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トリュフォー没後30年特集④―トリュフォー映画・独断的ベスト10(その2)―

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5位:『終電車』(1980)
トリュフォー映画最大のヒット作。セザール賞10部門独占。トリュフォーはこれで名実ともにフランスを代表する映画監督となった。カトリーヌ・ドヌーブ、ジェラール・ドパルデューのいずれも素晴らしい演技を披露している。この映画がこれだけフランスでもてはやされたのは、「ナチス・ドイツによる占領下のパリ」というフランスの最も辛い経験に対して、その悲惨な出来事から目を背けることなく、しかし、登場人物たちを気高く描き切った点にあるだろう。加えてまた、映画ファンと演劇ファンの双方を喜ばせるという普通ならばあり得ない離れ業を演じている点も大きい。G・ドルリューのテーマ曲も秀逸。

4位:『野生の少年』(1970)
私はこの映画を初めて観たときはそれほど面白いと思わなかった。しかし、最近、授業での上映の為に観返してみて、あらためて作品に広がる豊饒なる世界に気付かされた。オオカミに育てられた少年を人間の世界に戻そうと試みるイタール博士をトリュフォー自身が演じているが、映画は単なるドキュメンタリーでもなければ、感動の物語でもない。世界から隔絶した人間とその人間に近づこうとするもう一人の人間のあいだの葛藤を、ひたすら冷徹に描き出そうとするこの作品は、「崇高さ」の域にまで近づいている。極力、大げさな演技を排し、静かにこの世界の姿を見つめ直そうとするトリュフォーの真摯なまなざしが随所に感じられる傑作である。

3位:『恋のエチュード』(1971)
トリュフォーが死の床で最後まで手を加えることに拘り続けた作品。その点では完成した年は亡くなった1984年と言っても良いだろう。原作はアンリ=ピエール・ロシェの『二人のイギリス女性と大陸』。ジャン=ピエール・レオーがこの作品ではドワネルとは全く異なるタイプの主人公を演じている。この映画はトリュフォー=アルメンドロスの映像美が極限のレベルに辿り着いた作品で、画面の造形的・色彩的な美しさが比類のないものになっている。一時、私はこの映画を毎晩数十分だけ観るという鑑賞の仕方をしたことがあったが、その度に新しい発見があった(結局、通算20回は観ていると思う)。撮影監督のアルメンドロスはある場面の撮影が終了したとき、役者の方に近づいて涙声でこう言ったという。「これまで撮影の仕事をしていて、今日ほど感動したことはありません」。

2位:『アメリカの夜』(1973)
トリュフォーが自ら映画監督に扮し、映画制作の舞台裏を見事に描き出した「業界もの」の映画。映画監督の苦悩を描く映画と言えばフェリーニの『8 1/2』(1963)が有名だが、フェリーニが形而上学的苦悩に捉われるインテリ芸術家を主人公にしていたとしたら、トリュフォーはすべてを現実の中で処理する実践的・実戦的芸術家を主人公にしたと言っていいだろう。撮影現場はトラブルの連続にも拘らず、常に明るさが失われないのはやはりトリュフォーならではの「人間への信頼」があるからだ。また、何と言ってもハリウッド女優ジュリー・ベイカーを演じるジャクリーン・ビセットが信じがたいほど美しい。トラブル女優を演じるヴァレンチナ・コルテーゼの演技も「お見事」というほかない。

1位:『緑色の部屋』(1978)
いろいろ考えたが、1位にはやはりこの映画を挙げたい。この映画の日本での上映は岩波ホールであり、一般の劇場では公開されなかった。現在でも、他の作品はDVDで鑑賞可能だが、この作品だけはいまだにDVD化されていないようだ。その意味で、今回の「没後30年フランソワ・トリュフォー映画祭」(角川シネマ有楽町)では何としても劇場に駆けつけるべき作品であろう。死者を埋葬することに執りつかれた主人公ジュリアン・ダヴェンヌをここでもトリュフォー自身が演じている。「彼自身が死者に対する敬慕の念を間違いなく持っていた」と後に証言するのは、この作品でヒロインを演じたナタリー・バイである。「あまりにも重苦しい雰囲気の映画だったため、撮影現場ではそれを振り払おうと、キャストもスタッフも逆に爆笑の連続だった」という興味深いエピソードも彼女はその時に語っている。必見の作品。

以上がベスト10。さて、もしも番外編を挙げるとしたら、『あこがれ』(1957)ということになるだろうか。これはまだ『大人は判ってくれない』を撮る前の短編だが、すでにトリュフォー映画のすべてが凝縮されるように詰まっている。女への憧れ、子供たちの戯れ、理不尽な運命…。人は己のやることを最初の瞬間にすべて分かっているのだ、ということを思わせる作品である。さて、勝手なベスト10を作ってしまったが、皆さんならば、ベスト10はどうなるだろうか。



posted date: 2014/Oct/21 / category: 映画

普段はフランス詩と演劇を研究しているが、実は日本映画とアメリカ映画をこよなく愛する関東生まれの神戸人。
現在、みちのくで修行の旅を続行中

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