フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

あるうち読んどきヤ! 『パリは燃えているか?』 ドミニク・ラピエール&ラリー・コリンズ

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パリ解放—と聞くと、思い浮かぶのがモノクロのニュースフィルムの映像。満面の笑みをうかべたパリ市民。美しいパリジェンヌ達の大歓迎を受ける陽気なアメリカの兵士達。フランスの地を再び踏んだド・ゴール将軍。つらい時代が終わった良き日、お祭り騒ぎの日、という漠然とした印象を持たれるのではないでしょうか。

パリは燃えているか?〔新版〕(上) (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) この歴史的な日にいたるまでのプロセスに焦点をあてたのが、今回ご紹介するノンフィクション。「パリを失うのはフランスを失うのと同じ」と考えるヒトラーの厳命によりパリを爆破する準備を着々と進めるドイツ占領軍と、ド・ゴールの執念に押される形でようやくパリへ進路を向けた連合国軍の2つの勢力の動きを丹念に追い、パリが「あの日」を迎えることができたのは必然ではなく奇跡に近いことであったことをを教えてくれます。また、パリは無傷で解放の日を迎えたわけではないことも明かされます。連合軍を待ちきれず蜂起した市民とドイツ軍との間で血が流され、連合軍入市後も抵抗するドイツ軍との間で戦闘が行われたのです。解放後のフランスを巡るド・ゴールのフランス臨時政府とレジスタンスの共産党グループの思惑とかけひきも書き込まれていて、きれいごとで終わらせないのもこの本を深いものにしています。

しかしこのノンフィクションが数多ある歴史秘話本の一冊とならず、今なお血の通った名作として読み継がれているのは、パリ破壊の最終指令を下せなかった占領軍トップ、コルテッツ将軍をはじめとした歴史上の有名人を登場人物とする大きな物語を追うだけでなく、その場その時を生きた名もなき人々の数知れぬ小さな物語も徹底的に拾いあつめているからでしょう。解放までの1944年8月の数週間の一日一日が、こうした人々の取ったてんでばらばらな行動と発言をモザイクのように組みあげて再現されています。ワンカット、ワンシーンの積み重ねが1本の映画になるように、一人一人が何をし何を話したかが積み重ねられ、この本を作っているのです。軍人、レジスタンス、刑務所から強制収容所へ列車で移送される人々と、その列車に乗っている夫を自転車でどこまでも追いかける妻。ドイツ兵と逢い引きするパリジェンヌ。市内に潜伏するアメリカ兵。解放後の大もうけを狙ってパリで興行を準備するサーカス団長。劇的なことも、ユーモラスな話も、雑多な一コマ一場面が、ごく簡潔な言葉で鮮やかに描写されています。ひきしまったいい映画の印象的な場面を見るかのように。

こちらが思うよりはるかに多くの人が、レジスタンス運動に関わっていたのにも驚かされます。当時のフランス人の誰もがレジスタンスだったわけではないのは事実ですが、それでもあらゆる階層の数知れない人々が、細分化された任務を秘かに果たしていたのです。人をかくまったり、自転車で情報を運ぶ等日常生活の一部を活動に捧げた人、「煙草を買いにいってくる」と言い残して、自由フランス軍に加わるため北アフリカへ向かった人。貢献の仕方はそれぞれです。が、その行動に「愛国心」といった大きなスローガンが見えないのが印象的でした。誰のためでもない、ただ今の状態を受け入れることが私の信義に背く事だから、動く。そうした一個人の決断が結果として歴史を動かしたのです。

名著と言われつつも長らく絶版でしたが、この度ついに復刊されました。上下巻ある長い本ですが、ぜひ腰を据えて、頁をめくってみて下さい。(この本を原作にしたオールスターキャストの映画を見たからいいやと思っているあなたにはぜひ。本当におもしろいところを知らずにいるなんてもったいない!)読み終わった後、パリの街が違った目で見えてくるでしょう。時を告げる教会の鐘の音も、特別な思いで聞くはずです。

 


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GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。 門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。