ニューヨークはファッションの街。ファッションに関わる人々がたくさんいます。しかし「お仕事は?」と問われて「装うことです。」と答える人がどれだけいるでしょうか。
ためらわずにそう答えられる人、それがジポラ・サロモン。1950年生まれのニューヨーカーです。
彼女の着こなしはとてつもなくユニーク。独特の審美眼で選び抜いたアイテムを、プロのスタイリストでも思いもつかないような組み合わせで着てみせます。はっと目を引く配色、手技を極めたテキスタイル使いの妙。ジポラの存在自体が一枚の完全なタブローとでもいいましょうか。自転車で颯爽と通りを走る彼女を目にした誰もが息を飲み、立ち止まります。NYのファッションの生き字引、ストリート・ファッションフォトグラファーのビル・カニングハム翁もその一人。彼女が通りがかると必ずシャッターを切ります。ヴィンテージが詰まった彼女のクローゼットは美の宝庫。ラルフ・ローレンを始めとする有名デザイナーも、創作のヒントを得ようと見せてもらいにくるのだとか。
しかし、ジポラは「ファッション業界の人」ではありません。西海岸で精神分析医になろうと勉強したものの開業せず、教師、ウェイトレス、ブティックの店員、クローク係と生活のために様々なことをしてきました。今も小さなアパートに住み、華やかな暮らしとは縁がありません。しかし、「普通の人」であるジポラの毎日を輝かせてきたのは、たくさんのすばらしい服、アクセサリーとの出会いでした。
腕利きの仕立て職人を父に、ドレスメーキングを仕事とする母を持つジポラは、母お手製のシックな服を着て育ち、本当によい服とはどういうものかを日々の暮らしから学びました。既製服を自分好みに手直しする技術を身につけたのも、この環境のおかげです。 「芸術的」な着こなしをすることに目覚めたのもごく自然の成り行きでした。懐が寂しいときも、蚤の市、古着屋へ行けば、今店に並んでいるものより良い品を安く買う事ができました。高級ブティックでは、手の届かない品を見て触って、着こなしの引き出しを豊かにしました。
高校で教えていた頃、ある学生にこう言われたそうです。「今日は他のクラスは全部サボったんだけど、このクラスには来たよ。だって今日先生がどんなカッコしてくるかだけは見たかったんだもんね。」
一つアイテムを手に入れたら、それが最も輝く着こなしを何年かかっても見つけ出す。パズルのピースがぴたっとはまるように、どこからともなくアイデアが降りてくるのです。日々街で見かけるあれやこれやが着こなしのインスピレーションになります。ジポラにとって、生きる事すなわち装うことであり、クリエイティブな毎日の積み重ねなのです。
近年は請われてパーソンズやその他の場所で着こなし術を教えたり、「おしゃれな一般人」の代表としてランバンの2012年秋冬キャンペーンの広告モデルも務めるなど、おしゃれの達人として世界に認知されたジポラ。仰ぎ見るような存在の彼女ですが、「衣」についてそこまで極められない我々普通の人にもピンとくるようなことをインタビューで語っています。彼女のそんな名言を集めてみました。
「自分がどんな体つきをしているのか、よく知ること。できるだけたくさん試着して、鏡に映る自分の姿を厳しくチェックして。年を重ねれば、ボディラインを見せないという選択もあるということを考えるべきね。」
「すてきに装うことということは、つまり、日々の営みの中であなたの芸術性と個性を表現すること。着るあなたにとっても喜びをもたらすわ。きれいに着こなせた日には、物事が上手く行かない時も、ふと下に目をやれば、とても美しいあなたが見えるでしょう。」
「私の持つもののレベルはとても高いの。どれも他のものと同じぐらいよいものでないといけないし、どれも私の決めた基準—このアイテムは、これからの人生死ぬまでずっと携えていたいもの?—をクリアしないといけないわね。答えがノーなら、買わないわ。」
「独自の個性的なファッションに身をつつんだ女達が、人の目を奪うのを見るのはいいものね。レディ・ガガのように、目立てばいいというファッションがいいというのではないの。よいテイストのファッションで人の目をひくべきということ。私たちはみんな美しいものが好き―赤ん坊、花、美しい絵、沈む夕日といったものをね。美しい女性、また美人でなくとも美しく着こなした女性に出会ったら、息を飲むでしょう?」
「トレンドは追いません。今何が流行っていて、かっこいいと言われているか関心がないの。私自身が自分のデザイナーでありスタイリストだと思っているので。」
「ファッションは今や何かを買う事になってしまい、クリエイトすることでなくなってしまった。ファッションの喜びはどこにいってしまったの?遊び心は?創造性はどうしてしまったのかしら?」
ジポラ・サロモンのウェブサイトはこちらでどうぞ。彼女の着こなしのあれこれを見ることが出来ます。
http://www.tziporahsalamon.com/
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GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.
大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。
門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。