フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

「これ、どう訳しますか?」

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フランス語会話や作文の授業を担当していると、ときどき、「これ、どう訳しますか?」という学生の質問に窮することがある。もちろん、僕のフランス語の知識が不足していることが最大の原因だが、それだけではなく、「日本語にはあってもフランス語にはない語彙」があるからだ。それは、日本とフランスの風習の違いによる。いくつか例を挙げてみよう。

1)「兄は社会人です。」
「社会人」とは、「実社会で活動している人」を意味する。では、学生は「実社会」に参加していないのか、という疑問が頭をよぎるが、要するに「社会人」とは、「自分で生計を立てている人」のことだろう。フランス語では、このような包括的な言い方は一般的ではない。そこで授業では、salarié(給料生活者)、fonctionnaire(公務員)、commerçant(自営業者)など、より具体的な職種を述べるように指導している。

2)「先輩の影響で」
フランスに留学して新鮮に感じたことの一つが、「年齢の違う人を ami と呼べる」ということだった。年上でも年下でも、tu で話し、bise をしたりする。日本語では、上級生は「先輩」、下級生は「後輩」となり、会社に入っても、入社年度による区分がある。同じ職階でも、入社年度が早い人は「会社の先輩」と呼び、丁寧語の対象となる。逆に言えば、ami と「友達」の意味範囲は、じつは一致しないということになる。

3)「鍋パーティーやりました」
複数の人間で一つの鍋を囲む、という食べ方をフランス人はあまりしない。似たものとして fondue が挙げられるが、あれはスイスに近いサヴォワ地方の家庭料理で、パーティーの主役になることはなさそうだ。少なくとも、一般的にフランスの学生同士がフォンデュを囲んで集まる、という風景は考えにくい。そういえば、フランス人が好む apéro というのも、日本ではなじみのない習慣で、日本語に訳しにくい。あえて言えば、「ちょっと一杯」?

こうした翻訳の難しさは、もちろん文化的背景の違いによる。外国語を話すということが、どこか窮屈なのは、自分が本来持っている文化をうまく入れることができないところがあるからだ。だからと言って、「社会人」や「先輩」といった概念を知らなかったかのように、つまりフランス人のように話すというのは、どこか芝居がかっている。外国人らしく話す、というのは、まさに僕たちノン=ネイティブの権利なのだから、「先輩と鍋パした」と簡単に言えないもどかしさとともに、フランス語を話していけばいいのだ。そうでなければ、フランス語圏でないところでフランス語を話すことは、ことごとく「本場の模倣」になり、どこまでいっても「ネイティブにかなわない」という話に終始してしまう。それではつまらない。

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1975 年大阪生まれ。トゥールーズとパリへの留学を経て、現在は金沢在住。 ライター名が示すように、エヴァリー・ブラザーズをはじめとする60年代アメリカンポップスが、音楽体験の原点となっています。そして、やはりライター名が示すように、スヌーピーとウッドストックが好きで、現在刊行中の『ピーナッツ全集』を読み進めるのを楽しみにしています。文学・映画・美術・音楽全般に興味あり。左投げ左打ち。ポジションはレフト。