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メトロのマナー向上啓発ポスター(トゥールーズ篇)

4月後半から、大学のサバティカルで南フランスのトゥールーズに住み始めました。久しぶりに腰を落ち着けて暮らしてみると、街中で面白いフランス語表現に出会うことがあります。これから、気になったフランス語を中心に、不定期でご報告したいと思います。

まず最初にご紹介したいのは、メトロのマナー向上啓発ポスターです。これがどういうわけか、車内やプラットフォームでしてはならないことを二重否定で伝えるという、ちょっと分かりにくい構造になっています。たとえば、最初に紹介する例では、

「自分が乗る前に他の乗客を降りさせない:みんなで礼儀の欠如に線を引いて削除しよう」

と書かれています。二重否定なので、「自分が乗る前に他の乗客を降りさせる」のが正解ですね。「礼儀」と訳した courtoisie とは、宮廷 cours から派生した言葉で、本心はともかく慇懃に振る舞うという意味も含んでいます。仕事をするときに大事な能力だよ、と学生に教えたことがありました。

続いてはセクハラ案件。「口笛、侮辱の言葉、撫で回し、接触」に削除線を引きましょう。「撫で回し」と訳した mains baladeuses とは、直訳すれば「あちらこちらと散歩する(balader)ようにさまよう手」ですが、もちろん痴漢が相手の身体を撫でる行為を指します。frottements も手や身体を擦りつける痴漢行為を意味します。日本と同様、メトロで痴漢があるのは残念なことですね。ただ、「口笛を吹いてからかう」というのは、日本ではあまり見かけない気がします。

次は「失礼 impoli 」な人たちに対する警告。要するに、挨拶をしない、ということです。「こんにちは」「ありがとう」「すみません」を言えない人。確かに、フランスでも以前より増えた気がします。

最後は「無作法」を咎めています。incivilité は civilité に否定の接頭辞in-が付いた表現。civilisation といえば「文明」で、civiliser といえば「文明化する」=「しつける」という意味をもちます。その反対ですから、incivilité とは文明化されていない=しつけが行き届いていない、ということなんですね。車内で物を食べたり飲んだり、さらには煙草を吸ったりするのは、もちろん行儀が悪いことで、文明人がすべきことではないのです。最後に出てくる vapoter は、電子たばこを吸うという意味の新しい動詞。カフェでは日本よりも喫煙者をよく見かけます。

というわけで、次の列車が来るまでに、フランス語のいい勉強になりました。ちなみに、トゥールーズのメトロは無人運転の2両編成、日中は3分間隔で到着します。バスと共通で使える Pastel という電子パスが普及しています。






posted date: 2019/May/15 / category: フランス語学習バカンス・旅行

1975 年大阪生まれ。トゥールーズとパリへの留学を経て、現在は金沢在住。 ライター名が示すように、エヴァリー・ブラザーズをはじめとする60年代アメリカンポップスが、音楽体験の原点となっています。そして、やはりライター名が示すように、スヌーピーとウッドストックが好きで、現在刊行中の『ピーナッツ全集』を読み進めるのを楽しみにしています。文学・映画・美術・音楽全般に興味あり。左投げ左打ち。ポジションはレフト。

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