴに巻き込んでいく彼女はラッパーというよりもロックスターのようでメチャカッコよかった。長年信頼してきたプロデューサーと揉めて決別したあとに生まれたこの最新作は、怒りや不安を乗り越えて力強く前を向く「再生」のアルバムだそうで、エネルギーにあふれたこれまでの作品以上にすばらしい作品だった。
“Thief” (1曲目:live at Atelier des Lumières, Paris)
https://www.youtube.com/watch?v=4ilufFKFZdY

『Don’t Tap The Glass』(Tyler, The Creator)
2024年のベストアルバムは文句なくタイラー・ザ・クリエイターの『CHROMAKOPIA』だったのだけれど、この非常に完成度の高いアルバムを提げたワールドツアー中に出されたのがこの作品。『クロマコピア』と比べると軽い感じはするけれど、彼の音楽センスがここでも遺憾無く発揮されている。音楽だけなく、アパレルやアート、最近では映画の世界でも活躍しているタイラー、ワールドツアーの舞台演出も手の込んだものだったようで、東京公演行きたかったなあ‥
“Ring Ring Ring”
https://www.youtube.com/watch?v=7k1XxuTUWu0

最後に今年発見したアーティスト、Mei Semones メイ・シモネスも紹介させてください。お母さんが日本人であるアメリカ・ミシガン州出身の彼女の音楽は、彼女自身の言葉によると「ジャズとボサノヴァにインスパイアされたインディーJPOP」。アストラッド・ジルベルトが好き、というのも頷ける彼女の囁くような歌声とときおり聞こえてくる日本語の歌詞の組み合わせが心地よく、春夏にかけてよく聴きました。アニメのキャラクターチックなルックスも可愛いなあと思っていたらGUのモデルにもなっていた。来年すぐの来日公演が楽しみ!
“Dumb Feeling”
https://www.youtube.com/watch?v=wsdFtAyWP80

不知火検校

2025年は数多くのオーケストラが来日公演を行い、コロナ以前の状況に戻ったと言える。そればかりか、演奏の充実度はかつてないほどのレベルに達しているかもしれない。そんな中、別格のウィーン・フィル(C・ティーレマン指揮)、ベルリン・フィル(K・ペトレンコ指揮)の演奏会を除けば、最も注目すべき演奏会はクラウス・マケラ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による日本ツァーであっただろう(2025年11月11日~18日、京都、群馬、兵庫、神奈川、東京)。2027年からコンセルトヘボウとシカゴ交響楽団の首席指揮者を兼任するという地位にまで上り詰めたこの若き天才指揮者については恐らくこれから何度も語ることになると思うので、今回はそれ以外の演奏会から記憶に残ったものを選んでみよう。

1. アンドラーシュ・シフ指揮カペラ・アンドレア・バルカ(2025年3月25日、京都コンサートホール)
巨匠アンドラーシュ・シフが1999年に設立した室内オーケストラ、カペラ・アンドレア・バルカが6年ぶりに来日公演を行った。今回は「オール・バッハ・プログラム」と「オール・モーツァルト・プログラム」の二種類の演目が用意されたが、京都は後者。シフはピアノ協奏曲の20番と23番では弾き振りを行い、交響曲第40番では指揮に専念するという形態である。さすがに四半世紀にわたって活動を続けてきただけあって、指揮者と管弦楽の息がぴったりと合い、絶妙なアンサンブルを繰り広げた。現在、ピアニストが率いるオーケストラと言えば反田恭平の例があるが、カペラ・アンドレア・バルカは若い彼らにとっては見本ともなる楽団であろう。2026年で解散するのは実に惜しい。

2. ウラディーミル・ユロソフキ指揮バイエルン国立管弦楽団(2025年9月27日、ミュ
ーザ川崎シンフォニー・ホール)
500年の伝統を持つバイエルン国立歌劇場の管弦楽団が8年ぶりに来日して公演を行った。ミューザ川崎ではメインのプログラムがブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」、中プロがモーツァルトのピアノ協奏曲第23番(ピアノはブルース・リウ)、そして前プロはワーグナーの楽劇「タンホイザー」序曲という内容。ブルックナーの最高傑作とも言うべき交響曲が素晴らしかったのはもちろんだが、第18回ショパン・コンクールで優勝したピアニストであるリウが演奏する協奏曲はやはり圧倒的だった。この水準の演奏を聴くことができるミューザ川崎のようなコンサートホールが存在している神奈川県に対してはやはり羨望の念を感じるが、意外にも客席には空席がチラホラ。この演奏会を聴かないというのはまことにもったいないとしか思えなかった。

