欧州連合(EU)からの離脱を問うイギリスの国民投票で離脱派が勝利するというショッキングな結末に、内外で様々な反応が起こっています。このまま離脱手続きが進んでいくにしたがって、イギリスは経済的にジリ貧になるはず。海外からの対英投資減少、海外からの原材料の調達コストがアップ(原則的に関税のない自由経済圏からの離脱)し、物価高騰、加えてポンドが急落して物価高に拍車がかかる(短期的にはイギリス人の雇用が増えたとしても、中長期的に物価高などによって実質賃金が目減り)という流れになるでしょう。
ネット上では、めいろま氏の「イギリス国民が世界恐慌を起こしてでもEU離脱を希望した理由」がわかりやすいと拡散していましたが、「離脱に投票した一般人はポピュリストの情報操作によって、記事の内容を信じこまされている」というポイントが完全に欠けていると反論した「Brexitというパンドラの箱」も興味深い。立場によって見えるイギリスの風景が全く異なるということだろうか。一夜明けて、離脱に投票した人々のあいだにも、まさかこういう結果になるとおもわなかったと後悔する念も目立ち始め、Regret(後悔)とExitを合成した ”Regrexit” というハッシュタグが登場。残留が多数派を占めたスコットランドでは、早くも独立を示唆する動きが始まっています。
FBNでは、ル・モンドにフランスの左右両陣営の反応が紹介されている「≪勝利≫≪教訓≫≪衝撃≫:英国EU離脱についてのフランス政界の反応」という6月24日付の記事を見つけたので紹介します。
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予想通り、国民戦線(FN)はイギリスがEUを離脱するとの投票結果に満足した。「自由への勝利だ。私が何年も待ち望んでいたことで、いまやフランスでも他のEU諸国でも同様な国民投票が実施されねばならない」とツイッター上で極右政党党首のマリーヌ・ルペンは書き綴った。2013年以来、ルペン陣営はフランスのEU所属とユーロ圏に留まるのか否かの国民投票を実施するよう呼びかけている。
2017年の大統領選を控えて、国民戦線副党首であるフロリアン・フィリポはこうした国民投票が「一刻も早く」実施されておくべきだったと考えていた。「フランソワ・オランドはフランスのEU所属をめぐっての国民投票の実施を告知する必要がある」とこの欧州議会議員は公言する。
エソンヌ県選出の国民議会議員のニコラ・デュポン=エニャン は「すべてのヨーロッパの人々にとって最高のニュースだ」として喜びを隠さない。さらには「1940年(訳者註:フランスがナチスドイツに占領された年)のときとおなじように、イギリスはふたたび全体主義に抗うために自ら道を切り開かんとする力量を見せつけることになるだろう」と述べ、EUの現状に対して「代替案」を提示している。
野党右派勢力の主要な指導者たち(訳者註:ここでは「フランス共和党」などの中道右派勢力を指すとみられる)は「英国EU離脱」を嘆きつつも、そこにヨーロッパ再建とオランド大統領に圧力をかけるチャンスがあるとみている。「イギリスにとっては歴史的衝撃であるが、主権者は国民であり彼らがそれを選んだ。向き合わざるを得ないだろう試練を切り抜けるのは彼ら自身だ」と、EU圏拡大反対論者であり、ボルドー市長のアラン・ジュペはEurope1でこう述べた。「トルコをヨーロッパに組み入れるなら、行きつく先はヨーロッパの崩壊だ。 (…) 我々が犯しかねない最大の過ち、それはEU27ヶ国の国々に昔に戻ってやり直すことができると思わせてしまいかねないことだ」
大多数の右派予備選候補者たちとおなじように、ジュペ氏もユーロ圏の国々のさらなる結束を望んでいるが、国民投票によって新たな条約を結ぶ案には反対している。それとは対照的に、共和党党首ニコラ・サルコジは、国境管理を復活させ、EUを拡大させるプロセスの停止を目論んだ「新たな条約」を主張した。「いまこそが明晰さ、活力、リーダーシップの時代だ」と前国家元首はこうも述べている。さらには、「イギリス国民が口にしたことは、他のヨーロッパ諸国の国民も口にすることができる。我々はそれを忘れることはできないし、そのようにしてはならない」
そして「EUはイギリスがいなくともやっていけるし、それに我々には隣国との関係を考え直す時間もある。そのかわり、ヨーロッパ27か国は今後このようなやり方では機能しなくなる。したがって、根本的な新たな土台を築くことが喫緊の課題となる」。ウール県選出の共和党議員ブルーノ・ルメールは、国民投票にかける前にとある案を再度交渉すべきだとの持論を展開した。「EUに残留するか否かを国民に問いかけることが問題なのではない。そうではなくて『これが新しいプランだ。ドイツなど原加盟国6か国と歩んできたプランだ』と述べることだ。明瞭で、確定されていて、安定的な国境を有する一つのヨーロッパであり、トルコは含まない」
プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏議会議長のクリスチャン・エストロジ(共和党)はオランド氏の責任を追及する。「イギリスのEU離脱は、脆弱な一つのヨーロッパの、リーダーシップを欠いたフランスの、そしてもがき苦しんでいる仏独のカップルにとっての悲しい結末だ」とツイッター上でこう述べる。サルコジ氏がシェンゲン協定(訳者註:ヨーロッパの国家間で結ばれた協定。締約国間で人々の自由な移動が保証される)の見直しと、新しい条約によりユーロ圏に経済運営機関(訳者註:大統領時代からのサルコジの主張。EU加盟各国財務相による会合によってではなく、より強力な権限をもった組織による経済運営が必要だと述べている)を設けるべきだと述べる一方で、ノール=パ・ド・カレー=ピカルディ地域圏議会議長グザビエ・ベルトラン(共和党)はカレーの英仏国境を定めたトゥケ協定について、あらたに再交渉すべきだと主張する。
民主運動党首のフランソワ・バイルは不安を隠さない:「ヨーロッパに響いていくだろう恐ろしい衝撃の波だ」と BFM-TVで発言した。さらに「2017年の大統領選では、EUと国民投票が争点になるだろう」と述べる。おなじく中道派であり、民主独立連合党首のジャン=クリストフ・ラガルドは今回の投票結果を受けてこう述べている。「EUがまず最初に着手すべきは、スコットランドと北アイルランドのためにドアを開けておくことだ。(…) この投票結果はEUがあらためてその使命を考えるきっかけとなった。経済と政治の両側面からEUを受け止めることだ」
左派はEUの「再結集」の必要性に同意している。金曜日朝の段階では、左派陣営の反応はそれほど多くはなく、オランド氏が自らの意見を述べるのを待ち望んでいた。そんななか「イギリスはふたたび一つの島になる」と欧州議会のフランス社会党代表団が声明を発表した。「もっぱら国内市場に目を向けていたEUの失敗だ。いまこそEUの本来の姿を取りもどすために、民主主義と価値の多様性への尊重、繁栄、自由、さらに連帯による自由と平和を保証するために再結集すべきときだ」 ヨーロッパ問題担当大臣のアルレム・デジールは「イギリスに取って痛ましいことだ。EUは冷静さを取り戻し、前に進まねばならない。いますぐ必要なのは、市民たちとともに大胆な計画を立て直すことだ」とツイッター上で述べた。
極左勢力はイギリスのEU離脱が開いた扉に駆け込むことを厭わなかった。「得られた教訓はEUを変えるのか離れるのかだ。あたらしいプランが必要なときだ。私は大統領選に出馬するが、それは欧州連合基本条約 からの離脱のためだ(訳者註:国粋主義的な立場からEU離脱を支持する国民戦線などとは違い、「(国民という枠にとらわれない)民衆主義」的立場から、メランションはEUの現状に懐疑的である)」と左翼党のジャン=リュック・メランションは断言する。フランス共産党全国書記のピエール・ローランはもっと控え目だ。「EUを再結集し、人類の進歩と社会正義につながる団結、自由で主権を有し、互いに協力しあう人民と国家が団結するときがやってきた。こうしたあたらしい団結とそのために必要な新しい条約はヨーロッパ人民の手によって打ち立てられねばならない」
「2005年以来(訳者註:2005年、フランスが国民投票で欧州憲法条約批准を拒否したことを指すと思われる)、フランスで、ついでギリシャでもEUが提案するものに対し、いつも人民は「ノー」といってきた」(ジャン=リュック・メランション)
「テクノクラートと自由主義者にヨーロッパが奪われてしまったからこんなことになったんだ」とエコロジストのセシル・デュフロはツイッター上でこう述べる。
反資本主義新党は、市民たちがEUへ不信を抱いていることを明るみにした投票結果について告発している。金曜日に発表された声明で、反資本主義新党は「このおぞましい政治キャンペーン」が狙っているのは「東ヨーロッパのすべての労働者(訳者註:イギリスがEU離脱を決断した原因の一つに、イギリス国内への東ヨーロッパ系移民の増大が挙げられる)、イギリス人たちによってなされたすべての悪のスケープゴートとなった人々だ。この投票結果は人民の要求に背を向け、大資本家や銀行家たちの太鼓持ちをしている反民主主義的なシステムへの拒絶の合図となる」と激しく非難をしている。
« Victoire », « leçon », « choc » : les politiques français réagissent au « Brexit »
LE MONDE | 24.06.2016
専門はフランス思想ですが、いまは休業中。大阪の大学でフランス語教師をしています。
小さいころからサッカーをやってきました。が、大学のとき、試合で一生もんの怪我をしたせいでサッカーは諦めて、いまは地元のソフトボールと野球のチームに入って地味にスポーツを続けています。