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『燃ゆる女の肖像』セリーヌ・シアマ監督 6月2日DVD発売

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フランスの人文科学に親しんでいる者にとって、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリディケの挿話はそれこそ耳タコで、『エッセ・クリティック』のバルトや『文学空間』のブランショが好んで論じていたものだ。文学の修士号をもつセリーヌ・シアマ監督はおそらくそうしたトピックに精通している。


本作が素晴らしいのは、この神話を、ジェンダーやら視線の相互性やらの見地から徹底的に問い直して、ストーリーに落とし込んでいるところ。それでいて18世紀の無名の女性画家たちの生きざまに思いを馳せた時代物でもあるのだ。題名で「燃ゆる」と訳された”en feu”は、「愛の炎」と同時に、女を苛む男社会の「地獄の業火」という意味でも理解すべきだろう。とにかく、映像美や作家性で味わう作品だと思ったら見当違いで、終盤の作り込まれた展開はただただ素晴らしく、某映画の蒼井優のごとく「お見事!」と叫んで倒れそうになる。

主題歌の歌詞はニーチェの詩のラテン語翻案のようで、超人思想を思わせるフレーズが、女性たちをエンパワーすべく滑り込んで来る辺りも洒落ていて、『ガールフッド』(『Bande de filles』の英題)を撮った監督のシスターフッド映画とまとめるだけでは言葉足らずだろう(舞台がブルターニュなのも意味深)。

ちなみに、本作のパンフレットは情報量が少なくてがっかりしたのだけど、とりわけ本作が、テーマの点でもいくつかのシーンの点でも『君の名前で僕を呼んで』へのアンサーになっていることには、せめて触れてほしかったかな。本作の監督シアマが脚本を手がけた3Dアニメ『ぼくの名前はズッキーニ』も配信サイトでレンタル可能なのでオススメ。



posted date: 2021/Jun/01 / category: 映画
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