3. チョン・ミュンフン指揮ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団(2025年9月
24日、サントリー・ホール)
話題のピアニスト藤田真央がソリストとして登場するということで、サントリー・ホールに駆け付けた。前プロはヴェルディの歌劇「運命の力」序曲、中プロはベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番、メインはブラームスの交響曲第4番という内容。藤田のピアノは軽やかで確かに素晴らしい。しかし、今回の曲はベートーヴェンの傑作中の傑作。数々の名演が残されており、嘗てならポリーニ、最近ならグリモーなどが得意としている曲であるため、どうしてもそれらと比較してしまうことになるのは致し方ないであろう。もちろん潜在的な能力は並外れているので、今後の演奏に期待したいと思う。ミュンフンの曲の解釈には昔は頷けない部分があったが、彼も最近は枯淡の境地に達しつつあるかのようだ。ミラノ・スカラ座は相変わらず煌びやかな音を出しており、イタリアを代表するオーケストラは「今も健在なり」という印象であった。

cyberboom(FBN管理人)

Léonie Pernet『Poèmes pulvérisés』
L’impératriceからボーカルのFloreが抜け(パワハラがあったとFloreが告白。新しいボーカルで今年来日)、La FemmeからClémence抜け(だいぶ前だけど)、一体何を聴けばいいのかとしばらく途方に暮れていたが、今年は何人かの仏アーティストを発見した。4年前に高い評価を受けたレオニー・ペルネのセカンド・アルバム『慰めのサーカス(Le Cirque de consolation)』(2021)には「マルドロールの歌」という曲が含まれていて、こういう「文学的な」アーティストがまだいるのかと驚いた覚えがあるが、今年発表されたの新作のタイトル『粉砕された詩(Poèmes pulvérisés)』は、彼女がニジェールからの帰路で読んだルネ・シャールの詩集に由来している。彼女がニジェールを訪れたのは、ニジェール出身の父のルーツを求めて、その家族を探しに行ったのだ。そのふたつの経験の重なりがインスピレーションとなったという。彼女は今年のカンヌ映画祭のクイア・パルムの審査員をしていたことも特筆すべきだろうか。
Réparer le monde : https://youtu.be/yXGtwzZZmOE

Miki『Industry Plant』
一方、Mikiはフランス系コリアンである(母親が韓国人)。フランスの音楽シーンの多文化的状況を体現しているが、新しい世代に移行し、アイデンティティも複雑化し、音楽もさらにこなれたものになっている。Mikiは今年の10月、アルバム『Industry Plant』をリリースしたばかりだが、SNSでの拡散をきっかけに注目を集めた。彼女に対する「Industry Plant(業界が作った存在)」という批判をアルバムのタイトルに使う批評性も持ち合わせているようだ。彼女は自らの音楽をラップとエレクトロを融合した「エレクトロ・ポップ」を標榜している。同世代の多くがそうであるように、彼女はマンガやビデオゲーム、アニメから影響を受けているようだが、そこに見られる「背徳性とナイーブさ」の同居に強い印象を受け、そこから学んだ「可愛さと不穏さ」の境界線にある美学を目指しているという。
Miki – particule : https://www.youtube.com/watch?v=9_wLT8MXf_I

Kids Return『1997』
Kids return は、2021年に結成されたフレンチ・インディバンド。アドリアン・ロゼとクレモン・サヴォワの二人組。90年代を思わせる懐かしさを秘めた音を奏で、今年出た新しい作品のタイトルがまさに『1997』。それは彼らが生まれた年であり、彼らの名前の由来である北野武の映画がフランスで公開された年でもある(日本公開は96年)。また彼らの先輩、ダフト・パンクの『Homework』が発表されたフレンチタッチ元年でもある。彼らの音からは90年代のイギリスの音、そしてAIR(ビジュアルもAIRっぽい)やPhoenixが聞こえてくる。個人的にはMy Heroという曲がグッときた。
My Hero: https://youtu.be/B3bzze9P0sI?si

Justice – D.A.N.C.E.のMVを2007年によく目にしたが、去年出たJustice – NeverenderにはTame Impalaが参加し、今年にかけて盛り上がっていて、その80年代アニメ風のMVは日本人クリエーターが制作している。ダフト・パンクと松本零士な感じ。今年はTortoise(トータス)の新しいアルバム『Touch』が出た。1998年に出た『TNT』など、シカゴ音響派と呼ばれたこのグループも90年代によく聴いていた。あと、ここ数年、ゆらゆら帝国をよく聴いている。彼らの全盛期は、ちょうど子育てに突入した時期と重なっていて、その頃、ロック系の音を聴いた記憶がまるでない(胎教や情操教育と称してクラシックばかり聴いていたのかも)。ゆら帝、ライブ行きたかったなあ。
また今年は芦屋の山奥で行われるテクノイベント、「テクノヶ丘」に初めて参加した。芦屋の山奥の老舗旅館「大悲閣」の大広間の畳の上で踊る。ちょっとやそっとで驚かない歳になったが、あの異空間ぶりには幻惑された。隔離された芦屋の超高級住宅街の桜並木(これも一見の価値があった)を通り抜けた先に繰り広げられる、まさに春の夜の夢。エレクトロなPhewさんのライブも堪能。来年は徹夜で参加したい。
Justice – Neverender : https://www.youtube.com/watch?v=b3I2_IIz2DA



posted date: 2025/Dec/29 / category: 音楽
cyberbloom

当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
FRENCH BLOOM NET を始めたのは2004年。映画、音楽、教育、生活、etc・・・ 様々なジャンルでフランス情報を発信しています。

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