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日本で、大成功をおさめる軽自動車 ~ル・モンドの記事 ‘Au Japon, les minivoitures ont un maxi-succès’ より

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ズレた美的センス、ちょっと変わったスタイル、独特のタッチパネル機能でもって、「軽自動車」が大成功をおさめている。これら小型車が流行するとは、到底思われていなかったにもかかわらずだ。

環境に配慮したハイブリッド車、力強いスポーツカー、どっしりした四輪駆動車、あまり個性のないセダンだけが、 日本車ではない。「軽自動車」も日本車を代表している。この小さな車は日本列島でのみ普及しており、その理由はこの国の都市環境や文化に由来する。「軽自動車(文字通りの意味では「軽い車」)」は自動車業界の支配的な価値観とは反対の方向に進んでいる。

その幾何学的なフォルムは従来の美的基準からかけ離れていて、技術的なパフォーマンスに見るべきものはほとんどなく、見た目がどこかズレているものの、黄色のナンバープレートが目印となる「軽自動車」は、過去20年間で国内シェアを20%から36%に伸ばしてきた。そして、「軽自動車」を営業車としてとらえる見方が減り、遊び心のつまった流行の対象として受け止められるようになってきている。

1950年代に「軽自動車」が登場しはじめたころは、遊び心や流行とは無縁の存在だった。第2次大戦で疲弊していた当時の日本にとっては、社会の中間層にいかに車を持たせるかが課題だったのである。バイク(当時もっとも普及していた交通手段)用のエンジンを搭載し、ミニトラックのような作りをした「軽自動車」は、当初は都市郊外や地方で普及しはじめた。その後、都会での交通網の飽和に直面した政府は、大都市への軽自動車の普及を奨励し、全長が3,4m(現代版のフィアット500より15㎝短い)、全幅が1,48mを超えないという条件をつけて税制上の優遇措置をとった。エンジンに関しては、660cc以下までが認められた。

220px-suzuki_suzulight_01物流を必要とする個人や企業向けに作られた「軽自動車(もしくは、車には必要最小限の機能があれば十分と考える人々。たとえば自動車そのものには興味のないユーザー、年配そしてダサいと見なされる人々向けの自動車)」は長い間あざけりの対象だった。ところが、1990年代になってから、そうした風潮に変化が見られるようになった。経済成長が停滞し、自動車税が引き上げられたのに加えて、石油価格も上昇した。お手頃――普通車よりも約25%ほど価格の安い「軽自動車」は、周囲の自分を見る目が変わってきていることに気づく。「世界全体の流れに反して、日本人は角ばったフォルムの乗り物を『クールだ』と思っています。そのうえ、技術の向上によって安全面からも品質面からもユーザーによって認められるようになり、この小さな自動車が成功をおさめるようになったのです」と、日産自動車のマーケティング部門を統括するピエール・ロワン氏は述べる。「軽自動車」は営業車としての役割をまったく放棄したわけではないが(車高については、最大2mまで認められている。この空間的余裕のおかげで、たとえばスポーツなどをするときに子供が車の中で着替えをすることもできる)、それ自体が人々の注目を集める存在になっている。(写真はスズキ・スズライトSF型 1956年 By Mytho88 (Own work) [GFDL or CC-BY-SA-3.0  via Wikimedia Commons)

おしなべて日本の普通車は白、黒、メタリックグレーが多いが、「軽自動車」は非常にカラフルで、赤、オレンジ、黄色、ぺトロールブルー、アップルグリーンなど多種多様だ。軽自動車部門の主要4社――スズキ、ダイハツ(トヨタグループ)、三菱日産(訳者註:両社は軽自動車部門で提携関係にある)、ホンダ――は、「軽自動車」の成功の多くは女性たちによるものだと理解している。ピエール・ロワンによると、「(女性の方が)男性よりもより進んで自分の好みを主張します。ファッションにおいてもそうであるように車においてもです」 日本において車を購入する人のうち40%を女性が占めるが、そのうちの60%が「軽自動車」を所有している。いくつかの車種はもっぱら彼女たちをあてこんだものだ。カラーバリエーションが非常に豊富で、「ミステリアスバイオレットパール」などもあるスズキ・アルト「ラパン」はハローキティのデザインを取り入れており、さらにコントロールパネルにたくさんのウサギがあてがわれている。ラパンのラインナップのうち、限定仕様の「ショコラ」は、運転手がエコ走行をするとご褒美としてダッシュボードにチョコレートバーが表示される仕組みとなっている。

若者の車離れの対策として、とくに日本において特徴的な現象だが、「軽自動車」はコネクティッド・カー(訳者註:インターネット通信機能を取りこみ、情報端末としても利用できる自動車のこと)のコンセプトをさらに押しすすめ、車内の居住スペースに大型のスクリーンを設置する試みもなされている。2015年10月の東京オートサロンに登場した「TEATRO for DAYZ 」(日産の花形軽自動車であるDAYZのコンセプトカー)などはまさにそれで、車内でさまざまな映像を映し出すことが可能だ(訳者註:その映像はこちらにて)。「デジタルガジェット」と開発者はいうが、まさにそういったものが自動運転車に備えつけられるものになるだろう。

つまるところ、この業界の将来を体現すべく、日産は六角形のフォルムをもつ小さな車を選んだ。この形状は日本でかつて見られなかったものだ。かつてこれら「軽自動車」(スズキのワゴンR。ダイハツの何種類かのシティーカー)を輸出しようと試みたが、日本のメーカたちは断念した(訳者註:調べてみましたが、税制やその他いろんな障壁があるようです)。ヨーロッパのドライバーたちはより荒っぽい運転をするので、「軽自動車」の控え目なエンジンが悲鳴をあげるだろうし、車体の構造上、タイヤと車体前面との距離があまりに短いため、衝突の際にドライバーを保護するのに十分ではないというリスクがあるからだろう。残念なことだ。我が国では、こういった小さな車のほとんどは面白味に欠けているが、「軽自動車」なら歓迎すべきたくさんの遊び心を注入してくれたはずだからだ。

Au Japon, les minivoitures ont un maxi-succès
M le magazine du Monde | 30.09.2016
Par Jean-Michel Normand


 



posted date: 2016/Oct/05 / category: ライフスタイル

専門はフランス思想ですが、いまは休業中。大阪の大学でフランス語教師をしています。

小さいころからサッカーをやってきました。が、大学のとき、試合で一生もんの怪我をしたせいでサッカーは諦めて、いまは地元のソフトボールと野球のチームに入って地味にスポーツを続けています。

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