フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

FRENCH BLOOM NET 年末企画(4) 今年の注目ニュース

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最後は今年の重大ニュースです。bird dog さん、Jaidin さんが、今年の注目ニュースをお届けします。みなさん、良いお年を。そして来年も、FBNをご贔屓に。

bird dog(FBNライター)

1.『シャルリ・エブド』襲撃事件
■フランスから世界に広まり、いわゆる「国際社会」の普遍的価値となった世俗社会に、イスラム原理主義者が異議を唱えた事件でした。確かに、原理的には、宗教は選択自由な趣味ではなく、人生を律する唯一の掟です。したがって、世俗社会の価値観と、どうしても対立せざるを得ない。そこで寛容と妥協の道を探れば、平和な共存ということになり、対立者を抹殺しようとすれば、テロまたは警察国家になる。宗教と世俗主義という大きな対立を浮き彫りにしたという点で、9.11とは別の意味をもつ重要な事件でした。

2. 難民の欧州流入
■『ガーディアン』紙に掲載されたアラン・クルディの痛ましい写真を見たときは、同い年の男の子の父親として、涙が止まりませんでした。朝の浜辺の穏やかな静けさと、砂に顔を埋めて横たわる幼児。そこには、大人たちの暴力を前にして子供の無力さと、その暴力を止められない大人たちの無力さが、鮮やかな対照をなしていました。この写真がヨーロッパ諸国の世論を動かし、難民の大量受け入れを促したのは、よく分かります。ヨーロッパが亡命先になるのは、それだけ平和な場所だから。そして、平和は、継続した知的努力によってのみ、可能なのです。

3. SEALDsの登場
■今年の夏は、安保法案の夏でした。無力感を抱きながらも、僕も微力ながら声をあげましたが、その支えとなったのが、SEALDsの登場でした。ふだん教えている年頃の学生たちから、あれほど明晰な言葉を聞くとは、正直思っていませんでしたし、その行動力には、ただ敬服するばかりです。多くの年長者が、彼らに勇気をもらったと思います。

Jardin(FBNライター)

1. テロの悪夢に苛まれたフランス
■今年はフランス・欧州にとって、かつてないほどテロの悪夢に苛まれた1年となった。年頭のシャルリー・エブド襲撃事件、そして11月13日の同時多発テロ事件。特に後者は、2005年のロンドン同時多発テロ事件を上回る100人超の尊い生命が喪われ、世界中にテロの非道さをまざまざと見せつけた。「テロを根絶しなければならない」ということは、世界の共通認識となっているし、お題目を口にすることは簡単だ。しかし、テロの種はわずかな隙間から入り込み、暗がりでもジワジワと育ち、やがて大きく弾けることになる。なぜ人が自らを棄て、テロ行為に走るのか?この根源をよく考える必要があると思う。

2. テロで勢いづきかねない極右の伸張―正義とは何なのか―
■フランスでのテロ事件を受けて、欧米での難民やムスリムへの風当たりは否応なしに高まっている。昨年も「極右の罠」というフレーズを使って触れたとおり、ここ数年、欧州では移民反対を公然と掲げる右派の台頭が続いているが、今年は特に彼らに追い風が吹いた1年となった。しかし、自由と活路を求め、一条の光を辿って必死に逃げのびてきた難民を追い返すことが本当に正義だろうか。また、自分たちが「ムスリム」というだけで相手を無意味に恐れ、差別の眼で見ていなかったか。短絡的な答えではこの問題は解決できない。すべての人間が、胸に手を当ててよく考えたい。個性や多様性を受け容れる寛大さを喪い、偏狭な考えに陥ってはならない。

