フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

After a fuss….ディオールを巡るあれこれについての雑感①

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電話帳のような Vogue の September Issue が店頭に並び、新しいシーズンに向けてファッション業界が飛び立ってゆく今、去年春から今年にかけてクリスチャン・ディオールに起こったことについて思ったことをぼそぼそつぶやいてみたい。

ジョン・ガリアーノが放逐され、ラフ・シモンズが新しいアーティスティック・ディレクターに就任。業界を震撼させたスキャンダルは、思いがけない、しかしこれ以上ない選択へ道を開いた。 しかし、ラフ・シモンズがディオールの伝統を引継ぐことになるとは!ジル・サンダーでの仕事は鮮やかな印象を与え、映画の衣装やレッドカーペット用のドレスで旬の女優を輝かせるなどその名はとどろいていたものの、「フェミニンな女性の美しさ」を第一に考えてきたブランドの華やかなイメージと、シモンズの作品のミニマルなイメージとには距離が感じられたからだ。

そもそもシモンズは、ジル・サンダーのアーティスティック・ディレクターになるまで女性のためにデザインをしたことがなかった。ディオールをコントロールする LVMH にとって、シモンズの起用は「賭け」だったと思われる。 しかし、この大胆な起用は、ディオールのブランドイメージを一新するために不可欠だったのではないか?ハリウッド・スターや上流階級のエレガントな女性達に好まれるあこがれのドレスメーカーとして、化粧品や香水、高価な日常の品々についたロゴでおなじみのブランドとして、ディオールは長きに渡りゆるぎなく存在してきた。

しかし、ファッションの歴史において、ディオールについての記述は思いのほか少ないのではないだろうか。同じビッグメゾンであるシャネルは、創始者ココ・シャネルを神聖なアイコンとしてあの手この手で引っ張り出し、時代を超えた憧れの女性、モードの革新者と讃えることでブランドイメージを新鮮に保つことができた。ディオールが勝負できる手札といえば、「ニュー・ルック」のころの懐かしいモノクロ写真と若きサンローランがブランドを引継いだときのセンセーションをかき立てる記事ぐらいだろうか(しかもサンローランは短期間でブランドを追われた)。柔和でぽっちゃりした美食家だったムッシュ・ディオールはビジュアル的に魅力的なアイコンとは言い難い。サンローラン後から80年代にアルノー氏がブランドを掌握するまでの数十年間ディオールのデザインを任されていたデザイナー、マルク・ボアンのことを覚えている人がどれだけいるだろう?

そんなディオールにとって、ジョン・ガリアーノのクリエイティヴ・ディレクター就任は大きな転機となった。例の “J’adore Dior” T シャツに代表されるようなカジュアルな側面は上品だけど保守的なブランドのイメージを変え、カワイイもの好きの Chick 達も今風なディオールのロゴをあしらったグッズを財布をはたいて買いもとめててくれるようになった。しかし、ガリアーノがあのような形で去ってしまったことは、ディオールというブランドのアイデンティティに疑問符を投げかけることになった。スター・デザイナーが不在でもコレクションは発表され、ブランドビジネスはこれまで通り上手く回った。

ならば、各ブランドがその才能を喧伝するアーティスティック・デザイナーの存在とはいったいなんなのだろう?「(ブランドの基礎である)ファッションの魅力」を全面に掲げなくとも商品は売れるのなら、前に進まず過去のイメージだけに頼ってもブランドは存続できてしまう・・・?そんなしらけた見方を打ち消し、「ディオールらしさ」が変わらぬ美であることを証明するためにも、大胆な決断が必要だったのだと思う。だからこそ経営陣は、ダークホースである44歳のベルギー人の可能性に賭けたのだ。

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GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。 門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。