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FRENCH BLOOM NET 年末企画(1) 2021年のベスト音楽

text by / category : 音楽

恒例の年末企画です。第1弾は2021年のベスト音楽です。FBNのライター陣の他に、今年も、マニアックなフランス音楽のツィートでおなじみの福井寧(@futsugopon)さん、POISON GIRL FRIEND の nOririn さん、翻訳者・ライターの丸山有美さん、世界音楽研究家の粕谷祐己さん、Small Circle of Friends のおふたりにも参加していただきました。フランスの音楽を中心に2021年の音楽を幅広く選んでいただきました。

福井寧(@futsugopon)

Lala &ce – Everything Tasteful
https://music.apple.com/jp/album/everything-tasteful/1550581421
ララ・エースことメラニー・クレンショーは1994年リヨン生まれのラッパーで、パリやロンドンで活動している。&ceと書いてエースと読むが、セリーナ・ウィリアムズファンなのでテニスのエースからとったそうだ。近年ラップが音楽の主流になったフランスにおいてもまだまだ女性ラッパーは数が少ないが、その中でも珍しい同性愛者である。そういうわけで英語の題名はETとかけてある。ラッパーといってもかなりR&B寄りの歌ものの曲が多い。オートチューンを多用した官能的でドリーミーなサウンドで、近年のフランスアーバンミュージックの盛り上がりを代表する作品だ。英語圏のR&Bと比べても遜色ない作品がフランスから出てくるようになったことが感慨深い。
動画 https://youtu.be/_JocFeGOHkI

Aquaserge – The Possibility of a New York for Aquaserge
https://music.apple.com/jp/album/the-possibility-of-a-new-work-for-aquaserge/1585991063
アクアセルジュは南仏トゥールーズを拠点として活動する2005年結成のアヴァンギャルドロックグループ。ステレオラブやテイム・インパラなどとの交流がある。このアルバムは、ブリュッセルのレーベル、クラムド・ディスクの「メイド・トゥ・メジャー」シリーズの第46弾。このシリーズは80年代から続いているが、旧作カタログの再発に合わせて再始動した形だ。これはエドガール・ヴァレーズ、ジェルジ・リゲティ、モートン・フェルドマン、ジャチント・シェルシなどの現代作曲家を取り上げた意欲作で、現在進行形のロック・イン・オポジションといった感じ。現メンバーのジュリアン・ガスク、2016年に脱退したジュリアン・バルバガロらのソロ作のサイケポップとはまた違う世界が楽しめる。
動画 https://youtu.be/kLzO2pUUm5Q

Georgio – Ciel enflammé & Sacré
https://music.apple.com/jp/album/ciel-enflamm%C3%A9-sacr%C3%A9/1597747840
ジョルジオことジョルジュ=エドゥアール・ニコロは1993年生まれのパリのラッパー。かつて人気を博したスポークンワードのグループ、フォーヴの2014年の曲Voyousにフィーチャーされて名前を知られるようになった。今年5月に発表された4枚目のアルバムSacréに第2部Ciel enflamméを付け加えた拡大版が年末に出たのでそちらを挙げておく。メランコリックで聴きやすいサウンドのラップなので、まだラップに対する苦手意識をもっている人も聴いてみてはどうだろう。テレラマ誌はこのアルバムに対して「今やラップは新しいヴァリエテになった」とちょっと意地悪な評価を与えているけれど、だからこそ入りやすいと思う。
動画 https://youtu.be/4rfh1VLlcwQ

ラップでは優れたコンセプトアルバムであるSCHのJVLIVS IIを挙げるべきかもしれないけれど、日本のリスナーにも聴きやすそうなジョルジオにしました。ルカン・シャグランやフー!シャテルトンなどのロックバンドもよかったです。今年の話題作ということでは、クララ・リュシアニ(ルチャーニ)やジュリエット・アルマネのアルバムを挙げてもよかったけれど、最近のディスコ回帰ブームには少し辟易気味なので今回は見送りました。また、今年発表のフランス語の歌を25曲集めたYouTubeプレイリストを今年もつくったので、興味がある方は以下のリンクからどうぞ。
https://youtube.com/playlist?list=PLaICJoTGUCPnUifkTqeR6r4zhKl8PIu5X

福井寧(@futsugopon)
1967年生まれの日仏通訳・翻訳業。青森市在住。全国通訳案内士(フランス語・英語)。油川フランス語・英語教室主宰。訳書ネルシア『フェリシア、私の愚行録』、フジュレ・ド・モンブロン『修繕屋マルゴ 他二篇』(いずれも幻戯書房)。
https://aomori-france.org

nOririn(Poison Girl Friend)

Amanda Lear “Tuberose”
2021年の秋に発表された元祖ディスコ・クイーンのアマンダ・レアの新作は、シャンソンを中心としたアコースティックなカヴァーアルバムとなっています。10年ほど前にもアコースティック路線のアルバムを発表していましたが、今回もその延長線、よりパワーアップされた歌の魅力の数々を堪能致しました。
彼女の年齢も性別もヴェールに包まれていますが、サルバドール・ダリの愛人であったことを考えると、おそらく今年81歳という説が正しいのかもしれません。
バルバラ、グレコ、ムスタキ…etc と、シャンソンの大御所の曲から、ドビュッシーの「月の光」にヴェルレーヌの “Il pleure dans mon coeur” の詩の朗読まで、美しい世界が広がっています。
CD盤を手に入れて、親しい友人達へのクリスマスプレゼントにしたかった一枚。

