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世界経済フォーラムの「男女格差報告」で日本は135カ国中98位

text by / category : 政治・経済

11月2日にダボス会議を主催していることで知られるスイスのシンクタンク、世界経済フォーラムが2011年版「男女格差報告」を発表した。政治、経済、健康、教育の4分野での性別格差を評価した国別ランキングだ。日本は調査対象となった135カ国中、98位で、前年より4つ順位を落とした。日本は報告書の中で、女性の約半数が高等教育を受けているにもかかわらず、指導的立場にいる女性は約9%しかおらず、女性の能力が生かされていないと評価された。

日本で実現されているトップレベルの男女平等は健康・長寿や識字率で、仕事とは直接関係がない。 つまり、日本は女性に対して男性と同じくらい教育で投資をしておきながら、その人的な資源を活用しないことは、投資に見合ったリターンを回収していないことにもなる。OECD の統計をみると、先進国では高学歴(大卒・大学院卒)の女性 の約8割が働いている。北欧では約9割。フランスでも8割を超える。しかし日本や韓国は6割にすぎず、高学歴の専業主婦層が高い割合で存在する稀な国になっている。

世界経済フォーラムは世界各国で性別格差をなくすための努力が進められているが、政治・経済参加部門の男女平等は依然として実現していないと指摘。一部の国では女性の参加を拡大するため、女性国会議員や女性役員の割合を定めているが、それでも世界各国の大臣と国会議員に女性が占める割合は20%以下。フランスに関して言えば、比例代表選挙ではおよそ5割の女性議員候補の擁立を義務付け、小選挙区選挙では、男女差が2%を超えると政党助成金が減額される(韓国は比例代表全国選挙区候補の半分は女性と政党法で規定し、女性議員数は倍に増えた。政治的には日本に先んじている)。 『週刊東洋経済』(2011年10月18日号)で山田昌弘氏が「女性が活躍しない国は財政赤字が拡大する」と、専業主婦率が高い国は国の財政赤字が大きいという相関関係を指摘していた。

日本は既婚女性の労働力率が低いだけでなく、女性の非正規雇用率も高ければ、男女の賃金格差も大きい。それは保険料や税金が免除される扶養家族の範囲内(年収110万円)で働いているからである。これでは保険料収入や税収も伸びない。また専業主婦の夫の収入が伸びない場合、夫の小遣いが削られることになる。これでは消費も伸びない。さらに専業主婦に対して保険料や税制で優遇措置を講じれば、その分保険料収入や税収が減る。日本の既婚女性の大部分を占める専業主婦は年金や健康保険料を納めずに権利取得できるが、その分の保険料は共働き夫婦や独身者、一人親で働く正社員の保険料に上乗せされている。

もちろん専業主婦が悪いという話ではない。日本では専業主婦であることが合理的な選択になってしまっているのだから。女性が働くインセンティブが働かない社会のシステムの問題なのだ。 欧米では昔から共働きが一般的だったわけではない。20年代のイギリスでは90%が主婦だった。アメリカでも50年代には75%が主婦。今の日本よりもはるかに高かった。フランスでも60年代までは「サラリーマンの夫と専業主婦の妻」が標準家庭だった。しかし70年代に入って、フランス政府は働く女性に優しい法律を次々に策定することで、男女がフルタイムで働く社会への変化を促した。

例えば、親権の平等化、嫡子・非嫡子の平等化、男女平等賃金法、人工中絶の合法化、妊娠を理由に採用を拒否することを禁止する法律、育児休業法などが挙げられる。アメリカやカナダでは、子育てで退職しても正社員での復帰が容易にできる労働環境が整っており、既婚女性の就労を後押ししてきた。こうして「夫婦でフルタイムで働いて相応の生活水準を保つ」という社会の転換に成功したのである。シンガポールや香港や台湾などの新興国は専業主婦という慣習がないままに経済発展したので既婚女性が働くのは当たり前になっているという。

一方、日本や韓国(そしてヨーロッパではギリシャやイタリア)はそうならなかった。これらの国々では働く女性が量的にも増えず、パートなどの低賃金労働者が多いのが特徴だ。このような専業主婦の慣習だけが残った国々が財政危機に苦しんでいるわけだ。とりわけ日本では消費の牽引力であった中間層が切り崩されていることが問題視されている。その厚みを取り戻すためには夫婦フルタイムで働く共働きの世帯を増やすしかない。そういうインセンティブを働かせる政策は増税以上に効果的なはずだ、と山田氏は主張するが、OECD の委員会も「女性が経済分野で活躍することは男女平等に資するだけでなく、課税ベースの広がりによって財政を助け、多様性が経済の活性化を促す」と同じ意見を述べている。

□山田昌弘 「女性が活躍しない国は財政赤字が拡大する」 in 『週刊東洋経済』(2011年10月18日号)を参照



posted date: 2011/Nov/11 / category: 政治・経済
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