2010年11月、イギリスで大学授業料引き上げ案が発表され、それに反発する大学生たちのロンドンやイギリス各地でデモを行い、一部が暴徒化した。イギリスの大学の授業料は、現在年間3290ポンドだが、2012年9月から6000ポンドに引き上げ、場合によっては9000ポンドまで引き上げることも可能になる(1ポンド=120円計算で、約40万円から約110万円に上がる計算)。もちろん、低所得の家庭出身の学生への支援があるし、また原則的にイギリスの大学の授業料は卒業後、収入が一定のレベルに達した時点から長期返済するという仕組みになっている。かつて、イギリスの大学の数が少なかった頃は、大学の学費は無料だった。しかし、大学の数も大学進学者数も増加するにつれて、政府の支出が膨れ上がり、1998年から授業料を徴収するようになった。
イギリスの学位が高くなったので、その受け皿になる外国の大学を志願するイギリスの若者が増えている。オランダが有力候補のひとつだ。イギリスでは値上げ前ですら年間約40万円かかるのに、オランダでは平均18万円。英語の授業も充実していて、イギリス人の学生には言葉の支障もあまりない。加えて彼らは外国の大学で学んだことや、異文化の経験や外国で身につけたスキルが仕事を見つける際のポイントになると考えている。もっともオランダの大学は入学は簡単でも卒業が難しく、その点は英国と逆らしいが。
授業料が上がるだけではない。補助金も大幅にカットされる。それによって大学の質が下がることも懸念されている。’Students eye up foreign universities’ というザ・ガーディアン(2011年1月10日)の記事では、物理学を志すイギリス人のある受験生が、理系の予算が6億ポンドも削減され、授業料が高いことよりも、施設が貧弱になり、十分な研究ができなくなることを心配している。それに比べ、多くの資金を活用できているアメリカの大学は魅力的だ。去年は4000人の学生と親が、アメリカへの留学をコーディネートするフルブライト奨学金の説明会に出席した。前年の同じ時期に比べて50%増だ。イギリスからのフルブライト奨学金のサイトへのアクセスも30%増えた。
大学をでたばかりの若い労働者たちも国境を越える。経済危機に陥っている国々、スペイン、ポルトガル、ギリシャから知的労働者がドイツに流入している。ドイツはヨーロッパから労働者を集める政策を採っているが、特にスキルの高い労働者を優遇している。労働市場でもドイツがひとり勝ちしている(大学の授業料も再無償化の方向)。イタリアも中間層が薄くなり、少数の金持ちと低所得者層に両極化しているが、頭脳流出も深刻だ。若者の失業率が30%に達し、海外に住むイタリア人の大学院生の数はフランス人の2倍、ドイツ人の4倍いるという。経済状態の悪い国では若者に仕事が回らない。教育予算も削られ、優秀な学生が外国に出て行く。さらに国が衰退するという悪循環に陥る。去年の夏には経済危機のスペインから良い仕事の条件を求めて外国に人口が流出しいているという記事が「ル・モンド」に大きく載っていた。去年の4-6月で7万人が国を離れたという。特にスペインでは若者の失業率が半分近くに達している。外国語を磨き、有利な条件を求めて大学も仕事も外国に探しにいくのが当たり前な時代になりつつある。それぞれの国の状況や他国との力関係も変化するだろうが、外国語はそういう状況に柔軟に適応するためのツールと言えるだろう。留学もまた欠かせない経験となる。
France2 によると、セドリック・クラピッシュの映画「スパニッシュアパートメント」は未だに欧州の学生の留学のモデルになっているようだ。同映画はエラスムス(欧州の交換留学制度)を利用する学生を増やすのに貢献したと言われる。ニュースでは映画を真似てバルセロナのアパートを13人でシェアする学生たちが紹介されていた。今や21万人の学生がこの制度を活用してヨーロッパ各国で学んでいる。フランスからの留学生は2009-10年度で3万人を超え、前年比で6・9%増加した。留学は履歴書に書ける重要な経歴だ。留学先の第1位はやはりスペイン、次にイギリス、ドイツ、スウェーデンと続く。映画が公開された05年はユーロバブルが膨れている真っ最中で、フランス人の主人公はスペインで経済学を学ぶことを勧められる。その頃はスペイン経済の見通しも良かったのだろう。ユーロはリーマンショックの直前に1ユーロ=170円(=1・6ドル)をつけるが、現在まさかの100円割れ。
cyberbloom
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