Mathieu Boogaerts “En anglais”
1996年にソロデビュー作を発表しているマチュー・ボガート。今作は8枚目の作品ということですが、なんと全曲英語で歌っています。世界中を渡り歩いている吟遊詩人が、最初は1年の予定だったロンドンに、5年も住んでしまい、ついには英語詞のアルバムを制作。現在はフランスに戻っているようですが、音はいつもの彼のスタイル、限りなくミニマルに、シンプルなアレンジに英語の響きが新鮮です。アングロサクソン系の男性ヴォーカルで、ここまで非マッチョに淡々と歌う人が少ないので、私はむしろ彼の英語の歌のファンになりました。

Bon Entendeur “Minuit”
ほぼ毎日相変わらずSpotifyでBenjamin Biolay周辺の音を聴いていますが、そうするとフランス産のいかにも私が好きそうな音をAIが教えてくれるので、そこで知った ボンナンタンドゥール。ノスタルジックな楽曲をダンサブルなフレンチ・エレクトロで。
元々政治家等、有名人の声ネタをサンプリングした楽曲をミックスしSNSにアップする活動を2012年から始めているDJチームですが、2019年のファーストに続き、早くもセカンドアルバムをリリース。今回はジェーン・バーキン、フランソワーズ・アルディ、ヴェロニク・サンソン、マリ・ラフォレ等の大御所をフィーチャーしたリミックスを。ロックダウン中のフランス人の心の癒しとなりました。そして個人的には90年代の代表としてのフレンチラップの先駆者、MCソラーの参加に胸キュンノスタルジー。

POiSON GiRL FRiEND
→1992年、ビクターよりCDデビュー。2000年から2004年まで、フランスのストラスブールへ渡り、フランスを学ぶ。帰国後の2006年からライヴやDJ活動を再開。そのテクノとフレンチ・ポップスとの融合ともいわれている音世界は20年経っても不変である。2018年5月、テクノミュージシャンとのコラボアルバム « das Gift »をリリース。

丸山有美

Please please please – Cats on Trees
トゥールーズを拠点に活動するニナとヨアンのデュオCats on Treesが、セカンドアルバム『Néon』以来3年ぶりにミュージックシーンに送り出した「Please please please」 はなんとも愛おしくなる一曲。巨匠アルヴォ・ペルトにも喩えられる(←そういえばペルト先生のことは昨年の「今年の音楽」に選んだのだった)ニナのミニマルでメロディアスなピアノと芯の強さを醸す繊細な歌声、その美しい調べに時間的・空間的な広がりを鮮やか際立たせるヨアンのドラムが心地よいこと…。記憶の中の「いつか見た景色」が眼前に立ちのぼる感覚を味わいながら、ヨアンが音楽同様に絵を描くことを愛していて、双方の創作に共通項を見出していることをふと思い出したのでした。長年お互いを信頼し合う親友同士であり、シャイで感受性豊かな二人がコロナ禍で見つけた光のような曲です。この12月にはシングル「She Was A Girl」もリリースされ、2022年発売(当初は21年秋を予定)の新アルバムのへの期待が自ずと高まっているワタクシであります。うふ。

Rose – Aurélie Saada
この春、シルヴィ・オワローと2008年に結成したボーカルデュオBrigitteの解散を発表し、12月には自身が監督を務める映画『Rose』がフランスで公開となったオーレリー・サーダ。こちらはそのオリジナルサウンドトラックであり、彼女のルーツである音楽と言語(フランス語、アラビア語、ヘブライ語、イタリア語)に彩られた10曲を収めたアルバムです(うち1曲は長女シャロームの署名)。2015年の来日時、Brigitte結成の背景について尋ねると、それまで二人とも音楽の世界で活動してきたが女性として居心地の悪さを感じることがあったり、自然な自分を表現に昇華しきれていなかったりしたと筆者に語ってくれたオーレリー。シルヴィと手がけた3枚のアルバムを通してまさに自由で自分らしい生き方に確信を得た彼女の新たな一歩である本作は、照れや力みのない現在のオーレリーそのもの。オリエンタルムード満載の軽やかな曲の数々が癖になる快い一枚です。愛する夫の死から立ち直り、自分のために生きる喜びを見出していく78歳のヒロイン、ローズの姿を描いた映画『Rose』。日本でも公開しないかしら?

Luxe Misère (Deluxe) – Sages comme des Sauvages
アヴァとイスマエルのデュオSage comme des Sauvages。2020年に発表したセカンドアルバム『Luxe Misère』にボーナストラック2曲を加え、デラックス盤として今年リリースしたのがこちら。マロヤ、カリプソ、レベティコなど各地の音楽を混ざり合わせ、精緻なフランス語で世界の闇を歌ったファーストアルバムにつづき、今回もまた、哀愁と郷愁を漂わせるトライバルで洗練されたサウンドと世界の破滅的状況に対するアーティストの眼差しが際立つ一枚です。アルバムタイトルを直訳するなら「贅沢な荒廃」で、これは環境破壊や人権侵害や争いといった悲劇の裏には必ず富の追及があることへの目くばせ。そういうメッセージ性の強さを意識すると、聴く前から思わず襟を正したり及び腰になったりする御仁もおられましょうが、それはともかく、フランス語、クレオール語、英語の軽やかな歌声を包み込む陽気な(ときに能天気なくらいの)調べが纏う一抹のメランコリー、その微かな翳りの美になによりも強く惹きつけられるのです。きゅん。

丸山有美(あみ)
編集者・翻訳者・フランス系ライター

粕谷祐己(世界音楽研究家)

