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ブエノスアイレス訪問記 pt.2

text by / category : バカンス・旅行

前回、研究調査のためにブエノスアイレスを訪れた、と書いたが、アルゼンチンとの付き合いは、じつはパリ留学時代に遡る。当時暮らしていたのが、国際大学都市(Cité Universitaire)のアルゼンチン館という学生寮だったのである。2年間、毎日アルゼンチン人留学生とともに生活し、ブラジル人みたいに陽気ではない国民性をはじめ、いろいろ教えられることがあった。

印象的だったのは、彼らの国産牛肉に対する誇りだ。それもそのはず、アルゼンチン館が1928年に開館したのは、冷凍技術による牛肉の輸出によって巨額の富を築いた結果だった。1930年代のアルゼンチンは、それなりに裕福だったのである。また、アルゼンチン産牛肉は、広大なパンパでの放牧で育てられたものであるため、牛肉が雄大な国土を連想させる、ということもあるようだ。

というわけで、アルゼンチンの国民料理は、アサードと呼ばれる牛肉の炭火焼である。真夏のクリスマスには、一晩中、庭や屋上でアサードを食べながら、ビールやワインを飲むらしい。赤ワインはマルベックというフランス起源の品種が有名。パリジャーダは、チョリソ(ソーセージ)や骨付きリブなどの盛り合わせをいう。肉は、日本みたいに脂身のサシは重視されず、赤身が多い。量が多くてとても食べきれなかったので、パンと一緒に残りを持ち帰って、その晩、ホテルの部屋でサンドウィッチにして夕食にした。

フランスにいる頃から、肉詰めパイのエンパナーダは好物だったので、今回も何回か試してみた。肉はスパイスが効いていて、とても香ばしい。もともとはスペイン料理だが、アルゼンチンやウルグアイで広く食べられている。一方、ウミータは先住民料理だという。まだ熟れていないとうもろこしをすり潰したものを、とうもろこしの皮で包んで蒸して作る。ほどよい甘味が楽しめる。

ブエノスアイレス特有の名物料理といえば、ミラノ風カツレツ(ミラネーゼ)が挙げられる。とくに、これにトマトソースとチーズをかけた「ナポリ風ミラネーゼ」なるものが人気。ニューヨークからピザが全世界に広まったように、これもイタリア移民が持ち込んだ料理だろう。それにしても、奇妙なネーミングではある。

一方、お菓子に関しては、かなり甘いもの好きなようだ。ドゥルセ・デ・レチェ(dulce de leche)と呼ばれるムース状のキャラメルが名物で、街角のキオスクにはこのムースを入れたグアイマジェン社のチョコレートパイ(alfajor)が必ず売っている。僕も食べたが、森永エンゼルパイを3割増で甘くした感じ。

意外だったのは、ブエノスアイレスの街角でマテ茶を飲んでいる人が、予想よりもずっと少なかったことだ。パリのアルゼンチン館では、学生はみんなマテ茶を持ち歩いていた。ところが、図書館の閲覧室は飲食禁止なので仕方ないとしても、公園でもマテ茶を飲む人はほとんど見かけなかった。ただし、スーパーには大量の種類のマテ茶のパッケージが棚にひしめいていたので、ポルテーニョ(ブエノスアイレス市民)がマテ茶を愛飲しているのは間違いない。街中での不在は、マテ茶は基本的に家庭や職場などの室内で飲むものだということの証拠かもしれない。



posted date: 2018/Apr/25 / category: バカンス・旅行

1975 年大阪生まれ。トゥールーズとパリへの留学を経て、現在は金沢在住。 ライター名が示すように、エヴァリー・ブラザーズをはじめとする60年代アメリカンポップスが、音楽体験の原点となっています。そして、やはりライター名が示すように、スヌーピーとウッドストックが好きで、現在刊行中の『ピーナッツ全集』を読み進めるのを楽しみにしています。文学・映画・美術・音楽全般に興味あり。左投げ左打ち。ポジションはレフト。

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