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音楽で観るフィギュアスケート

text by / category : その他

みなさま、大変ごぶさたしています。昔々に何度か書かせていただいていた、このテーマ、しばらく投稿からは遠ざかっていましたが、オリンピックも開かれた今シーズンは大変に盛り上がり、今回ばかりは黙っていられませんでした(笑)。 2017-2018のシーズンを「音楽」という観点から振り返った感想で、羽生君もザギトワさんも出てきませんが、いっときの間おつきあいください。

“Cold Song” – Felipe MONTOYA (ESP)
平昌オリンピック男子シングルの1番滑走者だったスペインのモントーヤ選手。全身純白の衣装も目を引きましたが、流れてきた曲がクラウス・ノミの「コールド・ソング」だったので、おおっと思ってしまいました。クラウス・ノミは80年代初頭に活動していたドイツのミュージシャンで、オペラやダンス・ミュージックを融合したユニークな音楽を発信していましたが、なかでも「コールド・ソング」はもともとソプラノ歌手をめざしていた彼の代表曲です。39歳という若さでエイズで没した彼の音楽がこんな形でよみがえるのを見られて嬉しい。
https://youtu.be/Cazlt_tdY0w

“Nemesis”- Nathan CHEN (USA)
曲想を表現するのも難しいうえに、4回転ジャンプを次々と組み込むのですから、ハイレベルな技術の持ち主であるネイサン・チェン選手にとってもこの曲をオリンピックシーズンに選ぶのはかなり挑戦的だったことでしょう。金メダル有望だった平昌オリンピックではこのショートプログラムでつまずき、表彰台を逃してしまいましたが、その後世界選手権では高得点を叩き出し、ぶっちぎりで優勝を果たしました。ハイテンポな3拍子の曲にのせたベンジャミン・クレメンタインのワイルドなヴォーカルに、クールな風貌のネイサンがばんばんジャンプを跳ぶのが痛快なプログラムです。
http://www.fgsk8.com/archives/post-76309.html

“Eyes Wide Shut soundtrack” – Giada RUSSO (ITA)
昨シーズンのヨーロッパ選手権での個性的なプログラムが印象に残っていたイタリアのジャーダ・ルッソ選手。今シーズンも、映画『アイズ・ワイド・シャット』のサントラというなかなか他にはない選曲をしてきました。スタンリー・キューブリックの遺作に使われた音楽は、妻が浮気する妄想に苛まれる夫(トム・クルーズとニコール・キッドマンという当時夫婦だった二人が主演)の物語にふさわしく謎めいてダークな曲調で、振り付けも独特でした。なぜ、この曲を選んだのかジャーダちゃんに聞きたい! ちなみにフリー・プログラムでは、ペドロ・アルモドバル監督の『トーク・トゥ・ハー』のサントラを使っているし、ぜったい映画好きだよね! 彼女にはこのまま我が道を突き進んでもらって、誰も演じないような曲にどんどん挑んでもらいたいです。
https://youtu.be/sO1oLWn8IOM

“Ne me quitte pas” – Carolina KOSTNER (ITA)
もう一人、忘れてはならないイタリアの女子選手であるカロリーナ・コストナーがショート・プログラムに選んだのは、ジャック・ブレルの名曲「行かないで」をセリーヌ・ディオンがカヴァーしたもの。音楽をそのままスケートで表現したかのように思えるようなすばらしい振り付けに、彼女の繊細なスケーティングが見事にこたえています。10代のハイレベルな女子選手が台頭するなか、31歳という年齢にふさわしい、成熟した大人のプログラムになっています。
http://www.fgsk8.com/archives/post-76158.html

“Hallelujah” – Wenging SUI, Cong HAN (CHN)
「行かないで」のように、スケートのプログラムで、往年の名曲の魅力を新たに発見できるのも嬉しい楽しみですが、この中国のペアの用いたレナード・コーエンの「ハレルヤ」もその一つ。この曲を使用するシングル選手も少なくないのですが、ペアという形で男女がこの曲で滑るとき、一人では出せないしっとりとした美しい情景が生まれます。ペアの男子にしては小柄なハン選手が相手を軽々とリードする頼もしさや、スイ選手の妖艶なルックスも、この作品に深みを添えています。
http://www.fgsk8.com/archives/post-73348.html

“Kaboom”, “Skip to the Bip”, “1008 Samba” – Anna CAPPELINI, Luca LANOTTE (ITA)
最近はアイスダンスをいちばん興味深く観ています。アイスダンスのショートダンスは毎シーズン音楽ジャンルが決められていて、今回はラテン音楽でした。どの組もマンボ、チャチャ、サンバなど楽しいリズムの曲で演技していますが、なかでもイタリアのカッペリーニ・ラノッテ組のショートダンスの冒頭に流れる音楽が、レトロな雰囲気たっぷりで面白い。70年代のヨーロッパ映画に流れていそうですが、実はアメリカのDJ アレックス・ジメーノの一人ユニット、ウルスラ1000の2002年のアルバムからのもの。グルーヴ感のあるポップな音が、二人の明るいキャラクターにマッチしています。二人のお洒落な衣装(特にアンナちゃんのスカート)もいつも素敵です。http://www.fgsk8.com/archives/post-74126.html

“Octopussy soundtrack”,”Thunderball soundtrack” – Piper GILLES, Paul POIRIER (CAN)
常に独創的なプログラムに挑戦しているカナダのギレス・ポワリエ組。今回のフリーダンスはシーズン半ばに新しいプログラムに変更する、という賭けに出ましたが、このジェームズ・ボンドをテーマにしたドラマティックなダンスは彼らの代表作とも言えるすばらしい仕上がりになりました。競技に必要な要素とは関係ないちょっとした部分に遊び心が感じられて粋なプログラムになっています。実力者揃いのカナダでは2〜3番手のカップルですが、作品の個性はいつも際立っていて音楽ともども忘れられないものばかりです。
http://www.fgsk8.com/archives/post-74242.html

“Piano Sonata No.14 in C sharp minor, Op.27, No.2 (Moonlight Sonata)” – Gabriella PAPADAKIS, Guillaume CIZERON (FRA)
これまで数々のスケーターが演じてきたベートーベンの「月光」をフリーダンスに選んだフランスのパパダキス・シゼロン組。しかしその解釈は今までになく新しいもので、ピアノの調べに合わせて淀みなく流れる二人を観ているうちに、あっという間に4分間が過ぎていってしまいます。それは彼らの高い技術のなせる技で、そのスピード感は類まれなものです。二人の彫刻のようなルックスやもの静かな雰囲気もあわさって、この「月光」は神秘的で官能性さえ漂わせた作品となり、世界選手権では歴代最高得点を獲得しました。
https://youtu.be/watch?v=jzq8FXXt7OE

小学生の頃からスケートを鑑賞し始めてかれこれウン十年経ちますが、次々と新しい個性が登場してきて見飽きることはありません。来シーズンもすばらしいプログラムがたくさん生まれることを楽しみにしています。

Top Photo By David W. Carmichael



posted date: 2018/Apr/10 / category: その他

関西各地を転々とする非常勤講師。もともと実験的な20世紀小説が好きだが、最近は19世紀あたりの、特にイギリス文学と明治・大正の日本文学ばかり読んでいる。
とはいうものの、読書はもっぱら通勤電車の中で、家では映画・音楽・ネット三昧の日々。extra ordinary #2 ではフランス関係の映画・音楽もしくは小説についての身勝手な感想をミーハー心丸出しでお届けします。

このほかにもブログを書いています。
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