Manu Dibango, Negropolitaines.
コロナ禍がワールドミュージック界に与えた最大の損害は、たしかにもう高齢でしたがカメルーンの至宝、マヌ・ディバンゴだったと思います。本アルバムは新作のわけがなくて、2020年3月に亡くなった彼が1989年、1995年に出していた二枚のNegropolitainesを編集して同年12月にリリースされたものですが、アフリカン・ジャズ、ファンクの記憶として、これまでなじみのなかった方も長く聞いていただきたい一枚だと思います。

Songhoy Blues, Optimisme.
一曲目Badala。ストレートな60年代ハードロックを久しぶりに聞いた、という感じでしたが二曲目からはアフリカらしいビートでちゃんとワールドミュージックしてくれてます。トゥアレグ人や原理主義者やらが跳梁する故郷マリ北部にいづらくなったGarba Touréたちが首都バマコに出てきて活動を開始したこのバンド、メンバー三人までソンゴイ人ですが、バマコではトゥアレグのファンもいたということなんですね。まさに音楽は国境をこえ、民族の溝をこえていきます。アメリカ音楽に近い音が出せてかなり世界に展開できている彼ら。コロナが終わったら日本もターゲットに入れてほしいですね。

Takfarinas, Ul Iw Tsayri (Mon cœur c’est l’Amour)
タクファリナスはパリで生演奏を見ましたが、日本の盆踊り音楽をやらせたらぴったりくるような音を出す人でした。還暦を越えた彼は、今年久しぶりにリリースした本作で、髪を真っ黒に染めた若作りで俗悪ぶりを誇示するかのごとく新しい音に突進します。このアルバムは、同じアルジェリアのライの王さまハレドKhaledが昔C’est la vie (2012)で西洋ポップ路線を打ち出したひそみにならったかもしれません。でもしっかりアラブ風に聞かせる曲、ゲーム音楽みたいな曲、各種取り揃え。ではカビル音楽は? マトゥーブもイディールも世を去ったあと、あの寂しげなカビル音楽の衣鉢はだれが継ぐのか・・・それは女性シンガーになるような気がします。タクファリナスは陽気が持ち味なんですから。

粕谷祐己(または雄一。かすや・ゆういち)
フランスの作家スタンダールの研究から始めて世界文学をかいま見、アルジェリア・ポップ「ライ」から始めて世界音楽を渉猟する金沢大学国際学類教員。大学院でご一緒に「ワールドミュージック」研究しませんか?
blog.goo.ne.jp/raidaisuki

小林沙羅

1. Stromae – Santé
Youtubeに突如現れた新曲公開のお知らせに、世界中のファン同様私も「ついに!」と飛び上がりました。「健康」と「乾杯!(À votre santé !)」という2つの意味を掛けたタイトルが表すとおりコロナ禍でも社会のために人知れず働く人々へ「杯を上げる」曲で、一度聞いたら Stromae とわかる独特のメロディと妖艶な歌声も健在です。
https://youtu.be/P3QS83ubhHE
2. Loïc Nottet – Mr/Mme (Bruxelles)
コロナ禍が影響を与えた音楽ベスト3?として以下のふたつも一緒に。
去年出た曲ですが、アルバム Sillygomania より。
静かな夜、ブリュッセルの路地から始まり世界遺産グランプラスへ歩き着くまでの映像、そして鬱憤を晴らすような力いっぱいの若い美声に、感動(と旅行欲)が高まります。
https://youtu.be/DS8Hkf_aOr4
3. Gaël Faye – Lundi méchant
故郷ブルンジとルワンダの虐殺について描き2016年に複数の賞に輝いた小説『小さな国で(Petit Pays)』の著者でもあるミュージシャンは、今回のアルバムでもその歴史を優しい歌声で歌います。また収録曲 Réspire ではコロナ禍の閉塞を訴えていますが、個人的に、失業等の重い問題と並んで歌われる「マスクつけてなあかん」にフランス人のマスク嫌いが現れていて良いなと思ってます。Gaël Faye は容姿といい、聴きやすいメロディに乗ったラップといい、Stromae とも少し似ている…?
Lundi méchant https://youtu.be/juAORsvotSQ
Réspire https://youtu.be/NxPbrOWbltE
Kwibuka https://youtu.be/vz5Zhok8AgM

小林沙羅
関西学院大学大学院博士前期課程で20世紀のフランス前衛文学を研究し、修了後は1年間フランスのセーヌ・エ・マルヌ県経済観光振興公社でインターンを経験。現在、神戸の団体でフランスも含め国際交流の仕事をしています。

