恒例の年末企画、第1弾は2013年のベスト映画です。ちなみに老舗仏映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』のベスト10は、1.「P’tit Quinquin(原題)」(ブリュノ・デュモン監督) 2.「さらば、愛の言葉よ」(ジャン=リュック・ゴダール監督) 3.「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」(ジョナサン・グレイザー監督) 4.「マップ・トゥ・ザ・スターズ」(デビッド・クローネンバーグ監督) 5.「風立ちぬ」(宮崎駿監督) 6.「ニンフォマニアック Vol.1」「ニンフォマニアック Vol.2」(ラース・フォン・トリアー監督)7.「マミー(原題)」(グザビエ・ドラン監督)8.「Love is Strange(原題)」(アイラ・サックス監督)9.「Le Paradis(原題)」(アラン・キャバリエ監督)10.「ソニはご機嫌ななめ」(ホン・サンス監督)でした(映画.comさんより)。また仏雑誌、Les Inrocks 掲載の ’197 films 2014 en sept minutes’ (2014年の197本の映画を7分で) では、2013年の映画のワンシーンをマッシュアップして見せてくれています。
不知火検校(FBNライター)
1.インターステラー(クリストファー・ノーラン監督)
■『ダークナイト』シリーズのノーランが宇宙を舞台にしたSFを撮るということで、公開前から期待が高まっていましたが、予想に違わず、彼ならではの世界を実現したと言えそうです。『2001年宇宙の旅』や『コンタクト』を彷彿とさせる壮大な規模の作品であり、CGをほとんど使わずにこれだけのものを撮ってしまうノーランの力量に改めて驚かされました。また、「希望がない」ということを語る映画があまりにも多い中で、なおも希望を見出そうとする彼の強い意志に感銘を受けました。近年のSF映画の水準を大きく超える作品なのではないでしょうか。
https://www.youtube.com/watch?v=-sb8axLSXvI
2.グランド・ブダペスト・ホテル(ウェス・アンダーソン監督)
■近年、ウェス・アンダーソンの評価はますます高まっていますが、この映画も彼でなければ作り上げることが出来ない、摩訶不思議な魅力に溢れた世界を映像として完成させています。ビル・マーレイなどの常連組に加え、レイフ・ファインズ、F・M・エイブラハム、マチュー・アマルリック、ウィレム・デフォー、ハーヴェイ・カイテルなどの芸達者が作品を盛り上げています。こんな連中が暴れ出せば面白い映画になるのは必定。ベルリン映画祭での銀熊賞受賞は当然だと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=CUFyvU4okdY
3.ジャージー・ボーイズ(クリント・イーストウッド監督)
■この映画は昨年のフランス映画『最後のマイウェイ』に対するイーストウッドからの返答のような作品でしょう。「フランスにクロード・フランソワがいるなら、アメリカにはフォー・シーズンズがいるではないか」ということを、いつもながらの巧みな演出で見せつけています。次々に流れる名曲の数々を聴かされると、映画を観終わる頃には誰もがフォー・シーズンズの熱狂的ファンになってしまったかのような錯覚に陥ります。音楽にも造詣が深いイーストウッドならではの佳作です。
https://www.youtube.com/watch?v=hpBPUapfxag
4.アメリカン・ハッスル(デビッド・O・ラッセル監督)
■ここ数年、急速に頭角を現してきたラッセル監督の最新作。実際の収賄事件を見事な演出と編集で映画化した作品で、最後まで飽きさせることはありません。クリスチャン・ベールがこれまでのイメージをかなぐり捨てるキャラクターを演じている他、A・アダムズやJ・ローレンスらの人気女優もそれぞれの持ち味を存分に発揮しています。しかし、中盤にほんの僅かだけ登場するロバート・デ・ニーロの迫力は背筋が寒くなるほどの凄まじさで、ひょっとしたら「デ・ニーロを観るだけでも価値がある映画」と言えるかもしれません。
https://www.youtube.com/watch?v=ImvLXfHCJwo
5.フランソワ・トリュフォー没後30年映画祭
■これに関しては当サイトの特集記事をご覧ください。
manchot aubergine(FBNライター)
1.ギヨーム・ブラック『女っ気なし』
■去年末見た。2013ベスト映画の番外で名を挙げたが、結局今年これを超える映画を見ることが出来なかったので、もう一度取り上げておく。映画好きの知り合いがこの映画を評し「ダサ~いロメール」と言っていた。もちろんほめ言葉である。
https://www.youtube.com/watch?v=sKuy30SAoS8
2.ウェス・アンダーソン『グランド・ブダペスト・ホテル』
■今年劇場で見たなかでは唯一まともな「映画」と言える作品。
https://www.youtube.com/watch?v=CUFyvU4okdY
3.小津安二郎『彼岸花』
■ニューデジタルリマスターブルーレイ。すさまじい高画質化。私にとって『彼岸花』の本当の意味での鑑賞は今年始まった。
GOYAAKOD(FBNライター)
1. Inside Llewyn Davis
■はじめから終わりまで、ときに大笑いしたりしつつ、心から楽しく見ることができました。このコーエン兄弟の小味な作品は、ひとつひとつが魅力的なディティールが無理なくからみあってできていて、何とも言えないリラックスした世界にさそってくれます(主人公である「ディラン前」の時代のフォーク・シンガーがぶつかってゆくキビシー現実と不幸という題材だったであったとしても)。忘れようにも忘れられない人々との出会い、相変わらず巧みな音使いも堪能しましたが、感心させられたのは猫の撮り方。映画なのです!
