フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

ノマド・ワーキング・スタイル(2) 新しい移動の形

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これまでの仕事の移動として注目されたのはビジネスマンの旅行や出張だ。20世紀は速度と航空力の向上によって人間の活動範囲が拡大した世紀である。ジャック・アタリは、裕福な根無しのエリートたちが快楽とビジネスチャンスを求めて世界をジェット機で飛び回り、一方で貧しい根無しの労働者たちが生活と仕事の場を求めて移民すると次の時代を予言した。ノマドという言葉は前者に結び付けられ、初期のモバイルフォンは世界を飛び回るエリートたちをターゲットにしていた。

しかし今は移動することの様相が変わってしまった。今や彼らはジェット機に乗り込むことなく場所を変えるのだ。どのくらいの距離を移動したかはもはや関係がない。時間と場所と他者との新しい関係に入っている。これまで移動時間は無駄な時間であり、切り詰められるべきものだった。ジェット機はその時間を速やかに埋めてくれた。私たちは新しい移動によって目的の情報、目的の場所と瞬時につながることができる。あるいは、すでに、常につながっている。

年間20万マイル旅をしていたアメリカのコンサルタントがITを使うことで旅ガラスの生活に終止符を打った。アメリカでWEBデザイナーやプログラマーがどのような仕事ができるか、どのくらいの報酬が欲しいか、サイトに打ち込んでおくと、企業がそれを見て、条件が合えばネット上で契約が交わされる(Elance という世界中のフリーランスを結びつける国境を越えたサービスもある)。仕事を探しにあちこち出歩く必要もないのだ。

このような事例が佐々木俊尚著『仕事をするのにオフィスはいらない』の冒頭で紹介されている。また Facebook や LinkedLn などの SNS は今や「職を得、生計を立てる」ための良質な「人のつながり」を求める際の世界標準になりつつあるようだ(『ウェブで学ぶ―オープンエデュケーションと知の革命』参照)。 マニュエル・カステルによれば、2000年までの研究では「家」が多機能的な中心になり、テレワーク=在宅勤務が普及するといわれていた。

しかし実際在宅勤務はそれほど広がらず(アメリカでも6%程度)、しかもそれは必ずしもネットを使うものではなかった。仕事の柔軟性の高いアメリカですらそうなのだ。むしろ専門的な知識や技能を持つ労働者がネットや携帯で会社と連絡を取りながら多くの時間を現場で過ごし、クライアントやパートナーと交流するということが起こった。現在の労働のモデルはテレワーカーではなく、ノマドな労働者なのだ。ネットによって仕事の空間が複合的に配置されることになった。ほとんどの人々には毎日通う職場があるが、一方でそれに加えて自宅や現場で仕事をし、電車でも飛行機でも、空港でもホテルでも仕事をし、そしていつでもつながっている。

どうすればノマドワークスタイルを実践できるのか、という問いに対して、佐々木俊尚は「アテンションをコントロールする」、「情報をコントロールする」、「仲間とのコラボレーションをコントロールする」ことを挙げている。またそれを支援する具体的なツールを紹介している。確かに EVERNOTE や Mind42 は便利だ。彼がノマドワークスタイルの例として挙げているのは、自身のようなフリーランスのジャーナリストや、ソフトウェアの開発者である。そういう仕事だったら確かにノマドワーキングを実践できるだろうし、「都会の砂漠を気軽に移動」しながら仕事をしている実感を持てるだろう。

「正規雇用が当たり前だった時代は過去のものとなり、すべての人間が契約社員やフリーランスとなる社会へ移行しつつある」と佐々木は言うが、日本の非正規の労働者がそのままノマドなフリーランスになれるわけではない。非正規の仕事の多くはノマドという牧歌的なイメージからは程遠く、やはりそれは職種や仕事の業態に多くを負うのである。それに加え、アメリカでフリーランス化が進みやすいのはもともと雇用の流動性が高く、労働契約を個人化しやすい下地があるからだ。アメリカではすでに生活の安定を引きかえに組織に忠誠を誓うという従来の労使関係が崩れつつあるし、IT技術のおかげでさらに起業がしやすくなったという状況がある。

しかし日本はなかなかそうはならない。 とはいえ、ノマドワークは、ジャーナリストのような情報を収集し、それを編集する仕事と最も親和性があるように思える。21世紀の移動は、街の風景とネットの世界を重ね合わせ、街の中をさまよい歩くことと、ネット上の情報を拾い集めたり、バーチャルな世界と戯れたりすることがパラレルであるように錯覚する経験である。19世紀のフランスの詩人、シャルル・ボードレールが自身を詩の題材を求めて街をさまよう屑屋 chiffonnier (今で言えば廃品回収&リサイクル業者)になぞらえたことを思い出させる。その情報版と言えるだろう。それが直接プロフェッショナルな仕事と結びつかなくても、それを実践する人々はすでにプロの卵のような情報編集者であり、情報発信者である。報酬を伴わないものだとしても、ブログやツィッターの出現で、そのような行為が生活の重要な一部になっている人々が圧倒的に増えたことはまちがいない。それは日常を豊かにするクリエイティブな行為でもある。(続く)

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