タチバナ

Gad Elmaleh – Bidonville – DJ Abdel Remix ft. Angelique Kidjo
https://www.youtube.com/watch?v=EtadL4yY34Y
https://www.amazon.co.jp/dp/B08HRV86TB
フランスで大人気のユーモリスト(≒芸人)のガッド・エルマレは日本でも Netflix などの配信サイトで作品が見られる存在。しかし人気に乗じたネタ曲だと思ったのなら、大きな誤解だ。この MV は、実に複雑なレイヤーを持っている。
映像では、コロナ禍で娯楽施設が閉鎖しているさなかに、薬剤師らしき人物に扮したガッドが、夜中のディスコに忍び込んで踊り狂う。きびしい外出制限を強いられたフランス人の孤独と屈折した高揚感が伝わってくるとすれば、コメディのスケッチさながらにMVを演じ切るガッドの表現力によるところが大きいだろう。フロアに響き渡るグラミー賞ノミニー歌手のキジョーの力強い歌声も、まさにアンジェリークで心に沁みわたる。このガッド・ダンスが Tiktok で盛り上がってこの曲がモロッコのチャートに上りつめたとか。
ところで、いかにも現代フランスらしいアフロトラップに仕上がっている本作の原曲はクロード・ヌガロだ。ヌガロは20世紀半ばに活躍した有名なシャンソン歌手で、ジャズ風やアフリカ音楽寄りの作品も見られる。実は本作、ガッドが歌う全曲ヌガロのカバーアルバムに収録されていて、アルバムのすべてにジャズアレンジがほどこされている。これがまた良い。Remix 前の Bidonville も、同じくキジョーをフィーチャーしたものだが、ガッドの歌い方はずいぶん別物。派手なRemixで客寄せしつつ、実際にはこの渋めのアルバムを聴かせたかったのだろうか。2004年に亡くなったヌガロは今でもフランスの音楽界でカバーやトリビュートが続々と出ている。
Gad Elmaleh – Bidonville
https://youtu.be/EGNIA4LDKKQ
Claude Nougaro – Bidonville
https://youtu.be/sh6jpbxjFKY
ところで、ミュージシャンとしても絶好調のガッドだが、清廉潔白には程遠い。いろんなスキャンダルを抱えているが、とくに数年前のスケッチで、中国風の時代衣装を着て、中国なまりのフランス語を話していた映像が、レイシズムではないかと批判されてきた。本人はその意図は否定しているものの、日本も中国もごちゃまぜにしたあのネタは、正直、気分が悪い。思えば、今年はフランス代表のサッカー選手の映像が流出して、日本人スタッフに対する侮蔑的な言葉が物議をかもした。アメリカだけでなくフランスでも見られるアジア系への偏見や差別。そういうものへのプロテストを込めた一作を紹介しておくなら、Thérèse の「Chinoise ?」だろう。アジア系に対するステレオタイプを(映像も含めて)列挙しつつ、フランス語や英語のほかにもいろんな言語を混ぜて、中華トラップとでも言うべきスタイリッシュな音楽表現に昇華させている。
Thérèse – Chinoise ?  https://youtu.be/6-A5UdLJamw
https://www.amazon.co.jp/ dp/B08TSLVBNQ

Moodoïd & Miho Hatori – Idéal Doki-Doki – 理想的ドキドキ
https://youtu.be/0K5pNh7w3vA
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B0966W2SV6
 来春をもって無期限の活休に入るキズナアイと、日本のアニメやゲーム曲に強いフレンチエレクトロの Moe Shop が、今年コラボ曲をリリースしたが、ここで挙げるまでもないだろう。むしろ、同じく親日家でサイケポップユニットのムードイドが今年リリースした EP に注目したい。全曲コラボ作品なのだが、日本版が特別仕様になっている。ジュリエット・アルマネと出したデュエット曲「Idéal」の日本語カバーが収録されていて、パブロが、元チボ・マットの羽鳥美保と二人で、日本語で歌っている。しかもこれが完全にシティポップというか80年代のアニソンというか、そういう仕上がりになっている。原曲の「Idéal」とのアレンジの違いも楽しめて二倍お得ではないか。
 ただしこの EP は、全曲A面みたいな作品集で、例えば、Melody’s Echo Chamber と歌った「Only One Man」なんかの方が、個人的には惹かれる(そして MV がかなりサイケ)。
Moodoïd & Juliette Armanet – Idéal https://youtu.be/qa_6A9PBMQk
Moodoïd & Melody’s Echo Chamber – Only One Man https://youtu.be/8TldeFJpLKg

Ringwanderung – ササル
https://youtu.be/C4oM0UZhEgA
https://www.amazon.co.jp/dp/B098DMVBJK
リンワンの愛称で知られる Ringwanderung(リングワンデルング)は、日本の5人組アイドルグループだが、ネタで出したわけではない。硬質な鍵盤ロックと難易度高めのメロディアスな楽曲が彼女たちの持ち味。コロナ禍で急成長を遂げて、いつメジャーデビューしてもおかしくない存在だ。また、鍵盤ロックと言っても、ずっと真夜中でいいのに。辺りのポップな音楽性とは少し違って、低めの歌声で聴かせる楽曲には、ときおり暗いエモーションが垣間見え、どこか狂気をはらんだエクストリームなところがある。その気配が一番はっきり出たのが、もはや鍵盤ロックでさえなくなった最新曲の「輪廻」かもしれない。アルバムには、この2年で磨き上げてきた珠玉の作品がつまっている。YouTube に Lyric Movie の上がっている「es」や「ユレ↑ル↓ナ→」などから聴くのがよいかと。
Ringwanderung – 輪廻
https://youtu.be/gBLFYj4BInI
鍵盤つながりで言うと、フランスの方では、今年はポーリーヌ・クローズの「Je suis un renard」も愛聴した。抒情的だが、決して甘すぎず暑苦しくもないピアノに続くポーリーヌの歌声の浮遊感、そしてメロディラインが醸し出す、ほどよい高揚感。振付師でダンサーの N’doho Ange が、ドローンと踊り、やがてポーリーヌと合流したり離れたり。しかも単なるカット割りに終わらない凝ったカメラワーク。地味だがよくできた MV ではないか。ただし、アルバム全体に目を向けると、crever l’écran 辺りは、どちらかというと軽快な80s風ポップス風だったりして、アルバムとしての統一性や多様性がことさらに見られるわけではないかな。
Pauline Croze – Je suis un Renard https://youtu.be/uClouPlEvxc
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B09DT7HKMV

