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“A bientôt sur la route!!” – ANGE結成50周年

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1980年代後半のある日、私は六本木のレコード店WAVEの “ヨーロッパのROCK” コーナーを見ていました。私は買うレコードを決めていませんでしたが、帰り道にはフランスのバンドANGEのLP “Le Cimetière des Arlequins” を抱えていました。

音楽的には、これがANGEの音(音楽)と私の出会いでした。(私が最初に聞いたのは、高校生の時に買った彼らの3rdアルバム “Au-delà du Délire” でしたが、当時それは殆ど聞きませんでした。他のレコードを聴くのに忙しかったのです。)Ces Gens-Là (Brelのカバー)、Bivouac、Le Cimetière des Arlequinsといった曲は特に、私がそれまでに聴いてきたどの音楽とも異なったムードがあり、かつ、どの曲も表現力が豊かで、私はこのアルバムが即大好きになりました。

1993年秋。初めての海外旅行。私はANGEについての最新情報を求めて、ANGE結成の街であるBelfortを訪ねました。ANGEゆかりの場所を知りたくて、偶然見付けたCDショップに入り、スタッフにたずねました。彼は「街の中にある楽器店の2階の音楽教室でドラムを教えているのは元ANGEのドラマーだよ」と教えてくれました。(私とドラマーJean-Pierre Guichardさんとの縁は今日も続いている。)ANGEの最新情報について、彼は「ANGEは、もう活動していないはず」と。あー私は遅過ぎました…。

1996年秋。ANGEのヴォーカルChristian Décampsさんがツアーをしているとのニュース。勿論、事前にインターネット経由でツアー日程を知ることができる時代ではありませんでした。でも私は現地ファンクラブとレコードレーベルから日程を教えてもらい、11月29日に予定されたフランス北部の街Compiègneで行われる公演を目指しました。

Setlist 29/11/1996
Carnaval
Les Yeux d’un Fou (*Tristan lead vocal)
Paysans et Cosmonautes
Le Marchand de Planètes
Ode à Émile (“version unplugged”)(*Tristan & Thierry lead vocals)
L’Héritage
Quasimodo
Couleurs en Colère
Je n’ai d’Yeux que pour Toi (*Christian solo on ac. guitar)
Tristan keyboard intro
Bivouac (1er partie/Final)
Bonnet Rouge (*without Christian, Tristan ac. guitar, Tristan & Thierry lead vocals)
Cap’taine Cœur de Miel
encore
Hervé drum solo
Juste une Ligne Bleue
Ces Gens-Là (with Frida segment)(*Christian solo on keyboard)
Le Ballon de Billy
CHRISTIAN DÉCAMPS ET FILS (in alphabetical order):
Christian Décamps
Tristan Décamps: keyboards, vocals
Hassan Hajdi: guitars, vocals
Hervé Rouyer: drums. percussions
Thierry Sidhoum: bass, vocals

これが対面での、友だちとしての彼ら(バンドのスタッフたちも含みます)と私の付き合いの始まりでした。私は今このセットリストを見て、そしてあの夜(そして、その後の2公演)の音の記憶を思い出しても、とても興奮を覚えます。(このツアーで録音した数曲が、後述する「Un Pied Dans La Marge」のコレクターCDに収録されています。)

私はこの後、3ème Étoile à Gaucheツアー、La Voiture à Eauツアー、Culinaire Lingusツアー、Le Tour de la Questionツアー、La 40e Rugissanteツアー、Moyen-Âgeツアーを訪ねてきました。(La Voiture à Eauの前に、バンドは「ANGE」と改名しました。)彼らのライブを観に行き続けてきた理由は、表情と表現力が豊かな彼らの音楽が私は大好きだからですが、友だちに会いに行くという感覚を持つまでに、あまり時間はかかりませんでした。私の心の中には、彼らと過ごした沢山の想い出があります。