https://www.youtube.com/watch?v=eXMuR-Nsylg
2. 12 Years A Slave (それでも夜は明ける)
■アメリカについて自分なりにあれこれ見聞きしてきたつもりだったけれど、これを見て何にも知らなかった…と思い知りました。つらいシーン満載ですが、事実が与えるインパクトが別の次元へと昇華させられていたようにも思います。例えば、奴隷に売られた主人公が、リンチの果てに木に吊るされ窒息寸前の状態で耐え忍ぶ場面。とても恐ろしい状況ですが、当時の南部の農園に生きる他の奴隷にとっては「(悲しいけれど)日常」。生死の境であがく主人公と、普段通りの生活を送る仲間の姿が横並びに捉えられます。木の緑が目に残る、一枚の水彩画のように。元来アートの世界の人である監督だからこそできたことかと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=vUQNjfhlREk
3. Yves Sanit-Laurent
■評伝等で親しんできた御大のあれこれについて、映像で再確認するいい機会となりました。活字では捉えきれなかった時代背景、富裕、贅沢の空気がよくわかって、個人的にはありがたかったです。ただ、よくできたバイオピクチャーを超えるまでにはいたらなかったような。この映画でピンと来られた方は、同じ邦題のドキュメンタリー映画(L’amour fou)を見られる事をお薦めします。サンローランが、パートナーと長い年月をかけ細心の注意と美意識をもって作り上げた住まいの調度、壁面、机上の物達の映像は、何よりも雄弁にその人を語ってくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=-ec-DQ_7EUM
exquise(FBNライター)
1. 『6才のボクが、大人になるまで。』リチャード・リンクレイター
■原題:Boyhood。ある少年が6才から大学に進むまでを、演じる少年の成長に合わせて撮影した作品で、実に12年という歳月をかけて制作されたもの。毎年ショートフィルムを撮る感覚で撮影されたそうで、少年がだんだんと雰囲気ある青年へと変わっていくのが印象深い。この監督は『スクール・オブ・ロック』や『恋人までの距離』などでも有名だが、それらと並行してこの企画を進めるなど、チャレンジングな姿勢が好きだ。この映画はフランソワ・トリュフォーのアントワーヌ・ドワネルものからヒントを得たのだそう。
https://www.youtube.com/watch?v=Ys-mbHXyWX4
http://6sainoboku.jp
2. 『her/世界でひとつの彼女』スパイク・ジョーンズ
■原題:Her。いつもユニークな物語を展開するスパイク・ジョーンズが考える近未来は、お洒落で可愛らしくも孤独な世界で、人間より人工知能のほうが生き生きしている。誰だってサマンサみたいな楽しいAIがいたら好きになっちゃうだろうな。シュンとした青年役が新鮮なホアキン・フェニックスと、声だけ出演なのにやっぱり色っぽいスカーレット・ヨハンソンのカップリングが秀逸。
https://www.youtube.com/watch?v=WzV6mXIOVl4
http://her.asmik-ace.co.jp/
3. 『天使の分け前』ケン・ローチ
■原題:The angel’s share。ケン・ローチはイギリスの労働者階級を取り巻く厳しい現実をテーマにした作品が多く、これもそのひとつに入るのだが、今回は肩の力が抜けた、なかばコメディ仕立ての映画(監督はひとつの「寓話」として撮ったのだそう)になっていて、鑑賞後の後味もいい。日本でも今やウィスキーが話題になっておりますが、この映画のもう一人の主役もウィスキー。鑑賞後にあの香りのよい琥珀色の液体が飲みたくなること間違いなし。
https://www.youtube.com/watch?v=NcQIvmR21VU
http://tenshi-wakemae.jp
黒カナリア(FBNライター)
1. ブルージャスミン
■欲望という名のーを下敷きにした、主演のケイト・ブランシェットに二度めのアカデミーをもたらした作品。ウッディ・アレンが珍しくNYからサンフランシスコに舞台を移した。アレンらしく出で来る人物はみんな曲者ばかり。なかでもケイトは素晴らしい。ハイソな暮らしから落ちてなおプライドを捨てられない壊れかけの女を手放せないバーキンの持ち方、化粧、突如もろく崩れる平静さで見せる。全てを失ってもなお自らの望むハイクラスで特別な「私」であり続けるために嘘を重ね、周りの人々を次々に不幸に陥らせるヒロインの生きざまが、時に笑え、そして痛し、怖し。