等外賞
今年は Daftpunk が解散するという寂しいニュースがあった一方で、10年前に80sリバイバルで多大な足跡を残したフレンチエレクトロの雄カヴィンスキーが、コーシャス・クレイをヴォーカルに迎えて8年ぶりに新曲をリリースして復活した。とはいえ、自分が面白いと思ったのは、学生から教わった、カナダの Ghostly Kisses の「J’ai demandé à la lune」。アンドシーヌによるロックテイストのあの曲を、ドリームポップとしてカバーしていて、映像の質感もレトロで美しい。国内に目を向けると、アルバムもリリースした諭吉佳作/ men が歌う fishbowl の「深海」は、今年さんざん聴きまくった人が多いと思われるので割愛するとして、ライブアイドルとして、独自の美学で評価の高い電影と少年 CQ(以下、電少と略記)の話を少しだけ。女性アイドル枠のグループでメンバーに“男性”がいることもめずらしくなくなってきたが、なかでも、電少のユッキュンは、アイドル活動のかたわら、映画研究者の三浦哲哉に師事する大学院生だったらしい。幅広い新旧の映画作品をちりばめたVJを背景に、嘘や偽りをテーマにした脚本仕立てのMCを交えて音楽ライブをおこなってきたが、修士課程を修了して、ひらがな表記のゆっきゅんとして本格的にソロとして活動し始めた今年、ジェンダーレスな雰囲気を漂わせて、早くも「DIVA ME」の MV がバズり始めている。電少の曲としては、クラシック畑から転身した、武満徹好きのシンガーソングライター mekakushe(メカクシー)が提供した「November Ultra」を(シンプルかつ穏やかなメロディながら、アレンジが三段階くらい変わってゆく不可思議な曲)。
Kavinsky – Renegade (Official video) ft. Cautious Clay https://youtu.be/N5u6YYqWgEo
Ghostly Kisses – J’ai demandé à la lune ft. Louis-Étienne Santais https://youtu.be/cppPd-FBxO0
https://www.amazon.co.jp/dp/B08WYRQNFR
電影と少年CQ – November Ultra https://youtu.be/dgPnhKK1DCM
https://www.amazon.co.jp/dp/B09KMXK1Q8
ゆっきゅん – DIVA ME https://youtu.be/t-jSAlBWcpA
https://www.amazon.co.jp/dp/B095M5NBTP

Mami Sakai (@Mami_SoulUnion)

1. 『Le Condamné à mort』Jeanne Moreau et Étienne Daho
ジャンヌ・モローが詩を朗読し、エティエンヌ・ダオーが歌う、『Le Condamné à mort (死刑囚)』。ジャン・ジュネの生誕100年を記念するオデオン座の2010年のイベントの収録。付録がついたリマスター完全版、そりゃ買いますね。
ダオーが歌う、ジュネの初期の詩「Sur mon cou」をジャンヌ・モローがいたく気に入り実現した、なんとも豪華な企画。映画の中で未だ褪せることのないジャンヌ・モローのオーラは、舞台でも、客席の隅々まで迸っているのがわかります。音源だけでなく、映像で実際の舞台の様子を見るのがお勧めです。
ダオーが歌う“Nous n’avions pas fini de nous parler d’amour…”は、甘やかで、のっけからジェネの世界に持っていかれるよう。そうか、ダオーの声はこういう風にはまるのか!
ピエール・エ・ジル(Pierre et Gilles)の撮った、80年台のアイコニックなアルバム以降、聴くものを不安にさせる、低いのに低音が出せてないあの独特ヴォイスのエチエンヌ・ダオーは(褒めてます!)、その後も現在までコツコツと歌い続け、骨太路線も経由しながら、安定した、しかしヘタウマ感の名残りのある独特の領域に達しています。ミュージシャンの中にも、ダオーのファンは多く、英のセイント・エチエンヌ(Saint Etienne)の 「He’s on the Phone」や、スペインのロス・プラネタス(Los Planetas)の「Segundo Premio」は、ダオーのヒットソングへのオマージュとなっており、どの曲か当てて見るのも楽しいところ。
https://youtu.be/JEBbNm5xtlE

2. 『Monument ordinarie』Mansfield. TYA
Carla PalloneとSexy SushiのJulia Lanoë(Rebeka Warrior)による夢幻的かつラジカルな女性デュオ。昨年のランキングで、このアルバムからの先行シングル・カット、「Auf Wiedersehen」を期待値を込めて、しかし不安も表明しつつご紹介しましたが、やってくれました、待った甲斐があった!“女性の声“のデュオのクオリティを最大限まで活かしたような楽曲が続きます。が、聞き流していると、たまにぐりっとこちらの意識に歌詞がねじ込まれてくるような、ちゃんと歌詞を追うとギョッとするような仕掛けの多重的快楽。彼女たちの不安や憔悴といったものが追体験できるような「Le sang dans mes veins」など、耳に伝わってくる声や音と、それから与えられるインパクトの間に独特の不協和が生まれるのは、やはりこのデュオならではだと言えます。
抒情、メランコリー、溢れかえるポエジー、決意、そしてナンセンス全て詰まっています。トランス・フェミニストでアンチ・レイシストを掲げたRebekaのレーベル、Worrior Recordsからのリリース。そして、くどいですがSexy Sushiの方もはよ!
https://youtu.be/dO7qFTnJtE4

