フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

白山とモンブランを結ぶモンブラン

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今年は富士山の世界遺産登録を受けて、地元の観光業は大いに盛り上がっているようだ。山は昔からそこにあるのに、急に意味づけが進むのは、もちろん人間側の都合であって、それ以上の意味はない。私の住む石川県でも、白山を町おこしに使おうという動きがある。岐阜・福井・石川・富山の4県にまたがる両白山地の最高峰白山(標高2702m)は、山頂に万年雪を冠し、文字通り「白い山」である。

フランス語で「白い山」と言えば、Mont Blanc となる。モンブラン、標高4810mのヨーロッパ最高峰だ。ドイツの万年筆メーカーが、このフランス語を社名にしているのも、「ヨーロッパで1番」という願いをこめてのことだろう。

日本では「モンブラン」と言えば、まず思い浮かぶのは、栗のクリームを使ったケーキの名前である。 白山とモンブラン。同じ意味の二つの山を、何とか関係づけられないか、と考えた人たちが、「白山もんぶらん」というブランドを立ち上げた。白山麓の菓子店が協賛して、地元の食材を使用したオリジナルレシピの「モンブラン」を考案したもので、たとえば福井県大野市の店では「越前大野産青大豆のきなこと白餡にフランス産チーズを合わせた「和」の風味のモンブラン」を提供している。

こういうヴァリエーションは、日本のパティシエの最も得意とするところだ。パンフレットに曰く、「白山を見上げながら、のどかな田園風景の中で味わうフランス。
さあ、あなたも Bon appétit (召しあがれ)!」

hakusan-no-megumi.jp/montblanc/

ところで、「モンブラン」という菓子は、名前に反して、純粋なフランス菓子ではないらしい。その起源はイタリア北部とも言われるが、はっきりしない。一説では、オーストリア出身のパティシエ Anton Rumpelmayer がニースに開業したカフェから広まったという。店にはパリから休暇で訪れた貴族が出入りし、評判に自信を得たルンペルマイヤーはパリに店を構え、大成功を収める。その店 Angelina は、今でもリヴォリ通りにあり、今でも昔ながらのモンブランを提供しているらしい(ココ・シャネルが常連だったとかいう高級カフェ、僕自身は入ったことはない)。

Interview at Angelina, Paris

フランス語版ウィキペディアによると、モンブランという菓子は、ヨーロッパではフランスとイタリア、ハンガリー、ルーマニアの一部ぐらいでしか認知されていないそうで、あとは中国と日本で人気が高いらしい。それでも、モンブランを通じて、白山をフランスと結びつけるアイディアは面白い。2012年にはシャモニーの観光部長が遊びに来て、「白山もモンブランも美しい」と、それ自体はあまり意味のないことを言いつつ、わざわざ来てみせたことで、白山とフランスのつながりを演出した。「フランス」という文化ブランドの相変わらずの強さと、それを支えるための営業活動の周到さに感嘆する次第である。

山はずっとそこにある。あとはそれを眺める人々が何を考えつくかが、文化ということになる。それにしても、モンブランが白山にフランスを呼び込むとは。その過程のねじれ具合こそが、まさに文化交流の面白さを教えてくれる。

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1975 年大阪生まれ。トゥールーズとパリへの留学を経て、現在は金沢在住。 ライター名が示すように、エヴァリー・ブラザーズをはじめとする60年代アメリカンポップスが、音楽体験の原点となっています。そして、やはりライター名が示すように、スヌーピーとウッドストックが好きで、現在刊行中の『ピーナッツ全集』を読み進めるのを楽しみにしています。文学・映画・美術・音楽全般に興味あり。左投げ左打ち。ポジションはレフト。