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FRENCH BLOOM NET 年末企画(1) 2011年のベスト映画

text by / category : 映画

リー・ホンチー『冬休みの情景 Winter Vacation』
■2010年のロカルノ映画祭で金豹賞を受賞した中国作品で、ジャームッシュ、カウリスマキ、そしてデビュー時の山下敦弘などを思い起こさせる。構図の美しいショットと独特のユーモアを備えた静かな作品だが、一方でパンク精神もあり。久々に衝撃を覚えた映画。
http://www.focus-on-asia.com/lineup/film_15.html
(exquise)

1.『トスカーナの贋作』
今年はいろいろ忙しくて、ここ10年でいちばん映画を見なかった年になりました。このキアロスタミの新作は、見た直後は不愉快だったのですが、思い返してみると、なかなか手の込んだ傑作なのではないか、という気がしてきます。観客は役者の演技をスクリーンで見るわけですが、それが演技であることも理解しています。では、登場人物が作中で演技を始め、その演技がそのまま終わらなかったら、どうなるのか。いわばシネマのフィクションそのものと戯れた作品と言えるでしょう。
2.『ヤング・ゼネレーション』
1979年のアメリカ映画。DVDで初めて見ました。父親たちが働いていた石切り場の跡地でぱっとしない青春を送る4人の男が、一念発起して自転車レースに出場する、というだけの話ですが、イタリアかぶれの主人公が痛快で、笑わせ、泣かせてくれます。原題はBreaking Away、つまり「追い抜かす」で、「労働者階級の子供たちがエリート大学生たちに一泡吹かせる」物語をうまく自転車レースに引っ掛けています。邦題があまりに投げやりで、ちょっと気の毒。
3. 『蜂蜜』
久しぶりに「芸術映画」を見た、という満足感がありました。トルコの山間部での少年の暮らしは、泥濘んだ道や梢のざわめきなど、ごく普通の風景でありながら、何か遥か昔から繰り返されてきた神話的なレベルにまで高められているように見えました。同時公開の『卵』『ミルク』(合わせて「ユセフ三部作」)は、一転して都市の風景のなかに悲しみをたたえた作品で、とくに『ミルク』のエンディングの製鉄所で煙草をふかす青年詩人の長回しが印象的でした。http://youtu.be/oEQ5U4QGu4M
(bird dog)

園子温『恋の罪』
■こんな強力な邦画があるのねーと思わせるだけのパンチのある一本。
■たとえると日活ロマンポルノの鍋に、男から見たバージョンの「イン・ザ・カット(ジェーン・カンピオン監督作品)」をぶちこんで、更にそこにマザコン&ファザコンで味をつけて、薬味に精神的双子性(ダブル)をふりかけたような作品。
■主役三人の女の描かれ方がどうであれ、ここに出てくる女は見事に全員、愛している男とセックスしない(できない)。「愛がないんなら金をとらなきゃ」とそのただ一人への愛を売春行為で昇華しようとする倒錯ぶり。しかしそれがいつしかすごく滑稽なのだけれど可愛らしくも見えてくる。ついにその唯一人とセックスする時には残酷な形で愛は裏切られてしまうのだけれど。
■刑事を演じる水野美紀のダブルである自殺した女と、貞淑な妻から売春婦へ変貌するいずみと助教授でありながら体を売る美津子という二組の精神的双子の描かれ方が面白い。途中まではとても見せるのだけれど、近親相姦的な側面が出てきた途端につまらなくなってしまう。
■濡れ場のとり方は男目線なので、「イン・ザ・カット」の方に軍配。ただ女の渇きと裏腹にピュアなところはうまく表現されていた。
http://www.koi-tumi.com/
(黒カナリア)

■『トゥルー・グリット』(コーエン兄弟監督、ヘイリー・スタインフェルド主演=新人)です(True Grit とは「真の勇気」という意味だそうです)。この作品は、ここ数年来の収穫、名作の1本だと思います。オリジナルは、69年公開の『勇気ある追跡』(ジョン・ウエイン主演)なのですが、リメイクの方が格段によくできていたと思います。今年の3月の公開だったのですが、会う人、会う人に見るように勧めていました。http://youtu.be/CUiCu-zuAgM
(MU)

■311以降、フィクションへの関心が一挙に薄れた。現実があまりにも強烈で破壊的だったから。リアルな放射能汚染にさらされるほどの現実の強度がどこにあるだろう。今年は原発という現実を見据えるドキュメンタリーが数多く上映された。映画館の上映ではなく、レクチャーやディスカッション付きの上映会という形式をとることも多かった。つまりフィクティブなものを個別に消費するという態度から、倫理的で実践的なものへの、人とのつながりを求めるソーシャルなものへの人々の関心が高まった。『ミツバチの羽音と地球の回転』と『祝の島(ほうりのしま)』を見に行ったが、上映会で一躍時の人となった鎌仲ひとみ監督と話す機会があった(実は同郷)。一方で悪夢を強引に忘却しようという日本の強固な日常性にも、放射能と同じくらいの恐怖を憶えた。この日常性が311後のフィクションのテーマになるかもしれない。
http://888earth.net/
http://www.hourinoshima.com/
■無害化されるまでに10万年かかる高レベル放射性廃棄物の処理を通して地球の未来の安全を問う『100,000年後の安全』、30年以内に100 %再生可能エネルギーへのシフトが可能だということを様々な角度から検証する『第4の革命-エネルギー・デモクラシー』も必見。
http://www.uplink.co.jp/100000/
http://www.4revo.org/
(cyberbloom)