3. 『Teatro D‘ira – Vol. 1』 Måneskin
誰も本気で見てない、あのキッチュな、しかしながら欧州で最大の音楽の祭典ユーロビジョン2021年の優勝者、2000年生まれたちの正統派かつキャッチーなロックバンドMåneskin(モネスキン)。Spotifyに、あなた2021年はこればっかり聞いてるよね!とレジュメされるぐらい、毎日聞きまくっていました。そういえば、最初から最後の曲まで飛ばさずに聴けるロック・アルバムって、近年あまりないよなと改めて思わせるぐらい、全ての曲が良い!そして何がすごいかというと、世界的なヒットチャート上位を独占しているのは、さすがに彼らの英語の楽曲なのですが、このアルバム、半分以上がイタリア語なのに驚異的な再生回数、世界中で聴きまくられているのです。
ローリング・ストーンズの前座、イギー・ポップとのコラボなど、ロック・レジェンドへのお参りも欠かさず、これから売れまくる若手バンド感満載です。
これで思い出されるのが、1994年に制定された、ラジオなどで40%はフランス語の楽曲を流すべしとするトゥーボン法をきっかけに、規制の多いドメスティックな展開を避け、楽曲を英語で統一した仏アーティストたちのグローバルを目指す動きが活発になったこと。Daft punk、AirやPhoenix、Tahiti80など日本や世界で売れた“フレンチ・タッチ“のバンドたちはフランス語をある意味見限ったわけです。
そういった規制のしがらみもなく、イタリア語で堂々と登場。しかも英語の曲もかなり訛りが強く、シラブルのずれも、逆になんともいえない独特の魅力になっていて、“世界に通用するヨーロッパ発のロック“という今までにあまりないジャンルを、このMåneskinがとうとう確立した感も。パフォーマンスのハイテンションぶりに、あれはきっとドラッグをキメまくっているせいだ!と色々叩かれたらしく、そのカリカチュアを逆手に取り、だってイタリアーノだからね(ドヤ)!という「Mammamia」というシングルを作ってしまう強かさ。
仏アーチストが世界に通用しないのは言葉のせいだ、と繰り返し唱えられてきた呪詛を跳ね返す“欧州ポップのタリスマン“となる彼ら。フランスからもぜひ後に続くアーティストが誕生してほしいと期待を込めて!
https://youtu.be/Ex037JX3-BI
https://youtu.be/r0l3APlFeyo

Mami Sakai (@Mami_SoulUnion)
ロンドン在住。パリ第7大学で記号学的フレンチ・ラップを研究。その後ドーバー海峡を渡り、心理学&機能性栄養学のセラピストに。ナチュロパシー・ジャパン・ファウンダー。

irrrrri(いりー)

Angèle「Nonante-Cinq」
毎年ここでAngèleについて書いているので、またかよ〜と思われるかもしれませんが、待望の2ndアルバムが先日出たので引き続き紹介します。Netflixのドキュメンタリー『Angèle/アンジェル』では、ティーンの頃から書き続けている日記を引用しつつ、キラキラしているように見えて内面はごく普通の人というのがひたすら映されていた。家族との関係、セクシュアリティ、いきなりポップスターになったことーー彼女の悩みは尽きないのだが、常に自分に正直であり続ける姿勢が好感を持てる。それを観てから本作を聴くと、ベルギーっ子魂炸裂の先行シングル“Bruxelles je t’aime”から始まり、フックアップしてくれた恩人Damsoをフィーチャーした“Démons”がハイライトとなるつくりに納得した。
Bruxelles je t’aime https://youtu.be/a79iLjV-HKw
Démons feat. Damso https://youtu.be/5TqetBMBTww

Myd「Born A Loser」
ひと昔前に、JusticeやSebastianなどのフレンチ・エレクトロで名を馳せたレーベルEd Bangerを覚えていらっしゃるだろうか。シーンは落ち着きつつも途絶えることなく続いていて、今年素晴らしいファースト・アルバムをリリースしたのがMydである。ジャケットやタイトルからナイスキャラなのが伺えるが、きっちりアゲつつもナヨッとしたインディロック的エモさが散りばめられ、Mac DeMarcoとの共演曲“Moving Men”まである。Daft Punkが爆発してしまった悲しみを癒やしてくれたのは彼だった。
Together We Stand https://youtu.be/KXEmeZTsyD4
Moving Men (feat. Mac DeMarco) https://youtu.be/fNRPiXes7OQ

Yeahman「Ostriconi」
南米音楽×ゆったりしたテンポの電子音楽=エレクトリック・フォルクローレは、ここ5年ほどで人気を獲得したジャンルのひとつだろう。スロー・テクノ、オーガニック・テクノなどとも呼ばれ、エキゾチックで他ジャンルとのmixを受け止めるしなやかさが魅力。その代表的アーティストであるEl Búhoも参加した、仏発Yeahmanによるアルバムはより多くの人に聴かれてほしい作品だ。トゥールーズ〜マルセイユ〜ダカール〜ナポリで録音され、タイトルの「Ostriconi」とはコルシカ島(ナポレオンが生まれたところ)にある丘のことだそう。水の流れや緑のざわめきを感じさせる美しい響きにうっとりできる。
Baixi Baixi (ft. Aluna Project) https://youtu.be/SJRgQ2qxeWQ
Sueño Contigo (ft. Aluminé Guerrero) https://youtu.be/OENTuyVZvDo

irrrrri(いりー)
DJ、たまにライター。富山県在住。クラブ、バー、カフェ、フェスなどでハウスと古今のポップソングを楽しくプレイ……していたが、コロナの影響で2020年に引き続き2021年も出番は少なめ。2021年の曲で Spotify プレイリストを作ったので聴いてみてください。
https://open.spotify.com/playlist/5xjD7qO47c5LUFb2F1HVzG?si=sp7JF9tKTGOVpbLXB0tXiQ

