フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

Jaw-dropping! — “The Artist” 以前のジャン・デュジャルダン−

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2012年のオスカーレースは、蓋を開けてみればフランス映画 “The Artist” の独り勝ち。戦前の黄金期のハリウッドを舞台にしながらヒーロー、ヒロインを演じたのはフランスの俳優、しかも映画の作りは基本的にサイレント映画。“音”として英語のダイアローグが聞かれるのは最後のワンシーンだけ、という異色作なだけに、正直ここまで賞を取るとは思いませんでした。特に驚かされたのは、主演男優賞に輝いたのが、この映画で主役を演じたジャン・デュジャルダンであったこと。まだオスカー像を手にしていない今のハリウッドを代表する男優達が、いい仕事をしてノミネートされていたのに、です。

公開された映画を見て、票を投じたアカデミー会員の気持がよくわかりました。ジャン・デュジャルダンなしにはこの映画はなりたたなかったし、映画が放つ何とも言えない多幸感−あの頃のハリウッドスターがみなぎらせていた、その姿を見るだけで心躍るような軽やかな雰囲気—をデュジャルダンが見事に体現していたからです。また、感心させられたのは、主人公の心模様がよく伝わることです。今の映画では観客の読み取り方でいかようにも取れる「自然な」演技が当たり前ですが、デュジャルダンの演技には、ふた昔前の映画の演技がそうだったように、曖昧さがありません。サイレンスという特殊な条件のもとでとはいえ、今のハリウッドを探しても、そんな雰囲気と芸を兼ね備えた俳優はいないのではないでしょうか。

ジャン・デュジャルダンがどうしてそんな「奇跡」をやってのけたのか?これは彼が、身ぶりや立ち姿、表情を意識的に使うことが出来る人であるからだと思います。この映画は俳優から、演じる際の大事なツールである「声」を取り上げてしまいました。カメラが捉えるのはあくまでビジュアルのみ。俳優の個性や魅力が封じられかねない状況です。しかし、デュジャルダンは「見た目」を繊細に操って、難しい状況をなんなくクリアしています。

アザナヴィシウス監督は、デュジャルダンの演技についてこう語っています。「彼の表情やボディランゲージは、クローズアップだけでなく、ワイドショットにもぴったりはまるんだ。」役になりきる一歩手前で、自分の動きや表情に意識を飛ばしごく自然にみせられる。それは彼の“本来”のキャリアの賜物なのかもしれません。

そもそも、フランス本国でのデュジャルダンの肩書きは、かなりロウブロウな笑いもこなす「お笑い畑の人」。近年ではセザール賞を受賞するなどシリアスな俳優としての仕事も増えてきつつありますが、根っから笑いが好きな人なのです。人を笑わせ楽しませたい・・・そんなシンプルな望みが、彼のキャリアを作ってきました。

パリ郊外のミドルクラスの家に4人兄弟の末っ子として誕生したデュジャルダンは、子供の頃からおちゃらけをするのが大好き。手の込んだ悪ふざけをしかけては家族をはじめ回りの人を笑わせていたそうです。20代半ばから鍵屋さんで働きながら、バーやキャバレーで自作のコントやパロディを演じ始めます。

彼がフランス国内で広く知られるようになったのは、7分ほどの短いコメディ番組、”Un Gars, Une Fille” で主役を演じてから。平均的な若いカップルのありふれた日常生活に起こるおもろい瞬間を切り取った、各回完結のシットコムです。後に実生活でも奥方となるアレクサンドラ・ラミーとのセキララな丁々発止が笑いを誘いますが、おかしなシチュエーションを更におかしくしているのはデュジャルダンの変化に富んだ表情と身ぶり手振り。元気なパートナーに押され気味の「彼」の無言のニュアンスを雄弁に伝えて、笑いをとっています。

常識破りのおバカキャラを演じる時には、この表現のスタイルがさらに顕著となります。例えば、「超」のつくアメリカ西海岸かぶれで、乗る波がないのにサーファーをきどる世間知らずのあほボンキャラ、Brice。フランス国内で大評判となり、彼を主人公にした映画は400万人を動員する大ヒット作となった、デュジャルダンの当たり役です。レッチリのアンソニー風の金髪をなびかせて(!)薄ら笑いを浮かべつつサーフボードを持って街をうろつくBriceは、やることなすことむちゃくちゃ。それだけでも十分おかしいのですが、愛すべきおバカさんとでも言いたくなるようなものも持ち合わせています。

このイノセントなおバカさを表すのに一役買っているのは、デュジャルダンの表情と身振り、手振りです。例えば、映画版での、勤め先の高級レストランでグルメを気取った客をついからかってしまう場面。繊細に変化する顔の表情だけで食通気取りのアホらしさを皮肉って笑いにつなげるだけでなく、そういうことをしてしまう Brice のあっけらかんとした無邪気さを伝えてくれます。

デュジャルダンが創り出したこの Brice というキャラクターが持つ、カリフォルニアの青い空的な軽薄な明るさは、“The Artist” のジョージ・ヴァレンタインの、この上ない軽さにどこかつながっているように感じます。喜劇俳優の仕事は、笑いを生み出す状況を明快に演じること。心理内面うんぬんは忘れて、あるシチュエーションにおかれたキャラクターを明確な輪郭線で演じる技が求められるわけですが、喜劇俳優として人物の表層を重くならずに的確に演じ分ける訓練を積んできたことは、生活感のない、マンガチックでもある軽い人物を演じるのに、少なからず役立っているのではないでしょうか。

既にフランスでは “The Artist” 後の作品が公開されているデュジャルダン。「トーキー」映画でも本格俳優として世界を唸らせるのでしょうか。見守りたいと思います。

お笑い集団 Nous C Nous の一員として活躍していた時のデュジャルダン。 ボーイズグループの大げさなプロモクリップのパロディ。 youtu.be/1_qDDK6wOVE

“Un Gars, Une Fille” はこんな番組です。 youtu.be/XlMOdKwRtKg

映画Brice de Niceより。強盗に入ったはずの銀行で、ディスコの名曲にのって踊り狂ってます。デュジャルダンの身のこなしが楽しい。 youtu.be/kxlChd6ri0Y

レストランでの一場面。客をからかう Brice youtu.be/vv7FKARqNcA

テレビで Brice を演じるデュジャルダン。いかれポンチです。 youtu.be/z6-6mVfIZMo

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GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。 門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。