フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

フランスの鉄道自殺事情 – 運転士のメンタルケア

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森巣博が書いていたが、以前、飛び込み自殺が比較的少なかったとき、鉄道会社は2 時間以上電車を止めて遺体を回収したそうだ。最近は大まかに回収して15分くらいで運行を再開してしまう。だから沿線のカラスはまるまる太っていると(まるで鳥葬だ)。自殺が増えているにもかかわらず電車がスムーズに動いていると感じるのはそのせいだと森巣は言う。

確かに電車が遅れるといらだつし、急いでいるときはいい加減にしろと思う。すべての自殺者が死を持って社会に抗議しようとしているわけではないにしろ、人身事故による電車の遅延は、年間の自殺者が3万人を超える時代を個人が身をもって体感する機会になっている。しかし最近は毎日のように起こるので、ひとつの日常と化し、何か酷いことが起こっているという感覚が麻痺するほどだ。日本の2008年度の鉄道自殺は647件で、遅延や運休が出た列車は3万5300本と、2004年度の1万9700本から1.8倍に増加している。このうち首都圏が2万1100本と、全体の6割を占め、死亡者数が最も多い路線はJR中央線ということだ。

一方フランスでも2008年、1日2件のペースで自殺が起こり、年間500人以上というから日本に匹敵する数字だ。しかし人口比を考慮するとフランスの頻度の方が高いことになるだろうか。フランスでも人身事故が起こると、乗客たちはまずその場で足止めを食らい、ときにはバスの代替輸送で予期せぬ場所に連れて行かれることになる。人身事故の増加に見事に適応してしまう日本の鉄道会社とは違って、フランスの鉄道システムはひとたび混乱すると日本の比ではなくなるようだ。SNCFは自殺によって引き起される著しいダイヤの乱れにしびれを切らし、2009年2月、自殺の手段として鉄道を選ばないようにと注意を呼びかけた。自殺を試みた10人に1人は生存し、その場合、麻痺や障害を負い、一生誰かに依存しなければ生活できなくなると。

もちろん最大の悲劇は亡くなった人の家族や友人に訪れる。しかし電車の運転士にとっても悪夢の始まりなのだ。日本ではこの視点から事件が伝えられえることはほとんどない。『リベラシオン』の記事「Suicides en tête de train」に登場する運転士、ダニエル・ルクレルクは、その日、遠くに線路を横切ろうとするシルエットに気がついた。彼は軽率な若い男がふざけているのだろうと思った。しかし突然、若い男は140キロで走る電車の前に立ちはだかった。「私は彼と目が合い、それは2秒のあいだ続きました。それは2004年10月、私が42歳のときでした」。実はルクレルクはそれより7ヶ月前に別の自殺に遭遇していた。「それは昼過ぎのことで、線路の両側に電車を待つ人たちがいました。ひとりの女性が前に進み出るのが見えました。彼女が地面に落ちたのが早かったのか、電車に跳ね飛ばされたのが早かったのか、わかりません。鈍い音が聞こえました」。

SNCFでは一日かけてこの問題に関する研修が行われるが、運転士の研修の責任者であるファビアン・トゥルシュは「自殺者の数と運転士の数を比較すれば、運転士の誰もがこの悲劇に直面する可能性があることに気がつくでしょう」と言う。彼もまた研修中にRERのC線で同じ悲劇に出会ったが、そのときの状況を事細かに覚えている。バレンタインデーの前日の2月13日で、2000人の乗客が乗った朝の通勤列車で、指導員に付き添われての運転だったという。先頭車両がプラットホームの4分の3の地点でまで来たとき(速度はまだ時速45キロあった)、ひとりの男が走ってプラットホームから飛び降り、電車に轢かれた。同じように彼もそのシーンは「2秒のあいだ」続いたと言う。「死亡事故の当事者になってしまった運転士は自分が悪いことをしたのではと自問することになる。たとえ彼が完璧に仕事をこなし、責められるべきことは何もしていなかったとしても」。罪悪感が沸き起こっては、事故が起こる直前の行動を振り返り、それが運転士の精神をむしばむ。SNCFでは事故の当事者になってしまった運転士は自動的に交代させられる。医師の診察を受け、2日から5日の休養を命じられる。それからメンタルヘルスのサポートを受けながら、医師に復職が可能か判断してもらう。「復職して最初に運転席に座る際には行動や態度が正常かどうか見極める専門家が付き添います。運転席に座ることは再び事故に遭遇する可能性を引き受けることなのです」

36歳の運転士、ガブリエル・ルフェーブルは赤いセーターの女性のイメージにとりつかれてしまった。それは彼がパリとアミアンのあいだを走る列車を運転しているときに目撃した女性だ。「遠くからは線路を修理する職員のように見えました。彼らは赤いゼッケンをつけています。警笛を鳴らしましたが、その人は逃げようとしませんでした。私はもう一度警笛を鳴らしましたが、彼女は動きませんでした。彼女は線路上で私に面と向かって立ちました。赤いセーターを着た栗色の長い髪の女性でした。衝撃があり、身体が引き裂かれる音がしました。彼女は私の脳裏に刻み込まれました。家に帰っても何もできませんでした。テレビも見れないし、PCも触れませんでした。頭の中でその出来事が何度も映画のように再現されました」。ガブリエルが事故にあったのは2008年6月のことだったが、普通に仕事ができるようになるまで数ヶ月かかった。彼は妻に、家族に、同僚に、友人に事件のことを何度も話すことで克服したようだ。「その後、初めて事件現場を通過したときブレーキに手をかけてしまいました。その女性の姿が見えた気がしたのです。幻のように」。

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