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ヴァカンスの少年たち

text by / category : バカンス

語学教育に関わるひとりとして自分の子供の言語的な発達は格好の観察対象だし、実験対象にもなる。今年の夏のフランス滞在中、お世話になった夫婦のお宅に、うちの子より1歳年上の男の子、アルティス君が遊びに来ていて、対面することになった。

「彼は小学校で英語を習っているので、英語で会話させて」と、アルティス君の母親からの指令があったのだが、彼らはボードゲームをしているときも、サッカーボールを蹴りあっているときも、バドミントンをやっているときも、終始無言。どうしても必要な場合はジェスチャーで意思疎通を図っていた。両親とも医者というアルティス君はいかにも育ちが良さそうで、彼の上品な立ち振る舞いは、日本式に甘やかされて育ったうちの子のドン臭さとつねに際立つ。TPO をわきまえず、誰にでも話しかけるうちの子とは違い、ちょっと調子に乗って大人の話に割り込んでしまったときハッとして「口を挟んでごめんなさい」とすかさず言うところなど、公共性の基本を叩き込まれている。

もうひとりの少年、ブレンダン君とはイタリア国境付近の山頂のレストランで出会った。「ちょっとお昼を食べに行こう」と誘われ、近所のレストランにでも行くのかと思ったら、車で山道を走ること1時間半。そこには牛の群れがのんびりとまどろむ「ハイジ」の世界が広がっていた。屋根の上にサヴォワ地方の旗がはためくレストランで2つの家族と合流(写真1)。ブレンダン君もバカンスのあいだ両親のもとを離れ、祖父母に預けられていた。彼は6歳にもかかわらず、やたらとサッカーが巧い。手足がすでにシベリアンハスキーのように大きく、将来かなりデカくなるだろうなと思わせる。フランス式の気の遠くなるように長い食事のあいだ、ブレンダン君はうちの子を外に連れ出して駐車場でサッカーを始めた。うちの子だけでは相手不足のようなので、私も加わると、正確でしかも重いボールを蹴ってくる。将来何になりたいか聞くと「サッカー選手になってお金を稼ぐんだ」。名前に de が付いた彼のお婆ちゃんにその話をしたら、「なんて恥知らずな!」と彼女は眉をひそめた。

レストランではサボヴォワ地方の料理、「子牛の薄切り肉のチーズ&クリーム仕立て」を注文(写真2)。向いの席のマダムたちはチーズフォンデュを頼み、子供たちは子供用メニューのミートソーススパゲッティをあてがわれる。ブレンダン君は「ちょっとチーズフォンデュを味見させてくれると嬉しいんだけどな」とまるで少女マンガに登場する美少年のように、金髪の巻き毛をかきあげながら愛くるしい笑顔でマダムたちにねだる。サッカーが巧いだけではない。すでに巧みな話術でマダムたちの心をわしづかみにしている。ブレンダン君は微量の赤ワインで水に色をつけてもらって飲んでいたが、そうやってワインの味に慣れていくのだろう。

レストランを出て、2台の車で目が回るような急カーブをひたすら下る。しかもガードレールがなく、深い谷底が頭の上を旋回する。ジャン=クロードおじさんの荒っぽい運転はマダムたちに不評で、わたしもかなりビビった。次はアヌシー湖を望むブレンダン君の祖父母のお宅にお邪魔する。家に着くなり、2人の少年は庭の物置にある伝統的な手動式のサッカーゲームを始める(写真3)。それに飽きると、今度はチェスを始める。チェスは自分に分があると信じていたブレンダン君は最初「罠にかかった」と叫びながらはしゃいでいたが、最後は逆転負け。うちの子は日本では相手がいないので仕方なくコンピュータ相手にチェスの特訓をしていたらしい。もちろんこういう機会が訪れようとは思ってもみなかっただろうが。私がゲームに没頭するふたりの写真を撮ろうとすると、マダムたちが Quelles belles photos ! とつぶやきならが目を細めていた。



posted date: 2011/Oct/07 / category: バカンス
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