at Swing Cafe in Laon, 30th Nov 1996. 完売のところご好意で入れてもらったので最後尾から

メジャーレーベルと今も契約していてニューアルバムを殆どリリースしない(または、リリースすることができない)ベテラン・ミュージシャンが世界中に沢山います。しかしANGEは20年以上に渡って、彼らがやりたい事で満たされたニューアルバムを、数年毎に、発表し続けています。それは(古い)巨大な仕組みではなく、彼らは持続可能な方法でやっています。特徴の一つは、オフィシャル・ファンクラブ「Un Pied Dans La Marge」(1996年誕生)を通してファンが *購入する* Adhésion(メンバーシップ)の年会費でしょうか。2020年は30ユーロです。ファンはお返しに、コレクター音源/映像満載の特製CDまたはDVDと、年4回発行のファンジン「Plouc」をいただけます。

そしてニューアルバムのリリース後には、彼らはいつもツアー。彼らのライブが何時も最新アルバムの曲を積極的にフィーチャーしている事を、私は高く評価しています。(La 40e RugissanteツアーのRiom公演の途中でクリスチャンさんは「Je hais nostalgie!」と話しましたが、それと無関係でしょうか?!?!)音楽的な表情と表現力がライブでは数段増幅しますが、それは彼らのライブの最高のチャームポイントです。そして彼らはいつも手を抜かない。どの様な(難しい)環境であっても、どの様な(難しい)聴衆にも。1996年にCompiègneで終演後にクリスチャンさんが、ショーが終わった時は彼は「empty」、と私に話してくれましたが、メンバー全員がよろこんで聴衆のために全てを提供する。そんな彼らのミュージシャンシップを私は尊敬しています。クリスチャンさんのショーマンシップはよく知られていますが、彼が見せる聴衆とのコミュニケーションの熟練度と柔軟さは、ありとあらゆるタイプの聴衆に向かって演奏してきた経験量を私に感じさせます。どんな聴衆でも、例えばファンではない人々が集まっていても、彼は何とかしてしまいます。そして終演後は必ずMeet & Greet。彼らと話したい聴衆なら誰でも彼らと直接話が出来るのです、彼らが準備出来るまで待てれば。私は時間制限を見た記憶がありません。

やりたい音楽活動を彼らが続けられている状況、そしてファンを大切にする姿勢。今日の音楽の世界で、ANGEと彼らのファンは、きっと最も幸せな部類に入っていると思います。

“Bonnet Rouge” in Massy, 8th Dec 1996

2020年。ANGE結成50周年。1月31日(バンドの誕生日)と2月1日にはパリのTrianonで記念ライブが行われました。そして今年いっぱい「Toute Une Vie d’ANGE」と銘打ったツアーと、来年にはニューアルバムが予定されています。ニューアルバムが待ち切れません。 ここで書き終えることができれば良かったのですが…..COVID-19(新型コロナウィルス)です。

実は私はこの春にツアーを観に行く予定だったのですが、この夏より前に予定されていたライブは延期になりました。ライブ/コンサート業界のダメージは既に世界から聞こえてきています。ANGEのメインの活動の一つはライブです。もしも彼らが普段のようにはライブで演奏を出来ないとなるなら、ファンはANGEを支える別の方法を考える必要が出てくるでしょう。ANGEを生き延びらせたいならば。(あなたのお気に入りのミュージシャンを生き延びらせたいならば。)

友情と願いを込めて今日、私は彼らにこう伝えたいです… A bientôt sur la route!! (2020年3月31日 神奈川県横浜市)

「Un Pied Dans La Marge」Adhésion(メンバーシップ) https://ange-updlm.com/adhésion/
年会費は銀行振込(海外送金)で支払えます。

※Top Photo : 1996年Compiègne公演の数時間前, 近くのCDショップでのChristian In-Storeミニライブ.

わたなべまさのり(ビー・アンクール・ドットコム株式会社)



posted date: 2020/Apr/30 / category: 音楽
cyberbloom

当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
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