フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

世武裕子 『アデュー世界戦争』

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佐々木俊尚は SNS の出現によって音楽の聴き方も大きく変わったと言う。それは「モノからつながりへ」という変化だ。音楽は CD やライブという形でパッケージ化され、決まった形式で消費される商品ではなく、具体的な作者=他者を想定しながら、その関係の中で聴かれるようになった。新しい音楽が到来するとすれば、それは社会が根本から変わるときだと、誰かが言っていたが(村上龍だったかな)、SNS の出現で人間関係がドラスティックに変わった今がそのときなのかもしれない。

アデュー 世界戦争ツイッターを通して、アーティストの日常やキャラクターと接していると、確かにその人の作品に対する距離感や姿勢も変わる。例えば、ツィッターでときどき辻仁成さんからリプライをいただくが、ツィッターからは辻さんのミュージシャンや小説家とは全く違った多様な顔が見える。とりわけ共感を覚えるのはパリ在住の子育てパパとしての一面だ。また Instagram を通してアップされるフランスの写真もなかなか素敵だ。そういう関係の中で改めて作品に触れてみたいという欲求が起こる。

またツィッターでやりとりのあった井上春夫監督の『遠くの空』(内山理名主演)も見に行く機会にも恵まれた。重みのある歴史的な問題をスタイリッシュに仕上げた秀作だったが、顔の見える監督さんの作品を見に映画館に足を運ぶことは、応援しているというサポーター感を生む。最近は映画館に足を運ぶ習慣がほとんどなかったので、身体性も絡む特別なことをしている実感があった。岡田斗司夫も『評価経済社会』の中で、これからの消費行動はサポーター的要素が強くなり、モノを買う、お金を払う行為が、自分が応援する企業、グループ、個人を応援するためになされることが多くなる、と指摘している。おそらくアーティストも総合的なキャラの魅力が問われるようになるのだろう。Tweet や ReTweet を通して、ある人が発した情報が蓄積されていくあいだに、その人のセンスや思想信条のようなものが浮かび上がる。それは演出やブランディングの対象でありながら、無意識に素が出てしまうようなものだ。

ところで「週刊フランス情報」のためにフランスの音楽情報を集めていたら、パリのエコールノルマルで映画音楽を学んでいるという日本の女性アーティストの記事に遭遇した。見覚えのある名前だなと思ったら、ツィッターで相互フォローしている女性だった。早速、ツイッターで話かけてみた。何度かやりとりしているうちに、彼女の新しいアルバムのサンプルが自宅に届いたのである。

個人的にもフランスに音楽留学していた友人が何人かいるので、どういう文化圏に属する人なのか、なんとなくわかる。パリのコスモポリタンな雰囲気とか、日本の淀んだ日常を突き抜ける感じを、彼女の音楽や歌詞に聴き取ることができる。そしてルサンチマンとコンプレックスにまみれた昔の仏文学者みたいな辛気臭いノリとはもはや無縁な若い世代だ。

アーティストの名前は世武裕子。パリ・エコールノルマルの映画音楽作曲科在学中で、新しいタイプのフランス系アーティスと言えるだろう(全然違うタイプだが、レ・ロマネスクなどとともに)。「グーグル・クロームでストリートライブ」(本人出演&音楽) など、TVCM の音楽も手掛ける。また「くるり」のサポートメンバーだったり、最近では乙武洋匡原作、国分太一主演の映画『だいじょうぶ3組』の音楽を担当するというニュースも伝えられていた。

そして先月初めに新しいアルバム『アデュー世界戦争』が上梓されている(筆が遅くてごめんなさい!)。シングルカット的な ’75002’ にはパリで撮影された PV が同時発表。タイトルの数字は何だろうと思っていたが、パリの2区の郵便番号だと、あるとき忽然と気が付いた(ツィッターでご本人にも確認)。ある朝、この曲を聴いているとき、ちょうど電車が海岸に差し掛かり、モーターボートと並走を始めたが、その光景と彼女の軽快なピアノが絶妙にシンクロした。歌の中で、お友達らしい名前が次々と呼ばれ、パリの2区から世界に突き抜けていくカタルシスにひきさらわれる。PV が今の夏の季節にぴったりなファーストシングル「Good Morning World!」(PV の小さな男の子が昔の息子を彷彿させてうるうる)もそうだが、ボーカル入りの曲が良いので、もっと聴いてみたい。紅白出場なんかも、全然ありじゃないかな。

もちろん、独特のタイトルがついたインストの曲も、まさに良質なサントラのように想像力をかきたてる。とりわけ、タキシードムーン的なリリシズムにあふれた「君に」、ミニマルなマリンバが浮遊感へといざなう「台湾人と一杯のお茶」、そしてストリングスが不穏な空気を漂わせるなかに、ひとつの光明が見え、それが広がっていくようなタイトル曲「アデュー世界戦争」が素晴らしい。

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