3. トランプ旋風吹き荒れる米国の病理
■欧州がフランスでのテロの衝撃に揺さぶられる一方、米国では不動産王ドナルド・トランプが大統領選(本選挙前の共和党内での予備選)に出馬し、大番狂わせというべき人気を博している。そのトランプを一躍時の人にしているポイントが、「歯に衣着せぬ」というレベルを超えた暴言の数々。欧州での移民排斥運動や極右台頭の流れを病理というならば、米国ではこのトランプ旋風が病理というべきだろう。かつて共和党は、「奴隷解放の父」リンカーンを大統領として世に送り出した。もしトランプを本気で世に送り出そうとするならば、リンカーンや(保守派の尊ぶ)建国の父たちは、草葉の陰からそれを見てどう思うだろうか。

4. オリンピックの「夢」に振り回される日本
■開催をめぐって賛否両論がある2020年の東京オリンピックだが、特にメイン会場となる新国立競技場の改築問題をめぐるゴタゴタは、今年世間を大きく騒がせた。工費高騰等の激しい批判にさらされたザハ・ハディッドによる斬新なデザイン案は放棄され、再コンペの結果、隈研吾の「和」を意識したデザイン案が選ばれた。こうした巨大公共施設のデザイン案は、工費の問題、周辺環境との調和等の様々な問題があり、評価が難しいと思う。しかし、今回の迷走はあまりにもお粗末で、大会エンブレム問題とともに、完全に汚点となってしまった。ちなみに筆者が一番刺激的に感じたのは、当初のザハ・ハディッド作の原案イメージ図である。

5. 「父と子の007」に舞い降りたフランス人ボンドガール
■今冬(日本公開は12月4日)公開された007シリーズの新作「スペクター」。前作「スカイフォール」のベレニス・マーロウに続き、フランス人女優レア・セドゥが、モニカ・ベルッチとともにボンドガールを演じた。映画「美女と野獣」などで好評を博し、ファッション界でもプラダのミューズとして起用されるなど、活躍の場を広げているセドゥ。今作も007シリーズらしい大味なストーリー展開はあるが、「父と子」が大きなテーマともいえるストーリーの中で重要な役割を担うセドゥの演技と美貌は、クリストフ・ヴァルツの怪演とともに、個人的に見どころだと思う。今後のさらなる活躍に期待したい。

cyberbloom(FBN管理人)

オランド大統領の規制緩和策
■昨年12月10日、規制緩和による経済活性化を目指す法案を閣議決定したが、その柱が日曜営業だった。最も日曜営業に慎重とみられたフランスの政府が、パリの観光区域で商店などの営業を認め、具体的には、代表的な観光名所のオペラ座などの一帯を「国際観光ゾーン」に設定し、日曜の終日営業を解禁する。キリスト教の影響で歴史的に日曜営業は強く制限されてきたが、消費者の利便や経済活性化の観点から規制緩和の動きが進んでおり、最も保守的とされたフランスも政府がついに重い腰を上げた。一方で、「家族との時間を奪うな」などと反対する声も強く、賛否は割れている。また最新の世論調査(12月6日、パリジャン紙掲載)で、「自分が出勤しなくても良いならば、商店の日曜営業を支持する」という少々身勝手な国民が3分の2以上に上ることが明らかになった。
■また、規制緩和の一環として、今年からパリのパン店が自由に夏のバカンスを取れるようになった。それが8月に集中し、開いているパン屋が少なくなってしまった。それを最初に騒いだのはイギリス人のようだ。8月のあいだパリの住人の多くはバカンスに出かけているので、パンがなくて困るのはパリにやってくる外国人観光客。18世紀後半にバカンスによるパン屋の一斉閉店が原因で食料不足になり、暴動が発生するレベルに至ったので、当時の議会がパン屋は7月と8月を交代で休むように義務付け、それが現在まで続いていた。