https://www.youtube.com/watch?v=i9c-lmW-FYc
2. ゴーン・ガール
■淀川長治さんならば「夫婦ってこわいですねー。結婚ってわからないですねー」と言ったのでは…ここにもまた完璧な理想の「私」を裏切った夫への恐るべき復讐をとげる妻が描かれる。結婚も数年たてば出会ったころのときめきもキラキラ感もなくなって当たり前。若い巨乳の教え子と浮気する夫を、もっさり感を絶妙に醸し出すベン・アフレック。常に完璧な美女で冷酷な才女のロザムンド・パイク演ずる「私」には平凡な捨てられた妻なんて受け入れられない。女は結婚生活が上手くいっている時は自分のおかげだけれど、うまくいかなくなったらそれは常に夫のせいだと思うもの、わあ、怖い。でもそこには憎しみと愛が存在していて…彼女がとったまさに不死鳥のように輝く自分に返り咲くそのやり口!! それはありえないでしょうとか、そんな才能あるなら他に生かしなさいよとか突っ込みどころも満載ながら、あざとさが目立つデビット・フィンチャーがあまりあざとさを出さずとも充分に一番怖いのは脇で微笑む妻であり、家族という名の檻にも似た関係だと描いた一本。あー、なんか独りでよかった…けして結婚前には見ないでください…
https://www.youtube.com/watch?v
3. ダラス・バイヤーズ・クラブ
■ただのハンサム俳優かと思っていたマシュー・マコノヒーが、鬼気迫る表情でエイズにかかったロデオカウボーイを熱演。荒くれでいい加減な男が生き続けるために、いい加減だからこそできる戦い方でエイズの薬を手に入れ同じエイズ患者に販売する。彼の相棒となるせつなくも美しいトランスジェンダーを演じたジャレット・レトが素晴らしい。時折見せる表情がまさにエンジェルさながら。
https://www.youtube.com/watch?v=vzw8b0CuIjE
■今年はなんだか自己顕示欲に駆られた女性を描いた作品が目立つ結果となった。女って怖いですね…自分も女だけど。まあこんなヒロインほどの才能もパワーもありません。
サツキ(Small Circle of Friends)
1.「BOWシリーズ」の『フランス映画社』破産のニュース。
映画の話ではなく、その配給元の話で恐縮ですが。子供の頃、一人っ子だった私は両親の映画好きも手伝って、家にあるビデオを毎夜観ていた。中でも「真夏の夜のジャズ(Jazz On A Summer’s Day)」子ども心に「音」「ファッション」その時代のmodなスタイルは、結果私自身の趣味までも影響する映画になった。映画の冒頭出てくる、「BOWシリーズ」あのスタイリッシュなロゴの『フランス映画社』。映画好きを決定的にしたその配給会社の破産は、正直今年観た映画を語る以前に、文化の一端を担った何かを失ったような気さえした。「名作を世界から運ぶ」憧れの言葉で、魅了しつづけた柴田夫妻の思いは、自身の気持ちだったのか?受け取る側のニーズが変わったのか?時代なのか?それは計り知れないけれど、名前もあの痺れるマークも無くなると思うと一ファンとしては切ない。『フランス映画社』実は、フランス映画だけではない、優雅で文化性の高い優れた物語を教えてくれた熱ある会社だったことは間違いないと思います。残念だな。
https://twitter.com/bowjapan
http://vimeo.com/35807953
2. ドラえもんの誕生日に観た「STAND BY ME ドラえもん」
■2D&3Dで最新となって帰って来たドラえもんは….人間が抱え生きている姿を、のび太が全て引き受け描かれる。
子供の頃、感じていたモノとは違ったのび太の姿がありました。
主役はこちら側だったんだと、つくづく気づく物語。それを最新で観る映像はとても面白かった。そこには、ストーリーだけではない、映像を構築するコンポジット(composite)、コンポジッターの存在が大きく物語を左右することも痛感。白組の仕事です。私にとっては、『フランス映画社』のお話も、最新技術のコトも同じような映画の醍醐味だと思っています。
http://doraemon-3d.com/
3. 「さらば、愛の言葉よ」ジャン=リュック・ゴダール
