さて、フランスの小学校に子どもたちを通わせるようになって、驚いたことがある。水曜日の午後が休みだとか、宿題がほとんどないとかいうことは、事前に聞いていたが、担当教員の裁量がこれほど大きいとは思わなかった。
たとえば、同じ学年でも、あるクラスはスキー合宿に出かけ、別のクラスは通常授業、ということがある。先生が1週間も家を空けることができない家庭の事情があるためだが、娘の同級生の母親は、「息子の学年には、3回もスキーに行った子もいるのに、うちなんて結局1回も行けなかった」とぼやいていた。
校外活動も担当教員の裁量に任されているようで、娘のクラスは頻繁に保護者の引率ボランティアの募集がある。私が時間の融通が利くし、娘がどんな授業を受けているかを見たいので、なるべく手を挙げるようにしている。今までに、映画鑑賞、写真展鑑賞、美術館見学、観劇、自転車講習、長距離走記録会、読書講習、水泳講習の引率に参加した。美術館とマリオネット劇は、ギリシア神話に親しむことを目的としている。小学校には土のグラウンドもプールもないので、自転車講習と水泳講習は、わざわざバスに乗って講習を受けに行く。午前中はこれで全部つぶれてしまう。
自転車講習ではVTT (vélo de tout terrain)、いわゆるマウンテンバイクの乗り方を習う。未舗装道路のある郊外の広い運動公園で自転車を借り、インストラクターに従って練習する。もっとも、私はまだうまく自転車が漕げない子に付きっきりで指導してほしいと指示され、ちょっと困った。どうやったらうまく漕げるかなんて、日本語でもなかなか伝えらない。しかも、自分の方は自転車なしだったから、お手本を見せるというわけにもいかない。かろうじてペダルの位置などをアドバイスしたら、なんとか上達してくれてホッとした。
水泳講習は、準備体操もせずに、いきなり水の中に飛び込むのを見て、びっくりした。しかも、水深3mのプールで、浮き具に掴ませるだけ。ところが、担任教員も、わざわざ事前に研修を受けて補助員の資格を取ったはずの保護者も、水着には着替えたものの、水には入らず、プールサイドから指示を出している。結果的に、もともと泳げる子たちはスイスイとクロールで往復し、泳げない子は浮き具にしがみついて少しずつ動く、という対照的な光景が見られた。
しかも、なぜか真冬の1月に水泳講習がある。プールはもちろん温水だが、壁に備え付けのドライヤーで適当に髪を乾かし、外ではコートのフードをかぶって駐車場まで移動する。バスの中では、生徒たちは後方に固まり、ときどき歌を大声で歌って、先生に怒鳴られたりしている。徒歩で出かける場合は、引率ボランティアの保護者同士のおしゃべりが弾むこともあるが、バスだと、いきなり初対面の人の隣に座るのも不自然で、なんとなく黙ったままになってしまう。
でも、なかには親しくなる人もいる。「テレトン Téléthon」という、走った距離だけ募金を集めるチャリティー長距離走のために最寄りの中学校のグラウンドまで引率したときには、同行したお父さんから引率終了後にカフェに誘われ、日本と中国の事情などを語り合った。後日、朝の通学付き添い(これは保護者の義務)の際に挨拶すると、同じ学校の保護者で日本の中学・高校に通っていたという人を紹介される。さすがに日本語が達者で、トゥールーズで運営している道場(立身流の古武道)のことを手短に教えてくれる。三人でまたカフェに行き、学校の国際化対応について話していると、娘と同じクラスのベトナム人のお母さんがやって来て、来年度からの中学進学のことで議論が始まった。人をつなぐ場所としてのカフェの磁力というものを実感する。
ところで、みなさん、出勤時刻を気にする様子もなく、10時前になって、「そろそろ行こうか」と言ってカフェを出た。自営業者ばかりなのだろうか。それにしても、時間の使い方の感覚が違うものだな、と感心せずにいられなかった。
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