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18歳の若者限定のカルチャーパスが実験段階に

フランスは「すべての人に文化を」をモットーに、「音楽の祭典 Fête de la Musique 」、「ニュイ・ブランシュ Nuit Blanche 」、「美術館の夜 Nuit des musées 」など、市民が無償で文化を享受できる機会をこまめに提供しているが、18歳の若者限定のカルチャーパスが去年の9月から試験段階に入っている。フランスの5つの県で試験的に導入され、5つの県の1万人のボランティアの若者たちがこのプロジェクトをテストしている。それに続いてフランス全土に拡大される。

カルチャーパスはマクロン大統領の公約のひとつだった。500ユーロ(約6万円)がクレジットされたアプリをスマホ、タブレット、あるいはPCにダウンロードすれば、それを使って観劇や映画に行き、音楽のストリーミングサービスに登録し、ドラムやデッサンのレッスンを受けることができる。楽器や本といったモノの購入も可能だ。ユーザーはアイコンからスタートするが、アプリの画面にはそれらがユーザーの関心を惹くように紹介されていて、先に進めばさらに詳しい情報を知ることができる。ユーザーが選択すると、自動的に決済され、最初500ユーロあった残高から引き落とされる。

特典も無視できない。カルチャーパスのユーザーが演劇に行けば、彼が選んだ同伴者を連れて行くことができる。同伴者の入場は自動的にカバーされる。若者が誰かと一緒に行くように、あるいは行くことを諦めることがないようにという配慮だ。このアプリの第一の目的は若者が大人になっても自発的に文化に親しむことができるように習慣をつけることだ。

18歳の(正確には1999年11月1日から2000年12月31日の間に生まれた)若者であれば、収入や出自を問わず、カルチャーパスが提供される。いずれこのアプリは観光客にも適用されるだろう。カルチャーパスに必要な費用を賄うためには、どれくらいの企業が参加してくれるかにかかっている。国は企業がモノやサービスを無償で提供し、それを続けてくれることをあてにしている。文化で国を回そうとするフランスの方針に協力することに、企業もメリットを感じるだろうと踏んでいるのだ。

様々な文化的なアクターがこのプログラムに参加しようと、アプリの普及を目指す当局との交渉を続けている。今のバージョンは決定版とは言い難いからだ。プログラムが始まれば、美術館、劇場、文化協会、メディアなど、何百もの施設や組織は、お金の受け取り人になるが、企業、とりわけIT企業は、国との交渉の結果、経済的な波及効果や、顧客の固定化と若返りを期待して、無償提供することを受け入れた。

音楽のストリーミングサービスの Deezer はテスト段階では報酬を受け取らないことを明言した。すべての若者が文化にアクセスするという民主化のプロジェクトに参加することで、Deezer のサービスがさらに広まることを願う。ブレストにある劇場、le Quartz のディレクターは、このパスのアイデアが、「私たちと若者との関係を考え直すきっかけなり、劇場に若者が来てくれたら」と期待する。「若者は自発的には劇場に来ないので、将来の観客を養成するのに貢献するだろう」と。カルチャーパス向けのホールやプログラム編成を考えている劇場関係者もいる。若者は、普段そういうものにお金を使わないが、カルチャーパスがあれば行ってみようという気になる。それによって新しい世界が広がる。若いうちにそういうものを体験しておくことが必要なのだ。

カルチャーパスの実験に応じた若者は「普段は映画しかいかないけど、劇場に行ってみようと思う」。「カルチャーパスは他者に自分を開いてくれる。私たちを社会化してくれる。オフラインの時間を過ごさせてくれる」などと、おおむけ好意的な反応を見せる。

カルチャーパスは位置情報化されている。つまり地方や地域の文化施設にも足を運び、活用してもらいたいのだ。若者たちはアプリを通して自分の住んでいる場所の近くにあるすべての文化的なサービスを確認することができる。料金と現在地点からの距離もわかる。「若者たちは自律的に選択することが重要で、カルチャーパスは文化のGPSのようなものだ」とニッセン文化相は言う。

実はイタリアで同じような政策が行われ、その成果は芳しくなかった。2016年にマテオ・レンツィ政権によって「カルチャーボーナス」bonus cultura という制度が実施され、前の年に成年に達したすべての若者が500ユーロのチェックを受け取れるようにした。もちろん、この金額は本や映画や劇場やコンサートのような文化活動に使われなければならない。しかし呼びかけに応じた若者は60%だけだった。さらに多くの若者が業者と共謀して、手数料を払って現金に変えたのだった。

「文化」はフランスのブランドであり、若者にカルチャーパスを提供することはそのアピールにもなる。果たしてフランスでうまく行くだろうか。

以下の記事を参照。
Le Pass Culture entre dans sa phase d’expérimentation(culturebox, 09.02.2019)






posted date: 2019/Apr/02 / category: アート・デザイン政治・経済
cyberbloom

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