 フランスの原子力産業の苦境
■フランスの原子力企業アレバは、7月に原子炉事業の経営権をフランス電力(EDF)に売却することで合意した。残るウラン鉱山・燃料処理事業向けの資金調達を視野に、増資を来年実施する計画だ。同社は2017年までの資金調達ニーズ70億ユーロ(約9500億円)を満たすため、アレバNP部門の少なくとも 75%を20億ユーロで売却することを目指している。さらに4億ユーロ相当の資産売却のほか、支出削減と資金運用改善も進める方針という。
■「フランス原子力産業の誇り」といわれた企業が急激に揺らいでいる。フランス政府は政府が株の87%を所有するEDFを使って救済することを決め、フランスの原子力産業とその技術力を守る姿勢を示した。背景には、原子力ビジネスの命運をかけて開発した新型原発EPRの建設コスト高、世界的な原発建設の停滞がある。今年3月に発表された2014年のアレバの決算は48億ユーロ(約6500億円)の純損失。売上高の半分を超える規模で、赤字は4期連続。

フランス政府は国民の情報を監視する方向へ
■フランス国民議会(下院)は6月23日、フランス市民を監視するための幅広い権限を情報機関に付与する法案を可決した。新法は、情報機関が、インターネットプロバイダーや携帯電話事業者から市民の個人情報を取得することを可能とするほか、裁判所の許可なしに、テロ容疑者の会話を聞くことも可能とした。1月7日に「シャルリー・エブド」の襲撃事件があり、セキュリティーに関する議論を呼び起こした。
■また11月のパリ同時テロ事件の発生を受けて、公共Wi-Fiの設置禁止が検討されていることが明らかになった。テロ防止の観点から、情報発信者の特定が困難となる公共Wi-FiとTorの禁止する法制度の施行を準備。これまで公共Wi-Fiの匿名性が問題となったことはなく、仮にフランス政府がテロ防止の観点から公共Wi-Fiの禁止に踏み切った場合、同じ流れは他の先進国にも波及する恐れもある。

EAGLES OF DEATH METAL
■11月13日のパリ同時多発テロにより、カリフォルニアのバンド、イーグルス・オブ・デス・メタルのライヴが行われていたバクタラン劇場では、89名のファンが犠牲となり、イーグルス・オブ・デス・メタルの名前が不幸な形で世界に拡散された。
■経済学者のジャック・アタリ氏がテロの直後に来日し、「民主主義を体現し、高い生活水準を誇るフランスは世界で最も優れた国だ。その価値を手に入れられない過激派の嫉妬も背景にある」と語った。テロの実行犯たちはそういう文化からの疎外感を感じ、テロに走ったのか。そういう文化を享受できることが至上の幸福ということなのか。先進国の享楽的な文化がそれ以外の国々に対する搾取的な構造の上に成り立っているとすれば。
■一方で、ISの犯行声明の中で、パリは「淫蕩と悪の都」と糾弾されていて、襲撃の対象となったライブ会場、サッカー場、バーはイスラム的にはハラーム(禁止されたもの)である。「敵に対しても味方に対しても、神は音楽やサッカーや酒をお許しにならない、というイスラム国イデオロギーを見せつける意味があるのでしょう」と飯山陽氏(ブログより)。
■このような価値観は実はキリスト教とも親和性がある。フランス北東にあるヴィッセンバッハ在住のフランソワ・シュナイダー司祭が、集会でイーグルス・オブ・デス・メタルについて「悪魔的」と批判したが、苦情が寄せられ、あとで謝罪した。謝罪の内容はこうだ。「ある音楽について述べたことで多くの物議を醸し後悔しています。大変不適切で不当な発言でした」、「私たちは、その芸術的表現の中に多様性や不可思議さを感じる場合、困惑してしまうことがしばしばあります」。21世紀は宗教の時代と言われるが、世俗的な世界との鮮明なコントラストを成す形で顕在化することになるのだろうか。これもグローバリゼーションの効果のひとつなのだろうが、根無し草の世俗主義者たちは心理的な影響を受けざるを得ないだろう。もちろん、EAGLES OF DEATH METAL にも、彼らの音楽を楽しんでいたファンには全く非はないし、全くテロの口実にはならないのは当然のことではあるが。

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当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
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