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「100年目のシュルレアリスム」をいかに捉えるか?(ベルギー王立美術館) ――不知火検校のヨーロッパ訪問2024(その6)

2024年は『シュルレアリスム宣言』がアンドレ・ブルトンによって刊行されてから100年目に当たる。それを記念し、20世紀初頭に起こったこの革新的芸術運動についてのイベントが世界中で開催されている。 その一つにブリュッセルのベルギー王立美術館で開催された特別展があった。

2024年2月21日から7月21日までの五カ月間、この美術館は19世紀末から20世紀初頭の芸術の流れを一望のもとに見渡す展覧会、”IMAGINE!100 Years of International Surrealism/100 ans de surréalisme international”を開催した。6月上旬にブリュッセルを訪れ、その様子を探って来た。

この展覧会はパリのポンピドゥーセンターの協力を得て開催されており、同館所蔵の多くの作品が展示品の一部を占めることになった。つまり、マックス・エルンスト、ジョルジオ・デ・キリコ、サルバドール・ダリ、ホアン・ミロ、マン・レイといったこの運動の中心あるいはその周辺の大物芸術家たちの作品が展示される、ということだ。

そこでは、ルネ・マグリットの『光の帝国』のような、隣接するマグリット美術館が所蔵するこの画家の代表的な作品も当然ながら展示される。20世紀ベルギーにおける最大の画家と呼んでも間違いないマグリット。今回の特別展でこの画家の作品を逸することは到底できなかったであろう。

だが、この展覧会の眼目はそういう点にあるのではない。最大の特徴は、「ベルギー象徴派をシュルレアリスムの前哨戦として明確に位置付ける」というかなり大胆な考え方を提示している点だ。

通常の考え方からすれば、象徴主義は19世紀末のフランスを発祥とする芸術運動であり(最盛期は1880年代)、シュルレアリスム(前述のように、『宣言』は1924年)とは一世代から二世代以上も時間的な懸隔がある。常識的感覚からすれば、この二つを同時に扱うということはあり得ないとまでは言えなくとも、違和感があることは確かだ。

しかし、その立地条件と作品収集能力によって、事実上、ベルギー象徴派研究の世界最大級の拠点になっているベルギー王立美術館は、通常の考え方を大きく打ち破って、大胆な結論を導きだしたと言えるだろう(この美術館の館長は、ベルギー象徴派研究の泰斗ミシェル・ドラゲ(ブリュッセル自由大学教授)が長く務めていた。ドラゲは2010年3月26日から6月27日まで開催された同美術館の特別展『ベルギーにおける象徴主義』も企画している)。

この、「ベルギー象徴派こそがシュルレアリスムを生みだした源泉の一つなのだ」という見方は、我々の常識に揺さぶりをかける。「それはあまりに極端な考えではないか」「何を根拠にそんなことを言っているのか」というのが普通の反応であろう。

だが、この展覧会で堂々と並べられたベルギー象徴派の作品群、すなわち、フェリシアン・ロップス、レオン・スピリアールト、フェルナン・クノップフ、ジャン・デルヴィル、ジョルジュ・ミンヌらの作品群を目の当たりにすると、こうした見方があながち的外れなものではないということに気付かされる。

なぜならば、無意識、深層心理、そして夢の世界への耽溺など、ベルギー象徴派の画家たちが得意として描き続けた絵画世界は、その後のシュルレリスムによって開拓されることになる世界と確かに繋がっているように思われるからだ。

直接的な繋がりを立証することは難しくても、これらの画家たちが描き出した世界が、後のシュルレアリスムの画家たちに意識的・無意識的に何らかの影響を与えていたのではないかという仮説は、今回の展覧会では十分に納得が行くもののように感じられた。

また、特に興味深く感じられたのは、「二十人展」のように芸術家の狭い枠組みを超える19世紀末の歴史的な展覧会について、この展覧会がかなり詳細に関連資料を展示した点である。こうしたところからも世界的な芸術運動となったシュルレアリスムとの関連性を導きだすのは可能かもしれない。

しかし、シュルレアリスム概念をどこまで拡大するのかについては様々な議論が必要だろう。この展覧会は「最終的に現代美術(20世紀後半~21世紀の美術)に至るまで、シュルレアリスムは大きな影響力を持ち続けた」という趣旨のようだが、そこまで言い切れるかどうかは若干の疑問は残る。

いずれにせよ、この展覧会が興味深い視点を提示したことは確かである。この展覧会はこの後、以下の三都市の美術館を巡回するということである。関心のある方はぜひ訪れてみてはいかがだろうか。

Hamburger Kunsthalle (ドイツ)
Fundación Mapfre Madrid (スペイン)
Philadelphia Museum of Art (アメリカ合衆国).

 



posted date: 2024/Aug/29 / category: アート・デザイン

普段はフランス詩と演劇を研究しているが、実は日本映画とアメリカ映画をこよなく愛する関東生まれの神戸人。
現在、みちのくで修行の旅を続行中

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