不知火検校

1.仲道郁代 ピアノ・リサイタル「ワルトシュタイン~希望と夢想」
昨年は小山実稚恵のリサイタルをここで紹介したが、それと同様、今年はベテランのピアニスト、仲道の演奏会が印象に残った(3月27日)。場所は山形県の文翔館という非常に有名な歴史的建造物の中にあるホールで、元々は明治時代に使用された県庁の議場である。仲道はここでベートーヴェンとドビュッシーをプログラムに据えたリサイタルを開催した。ベートーヴェンは2020年が生誕250年、ドビュッシーは2022年が生誕160年なので、2021年はその両者をつなぐ年と言って良い。実際のところ、ドイツ音楽とフランス音楽という違いを超えて、二人の音楽は不思議と反響しあう部分があり、仲道はそれを見事に表現していたように思う。それにしても、ベートーヴェンの著名なソナタと、ドビュッシーの「沈める寺」「喜びの島」のような傑作が響き合う空間が存在することは、コロナ禍のような状況下では本当に貴重なことのように思える。

2.藤原真理 チェロ・リサイタル
この秋、日本を代表するチェロ奏者、藤原真理が東京および全国の数か所でリサイタルを行ったが、その仙台公演を聴くことが出来た(11月14日)。フランスとロシアを代表する世界最高峰の演奏家、P・フルニエ、M・ロストロポーヴィッチに師事した藤原は、1978年にチャイコスフキー・コンクールで優勝。その後は世界的な規模で活躍しながら、独特な演奏活動を展開、現在も全く衰えをみせない演奏技術で聴衆を驚かせて来た。今回のブラームスのソナタ第1番ホ短調op.38、ベートーヴェンのソナタ第3番イ長調op.69という名曲プログラムは、まさに彼女の《円熟の極み》を見せつける。曲の合間に「ようやく弾けるようになりました」「まだ修行中です」などと信じられぬほど謙虚なコメントをしてお茶目な姿も垣間見せるが、真摯に楽器に挑む際にはもはや崇高とでも呼ぶしかないレベルに到達しており、こういう演奏家がまだ日本にいることの幸福を噛みしめないわけには行かない。

3.反田恭平、ショパン・コンクールで第2位
無名の時代から反田のピアノ演奏を聴き続けてきた多くの支持者の気持ちを代弁すれば、「ようやく世界が反田に追いついた」というようなところだろうか。いずれにしても、51年前の1970年に内田光子が達成した「ショパン国際ピアノ・コンクール第2位」という記録に並んだということの意味は大きい。日本のピアニストのレベルが世界最高水準にあるということを、反田は改めて確実な形で示したと言える。

わたなべまさのり(ビー・アンクール・ドットコム株式会社)

Xenakis et le Japon in TOKYO @ めぐろパーシモンホール 5 juin 2021
大好きな演奏家加藤訓子さんが芸術監督。ALLクセナキス・プログラム。私の今の好み的には、やはりハイライトは「Pléiades」。訓子さんが選抜した若手パーカッショニスト18名が演奏。最終の楽章となった「Peaux」の怒涛の演奏に浸っている時、ふと頭に浮かんだ事→FBNの管理人さんも先日の日本公演を観に行かれたKing Crimsonはライブで、ドラマー3人だけで演奏する曲をやりますが、それが浮かびました。PAを通している分KCドラマー3人の方が不利な気がしますが「あなたたち、もっと出来るでしょ!」と(笑)。やはり生音だけ、そのダイナミクスが直に聞こえて、というのは物凄くダイレクトな音楽体験ですね。幸せでした。

Welcome To The Other Side (Bienvenue Ailleurs) Jean-Michel Jarre @ Notre-Dame VR 31 décembre 2020 – 1 janvier 2021
コロナの中、健康的にライブを再開すべくミュージシャンたちが試行錯誤している様子は痛々しくもありますが、Jean-Michelのこの当時の答えがコレ。私はヘッドセットを持っていないので、その場へは行けませんでした。内容的には彼がコロナ以前の数年間世界中で演奏してきた内容の短縮版。近年の楽曲中心。後にLP/CD/DVDでリリースされていますが、LPを聴く限りライブ配信された時のものとは別ミックス。リミックスされています。

TORU TAKEMITSU 1982 HISTORIC RECORDINGS 岩城宏之, 札幌交響楽団 (CD)
未聴なので反則!!(笑)。まだ買わない理由は…「ヴァイナル未だですか??(笑)」。一年経ってヴァイナルもハイレゾも無しならばCD買うと思います。

 

Small Circle of Friends

Rejjie Snow – Baw Baw Black Sheep
MF Doomをフィーチャリングした先行シングル『Cookie Chips』がリリースされてから、アルバムを今か今かと待っていたレジー・スノウの2nd Album。自身が子供の頃大好きだった映画『チャーリーとチョコレート工場』の非公式(?!)サントラだそうで、全体の音の雰囲気、途中で差し込まれるスキットも含めて、実に物語的です。かといって決して派手なギミックに至らず、終始落ち着いた雰囲気。レジー・スノウのラップも熱くもなく、かといって暗いわけでもなく『ちょうどよい』加減です。本作のコラボレーターであるキャム・オビ(Cam O’bi)のちょっとトボケた調子の歌声と相待ってずっと”おとぎばなし”の世界に浸っている気分になります。曲調もバラエティーに飛んでいるのですが、カラフルというより柔らかくて滑らかなそれこそチョコレートケーキの様です。甘くてちょっとだけ苦いあの味です。
https://instagram.com/rejjiesnow/  https://rejjiesnow.com