■すでに、本国 france そして US でも上映済みだから2014年作品なんだけど、日本の公開は2015年1月。本来なら、来年にあげるべき映画ですが、ヨーロッパの cinéma NOUVELLES 映画ニュースやブロガーの間で相当な反響を読み、今すぐにも観たいということで三番目。なので、未観で申し訳ありません….。ゴダールを3Dで観る。スリリングなようで、思えば今までの作品を乱暴ながら3Dで見たらエキサイティングで、あの色彩豊かな表現をダイレクトに感じそう!これを三番目にあげたのは、1と2の遠からずも答えのような気がしたからです。あくまでも主観ですが….。
http://godard3d.com/
PROLIFE:サツキとアズマの二人組。1993年、福岡にてスタート。1998年より拠点を東京に移し、Small Circle of Friends として10枚のアルバムをリリース。2014年10月08日、 ムジカノッサ・グリプス(選曲・監修:中村智昭 from Bar Music)より12インチ・アナログ『Lovely Day EP』をリリース。2014年「スモサの75」と題し、デジタル配信やCD、アナログをリリース。2015年には通算11枚目のアルバムリリース予定!
cyberbloom(FBN管理人)
ジャック・タチ映画祭
■今年全国で開催された「ジャック・タチ映画祭」。神戸では元町映画館が会場でした。トークイベントにも誘っていただいて、個人的にも忘れられない機会になりました。今回「プレイタイム」と「トラフィック」は初めて見たのですが、モータリゼーションやオートメーションに対する驚きと、それに対して過剰に適応していく人間の可笑しさを、暖かく見つめるタチの視線が印象的でした。「プレイタイム」はキューブリックの「2001年宇宙の旅」とほぼ同じ年に制作されており、新しい経験をとらえるために、新しい映画を作り出そうとする真摯な創作態度に共通性を感じました。ところで、元町映画館さんでトークイベントの際に、「ぼくの伯父さん」にちなんでベニエ(beignet:揚げ菓子)が販売されていました。「ぼくの伯父さん」ではバリが再開発されていく際に過渡的に生まれた空き地で、子供たち相手に売られているのですが、小さい頃に空き地で繰り広げられていたポン菓子作りを思い出しました。今や日本から空き地が消え、伯父さん的な存在もいなくなってしまいました。
アラン・レネとフランス映画社
■10年はエリック・ロメールとクロード・シャブロル、12年はクロード・ミレール、13年はクリス・マルケルと訃報が続きましたが、今年は3月にアラン・レネが亡くなりました。監督ではありませんが、11月に「勝手にしやがれ」「ミツバチのささやき」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「ベルリン・天使の詩」など、私の世代の青春そのものとも言える名作を数多く配給してきたフランス映画社が倒産しました。
LUCY
■リュック・ベッソンの ”LUCY” がここ20年で最も成功を収めたフランス映画になりました。スカーレット・ヨハンソン、モーガン・フリーマンを起用し、中国マーケット意識したストーリーがまんまと功を奏し、中国で大ヒットしました。もはやマーケティング的に中国は外せないんですね。
https://www.youtube.com/watch?v=MVt32qoyhi0
クラピッシュ青春3部作の完結編
■今年は「スパニッシュ・アパートメント」「ロシアン・ドールズ」に続く青春3部作完結編「ニューヨークの巴里夫(パリジャン)」(Casse-tête chinois)を楽しみにしていたのですが、神戸での公開は来年の1月にずれこんでしまいました。今年はこれで書こうと決めていたのに。ご覧になった方、いかがでしたか?
https://www.youtube.com/watch?v=z-8ivT49RHE
ふたりのイブ・サンローラン
■今年の最大のフランス映画のヒット作は「イブ・サンローラン」でした。主演のピエール・ニネの男前ぶりが話題になっていましたが、ギャスパー・ウリエル主演のもうひとつの「サンローラン」(ベルトラン・ボネロ監督)が控えています。フランスでは2014年10月に公開されています。
https://www.youtube.com/watch?v=vhkSXbmm-uQ
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cyberbloom
当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
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