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フランスの「アンダーグラウンド」ポップのショーケース、ラ・スーテレーヌ (La Souterraine)

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今から約1年前の2014年1月、パリのレーベル Almost Musique の代表者バンジャマン・カシュラとパリのラジオ局アリグル FM のDJだったローラン・バジョンが中心になって、フランス語で「アンダーグラウンド」を意味するラ・スーテレーヌ(La Souterraine)というサイトを立ち上げました。以前から Almost Musique では Mostla というサイトでミックステープを無料でダウンロードできるようにしていたのですが、La Souterraine ではフランス語で歌うアーティストに限定した選曲のコンピレーション(全て10曲入り)を無料でダウンロードできるようにしています。このサイトが音源を紹介する唯一の条件は、「YouTubeでほとんど紹介されていない」ということなので、フランスでもまったく知られていないミュージシャンがほとんどですが、商業ベースに乗らない良質なフランスのインディーポップをたっぷり聴くことができます。アーティストごとのミックステープもたくさんありますが、初めてのひとはまず、今のところ4枚出ているコンピレーションから聴いてみるのがいいでしょう。すべて無料でダウンロード可能ですが、ストリーミングでも聴けます。

La Souterraine のホームページから、今のところ最新のコンピレーション Vol. 4 のリンクをクリックしてみましょう。Buy Now というところをクリックして、自分のメールアドレスを送信すると、ダウンロード先の Bandcamp のリンクが送られてきます。Name your price とありますが、0でもまったく問題ありません。スパム扱いされる可能性があるので、もしメールが届かなかったら、スパムを確認してみましょう。

このコンピレーション第4集には、有名アーティストのレティシア・サディエ(元ステレオラブ)の素敵な未発表曲が収録されていますが、他は全部ほぼ無名です(ある程度知名度のあるグループのメンバーのソロ活動などはあり、例えばリッキー・ハリウッドはメロディーズ・エコー・チェンバーのドラマーのソロプロジェクト)。この中で特に耳を惹くのが、アルマ・フォレールという女性歌手です。ほぼ情報がありませんが、1993年生まれのパリ在住のフォークシンガーということで、去年の9月に4曲入りデビュー EP を出したばかりです。最近の北米には孤独を響かせる女性フォークシンガーが多いですが、まだフランスでは珍しいと思います。

Alma Forrer – Bobby (tes nuits) (YouTube)

もしこの Vol. 4 が気に入ったら、最初の Vol. 1 から聴いてみましょう。ここに入っている10曲の中では、タラ・キング TH の曲が信じられないほどに美しい曲です。特に後半のハープシコード風キーボードの展開がいいです。

Tara King th. – L’enquête (YouTube)

このグループは10年以上前から活動していて、かなりキャリアが長いのですが、現在はフィジカルの録音物を出すのが困難な状況になっているようです。このグループだけの10曲入りミックステープもラ・スーテレーヌにあるので、こちらもおすすめです。

4枚のコンピレーションの後は、他のアーティストごとのミックステープを聞いてみるのもいいでしょう。このサイトで紹介されているアーティストの中には、タラ・キング TH のように、かなりキャリアが長いグループもあります。ラ・スーテレーヌのいちばん最初のミックステープは、2005年頃から活動しているトゥールーズのプログレジャズロックグループ、アクアセルジュによるものでした。アクアセルジュは同じくこのサイトでミックステープが紹介されている「メロドラマティックフレンチポップバンド」、イペールクリーンと密接な関係にあるグループですが、私が2014年のベストアルバムに選んだムードイドのパブロ・パドヴァーニ(トゥールーズ出身、メロディーズ・エコー・チェンバーのギタリスト)は、この二つのグループに大きな影響を受けたと語っています。現在オーストラリアのグループ、テイム・インパラのドラマーであるジュリアン・バルバガロはこの二つのグループのドラマーでした。ちなみにイペールクリーンのメンバーの別ユニットUEHは、日本のアシッド・マザーズ・テンプルのレーベルからCDを出したことがあり、アクアセルジュはロック・イン・オポジションのコンサートの出演経験もあるそうです。

Aquaserge – À l’amitié (YouTube)

そもそもこのラ・スーテレーヌというレーベルが話題になったのは、フランスの総合文化雑誌テレラマでニコラ・ポーガムのミックステープが紹介されたのがきっかけでした(テレラマの年間ベストアルバムの一枚にも選ばれています)。ニコラ・ポーガムは1970年生まれで、90年代に組んでいたダ・カーポというグループのCDは日本で出たこともあります。キャリアが長いとはいってもまったく無名だったのですが、去年テレラマで取り上げられたことで注目され、フィジカルのソロCDを出すことができました。

Nicolas Paugam – J’ai connu une colombe (YouTube)

90年代末から活動する男女デュオ、ホールデンのギタリスト、モックが別の女性ヴォーカリスト、クレール・ヴァイェと初めた新しいプロジェクト、ミジェットのミックステープも素晴らしい出来です。ミジェットは去年 Bois et charbon という CD を出しています。モック自身も L’anguille というソロアルバムを出しましたが、ラ・スーテレーヌのソロミックステープもあります(インストルメンタル作品)。

Midget – L’occident (YouTube)

無料のミックステープを提供するプラットフォームで、たとえこのレーベル独自のCDを出しているとしてもほとんど流通していないような状況なので、話題になっているとはいってもその広がりは限られていますが、たとえばフランス国営ラジオの音楽専門局 France Musique のインディーポップを紹介する番組 Label pop の年末の2014年度新人アーティスト特集番組では、英米の新人に混じって紹介されたフランスの新人アーティスト4組がすべてラ・スーテレーヌ関係(アルマ・フォレール、シュヴァルレクス、ミジェット、モック)でした。このように、一部ではかなりの注目を惹きつけているレーベルだと言えます。ヒップホップ界隈ではこのようなミックステープは既に普通のものですが、インディーポップではまだ珍しい試みだと言えるでしょう。このような試みが将来どのような実を結ぶのかはまだわかりませんが、注目をつづけていきたいと思います。

ともかくフランス語で歌われる最新ポップスが無料でダウンロードして聞けるなんて、これほどうれしいことはありません。「アンダーグラウンド」とはいっても、どろどろしていたりとっつきにくかったりするものではありません。それでも特に売れるための配慮をした音づくりをしていないので、「アンダーグラウンド」ならではの自由な気風を感じとることができると言えるでしょう。現在の商業的なヴァリエテ・フランセーズに不満があるひとの中には、むしろ「こういうフレンチポップスが聞きたかった」と思うひとも多いのではないでしょうか。

アクアセルジュと UEH のメンバーであるオードレー・ジネステはこう言っています。「ラ・スーテレーヌのコンピレーションのコンセプトは、『マジョリティは何者でもなく、マイノリティが全てだ』というドゥルーズのことばをどこか思い出させます。ラ・スーテレーヌはマイノリティであり、全てなのです。」 きっとメジャーの音ではなくて、このようなインディーズの音こそが本来は多数派であり、ここから新しい動きが生まれてくるのでしょう。

@futsugopon

PROFILE:私はここ数年アフリカ方面で日仏通訳をやっています。来春には帰国の予定です。
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