Mac Miller – Circles
あまりマック・ミラーの音楽を熱心に聴いてこなかったのだけど、このアルバム『Circles』の音像、というか歌声と他の音との乖離具合の不思議さに耳を奪われました。そして調べてみれば、マック・ミラー亡き後、残っていた素材をプロデューサーのジョン・ブライオンが完成させたとのことで納得。その残っていた素材がどのくらいのデモ具合だったのかどうかはわからないけれど、確かにマック・ミラーのふらふらゆらゆら鼻歌感の強い声をシンプルに中央にどんっと置いて、その周りに他の演奏音を控えめに、声を支えることを第一目的にアレンジしているように聴こえてきます。今の技術であればより『完成形』に近づけることは出来たと思いますが、あえてちょっとだけ馴染まないようにしている感じが、その塩梅も含めて心地よいです。ずっと聴いていたくなるアルバム。
https://g.co/kgs/33F3tj

DJ Harrison – Tales from the Old Dominion
リッチモンドがアメリカの何処なのか見てみると、ロサンゼルスの反対側に位置する東海岸にあって「あの2013年のMndsgnの家で行われたBoilerRoomのライヴの時はわざわざアメリカ大陸横断したんだな。あの30分弱のライヴの為に。」 https://youtube.com/watch?v=eq_Iq8MzAG8… とか考えちゃいました。マルチインストルメンタリストであり、バンド、ブッチャー・ブラウンのキーボディスト、DJハリソン。自身のスタジオ『Jellowstone Studio』に籠もって、最新鋭じゃないが自分にとって使い勝手の良い機材をつかってず〜っと音楽を作っている。そんなイメージです。soundcloudやBandcampにも膨大なアーカイブがあって、ノンストップでを音楽作る=生活を体現している人だと思います。制作の機材選択や行き道なども豊富で如何様にも音楽作れそうな雰囲気があって、それが作品にも現れています。今回のアルバムはその集大成にも聴こえますが、これもおそらく通過点であり、彼の生活の一部でしかないのでしょう。
https://stonesthrow.com/artist/djharrison/…
https://youtube.com/watch?v=CQbeLeO8xl8…

Small Circle of Friends
ムトウサツキとアズマリキの二人組。 1993年、United future organizationのレーベル”Brownswood”よりデビュー。以来、17枚のフル・アルバムをリリース。2005年にはインストゥルメンタルに特化したサイド・プロジェクト「STUDIO75」をスタートし、英国の人気DJ、ジャイルス・ピーターソンもラジオ・プログラムにてプレイするなど、世界的な評価を得た。アーティストのトータルプロデュースからbeat製作も多数。最新は、BASI、maco marets、kojikojiなど。ほか「Summer Song」はオランダのpopマエストロ「Benny Sings」をフィーチャー 7インチアナログとして2017年の夏にMUSICAÄNOSSAレーベルよりリリース。代表曲「波よせて」も制作20thにあわせ、7インチレコードでリリース。2019年7月にはアズマのオルターエゴである「detective TAKEI FUMIRA _ 『5』(ファイヴ)」をリリース。
2021年、Small Circle of Friendsのアルバム先行、1stシングル「NewType」、2ndシングル「seasons change」、3rdシングル「clap song」を経て2021年12月1日に12枚目フルアルバム「cell」をリリースしました。
STUDIO75で音楽制作、75Clothesで古布や古着をリユースで再生して作る服。 音と服で毎日を暮らしています。 https://scof75.com

exquise

配信サービスのおかげで今年もいろいろな音楽を楽しむことができました。今年は特に若い人たちや女性の作品が多く記憶に残りました。いい作品にもたくさん出会ったのですが、今年発表されたものに限定します。

Arlo Parks – Collapsed In Sunbeams
そのみずみずしくて、一方で切なさも感じる声に心奪われ、一昨年から気になっていたアーロ・パークスは、ナイジェリア、チャド、フランスにルーツを持つ20歳のシンガーソングライター。今年発表された待望のデビュー・アルバムは思春期のパーソナルな体験を詩的に綴ったものだそうで、叙情的で優しい音ともに歌われる曲の数々は、しんどいときにそっと寄り添ってくれるような存在でした。
“Too good”  https://youtu.be/-gFCd5CE4bg

Silk Sonic – An Evening With Silk Sonic
2019年に発表されたアルバム  Ventura  がメチャカッコよかったアンダーソン・パークがなんとブルーノ・マーズと組んで出したアルバム。夢のコラボで生まれた70年代テイストあふれるキャッチーでソウルフルな曲は、文句なく楽しく元気をもらえました。
“Skate”  https://youtu.be/CEw-7cMnBDY

Holy Hive – Holy Hive
ブルックリンを拠点に活動するソウル・ファンク系ドラマーとフォークシンガー+ベースという異色の組み合わせのインディーバンド。ノスタルジックなメロディーとフワフワしたヴォーカルが融合した夢想的な音が妙に心に残りました。
“Color It Easy”  https://youtu.be/lwWjCeUZFvQ

このほかにも Tyler, The Creator (Call Me If You Get Lost)、Benny Sings (Music)、Easy Life(Life’s a Beach)など面白いアルバムをいろいろ聴くことができました。フランスのアーティスト Myd  が Mac DeMarco とコラボしたシングル(Moving Men)も楽しかったです。

TOP Photo ‘No music no life’ by Simon Noh on Unsplash



posted date: 2021/Dec/30 / category: 音楽
cyberbloom

当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
FRENCH BLOOM NET を始めたのは2004年。映画、音楽、教育、生活、etc・・・ 様々なジャンルでフランス情報を発信しています。

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