『さすらいの女神たち』
■日本公開は今年だったので『さすらいの女神たち』。面白いかというとそうでもないんですがw、やはり「マチューおめでとう」という気持ちをこめてベスト1にします。http://youtu.be/ml4aBTnUIuc
■『ミツバチの羽音と地球の回転』。原発建設には当然、住民の反対運動があるだろうなと漠然と想像してはいたけど、実際の映像を見たことがなかったし、遠い場所の出来事だと思っていた。事故の記憶が新しいうちに多くの人に観て欲しいと思う。
(@ananas_jp)

『イリュージョニスト』
■今年はあんまり映画を観てないのですが、一本だけ、映画館で見てよかったと思ったのは、ジャック・タチの遺稿をシルヴァン・ショメが映画化した『イリュージョニスト』。久々にスクリーンで観て、ジーンときました。宝物にしたい映画の一つです。http://youtu.be/hnX0L4I_8IQ
(@petiteleph)

■どちらも、好きというのではないけれど、『ビューティフル』と『ツリー・オブ・ライフ』を立て続けに観て、時代の行き詰まりを、感じさせられました。トム・フォードの『シングルマン』は、ストーリーというよりビジュアルが素晴らしかった。『イブ・サン・ローラン』も然り。http://youtu.be/BXLF2uijC84
(@miyagrace)

■今年よかったフランス映画ですか・・・。半分以上がリバイバル、フランス映画の奥深さを感じましたが、個人的に『チキンとプラム』、『マーガレットと素敵な何か』・・・いい役者さん多い…。http://youtu.be/ZvMGTY_lrV0
(@sachi_ogu)

■「冷たい熱帯魚」が衝撃作でした。面白かった~の一言ではとても片付けられない、観客の心を殴打し掻き乱した挙句、もはやよくわからない感動を残し去っていく恐るべき「エンターテイメント」作品です。http://youtu.be/xSskAosTD1w
(@mmmule)

■トルコ人カブランオール監督の作品『蜂蜜』ではストーリーの展開自体意味を失っている。主な登場人物は父と母と息子(ユスフ)の3人。父は養蜂家で、ある日新たな蜂蜜採取の場所を探しに出かけるが行方不明になり、母と息子だけが残される。至極単純な話であり、冒頭のシーンで一瞬、父が主人公であるように見せておいて、実は息子ユスフの目から見た世界の観察が中心となる。父という家父長的な象徴はまるで何も無かったかのように映画の途中で消失し、不在としてしか語りかけてこない。この映画では実際に起こった事そのもののもつ意味は限りなく無力化され、逆に起こった事と事の間(ミリュー)にうごめく言葉に出来ない事象の方がはるかに興味深い。抹殺されたパロル?(ユスフは吃音の為に教科書すら満足に読めず、ただうめくのみ。ユスフと父の会話は我々には殆ど聞こえるか聞こえないか微妙である、つまり囁きとしてのみコミュニケーションが成立。囁きあるいは呟きとは不思議なものである。その目的は限りなく曖昧である。つまり、話者は相手に情報を本当に伝えたいのか、それとも自分自身の体内に自分の音声をただ振動させたいのか、本人自身がこの両者の間(ミリュー)で揺れ動くことを意味している。
■上記のようにこの映画は、自分の声が一体何処に向かっているのか?という問いを通して興味深く我々の心を揺さぶっているのだが、この揺さぶりを更に増幅させるのが窓辺の風景である。ユセフが休み時間に一人窓の外を眺めるシーン(*校庭で友人達と遊びたいのだが遊べない状況)、家の窓辺で自然光が柔らかに入ってくるシーン(その対極には暖炉の火)、無人の家でカーテンのゆらぎだけが時間の感覚を気付かせてくれるシーン、このような内と外のはざ間(ミリュー)の時空の描写が秀逸である。決して説明的、教訓的でないのがいっそう我々の想像力をかきたててくれる。ふと、あのフェルメールの窓辺の風景やゴダールの再来と騒がれたフィリップ・ガレルの傑作『自由、夜』の中で窓辺の朝の柔らかな光が女性の体を愛撫するシーンを思い出す。そうなのだ、内・外の境界線の時空の描写にコトバは要らないのである。ここではただ光の粒子達に自由に遊ばせておくだけでいいのである。将来詩人になるであろうこのユスフには、妙に窓辺の風景が似合うのである。ユスフ3部作、他に『ミルク』『卵』とあるそうだが、是非見てみたくなるそんな第一部である。http://youtu.be/oEQ5U4QGu4M
(里別当)

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posted date: 2011/Dec/22 / category: 映画
cyberbloom

当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
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